41 / 42
第3章
ダイヤの首飾り(41p)
しおりを挟む
「お屋敷に戻りましょう」
上田と、ひっそりした小道を歩く。
「お坊ちゃまが、急にお帰りになったのは…体調でも崩されたのでしょうか?」
「いいえ。お元気だと思います。乗馬を楽しみにしているぐらいですから。帰国の原因は、日本と英国との関係が悪化してきたからでしょう。英国と、アメリカは中国外交で日本を出し抜いた。今、満州問題で、我が国は世界から孤立している。難しい立場ですな。おっ……純一郎様が、こちらへいらっしゃいます」
人影が現れた。ジュン?
すらりと高いそのシルエットは大人。
その人影は近くなり、駆けよってきた。
「……鈴!?」
ああ!やっぱりジュン!
でも、声がすっかり変わっている。低いのに、どこか甘い声で驚いた。
「おぼっちゃま!……ご立派になられました」
目の前の奇麗な紳士に思わず息を飲む。
「鈴…ひさしぶり。やっと会えたのに鈴は夜道でランデブーなの?」
ジュンは後ろで控えている上田をチラリと睨みつけ、私の腕をグイとひっぱった。
「話がある。僕の部屋へおいで」
ジュンは無言で足早に歩きだす。部屋の前まで来るとドアを開け「さぁ、入って」と私を押しこんだ。
部屋を見回して圧倒された。なんと豪華な部屋なのだろう。淡いグリーンに金糸で蔦模様が織り込まれた壁絹は幻想的な雰囲気を醸しだしている。
英国風のマントルピースの前にはソファーとテーブルがしつらえてある。隣室に続く入り口には大きな大理石の彫刻が立っていて、思わずみとれてしまう。それは、ギリシャ神話に登場してくるダビデの裸体で、剣を握る腕の筋肉がみごとに盛り上がっていた。
ジュンは、帽子を壁にかけると葡萄酒色の布張りのソファーに腰をおろした。
勧められるままに向かい合って腰を下ろす。
「小さい頃――ここじゃ、する事がなくてねぇ……隣部屋のベッドでよく寝転がっていたなぁ――
鈴は、ここの暮らしに慣れた?」
「はい。お陰様でよくして頂いております。お坊ちゃま?イギリスはいかがでした?」
「英国は気にいった。王室があって日本と似た所があるからね。欧州では、貴族達が革命を恐れていたよ。日本も同じさ。華族は滅亡するかも。不気味だね。だからお父様は、僕を帰国させたのだ」
「伯爵様は外交官で、いろいろな事を御存知なのですね」
「ああ。でも、外交官は思うように舵を切れない。みんな”満州を守れ”と叫ぶばかりで遠い国の事には、無関心さ……あっ、難しいこと話してごめん。鈴に素敵なお土産を買ったよ」
ジュンはキラキラ光る首飾りを手にしている。眩いばかりの宝石は、英国のプリンセスにふさわしいと思われるほど豪華で気品に満ちていた。
「鈴は、ダイヤモンドが似合うと思うけど……どうかな?」
上田と、ひっそりした小道を歩く。
「お坊ちゃまが、急にお帰りになったのは…体調でも崩されたのでしょうか?」
「いいえ。お元気だと思います。乗馬を楽しみにしているぐらいですから。帰国の原因は、日本と英国との関係が悪化してきたからでしょう。英国と、アメリカは中国外交で日本を出し抜いた。今、満州問題で、我が国は世界から孤立している。難しい立場ですな。おっ……純一郎様が、こちらへいらっしゃいます」
人影が現れた。ジュン?
すらりと高いそのシルエットは大人。
その人影は近くなり、駆けよってきた。
「……鈴!?」
ああ!やっぱりジュン!
でも、声がすっかり変わっている。低いのに、どこか甘い声で驚いた。
「おぼっちゃま!……ご立派になられました」
目の前の奇麗な紳士に思わず息を飲む。
「鈴…ひさしぶり。やっと会えたのに鈴は夜道でランデブーなの?」
ジュンは後ろで控えている上田をチラリと睨みつけ、私の腕をグイとひっぱった。
「話がある。僕の部屋へおいで」
ジュンは無言で足早に歩きだす。部屋の前まで来るとドアを開け「さぁ、入って」と私を押しこんだ。
部屋を見回して圧倒された。なんと豪華な部屋なのだろう。淡いグリーンに金糸で蔦模様が織り込まれた壁絹は幻想的な雰囲気を醸しだしている。
英国風のマントルピースの前にはソファーとテーブルがしつらえてある。隣室に続く入り口には大きな大理石の彫刻が立っていて、思わずみとれてしまう。それは、ギリシャ神話に登場してくるダビデの裸体で、剣を握る腕の筋肉がみごとに盛り上がっていた。
ジュンは、帽子を壁にかけると葡萄酒色の布張りのソファーに腰をおろした。
勧められるままに向かい合って腰を下ろす。
「小さい頃――ここじゃ、する事がなくてねぇ……隣部屋のベッドでよく寝転がっていたなぁ――
鈴は、ここの暮らしに慣れた?」
「はい。お陰様でよくして頂いております。お坊ちゃま?イギリスはいかがでした?」
「英国は気にいった。王室があって日本と似た所があるからね。欧州では、貴族達が革命を恐れていたよ。日本も同じさ。華族は滅亡するかも。不気味だね。だからお父様は、僕を帰国させたのだ」
「伯爵様は外交官で、いろいろな事を御存知なのですね」
「ああ。でも、外交官は思うように舵を切れない。みんな”満州を守れ”と叫ぶばかりで遠い国の事には、無関心さ……あっ、難しいこと話してごめん。鈴に素敵なお土産を買ったよ」
ジュンはキラキラ光る首飾りを手にしている。眩いばかりの宝石は、英国のプリンセスにふさわしいと思われるほど豪華で気品に満ちていた。
「鈴は、ダイヤモンドが似合うと思うけど……どうかな?」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる