吉原お嬢

あさのりんご

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第3章

ダイヤの首飾り(41p)

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「お屋敷に戻りましょう」
 上田と、ひっそりした小道を歩く。

「お坊ちゃまが、急にお帰りになったのは…体調でも崩されたのでしょうか?」
「いいえ。お元気だと思います。乗馬を楽しみにしているぐらいですから。帰国の原因は、日本と英国との関係が悪化してきたからでしょう。英国と、アメリカは中国外交で日本を出し抜いた。今、満州問題で、我が国は世界から孤立している。難しい立場ですな。おっ……純一郎様が、こちらへいらっしゃいます」

 人影が現れた。ジュン?
 すらりと高いそのシルエットは大人。

 その人影は近くなり、駆けよってきた。
「……鈴!?」

 ああ!やっぱりジュン!
 でも、声がすっかり変わっている。低いのに、どこか甘い声で驚いた。
「おぼっちゃま!……ご立派になられました」

 目の前の奇麗な紳士に思わず息を飲む。
「鈴…ひさしぶり。やっと会えたのに鈴は夜道でランデブーなの?」

 ジュンは後ろで控えている上田をチラリと睨みつけ、私の腕をグイとひっぱった。
「話がある。僕の部屋へおいで」
 
 ジュンは無言で足早に歩きだす。部屋の前まで来るとドアを開け「さぁ、入って」と私を押しこんだ。
 
 部屋を見回して圧倒された。なんと豪華な部屋なのだろう。淡いグリーンに金糸でつた模様が織り込まれた壁絹は幻想的な雰囲気を醸しだしている。
 英国風のマントルピースの前にはソファーとテーブルがしつらえてある。隣室に続く入り口には大きな大理石の彫刻が立っていて、思わずみとれてしまう。それは、ギリシャ神話に登場してくるダビデの裸体で、剣を握る腕の筋肉がみごとに盛り上がっていた。
 
 ジュンは、帽子を壁にかけると葡萄酒色の布張りのソファーに腰をおろした。
 勧められるままに向かい合って腰を下ろす。
「小さい頃――ここじゃ、する事がなくてねぇ……隣部屋のベッドでよく寝転がっていたなぁ――
 鈴は、ここの暮らしに慣れた?」
「はい。お陰様でよくして頂いております。お坊ちゃま?イギリスはいかがでした?」
「英国は気にいった。王室があって日本と似た所があるからね。欧州では、貴族達が革命を恐れていたよ。日本も同じさ。華族は滅亡するかも。不気味だね。だからお父様は、僕を帰国させたのだ」
「伯爵様は外交官で、いろいろな事を御存知なのですね」
「ああ。でも、外交官は思うように舵を切れない。みんな”満州を守れ”と叫ぶばかりで遠い国の事には、無関心さ……あっ、難しいこと話してごめん。鈴に素敵なお土産を買ったよ」

 ジュンはキラキラ光る首飾りを手にしている。眩いばかりの宝石は、英国のプリンセスにふさわしいと思われるほど豪華で気品に満ちていた。
「鈴は、ダイヤモンドが似合うと思うけど……どうかな?」
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