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あっ、あなたは!!!
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ガチャガチャ。
いくら捻っても壊れたドアは開かない。まぁそりゃこれだけ酷い状態ならねって困るんだけど!
もう出ないと授業遅れちゃうって。入学早々に不良だと思われたく無いよ!
思い切って思いっきり力を込めて引っ張った。その瞬間、体の中で何かのスイッチが入ったような感覚がした。
バキバキ!
「いったた」
手にはドアノブ、前を見るとドアノブが引っこ抜けて穴が空いたドア。
「とりあえず……開いた、ね。い、いってきまーす!」
怖くなった私は、前日に用意していたリュックを背負って逃げるように家を出た。
この時より一人暮らしになって良かったと思った事は無いかも。親にこんなんバレたらやばいもん。修理代を仕送りから賄うのはキツいけど今は謎の30万円があるし。
使って良いお金なのかなあれ。でも別に悪い事はしてないもんね。
マネーロンダリング、詐欺……色んなワードが頭をよぎるけど、むしろ私は人助けをした訳だし。このお金が汚いお金かは私には分からないもんね、うん。
検索履歴
“ドア 素手 破壊”
“人間 ドア 壊せる”
いくら調べても分からない。やっぱりどう考えても異常。あの怪力はなんなんだろ。腕の力だけであぁも簡単に。
ドアノブが取れる事はあるらしいけど、周りの木材ごと引きちぎる事は無理でしょ。それにあの後しばらくは妙な疲労感があったし、たまたま取れたとは思えなかった。
心当たりといえば、もちろんあの化け物と飲み込んだ赤い玉だけど……そんな事を考えているうちに授業は終わっちゃった。やばい、初回の授業なのに正直教授の名前も覚えてないよ。なんか大事な事言ってたらどうしよう。
教室から出てボーッと歩いてるうちに、また勧誘に捕まった。
「ねぇねぇ一回生でしょ? だよね! 私も同じで入学したばっかなんよー! それでさそれでさ、オカルトサークルを作ろうと思うんだけど入らへん?」
妙に騒々しい人だなぁ……いつものように断りそうになったところでサークル名を聞いて気になった私は、少し勇気を出して顔をあげた。
「「あ」」
ハモった……いや、そうじゃなくて。
「昨日はありがとーう!!」
金色に染めた髪、パッチリとした大きな目。
そこには昨日の女の子が立っていた。
「昨日はあれから大丈夫だった?」
「う、うん、あなたこそ良く、無事だったね。見た感じ傷もほとんど治ってるみたいだし」
この子も大学生なんだ。しかも私と同じ新入生で、同じ大学。
うぅ、そう考えたらいつもの癖が。言葉は途切れ途切れになって、目がついつい泳いじゃう。
「まぁ、ちょっと良い治療法がね。君も無事って聞いてたけど、元気そうで良かったよー。あ、そうだ名前言って無かったやんな。私は大川 明里《おおかわ あかり》!」
「わ、私は山本優香」
「よろしくね優香ちゃん。私の事も名前で明里で良いでー」
あれ、なんかこの人話しやすいかも。グイグイ来るように見えてなんか押し付けがましさを感じない。何も考えて無さそうで、口調やテンポから仲良くなろうとしつつも一定の距離を保って私を気遣ってくれているのを感じる。
もうちょっと頑張ってみようかな……って私は1人が好きなはずなのに。何を頑張るっていうんだろ。
「あ、あのさ。明里ちゃんは慣れている感じだったけど、ああいうのって前にも経験した事があるの?」
「エ、ア、イヤー、ハジメテ、ダヨ。ワケワカンナイシ、コワカッタネー」
嘘がへたくそすぎるよ。何か隠そうとしてる?
色々知ってそうだし、せっかくだから腕の事も聞いてみよ。
「私実は昨日から変で……」
「うん? 何かあったの? 大丈夫?」
「うん。体はなんとも無いんだけど、その、なんか、急に怪力になったっていうか……これ」
私は経緯を説明しながら、グシャグシャのドアノブをカバンから出して見せる。
「なんか……スイッチが入ったような感覚あった?」
「うん」
「なるほど……おめでとう優香ちゃん。君は選ばれた。目覚めし者なんだよ」
いや、そんなドヤ顔で拍手されても何がなにやら。ていうかなんか怪しい宗教みたい。
忘れてたけど、この人闇バイトやってる人だった。話したのは失敗だったかな。
「今日授業は何時間目まであるん?」
「4時間目までかな」
「じゃあその後に正門前で会わへん? あと夜まで予定空けといて欲しいな」
「わ、分かった」
「ありがとう! じゃあこれ私の連絡先。何かあったら連絡して。急な話でごめんやけど準備せなあかん事が出来たからね。待ってるから!」
なんか断る暇もなく話が進んで、つい頷いちゃった。別に毎日予定なんて何も無いし。それだけ言うと明里さんは走っていく。
両親でもなければAIでも公式でもない初めての連絡先……ウヘヘ。
いけないいけない。どんな人か分からないうちに。でも、嬉しいな。
4時間目あと。正門前に立っていると目の前に昨日と同じような高級車が止まった。周りの学生が何事かと視線を向けてくる。
「こんにちは。あなたが山本さん、だよね? 話は聞いているわ。乗って」
運転席にいたのは昨日のおじさん、ではなく明るめな茶色い、長い髪の女の子。座っているから分かりにくいけど、多分私より少しだけ背が低いかも。
なになにこの状況。明里ちゃんはどこに……キョロキョロしてると後ろから衝撃が加わった。
「ごっめーん! 遅れた!」
「ヒャッ」
振り返ると明里ちゃんが後ろから抱きついてきていた。
「もう明里! ビックリさせるからそういうのやめなさいって言ったじゃない」
「ごめんごめん。どんどん勝手に話が進んで優香ちゃん緊張しちゃってるかなって思ったんよ」
一応気を遣ってくれたのかな。明里ちゃんが二ヒヒって子供っぽく笑っているのを見たら、確かに私も緊張が解けてきた気がする。
知らない人の車に乗るのは少し怖いけど……この怪力をほっといて生活する訳にもいかないし。
うん、行っちゃおう。色々と急展開すぎてどうも私まで恐れ知らずになっているみたい。
「力の事は安心して。最初は慣れないだろうけど、ちゃんと制御できれば便利になるわ。細かい説明は到着したら教えてあげる。見た方が理解しやすいと思うから」
「優香ちゃん、ちゃんと車に掴まった方がいいで」
「どういう事?」
「それじゃあ出発するわよ!」
運転手さんがそう言うと車が急発進した。思わず体がのけぞる。
「この子の運転、上手い事は、上手いんだけど、人格が変わるっていうか……あーもー今日は仕事じゃないからゆっくり行って!」
カーブのたびに重力がかかるせいで明里ちゃんの話し方も途切れ途切れになっちゃっている。
「は、ごめん。つい癖で」
明里ちゃんのおかげでやっと車は快適な乗り心地になった。
「仕事で急いで移動しないといけない時は助かるんだけど……あ、紹介するなぁ。この子は高橋 もみじ《たかはし もみじ》。この子も私達と同い年やで」
「昨日は体調不良で別の人に変わってもらったから、これが初対面よね。普段は明里と一緒に仕事しているの。よろしくね。山本さん」
自己紹介をしているうちに車は大きな道路が真ん中を貫くビル街に入っていく。横に立ち並ぶ高層ビルを見ながら大通りを走るうちに、車はそのまま一際立派そうなビルの駐車場に入った。
看板によると駐車場は地下2階までみたいで、その先は壁になっていた。
「怖かったら目を瞑ってね」
「え?」
高橋さんはそう言うと工事中のレーンに向かって真っ直ぐ突っ込んでいった。
お父さん、お母さん、ありがとう。先立つ不幸をお許しください。今まで見た光景が脳裏をよぎる。これが走馬灯ってやつかな。
「もう大丈夫だよ」
明里ちゃんに肩を揺らされて我に帰ると車は普通の駐車場に入っていた。
「あれ? 壁は?」
「すり抜けたよー」
明里ちゃんが指差した後ろの方を振り向くと、なんの変哲もない壁から別の車がヌルっと生えてくるように出てきて私たちの後ろに並んだ。
「ビックリするのはこれからだよ。にしてもさっき優香ちゃん、すごい顔してたで。あんな顔するような子だと思ってなかったから面白かったわ」
「私……そんなすごい顔をしてた?」
「うん。すんごい顔してた。人前であんな顔しちゃあかんよー?」
そんなに言われると、どんな顔をしていたかすごく気になってくる。いや、そうじゃなくて。
「え、あの壁は一体」
「説明はまたしてあげる。まぁとりあえず着いてきて」
駐車場内を歩いている人も壁から出てくる車にはなんの反応もしないで、当たり前の事のように正面に見えるドアに向かっていく。私達も車を止めるとドアに向かって歩き出した。
自動ドアの奥はエレベーターホールになっていて、その手前にゲートみたいなのがある。周りの人はカードをかざして入っていった。高橋さんがゲートの左側にある警備室の人と話して何かを受け取った。
「はいこれ。一時的に使える入管証」
「あ、ありがとうございます」
「同い年だし気にしなくてタメ口で良いよ」
警備室をガラス越しに覗くと銃が置いてあった。あれ本物?
ギョッとして周りを見ると、天井にも監視カメラもいっぱい設置されている。
エレベーターを降りてから廊下ですれ違う人も色々で、科学者のように白衣を来た人から映画でしか見た事ない防毒マスク? みたいなのとかを付けて歩いている人もいる。どう見ても普通の場所じゃないよ。
そこを歩く私服の女の子3人。場違いすぎるよぉ。正直怖い。
それでも帰らないのは、きっと今、私はワクワクしてるから。
私の理性は帰れって騒いでる。それでも、オカルト好きにとって、こんな物を見たら帰れる訳がない。
5分も歩くと、とある部屋に入った。見た感じ食堂かな。たくさんの人がご飯を食べたり、お話したりしている。
「口で説明する前に見てもらった方が早いかな……ねぇ山本さん。ちょっとデザートタイムにしない?」
「えっ、う、うん。分かった」
正直言って、なんで今このタイミングでって思ったけど、まぁ素直に従っておいた方がいいよね。
「山本さん。このおふだを向こうのカウンターに言って、あの箱に入れてくれない?」
おふだ? え、デザートタイムから1番かけ離れた物じゃない? おふだには意味ありげに7という数字が書いてあった。
しかも高橋さんが指さす先にあるカウンター越しのキッチンは無人。それなのに今まで誰かが使っていたかのような雰囲気が漂っている。
「訳分かんないと思うけどとりあえずやってみなよ♪」
いやいや怖い怖い怖い。お札はなに。でもここまで来たんだし、とりあえず大人しく指示に従ってみる。
お札を箱に入れる。その瞬間にキッチンで卵が浮いて勝手に割れたかと思うとボウルに入れられた。今度はホットケーキ粉と水が入った容器が浮いて、ひとりでにボウルに入って勝手にかき混ぜられ始めた。
そこには誰もいないのに。
「え、えぇぇぇぇ!!!」
私の大声に驚いた周りの人がこっちをみるけど、みんなさも当然かのように視線をお皿に戻してそのまま食事を続けている。
「シー。みんな見てるで、優香ちゃん」
いつの間にか飲み物を取ってきてくれた明里ちゃんに小声で注意されちゃった。気づくとホットケーキが7枚焼き上がっている。
「で、でも、もっもっもっ、びょ、ボウルがう、ういて……」
「優香ちゃん噛みまくりやん」
明里ちゃんに笑われて少し落ち着いた。顔をあげると運転手さんが席を確保して手を振っていた。
「大丈夫だって。本当にただの何の変哲もないホットケーキだよ。食べないと私が取っちゃうでー?」
フォークで5分もパンケーキをつついていると明里ちゃんが隣で大口でバクバク食べながら、そう言ってきた。
「あんたはもっとお淑やかに食べなよ。山本さん、そのジュースも確かに食欲をそそらない見た目してるけど飲んでみて。美味しいわよ」
高橋さんもそう言いながら目の前で自分の分のジュースを飲んでいる。
よ、よーし。ここまで来たら覚悟も決まってきた。
そんなになら試してやる。気合いを入れてパンケーキを口に運ぶ。
「あ……あっまぁ~い」
「優香ちゃんそんな顔もするんだ。かっわいいー」
今まで食べた事ないほどフワフワで甘くて、ジャムの酸味が程よいスパイス代わりになってる。お店出せるよこれ。
何を隠そう私は食べる事も大好き。特に甘いものには目がない。気づけば私はなんの警戒感もなくジュースに手を伸ばしていた。
こっちは不思議な味。でもとっても美味しい。
「こっちも美味しいよ。持ってきてくれてありがとう」
そう言いながら隣を向くと明里ちゃんが頑張って笑いを堪えている所だった。
「プ、クク、アッハハハ! もう無理、我慢できん」
「あっ明里。あんたの仕業ね! ごめんね山本さん。その、少量なら多分5分ほどで治るから」
笑われたり謝られるけど、私にはサッパリ。戸惑っていると明里ちゃんが写真を撮って見せてくれた。
写真の中の私の髪は本来の藍色が虹色になっていた。もうそれは見事な鮮やかな虹色。ピエロみたい。
「さっきから何? 壁はすり抜けるし、勝手に料理は出来るし私の髪はこうなるし。そ、そうか。きっと私は昨日の夜に実はあそこで死んでいて今は天国で幻を……」
「違う違う! ちゃんと生きてるから! 今から教えてあげるわ。この世界の秘密について」
いくら捻っても壊れたドアは開かない。まぁそりゃこれだけ酷い状態ならねって困るんだけど!
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バキバキ!
「いったた」
手にはドアノブ、前を見るとドアノブが引っこ抜けて穴が空いたドア。
「とりあえず……開いた、ね。い、いってきまーす!」
怖くなった私は、前日に用意していたリュックを背負って逃げるように家を出た。
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使って良いお金なのかなあれ。でも別に悪い事はしてないもんね。
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いくら調べても分からない。やっぱりどう考えても異常。あの怪力はなんなんだろ。腕の力だけであぁも簡単に。
ドアノブが取れる事はあるらしいけど、周りの木材ごと引きちぎる事は無理でしょ。それにあの後しばらくは妙な疲労感があったし、たまたま取れたとは思えなかった。
心当たりといえば、もちろんあの化け物と飲み込んだ赤い玉だけど……そんな事を考えているうちに授業は終わっちゃった。やばい、初回の授業なのに正直教授の名前も覚えてないよ。なんか大事な事言ってたらどうしよう。
教室から出てボーッと歩いてるうちに、また勧誘に捕まった。
「ねぇねぇ一回生でしょ? だよね! 私も同じで入学したばっかなんよー! それでさそれでさ、オカルトサークルを作ろうと思うんだけど入らへん?」
妙に騒々しい人だなぁ……いつものように断りそうになったところでサークル名を聞いて気になった私は、少し勇気を出して顔をあげた。
「「あ」」
ハモった……いや、そうじゃなくて。
「昨日はありがとーう!!」
金色に染めた髪、パッチリとした大きな目。
そこには昨日の女の子が立っていた。
「昨日はあれから大丈夫だった?」
「う、うん、あなたこそ良く、無事だったね。見た感じ傷もほとんど治ってるみたいだし」
この子も大学生なんだ。しかも私と同じ新入生で、同じ大学。
うぅ、そう考えたらいつもの癖が。言葉は途切れ途切れになって、目がついつい泳いじゃう。
「まぁ、ちょっと良い治療法がね。君も無事って聞いてたけど、元気そうで良かったよー。あ、そうだ名前言って無かったやんな。私は大川 明里《おおかわ あかり》!」
「わ、私は山本優香」
「よろしくね優香ちゃん。私の事も名前で明里で良いでー」
あれ、なんかこの人話しやすいかも。グイグイ来るように見えてなんか押し付けがましさを感じない。何も考えて無さそうで、口調やテンポから仲良くなろうとしつつも一定の距離を保って私を気遣ってくれているのを感じる。
もうちょっと頑張ってみようかな……って私は1人が好きなはずなのに。何を頑張るっていうんだろ。
「あ、あのさ。明里ちゃんは慣れている感じだったけど、ああいうのって前にも経験した事があるの?」
「エ、ア、イヤー、ハジメテ、ダヨ。ワケワカンナイシ、コワカッタネー」
嘘がへたくそすぎるよ。何か隠そうとしてる?
色々知ってそうだし、せっかくだから腕の事も聞いてみよ。
「私実は昨日から変で……」
「うん? 何かあったの? 大丈夫?」
「うん。体はなんとも無いんだけど、その、なんか、急に怪力になったっていうか……これ」
私は経緯を説明しながら、グシャグシャのドアノブをカバンから出して見せる。
「なんか……スイッチが入ったような感覚あった?」
「うん」
「なるほど……おめでとう優香ちゃん。君は選ばれた。目覚めし者なんだよ」
いや、そんなドヤ顔で拍手されても何がなにやら。ていうかなんか怪しい宗教みたい。
忘れてたけど、この人闇バイトやってる人だった。話したのは失敗だったかな。
「今日授業は何時間目まであるん?」
「4時間目までかな」
「じゃあその後に正門前で会わへん? あと夜まで予定空けといて欲しいな」
「わ、分かった」
「ありがとう! じゃあこれ私の連絡先。何かあったら連絡して。急な話でごめんやけど準備せなあかん事が出来たからね。待ってるから!」
なんか断る暇もなく話が進んで、つい頷いちゃった。別に毎日予定なんて何も無いし。それだけ言うと明里さんは走っていく。
両親でもなければAIでも公式でもない初めての連絡先……ウヘヘ。
いけないいけない。どんな人か分からないうちに。でも、嬉しいな。
4時間目あと。正門前に立っていると目の前に昨日と同じような高級車が止まった。周りの学生が何事かと視線を向けてくる。
「こんにちは。あなたが山本さん、だよね? 話は聞いているわ。乗って」
運転席にいたのは昨日のおじさん、ではなく明るめな茶色い、長い髪の女の子。座っているから分かりにくいけど、多分私より少しだけ背が低いかも。
なになにこの状況。明里ちゃんはどこに……キョロキョロしてると後ろから衝撃が加わった。
「ごっめーん! 遅れた!」
「ヒャッ」
振り返ると明里ちゃんが後ろから抱きついてきていた。
「もう明里! ビックリさせるからそういうのやめなさいって言ったじゃない」
「ごめんごめん。どんどん勝手に話が進んで優香ちゃん緊張しちゃってるかなって思ったんよ」
一応気を遣ってくれたのかな。明里ちゃんが二ヒヒって子供っぽく笑っているのを見たら、確かに私も緊張が解けてきた気がする。
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カーブのたびに重力がかかるせいで明里ちゃんの話し方も途切れ途切れになっちゃっている。
「は、ごめん。つい癖で」
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看板によると駐車場は地下2階までみたいで、その先は壁になっていた。
「怖かったら目を瞑ってね」
「え?」
高橋さんはそう言うと工事中のレーンに向かって真っ直ぐ突っ込んでいった。
お父さん、お母さん、ありがとう。先立つ不幸をお許しください。今まで見た光景が脳裏をよぎる。これが走馬灯ってやつかな。
「もう大丈夫だよ」
明里ちゃんに肩を揺らされて我に帰ると車は普通の駐車場に入っていた。
「あれ? 壁は?」
「すり抜けたよー」
明里ちゃんが指差した後ろの方を振り向くと、なんの変哲もない壁から別の車がヌルっと生えてくるように出てきて私たちの後ろに並んだ。
「ビックリするのはこれからだよ。にしてもさっき優香ちゃん、すごい顔してたで。あんな顔するような子だと思ってなかったから面白かったわ」
「私……そんなすごい顔をしてた?」
「うん。すんごい顔してた。人前であんな顔しちゃあかんよー?」
そんなに言われると、どんな顔をしていたかすごく気になってくる。いや、そうじゃなくて。
「え、あの壁は一体」
「説明はまたしてあげる。まぁとりあえず着いてきて」
駐車場内を歩いている人も壁から出てくる車にはなんの反応もしないで、当たり前の事のように正面に見えるドアに向かっていく。私達も車を止めるとドアに向かって歩き出した。
自動ドアの奥はエレベーターホールになっていて、その手前にゲートみたいなのがある。周りの人はカードをかざして入っていった。高橋さんがゲートの左側にある警備室の人と話して何かを受け取った。
「はいこれ。一時的に使える入管証」
「あ、ありがとうございます」
「同い年だし気にしなくてタメ口で良いよ」
警備室をガラス越しに覗くと銃が置いてあった。あれ本物?
ギョッとして周りを見ると、天井にも監視カメラもいっぱい設置されている。
エレベーターを降りてから廊下ですれ違う人も色々で、科学者のように白衣を来た人から映画でしか見た事ない防毒マスク? みたいなのとかを付けて歩いている人もいる。どう見ても普通の場所じゃないよ。
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それでも帰らないのは、きっと今、私はワクワクしてるから。
私の理性は帰れって騒いでる。それでも、オカルト好きにとって、こんな物を見たら帰れる訳がない。
5分も歩くと、とある部屋に入った。見た感じ食堂かな。たくさんの人がご飯を食べたり、お話したりしている。
「口で説明する前に見てもらった方が早いかな……ねぇ山本さん。ちょっとデザートタイムにしない?」
「えっ、う、うん。分かった」
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いやいや怖い怖い怖い。お札はなに。でもここまで来たんだし、とりあえず大人しく指示に従ってみる。
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明里ちゃんに笑われて少し落ち着いた。顔をあげると運転手さんが席を確保して手を振っていた。
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フォークで5分もパンケーキをつついていると明里ちゃんが隣で大口でバクバク食べながら、そう言ってきた。
「あんたはもっとお淑やかに食べなよ。山本さん、そのジュースも確かに食欲をそそらない見た目してるけど飲んでみて。美味しいわよ」
高橋さんもそう言いながら目の前で自分の分のジュースを飲んでいる。
よ、よーし。ここまで来たら覚悟も決まってきた。
そんなになら試してやる。気合いを入れてパンケーキを口に運ぶ。
「あ……あっまぁ~い」
「優香ちゃんそんな顔もするんだ。かっわいいー」
今まで食べた事ないほどフワフワで甘くて、ジャムの酸味が程よいスパイス代わりになってる。お店出せるよこれ。
何を隠そう私は食べる事も大好き。特に甘いものには目がない。気づけば私はなんの警戒感もなくジュースに手を伸ばしていた。
こっちは不思議な味。でもとっても美味しい。
「こっちも美味しいよ。持ってきてくれてありがとう」
そう言いながら隣を向くと明里ちゃんが頑張って笑いを堪えている所だった。
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「あっ明里。あんたの仕業ね! ごめんね山本さん。その、少量なら多分5分ほどで治るから」
笑われたり謝られるけど、私にはサッパリ。戸惑っていると明里ちゃんが写真を撮って見せてくれた。
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これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
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俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
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第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
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