【完結】回復魔法だけでも幸せになれますか?

笹乃笹世

文字の大きさ
1 / 48

しおりを挟む
 ガッタン、ゴットン!  と 大きな衝撃をおケツに受けて“私”の意識は覚醒した。
「えーと……ここは……?」
 私はイルメラ……ーーイルメラ・ベラルディ。  
それが私の名前。
そしてーー元・日本人である。

 この体の持ち主イメルラお嬢様。
 彼女は侯爵家の娘としてとして生まれ、当然のように親が決めた男性と婚約。
結婚に向け、花嫁修行やらマナーなどを学びつつ、貴族は全員通うと言われている由緒ある学校をそこそこ褒められるべき成績で学校を卒業して、もうすぐ結婚‼︎ と言うところで婚約者がどっかの町娘と駆け落ちしてくれやがった。

 当然、両家は大混乱。
 ゴタゴタしつつも侯爵家の嫡男だった元婚約者は、責任を取るという形で廃嫡となり、次男が跡を継ぐことになった。
 その次男の婚約者に……なんて話も出たけれど、次男にも決まった婚約者がいて、その家との関係悪化を嫌ったイルメラの両親は、お金や元婚約者家とのこちら優位の取引で手を打つことに決めた。

 ーーそう。 その結果、イルメラには“婚約者に捨てられた令嬢”という不名誉な結果しか残らず、卒業と同時に結婚する者が多い貴族社会では“売れ残り”という肩書きが付いて回る事になってしまったのだ。
イルメラにはなんの落ち度も無かったっていうのにねっ!

 しかしこの肩書き、貴族のご令嬢としては極めて致命的な肩書きで、私が私として覚醒する直前まで『ーーこのまま生き恥を晒すくらいなら、どこぞで入水自殺するしか……』とか結構本気で思い詰めていたほどには致命的な訳だけど……

 ーーいやいや!
イルメラ落ち着いて⁉︎ こんなの幸運以外のなにものでもありませんからねっ⁉︎
え、マジであの男と結婚して幸せになれたと思っていらっしゃる⁉︎

 浮気するだけでもクズだけど、それ以上にあの男は、お互い政略結婚だって納得済みのくせに「たった一つしか魔法が使えない出来損ない」とか「その上魔法力が低過ぎる」だとか!
大体そのクズ男だって、二つしか魔法使えなかったし、一つだけなんて人他にも結構いますけどねっ⁉︎
 その他にも「お前には華も色気も無い」とか? そのくせイルメラがちょっと華や色気を出そうと努力すれば、売女のようで下品だとか⁉︎

 ーーモラルハラスメントって言葉知らないの⁉︎
あんな男との婚約破棄なんて、死ぬ理由になんてなりませんからね⁉︎
世界が世界なら、喜びの雄叫びをあげつつ祝杯をあげるレベルですからっ!
 ……イルメラが逃げられて良かった。
あんなモラハラ男との結婚なんて地獄以外のなにものでもないよ。
駆け落ちしてくれて本当に良かったっ‼︎

 ーーま、そう思えたのはついさっきで、しかも、この世界の常識では旧イルメラの考えのほうが一般的だったりする。
 だからこそ1000%相手が悪い婚約破棄だったにも関わらず、婚約破棄をした令嬢という事で、外聞が悪すぎるからと、家からも王都からも追い出され、田舎にドナドナと出荷されている真っ最中な訳ですが……

 その処置に反発するけど気持ちも確かにあるけれど……
 ーー日本人のド庶民としての感覚を思い出しちゃった今となっては、社交界とか苦痛以外のなにものでもないんだよなぁ……
 この状況下、私が社交界で笑われ者にならない未来とか想像つかないしー。
  だったら、実家の援助で田舎で悠々自適に生活した方がよっぽどマシでしょ。

 ーーあ、これ婚約中の出来事で本当に助かった……!
これであの家に嫁いだ後で離縁とかになってたら、実家には縁を切られて、嫁ぎ先も追い出されて野垂れ死ぬ未来しかなかったんじゃ……?
 ……ーーあれ? 私だいぶ日本人の感覚に戻ってるのに、今までの知識は知識としてちゃんと残ってるんだ……?
ーーわぁ、便利ぃ☆

 旧イルメラちゃんは「王都から2ヶ月もかかる田舎に追いやられるなんて、私はなんて不幸なの⁉︎」とか嘆いてたけど……
 流行のドレスやお帽子に何の興味もなくなった今、王都での娯楽ってMAX観劇なんだよねー……しかも日本的に説明するとオペラ的なやつ。  イケメンや美少女がきらびやかな衣装で出てきて歌いながら劇をやる感じ?
 ーーせめてミュージカルくらいお芝居してくれれば、今の私にだって楽しみ方もあったんだろうけど……オペラはなぁ……
イケメンは多かったから目の保養にはなっただろうけど……
  ーーそういう見目麗しい役者にはほぼパトロンが付いていて……ーーそれってつまり、イケメン役者は確実に誰かの愛人! ってことな訳で……
 ーーせめて会場では関係を隠す配慮希望。
 劇が終わってからそこかしこで繰り広げられるイチャイチャを見てしまい「サインをいただきたいわっ!」と言ってわざわざ用意して貰ったパンフレットを胸に抱き、俯くしかなかった旧イルメラが不憫でならないよっ!
 嫁入り前の純真無垢な乙女の夢を壊さないで貰えますかねぇ⁉︎
 ーー分かるよ旧イルメラ……私もアイドルとかには夢を見続けたい派ー。
熱愛報道や結婚とかも、口では「幸せになって欲しいー」とか言いつつお腹の中では毒付いてる派閥ー。

 それでも旧イルメラは劇が好きで、よく観劇に行ってたわけだけど……新イルメラになった今となっては、楽しめる要素が皆無なわけで……
となるとーー別に田舎でもなんの問題もないな?
 むしろ、わずらわしい人間関係から解放されるから田舎で良かったのでは……⁉︎


 ーーじゃあ、旧イルメラの入水自殺に拍車をかけた“侍女、誰1人も付いてこない事件”は、むしろ幸運だった……?

 ま、忘れてはやらないけどー。
一緒に来るって話になってたくせに勝手に父の愛人になったり、兄や弟と肉体関係になって、誰1人付いて来なかった時は、父親や兄弟ごと呪い殺してやろうとか思ったし……

 ーーあれ? 復讐するなら今からでも遅くないよね……?
 流石に殺すまではやらないけど、別に私が泣き寝入りする必要なんて全く無いし、黙っててやる義理だってカケラも無いな⁇

 あいつらの悪行、マルッと全て、母様や兄弟の婚約者に全部チクったんねん。
そう何度も泣き寝入りなんてしてたまるか!
  
 旧イルメラも新イルメラも、こう言う事は忘れてやらない派ー。
絶対許してやらない派閥ー。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』

鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」 王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。 感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、 彼女はただ――王宮を去った。 しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。 外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、 かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。 一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。 帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、 彼女は再び“判断する側”として歩み始める。 やがて明らかになるのは、 王国が失ったのは「婚約者」ではなく、 判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。 謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。 それでも―― 選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。 これは、 捨てられた令嬢が声を荒げることなく、 世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

処理中です...