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しおりを挟む「ーーよくもその程度の浅知恵でこんなことをしでかしてくれたな……よくも私の客人に土を付けたな! よくも我が家の使用人を害したな‼︎ よくも我が屋敷の祝いの席を血で汚してくれたなっ‼︎」
あくまでも毅然とした態度で……喚き散らすだけじゃこの女と同類になってしまう……
ーー背筋を伸ばせ。
笑えずとも、歯を剥き出しにするなど優雅じゃないわ。
ーーシャンとしたいのに……なんだかさっきから、くわんくわんと頭が揺れている気がする。
真っ直ぐに立っていたいのに、足元がふわふわして覚束ないのが分かる。
ーーああ、そうか……
怒りによって魔力が暴走しかけてるんだ……
ーー本来ならば、こんなことは絶対に許されない……
学園で魔力の、魔法の扱いを学んで来たのだから、卒業した者がそれを暴走させるなんてありえない。
けれど……
ーーそれがなんだと言うの?
いまさら他人の評価なんて気にしないわ。
ーー私は私のやりたいように生きる。
大体……こんな非常識な女にパーティーをめちゃくちゃにされたのに、怒った私のほうが悪く言われるなんてこと、絶対に納得してやらない。
ーー必ず地獄見せてやるからな……‼︎
「ーーこの件、貴女だけの処分で済むと思わないでね? 当然、男爵にも責任を取ってもらうわーーそのつもりでいて」
「あ……」
私の言葉に気圧されるように、数歩後ろへ下がり、なにかにつまずいたのか、ふらり……と、その身体が傾く。
それを慌てて支えに入る兵士。 こちらも顔色を悪くしながらチラチラとこちらの反応を伺っている。
あれだけ横柄な態度を取っておいて、旗色が悪くなったらそれ?
ここまで考えが足らないなんて……本当に貴族の一員なのかしら……
私はそんな姿にフンッと鼻を鳴らすと、今もなお必死に体を起こし、女と兵士を威嚇しているジーノに回復魔法をかけた。
ーー……ずっと側に居てくれたのに、ケガを治すことすっかり忘れててごめんなさい……
「ありがとうございます……」
そう言いながら立ち上がったジーノが「宜しければお客様のケガも……」と耳打ちする。
その言葉に庭を見回すーーそこかしこで、兵士がお客さまに武器を突きつけ、地べたに座り込ませていたり、ロープや魔法で動けなくされていた。
そのお客さまのほとんどに泥が付き、ケガをしていると、すぐに分かった。
兵士たちの方は、互いに顔を見合わせ状況を伺っている……
ーーどれだけ頼りなく見えたとしても兵士は兵士。
上役ーーこの女ーーが号令を掛けなければ、武器を下ろすことも、制圧した者を解放することもないだろう……
ーーならば、揺さぶるべきはこの女。
「わかりましたーーインザーギ家が取り潰される前に損害賠償を請求しておいて」
私は女に聞かせるように、ジッとその瞳を見据えながら言った。
ーー暴走した魔力のせいで、ふわふわふわふわ……なんだか気分が良くなって来ましたわ……?
ふふっ今なら綺麗に笑えそう……
「ーー……かしこまりました」
ジーノはそんな私の様子に珍しく視線を泳がせたが、最後にはいつものように恭しく頭を下げてくれた。
「まっ待ちなさいよ!」
女は去っていくジーノの背中に慌てて手を伸ばすが、その腕も声も届くことはなかった。
ジーノは当然のように振り返ることも立ち止まることもなく、スタスタと歩いて行く。
「……あらぁ、まだ恥の上塗りがしたいだなんて…… 止めないからして見せてみたら?」
「そっ……そんなハッタリ言っちゃって! 本当は平民なんでしょ⁉︎ 本当のこと言いなさいよっ‼︎」
焦ったように必死な形相で訴えるが……ーーこうならないために知識が武器になりますのよ……
ーーこの方には理解すら出来ないんでしょうけれど。
「ーー貴女、この屋敷に掲げられた紋章の意味すら分からないの? たとえ私が平民だったとしても、貴女が土足で踏み込んだのはーー……ベラルディ侯爵家の別邸なのよ?」
クスクスと笑いながら言った私の言葉に、女の顔がより一層血の気を失う。
……流石にベラルディ侯爵家は知ってたみたいね……?
ーーそれすらもご存じで無かったらどうしようかと……
「ーー……さて、どう落とし前つけられるのかしら……? インザーギ男爵令嬢、レベッカ殿?」
私の言葉に女ーーレベッカ嬢の肩がビクリと大きく跳ね上がる。
そしてガタガタと震えながら私を凝視する。
ーーお勉強は大切なのよ?
紋章と家の名前。 そしてその家族構成を頭に入れておくことなんて、貴族としては基本中の基本。
貴女のように“知らなかった……”で許されないことなんて、世の中には掃いて捨てるほどありますの。
「……一応“お優しいエドアルド様”とやらに泣き付きに行ったらよろしいんじゃなくて……?」
すっかり身を縮め、涙を浮かべているレベッカ嬢を揶揄うように微笑みかけた時だった。
ーーお優しいと噂のエドアルド様の紋章を付けた馬車が、うちの庭に猛スピードで入ってきた。
そして、まだ止まりきっていない馬車から、エドアルド様が転げ落ちるように飛び出てきた。
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