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エピローグ

宮本 陽一

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《…さん、…トさん……》
 夢の中で若い女の声がする……。

 時計の目覚まし音に目を覚ます。時刻は午前3時過ぎ。
 バロッチと約束したクエストの手伝いの時間だ。とりあえず何か食おう。
 食パンとチーズがあるからそれを焼いて腹に入れておくか。

 何か変な夢を見ていた気がするな。なんだったかな…?

 結局その日は仮眠しても疲れが全然取れてなくて、俺が途中で寝落ちしてしまい、バロッチのクエストは失敗してしまった。

『ホント悪かった。マジでちょっと60時間頑張りすぎたかも…』

『カリビンさんが寝落ちとか、今日はレア事例ばかりで逆に怖いわ。俺明日死ぬかもっすわw』

『ははっ、そうしたらトラックに跳ねられて異世界転生出来るかもよ』

『いいーっすねぇ異世界転生。俺も努力しないで最強チートでチヤホヤされてハーレムとか作りてぇなぁw』

『お前、そんな簡単なもんじゃ無いぞ? 異世界行っても全然モテないんだからな?』

『へぇ、カリビンさん異世界転生してきたみたいな言い方っすね。ウケるw』

 あれ? 何で俺そんな事を言ったんだろう? 何か知ってる様なそうじゃない様な……。

 結局そのまま寝直して、目が覚めたら昼前だった。

 どうにも気持ちのモヤモヤが晴れなくて俺は珍しく街に出ていた。それも渋谷だ。
 江戸川区民の俺が何故用も無いのに渋谷になど来ているのか? 全く分からない。ただ何となく理由の分からない『使命感』にき動かされている、としか言えない。

 渋谷は華やかな若者の街。俺は陰キャのゲームオタク。似合わなさすぎる。今すぐにでも帰りたい。駅を出てハチ公前の時点で超帰りたい。

「どーする? マルキュー寄ってく?」

 ふと小耳に挟んだ通行人(女性)の会話が頭に残って離れない。『マルキュー』という単語に聞き覚えがあるような…?
 振り向くと派手な格好をしたギャルメイクの女子高生が話しながら歩いていた。

 渋谷、マルキュー、ギャルJK、これらの言葉がもの凄く引っかかる。

 考え事をしながら歩いていたら、妙なガキとぶつかってしまった。スカジャンを着た、金髪で長めの角刈りっぽい髪型をした中学生くらいのヤンキー小僧だ。

「おい! 当たったぞ?!」

 あ、ヤベ。目が合った。慌てて目を逸らすがターゲットされてしまったようだ。

「シカトこいてんじゃねーぞテメェコラァ!」
 ヤンキーに胸倉を掴まれる。子どものくせにえらく凶暴な、野犬の様な目をしていた。

 スミマセンゴメンナサイ! …なんでヤンキーに絡まれるんだよ? 俺ここでヤンキーに刺されて死んじゃって転生するとかそういうパターン?

「…うん? 何だこの感覚…? アン… 何だ…?」

 ヤンキーは不思議そうな顔をして、それ以上は何もせず、そのまま舌打ちして離れて行った。あー、怖かった。

「おい今のあいつだろ? 鬼キラ」
「ああ、あのオッサン絡まれてよく無事だったな」
 通行人の話が聞こえる。この辺の有名なワルガキなのかよ、怖えーよ。あと俺まだオッサンじゃねーからな。

 でも何だろう? なんだかさっきの声に聞き覚えがあるような…? キャラは全然違うけど、アンジェラの声っぽかったな。

 ん? アンジェラって誰だ? 何かのアニメキャラだっけ? なんでこんなに気になるんだろう…?

 そもそもアンジェラは死んだはず… いや死んだのはまどかか… あれ? まどかって誰だ? ギャルが渋谷で……。



 思い出した!!



 俺は未来のパラレル地球でロボとして戦って、現代に送り返されて来たんだった……。

 …って、いやいやちょっと待て。いくら自分でもその厨二病設定は引くぞ?
 …でも以前の記憶がだんだんと蘇ってきた。

 鈴代ちゃん、長谷川さん、高橋、渡辺さん、武藤さん、天使、香奈さん、アンジェラ、そしてまどか……。

 彼らの顔と声が鮮明に蘇ってくる。虫達や『鎌付き』と戦った記憶も、傷ついた痛みの感触もだ。

 この記憶は何だ? 夢で見た壮大なストーリーなのか? それにしては妙に生々しい。

《…71ナナヒトさん、私の声が聞こえますか…?》

 頭の中に微かに響く少女の声。街の雑踏の音に紛れて聞き逃してしまいそうな細い声。誰だ…?

「…もしかして、アンジェラ、か…?」

《はいそうです! 良かった、ずっと話しかけていたのに聞こえてなかったみたいで心配してたんですよ?》

「本当にアンジェラなのか? 一体どうやって俺の中に…? て言うか、未来で鈴代ちゃん達と戦ってきたのは事実なのか?」

 頭の中の声に一生懸命話し返している男。挙動不審すぎるので、一旦道の脇に避難する。

《どうやってここに来れたのかは分かりません。私は『愛の奇跡』だと思っていますよ。ちなみに71ナナヒトさんが未来から戻って来たのも事実です》

「そうか… そうか、じゃあひょっとして俺の命って…?」

《あ、はい… 正確には分かりませんが、あと数年では無いかと…》

「………そっか」
 確か最後の幽炉残量は4%だったかな? だとしたら多く見積っても俺の命はあと5、6年ってところなのか……。

《で、でも私の蘇生リザレクションって成功しましたよね? 私、もっと頑張って強くなります! 進化します! 71ナナヒトさんに毎日蘇生リザレクション出来るくらいになれば長生きできますから!》

「なんだそれw」
 アンジェラの必死さに逆に笑えてしまう。もしそれが成功すれば俺は1日毎に1年の寿命がチャージされる計算になって不老不死が達成できてしまう。


 俺がロボの中にいる生活は終わり、俺の中にアンジェラがいる生活が始まった。
 これがいつまで続くのかは見当もつかない。アンジェラだっていつ消えて居なくなってしまうのか分からない。

 確実なのは、あとしばらくの間は随分と賑やかな生活になりそうだと言う事だ。

「ところでさっき俺に絡んできたヤンキー、アンジェラと声がそっくりだったんだけど、親戚か何か?」

「何言ってんですか71ナナヒトさん、私は未来のAIですよ? この世界に親戚が居るわけないでしょ。しかもあんな野蛮な人が私と似ているとか有り得ませんから!」


 とりあえず人生の終着点がうっすらとだが見えてきた事で、逆に冷静に人生を見つめる事が出来そうだ。
 何となく今までよりも他人に優しくなれそうな気もする。

 そう言えば両親にも長い事顔を見せていないよなぁ。
 今度の休みには顔見せに田舎に帰ってみるかな…?

 俺が居ないと… 下手したら永久に居なくなると寂しがるだろうから、猫でも飼わせると良いかも知れないな。『ミユキ』とか『アナスタシア』とか名付けてさ……。

 俺がロボとなって戦って過ごしてきた日々はフィクションではなく本物だ。あの世界に俺と鈴代ちゃんは確かに生きていた。

 そんな大切な思いを消したくない。
 忘れたくない歴史を残したい。

 そう考えた俺は、今回の体験を小説に書いて残してみる事にした。
 まぁ未来異世界に呼び出されてロボットの電池にされる、なんて荒唐無稽な物語だから、真面目に受け取られる事なんかまず無いだろう。

 俺には特に文才も無いし、世間からは読まれもせずに埋もれて消えるだけなのは確定だ。
 それでも俺が、鈴代ちゃんが、まどかや高橋がそこに居た証を、生きていた証を何らかの形で残したかったんだ。

 今の平和な日本がそのまま続いてくれて、いつか生まれる未来の鈴代ちゃんに読んでもらえたなら最高だよな。

 タイトルは… そうだな、「異世界召喚されたらロボットの電池でした」とか良いんじゃないかな…?

                    ー完ー
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