魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです

ちありや

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第11話 交渉

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 単純に考えれば声を上げてきた女の人がこの盗賊団のかしらという事になる。

 その目は怒りと殺意に燃えてはいるが、顔の造りそのものは野性的ではあるもののかなりの美人であると言えるだろう。
 赤く野放図に伸ばした長い髪がとても野性的で、筋肉質な全身がネコ科の肉食獣の様なしなやかさとしたたかさを彷彿とさせる。

「よく見ろ奴の額に角がある、奴はオーガだ。まれに人から生まれる忌まわしい呪い子だ…」

 クロニアに言われて初めて気がついた。確かに女頭目の額にはこぶと言うにはかなり大きな突起があった。

「さぁて、30対2だよ。この状況からどうするんだい?」

 確かに周囲を完全に囲まれていて、しかも飛び道具で狙いを付けられている。聖剣は攻撃面では無類の強さを見せたけど防御はどうなのだろう? 矢の1本なら手で掴む動きが出来ても、30本の矢を一度に止めるのはかなり難しいのは分かる。してやクロニアも一緒にいるのだから、俺だけ助かる仕様でも困る。

 ここから助かる方法があるとしたら、それは力押しではないはずだ……。

「分かった、降伏しよう。話し合えないか?」

 俺は両の手を上げて数歩踏み出した。

「バカっ! そんな事しても奴らには…」

 クロニアが言い終わる前に、左後ろから俺に向けて矢が1本飛んできた。先程もやってみせた様に、1本ならさして怖くはない。俺は飛んできた方向を見ることなく手の動きだけで矢を受け止めた。

 俺達を囲んでいる盗賊団からどよめきが上がる。まさかクロスボウから放たれた高速の矢を、見もせずに素手で掴む輩がいるとは思っていなかったのだろう。
 そしてそのどよめきを盗賊団の女頭目は手で抑え、一歩前に出てきた。

「見かけの割に根性は座ってるじゃないか。んで、一体何を話し合うんだい? 仲間を殺したアンタ達には『血の報復』を受けてもらう事が決定しているんだけどね?」

 女頭目の勇ましい啖呵に「そうだ!」とか「殺せ!」といった声が周りから被さる。自分らは平気で人殺しするくせに、仲間がやられると途端に被害者面するのはクールじゃ無いと思うんだけどなぁ……。

「と、とりあえず落ち着こうよ。お、俺は見ての通り剣の一振りで森を切り拓く力があるし、後ろのクロニアおんなも同じくらい強いぞ? 本気で戦ったらお前らだってただじゃ済まないぞ…?」

 ここで後ろにいるクロニアから『何言ってんだお前?』という視線を受けたが、ここは黙って話を合わせろよな。

「だから『話を聞くだけは聞いてやる』って言ってんだよ。その話が気に入らなかったらお前らがハリモグラになるってだけの事だけどね?」

 さて、ここからはかなり確度の低い賭けをせざるを得なくなる。まずクロニアは相手がオーガだと言った。触った相手が人間ではない場合、聖剣による魅了の効果は未知数だ。

 更に厄介なのは『こちらを警戒している相手にどうやって触れるか?』だ。俺が怪しい動きを見せたら、次の瞬間クロニア諸共ハリネズミ(モグラ?)にされるだろうな。

 そしてこの女頭目と思われる人物が、実は盗賊団のリーダーではなくただの折衝役だとしたら、戦闘では頼りになりそうだが、所詮女1人を味方に付けても大勢は変えられないだろう。

 これら全てがクリアされて、ようやく俺達の命が繋がれる。一つ一つの確率は小さくないだろうが、条件はオールクリアだ。仮に一つの条件が70%だとしても、同時に3つクリアできる確率は35%を割り込む事になる。

「どうしたのさ、ボーっとして? 話す事が無いならお祈りの言葉でも唱えてなよ」

 俺の前5mまで歩み寄ってきた女頭目(仮)。しかしそれ以上に近寄って来ないのは、俺が飛び掛かってくる可能性を考えてその射程外に身を置いているのだろう。

 下手に動けばハリネズミ、黙っていてもハリネズミ、ここから取れるオプションは多くない……。
 俺はおもむろに背中から聖剣を取り外し、前方に投げ捨てるように置いた。もちろん聖剣の魔力の加護から外れない様に十分に距離に注意している。

 剣を地面に置いたら次は両方の膝を地面に付ける。更に前方に手を付き伏せる様に体を低くする。

「どうもすみませんでしたぁっ! 命ばかりはお助け下さいぃっ!!」

 前世では強制的にやらされていた土下座を、俺は異世界に来て初めて自分の意志で行った。

 ☆
 
 一瞬間をおいて周りの盗賊連中から爆笑が巻き起こる。「とんだ馬鹿だ」「情けねぇ奴」「威勢が良いのは最初だけかよ」と嘲笑混じりの罵倒が飛んでくるが、そんな物は慣れっこだ。伊達に何年もいじめられっ子やってないよ……。

「あははははっ! 立派な剣を背負っているから、さぞご高名な剣士さまかと思ったら拍子抜けだねぇ。その剣は何処かから拾ってきたのかい?」

 土下座している俺に近寄ってくる女頭目(仮)。足音に混じって剣を抜く音がした。

「丁度いいからそのまま串刺しにしてやるよ。動くんじゃないよ…?」

 いや、動くならここしかない。俺は出来る限りの反射神経を動員して女頭目(仮)の逞しい脚にしがみついた。
 もちろん命乞いの為ではない。形勢逆転の為の最大の一手だ。

「はっ、今更組み付いたってお前はもうお終い…」

 今の俺の位置からでは女頭目(仮)の顔は見えない。言葉は途切れたが、どういう意味での反応なのか俺からは掴めない。賭けに勝てば攻撃を止めるだろうし、賭けに負けたらそのまま串刺しだ。

「ま、まぁそこまでするなら助けてやらない事もない、かな…? おいお前ら! アタイはこいつらをアジトに連れて行く。ザガン達の死体を処理したら帰ってきな!」

 よしやった、繋がった! 3つの条件を全てクリア出来たぞ!! 予想外の展開に不満タラタラな盗賊団と、俺の事を何か理解出来ない生き物の様に見ているクロニアの視線はこの際無視する事にしよう。
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