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第62話 虚無(ヴォイド)
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「ま、まぁ… 俺としてもここまで一緒に生死を共にしてきたお前らを変に差別したくない。だからいっちょ成り上がって『貴族』とやらを目指してみようと思うんだ!」
これが決定の先延ばしでしか無い事は十分に分かっている。それでも今の俺にはすぐにティリティアと結婚する事も、クロニア達を見捨てる事にも踏ん切りが付かなかった。
もう少し考える時間が欲しいのに加えて、生前は関わりのある人みんなに虐められて、人間不信になっていた俺なんかに従いてきてくれた奴らの恩に報いたい気持ちもある。
俺はこの世界に転生して、初めてまともに『人』として扱ってもらえたんだ。おっかない目や死にそうな目にも遭ったけど、俺は転生した事を後悔した事は一度もない。
むしろ暗い情念の塊みたいな存在だった俺を、まともに引き上げてくれた(?)この世界には、送り込んでくれた女神もろとも感謝している。
それが『皆と結婚する』というハーレム構想に繋がるのは、自分でも無理があるとは想う。それでも金も権力も無い俺が、あいつらにしてやれる事は『愛してやる』事くらいしかない。例えそれが聖剣による『偽りの愛情』だとしてもだ。
俺の言葉に対する仲間達の反応は、顔を見る限り概ね『消極的肯定』と判断できた。「まぁゴマカシのために調子の良いことを言ってるのはバレてるけど、今はそれしか言えないよね」という気持ちを、この場の全員が共有している感じだろう。
些か情けない話ではあるが、そういった『悪い面』も含めて仲間達が理解してくれている事に、どことなく安心している俺がいた。
「まぁ貴族になれるかどうかはともかく、冒険者ランクを上げておけば社会的な発言力も上がると思うわ。という訳でそろそろ仕事の話をしても良いかしら?」
ここで「待ってました」とばかりにチャロアイトがしゃしゃり出てきた。確かに結婚だなんだという話よりも、ベルモの治療の為にはチャロアイトからの怪しい仕事をこなす必要があるのだ。
「それは良いが、本当に『ベルモを治せる薬』とやらは用意できるのだろうな? あの聖女殿の治癒術でも治しきれなかったのだぞ?」
俺が仕事の話に移行する前にクロニアが口を挟んできた。そう言えば俺は、チャロアイトの言葉通りに真に受けて『ベルモは治せる』という前提で動いていた。
考えてみればチャロアイト本人やその組織の異常さの情報で頭が混乱していた為か、肝心の薬の詳細を聞き逃していた。
まぁ聖剣の『魅了』が効いた状態で、簡単に裏切り行為が出来るとは思いたくないが、チャロアイトは特殊な訓練を受けた女だから何が起こるか想像がつかない所がある。
「私は医者でも治癒士でも無いから断言は出来ないけど、以前そちらの俺とも話した様に、弱っている部分を『強化』する薬品はあるわ。薬の強度によっては欠損した四肢すら再生出来る位の物が…」
そこまで凄い薬があるのか… まぁ『見習い』だったティリティアですら、切断された腕を法術で結合して見せたのだから、この世界の医療はある意味、俺のいた現代社会よりも進んでいるかも知れない。
「信じて良いのだな…?」
「誓って嘘は言ってないわ…」
刺すような瞳でチャロアイトを睨みつけるクロニアだったが、チャロアイトは薄ら笑いとすら見える涼しい顔で受け流している。
俺としても何か大きな見落としをしている気がするのだが、法術での治療が限界を迎えた現状、頼みの綱はチャロアイトしか無いのだ。彼女を信じるしか無い。
「分かった、詳しい話を聞かせてくれ」
あれこれ考えるよりも、今はとにかく前に進むしか無いよな……。
☆
「今回お願いしたいのは『観測所の調査』よ…」
この世界で俺達の住むバルジオン王国、その属する大陸の中央部には『虚無』と呼ばれる広大な荒れ地があり、ゴブリンやワイバーンといった魔種族や魔物はそこからやってくる『化外の地』と呼ばれている。森でチャロアイトと話した時に少し聞いたな。
一説には魔界に通じる大穴があって、そこから魔物が出入りしているとも言われているが、その『大穴』が実在するのかどうかすら確かめた者はいない。
虚無を中心に東西南北に国境を接しているバルジオン王国を含む6カ国は、常に魔物の侵攻の危機に晒されている。
魔物に備える為の防備や街道の警備、もちろん人間同士の争いも当たり前にあって、この世界の兵士はとにかく人手不足だ。
なのでかつてのクロニアがやったように、冒険者を募って兵士の代わりをさせるのはよくある事らしい。
チャロアイトの言う『観測所』とは、『虚無』との境界に魔物の動きを監視する目的で建てられた物で、定期的に『虚無』の動きを連絡してくるらしいのだが、今回その定期連絡が途絶えてしまったらしく、原因調査並びに人員の保護または救助、および障害として魔物が居たならその排除が任務という事だった。
「とにかく何の情報も無いので、危険が有るのかどうかすら分からないの。だから冒険者匠合には難易度3として届けを出してあるわ。私達専用の任務として取り置いてもらっているから、他と競合せずに受託できるわ」
手回しは済んでいる、という訳か。
「ちなみに質問なんだが、もしこの依頼を受けなかったらどうなるんだ? 或いはギルドを通さずにここで直接お前から受託して仕事をした場合は?」
「うん? 受けなかったら他の冒険者に回すべく普通に掲示板に貼られるだけよ。そして冒険者匠合を通さないとランクも上げられないし、報酬も出ないわよ。私お金無いし」
まぁそうだろうな。少し面倒くさいがギルド窓口で受託と報告は必須の様だ。
「おいちょっと待て。私達はまだその魔法使いの加入を認めた訳ではないぞ? それに身重のティリティア様はどうする気だ? 『虚無』に連れて行くなど論外だからな?」
クロニアが再度口を挟んできた。確かにティリティアの処遇は難問だ。
俺は男だからティリティアが、というか妊婦がどれだけ大変かがよく分からない。だからと言って今まで通りに冒険に連れ歩くのは良くない事くらいは判断できる。
「クロニア、私は大丈夫です。悪阻は法術で抑えられますから、私を仲間外れにしないでちょうだい…」
ティリティアとしてもここでパーティを離脱したくないのだろう。ティリティアの意志は横に置くとして、確かに彼女の治癒術が抜けるのは戦力的にとてもダメージが大きい。
どうしたものかな…?
「ティリティア嬢が法術で治すと言っても、それは本来他の仲間達に使う魔力を自分に使っているだけで、無駄極まりないし、イザという時に魔力切れなどになられては本末転倒だわ」
「私もそちらの魔道士殿に賛成です。少なくとも胎児が安定期に入るまでは、冒険者の様な過酷な生活は避けるべきです。私が付いてティリティア様の面倒を見るから、お前達だけで仕事を頼めるか…?」
チャロアイトの言葉にクロニアが乗っかる。確かにクロニアにも残ってて貰えば、ティリティアが急に体調不良を起こしてもすぐに対処できるはずだ。
「でもクロニア…」
ティリティアは不満そうに、俺とチャロアイトを交互にチラチラと見ている。何か言いたげではあるが、それを口にはしなかった。
代わりに口を開いたのは、今までまるで会話に興味なさそうにしていたモンモンだった。
「ティリティアねーちゃんは2人で行かせて、おにーさんと魔道士のねーちゃんの仲が急接近するのが嫌なんでしょ? そしたらボクも行って2人を見張るから!」
あぁ、そういう事か。でもまぁ仕事の邪魔だけはしないでくれよ?
これが決定の先延ばしでしか無い事は十分に分かっている。それでも今の俺にはすぐにティリティアと結婚する事も、クロニア達を見捨てる事にも踏ん切りが付かなかった。
もう少し考える時間が欲しいのに加えて、生前は関わりのある人みんなに虐められて、人間不信になっていた俺なんかに従いてきてくれた奴らの恩に報いたい気持ちもある。
俺はこの世界に転生して、初めてまともに『人』として扱ってもらえたんだ。おっかない目や死にそうな目にも遭ったけど、俺は転生した事を後悔した事は一度もない。
むしろ暗い情念の塊みたいな存在だった俺を、まともに引き上げてくれた(?)この世界には、送り込んでくれた女神もろとも感謝している。
それが『皆と結婚する』というハーレム構想に繋がるのは、自分でも無理があるとは想う。それでも金も権力も無い俺が、あいつらにしてやれる事は『愛してやる』事くらいしかない。例えそれが聖剣による『偽りの愛情』だとしてもだ。
俺の言葉に対する仲間達の反応は、顔を見る限り概ね『消極的肯定』と判断できた。「まぁゴマカシのために調子の良いことを言ってるのはバレてるけど、今はそれしか言えないよね」という気持ちを、この場の全員が共有している感じだろう。
些か情けない話ではあるが、そういった『悪い面』も含めて仲間達が理解してくれている事に、どことなく安心している俺がいた。
「まぁ貴族になれるかどうかはともかく、冒険者ランクを上げておけば社会的な発言力も上がると思うわ。という訳でそろそろ仕事の話をしても良いかしら?」
ここで「待ってました」とばかりにチャロアイトがしゃしゃり出てきた。確かに結婚だなんだという話よりも、ベルモの治療の為にはチャロアイトからの怪しい仕事をこなす必要があるのだ。
「それは良いが、本当に『ベルモを治せる薬』とやらは用意できるのだろうな? あの聖女殿の治癒術でも治しきれなかったのだぞ?」
俺が仕事の話に移行する前にクロニアが口を挟んできた。そう言えば俺は、チャロアイトの言葉通りに真に受けて『ベルモは治せる』という前提で動いていた。
考えてみればチャロアイト本人やその組織の異常さの情報で頭が混乱していた為か、肝心の薬の詳細を聞き逃していた。
まぁ聖剣の『魅了』が効いた状態で、簡単に裏切り行為が出来るとは思いたくないが、チャロアイトは特殊な訓練を受けた女だから何が起こるか想像がつかない所がある。
「私は医者でも治癒士でも無いから断言は出来ないけど、以前そちらの俺とも話した様に、弱っている部分を『強化』する薬品はあるわ。薬の強度によっては欠損した四肢すら再生出来る位の物が…」
そこまで凄い薬があるのか… まぁ『見習い』だったティリティアですら、切断された腕を法術で結合して見せたのだから、この世界の医療はある意味、俺のいた現代社会よりも進んでいるかも知れない。
「信じて良いのだな…?」
「誓って嘘は言ってないわ…」
刺すような瞳でチャロアイトを睨みつけるクロニアだったが、チャロアイトは薄ら笑いとすら見える涼しい顔で受け流している。
俺としても何か大きな見落としをしている気がするのだが、法術での治療が限界を迎えた現状、頼みの綱はチャロアイトしか無いのだ。彼女を信じるしか無い。
「分かった、詳しい話を聞かせてくれ」
あれこれ考えるよりも、今はとにかく前に進むしか無いよな……。
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「今回お願いしたいのは『観測所の調査』よ…」
この世界で俺達の住むバルジオン王国、その属する大陸の中央部には『虚無』と呼ばれる広大な荒れ地があり、ゴブリンやワイバーンといった魔種族や魔物はそこからやってくる『化外の地』と呼ばれている。森でチャロアイトと話した時に少し聞いたな。
一説には魔界に通じる大穴があって、そこから魔物が出入りしているとも言われているが、その『大穴』が実在するのかどうかすら確かめた者はいない。
虚無を中心に東西南北に国境を接しているバルジオン王国を含む6カ国は、常に魔物の侵攻の危機に晒されている。
魔物に備える為の防備や街道の警備、もちろん人間同士の争いも当たり前にあって、この世界の兵士はとにかく人手不足だ。
なのでかつてのクロニアがやったように、冒険者を募って兵士の代わりをさせるのはよくある事らしい。
チャロアイトの言う『観測所』とは、『虚無』との境界に魔物の動きを監視する目的で建てられた物で、定期的に『虚無』の動きを連絡してくるらしいのだが、今回その定期連絡が途絶えてしまったらしく、原因調査並びに人員の保護または救助、および障害として魔物が居たならその排除が任務という事だった。
「とにかく何の情報も無いので、危険が有るのかどうかすら分からないの。だから冒険者匠合には難易度3として届けを出してあるわ。私達専用の任務として取り置いてもらっているから、他と競合せずに受託できるわ」
手回しは済んでいる、という訳か。
「ちなみに質問なんだが、もしこの依頼を受けなかったらどうなるんだ? 或いはギルドを通さずにここで直接お前から受託して仕事をした場合は?」
「うん? 受けなかったら他の冒険者に回すべく普通に掲示板に貼られるだけよ。そして冒険者匠合を通さないとランクも上げられないし、報酬も出ないわよ。私お金無いし」
まぁそうだろうな。少し面倒くさいがギルド窓口で受託と報告は必須の様だ。
「おいちょっと待て。私達はまだその魔法使いの加入を認めた訳ではないぞ? それに身重のティリティア様はどうする気だ? 『虚無』に連れて行くなど論外だからな?」
クロニアが再度口を挟んできた。確かにティリティアの処遇は難問だ。
俺は男だからティリティアが、というか妊婦がどれだけ大変かがよく分からない。だからと言って今まで通りに冒険に連れ歩くのは良くない事くらいは判断できる。
「クロニア、私は大丈夫です。悪阻は法術で抑えられますから、私を仲間外れにしないでちょうだい…」
ティリティアとしてもここでパーティを離脱したくないのだろう。ティリティアの意志は横に置くとして、確かに彼女の治癒術が抜けるのは戦力的にとてもダメージが大きい。
どうしたものかな…?
「ティリティア嬢が法術で治すと言っても、それは本来他の仲間達に使う魔力を自分に使っているだけで、無駄極まりないし、イザという時に魔力切れなどになられては本末転倒だわ」
「私もそちらの魔道士殿に賛成です。少なくとも胎児が安定期に入るまでは、冒険者の様な過酷な生活は避けるべきです。私が付いてティリティア様の面倒を見るから、お前達だけで仕事を頼めるか…?」
チャロアイトの言葉にクロニアが乗っかる。確かにクロニアにも残ってて貰えば、ティリティアが急に体調不良を起こしてもすぐに対処できるはずだ。
「でもクロニア…」
ティリティアは不満そうに、俺とチャロアイトを交互にチラチラと見ている。何か言いたげではあるが、それを口にはしなかった。
代わりに口を開いたのは、今までまるで会話に興味なさそうにしていたモンモンだった。
「ティリティアねーちゃんは2人で行かせて、おにーさんと魔道士のねーちゃんの仲が急接近するのが嫌なんでしょ? そしたらボクも行って2人を見張るから!」
あぁ、そういう事か。でもまぁ仕事の邪魔だけはしないでくれよ?
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