まじぼらっ! ~魔法奉仕同好会騒動記

ちありや

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第十三章(最終章)

第207話 しゅうねん

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『まだだ… まだ私は終わる訳にはいかない… 次は魔王ドラの所にでも行って再起を目指すか… だがその前にやらねばならない事がある… この私を虚仮こけにした増田 蘭… あいつだけは許せん…』

 つばめ達が魔界より帰還しておよそ1週間。魔界で大豪院に灼き尽くされたと思われた油小路ユニテソリは実は生きていた。いや正確には油小路は『殺す事が出来ない』と言った方が正しい。
 
 彼の体が液体で構成されているのは既述だが、その体の大半が何らかの方法で毀損されても、『生命』そのものは残りの体に転送される。たとえ残された体が一滴の水だったとしても、そこに『生命』を移して時間さえ掛ければ油小路は元の体を再生させ、蘇る事が出来るのだ。

 睦美の作った《転移門ゲート》にタダ乗りしてきた油小路であったが、その目的は蘭に対する復讐であった。
 もちろん大豪院も復讐の対象ではあるのだが、今の油小路ではどう贔屓目に見ても勇者として覚醒した大豪院の相手は務まらない。
 なので大豪院への復讐は新たな魔王軍に潜り込み、時をかけて権力と戦力を整えるまで先送りとなるだろう。

 これまで『裏切り』を是として生きてきた油小路が、自分を裏切った相手に執着するのは、半ば八つ当たりの様な物であり滑稽でもあった。

 まだ全盛期の半分も回復していない油小路であったが、現状の力でも蘭には勝算ありとして、上空の雲に偽装して瓢箪岳高校までやってきたのである。
 
 時は夕刻、新たに野々村を部長に据えた新マジボラの活動(今はまだ今後の活動方針を巡っての会議中)を終え、つばめと蘭は帰宅の途中だった。
 
 つばめは学校まで徒歩圏内だが、蘭はバス通学だ。マジボラ部室から続く秘密の通路から学校の裏道に出られるのだが、蘭の使うバス停はそれが近道で、つばめ達は出動では無い時でもこの裏通路をよく使っていた。そこを油小路に補足されたという訳だ。
 
「近くに大豪院やアンコクミナゴロシの連中は居ないな… 隣に居るのはピンクの魔法少女か… あいつは戦力にはならないが回復能力がある。ついでに殺しておくか…」

 つばめと蘭は魔界へ行く前の状態と変わらず『仲の良い友人同士』として付き合っていた。お互いにわだかまりが無いと言えば嘘になるが、それでも2人はその『わだかまり』を越えようと努力している最中なのであった。

「顧問が不二子先生になるのはまだ良いとして、新部長が野々村っていうのは何か気に入らないんだよなぁ… ああいう部活を義務と考えて、理屈でやり甲斐を押し付けてくるタイプの奴…」

「あはは… 少し分かるよ。でもそれならつばめちゃんが部長になれば良かったんじゃ無いの? 一応近藤先輩達を除けば最古参のメンバーなんだし、御影くんや綿子ちゃんと違って掛け持ち部活してないからマジボラに専念出来るでしょ…?」

「わたしは『長』の付く仕事はやりたくないの! 逆に蘭ちゃんが部長になれば良かったんだよぉ…」

「私もお爺ちゃんが無職になったからバイトしないと家計が苦しいんだよ。妹が来年受験だし尚更ね…」

「ちぇー、蘭ちゃんの出席率も下がるなら、もうマジボラ辞めちゃおうかなぁ…」

「ダメだよ。何だかんだ言って野々村さんも真面目に奉仕活動やりたいみたいだし、悪い人じゃ無いよ? 彼女に合わせてやっていけば学校の内申書だって… 誰?!」

 つばめのボヤキに困り顔で付き合っていた蘭は、何者かの殺気を感じて瞬時に警戒態勢に入る。裏路地はもともと人通りが少なく、通行人は今つばめ達しか居ない。

「さすがですね蘭さん…」

 蘭のすぐ目の前に雲が集まる様な動きを見せ、その雲の中からいきなり油小路の顔が現れた。
 蘭は一瞬度肝を抜かれた物の、即座に冷静にバックジャンプで距離を取る。

「油小路… まさか生きていたの…?」

「私を殺す事は不可能です。たとえユリの勇者でも大豪院覇皇帝かいざあでも、天上の神ですらね!」

 油小路の雲が次第に人型に変わり、やがてスーツ姿の細身で陰険そうな中年男性の姿を取る。事態の深刻さを理解したつばめと蘭は即座にその場で変態メタモルフォーゼした。

「次の魔王へ転職する際の前祝いとして貴女の首を頂いていきます。なんなら貴女の体をまるごと乗っ取っても良い…」

「ふざけないで!! …つばめちゃん逃げて! ここは私が食い止めるから!」

 蘭は対ユリ戦で使用した氷の剣を作成し、つばめの盾となるべく油小路の前に出た。
 
「う、うん… 助けを呼んでくるからそれまで持ち堪えて!」

 蘭の指示に従って来た道を戻ろうとするつばめだったが、急に激しく咳き込み始めて、その場にうずくまってしまう。

「フッ、人間なんて気管に水を一滴落としてやればこのザマです… 増援を呼ばれても厄介なので、貴女もこの場で死んで頂きますよ、芹沢つばめさん…」

「させないっ!」

 蘭は一気に油小路との距離を詰め、氷の剣で油小路の体の中心を貫く。貫いた剣の周りから油小路の体がどんどんと凍結していった。

「無駄だっ!」

 体の中心が凍結しながらも、油小路は腕を振り回し蘭への反撃を行う。
 蘭はその攻撃をギリギリで回避して右手に次の剣を作り出す。

『氷結攻撃が効くという事は、油小路は邪魔具を持っていないという事… ならば全体を凍らせてしまえば私にも勝機はあるかも…』

 如何に不死身の油小路とて、固めて容器の中に入れて密閉してしまえば、殺せないまでも何処かに封印する事は可能かも知れない。

「…なんて甘い事を考えてないでしょうねぇ?」

 蘭の考えを読んだかの様に見えた油小路は、体に刺さった蘭の剣を抜き捨てる。剣の周りに凍りついた油小路の破片が残っているが気にはしていない様であった。
 穴の空いた油小路の体はすぐに隙間が埋まり、何のダメージも受けていない様に見える。

「たとえ全身を凍らせても、ここではない多くの場所に体の欠片を残してあります。そして私はそこから再生します。何度でもね。私の命そのものが終わらない限り、私を滅する事は不可能なのですよ!」

 油小路は錐状にした両手を鞭の様にしならせて蘭を襲う。蘭は手にした剣で油小路の攻撃を防ぐが、今は防戦だけで精一杯だ。
 気管に水を入れられて咳き込んでいたつばめもようやく回復するが、つばめもこの状況で出来る事など何も無い……。

「蘭ちゃん、もう一度こいつの動きを止められる…?」

 必死で油小路の攻撃を凌いでいる蘭も、つばめの言葉の意図が測れずにいた。

『よく分かんないけど、つばめちゃんは何か策があるんだ… それなら私は油小路あいつの動きを止めないと…!』

 蘭は敢えて左脇腹に隙を作り、そこへ油小路の攻撃を誘う。

 蘭の誘い込んだ場所に油小路の錐腕が突き刺さり、蘭も痛みで思わずうめき声が出てしまう。それを見た油小路が勝利を確信して邪悪に顔を歪ませる。

 たがそれこそが蘭の求めていたタイミングだった。腹を貫かれて気を失いそうになる程の痛みの中で、蘭は残った魔力全てを注ぎ込んで呪文を唱えた。

「赤巻紙、青巻紙、黄巻紙っ…!」

 油小路の全身が凍結し、蘭の腹を抉っている油小路の腕を通じて、蘭の腹の傷も凍結、出血が止まった。

「はん! 俺を凍らせても今のお前らに何が出来る? 片や回復しか出来ないヘタレ女と、力任せに剣を振るうしか出来ないゴリラ女がよぉっ!」

 チンピラモードで2人を恫喝する油小路だが、逆に考えれば動きを封じられて紳士の真似をする余裕が無いという事でもある。 

 つばめはゆっくりと油小路の氷像に近付いて、彼に対して右の手の平を掲げた。

「貴方は、悪い人です… 蘭ちゃんも、大豪院くんも、沖田くんも、近藤先輩達も、みんなみんな貴方に酷い事をされて苦しみました…」

「はぁ…? 寝ぼけた事を言ってんじゃねぇよ。この世は力が全てだ。利用される奴はそれだけ弱かったってだけの話だよ!」

「つばめちゃん…?」

 いきなり語りだしたつばめに対して油小路も蘭もどうリアクションするべきか判断がつかないでいる様子だ。
 つばめの言葉は続く。

「蘭ちゃんでも大豪院くんでも、天の神様ですら油小路あなたを裁けないと言うのなら、出来る事は一つだけ…」

 つばめは大きく息を吸う。
 
「ああそうだ、俺は無敵だ! 俺を殺せる奴はこの世には…」

「可逆反応の逆不可逆反応…」

 油小路の悪態は、時間が止まった様にそこで止まった。
 やがてチラチラとダイヤモンドダストが散るように、油小路の氷像は次第に分解、霧散していき、最後には塵一つ残さずに消滅してしまった。

 壁新聞事件の際につばめが習得した新呪文。『生命』を司るつばめの能力の、『回復』と対をなす『死』の魔法……。
 そのあまりの恐ろしさに魔法の検証すら出来ずにいた禁断の呪文、つばめは今それをぶっつけ本番で油小路に使ってみせた。
 
 つばめの中には油小路に対する怒りが渦を巻いていた。確かに蘭や睦美らに代わって恨みを晴らす機会は、今を置いて他に無かったと言える。

 油小路の体はどんなに寸断されても死ぬ事は無いし、外部の水分さえあればいくらでも再生は出来る。
 しかし如何に油小路とて持っている『命』は1つなのだ。その1つが消されてしまっては、もはや油小路の再生が叶う事は無い。

 今ここに油小路こと魔族のユニテソリは、完全に命を絶たれて消滅した。ガイラムや大豪院すら成し得なかった事を遣り遂げたのは、泣き虫で臆病、ついでに打算家のつばめだったのだ。

「つばめちゃん、凄い… あの油小路を倒しちゃった…?」

 蘭の呟きに放心していたつばめも我に返る。悪党と言えども1つの命を奪った事には変わりは無い。その事の意味をいつかつばめは思い知る事になるだろう。

 だがそれは今ではない。今つばめの目の前には出血こそ止まっているが、腹に穴を空けた重傷の蘭が居る。

 ここはもちろんつばめの出番なのだが……。

「あ… 蘭ちゃん大丈夫…? …?」

 いつも通りのつばめに、蘭は逆に安心して苦笑してしまうほどであった。
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