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 やっぱりギルマスはアイツだったな。隣国へ放っていた諜報が戻った。報告を聞きながら、提出させた報告書と比べ思考を纏める。紅葉は神子が出現した後、城下のギルドの扉を叩いた。図書室の特別室の閲覧条件が魔術師との事で資格を取りに来たそうだ。

 まあ魔術師の資格は魔力量さえあれば、意外に簡単に取れる。魔術の実技は学園に通っていた紅葉には、簡単過ぎる物だっただろう。しかし仮にも公爵家の娘が、そんなに簡単に学園を抜け出せるのか?いくらなんでも扱いが杜撰すぎじゃないのか?追加で調べさせたが、これは元からのことらしい。紅葉には護衛等、必要ないとのことなのだろう。

 最初は放置で役に立つと知ったらこれかよ。ムカつくな。しかし紅葉は凄いチートだな。空間魔術まで使えるのか!体質もだがこれでは国は手放したくないよな。ボンクラ王太子との婚約はその楔だ。しかしコイツら紅葉の好意に甘えきってないか?ボンクラはもちろんだが、公爵家の長男の態度はなんなんだ?公爵さえ紅葉が学園を抜け出してる事に気付いていない。まあ転移で抜けられちゃ解らんか。

 しかしなぜ魔術師としての才能を伸ばしてやろうと思わないんだ?膨大な魔力量を垣間見ても、才能が有るのは解りきったことだ。それだけ未だにあの国の、男尊女卑が酷いということなのか?しかも王妃教育ってのがウザいんだよ。なぜ紅葉を影にする?そんなにあのボンクラを王にしたいのか?

 まあこのままいけばこの先の婚約破棄で、紅葉は完全にクレハになる。多分王も公爵も紅葉が貴族位をなくし、市政で生きてけるとは思ってもいないのだろう。まあこのままならその必要はないからな。だから紅葉の好意に甘えきっているんだ。紅葉は敵対する者以外には優しすぎる。自分を蔑ろにしていた家族でさえ斬り捨てられない。俺が紅葉の立場なら、すぐにでも家族を捨て国をも捨てるだろう。

 それでも残ってるのは……

 ボンクラ王太子に、少しでも希望をかけてるのだろうな……だから斬り捨てられない。でも駄目なんだよ。あのボンクラは救いようのないバカだ。婚約破棄は覆らない。紅葉は救われない。紅葉がクレハとして魔術師になった時点での決定事項だ。王太子ルートは、魔術師を選択した時点で消滅した。

 いろはちゃんは神子が出現し王太子を狙う所までしか知らない。ラノベでは神子は王に正体を暴かれ、紅葉は公爵に助けられる。そして改心した王太子と結婚する。これが王太子ルートのエンディングだ。但しラノベ限定ルートだ。ラノベが不評で、アプリ版には王太子は出てこない。あ!ラストのエンディングで、クレハと選ばれた攻略者に、見事なざまぁをされた姿がスチルで出ていたみたいだな。アイツがアプリ版は、どのエンディングもハッピーエンドでざまぁだと言っていた。

 いろはちゃんは優しい子だった。クレハもなのだろう。ならクレハの出来ぬ断罪は俺が引き受けよう。俺は優しさにつけこむ奴は嫌いだ。

 只今俺はバレぬ様にギルドに登録し、魔術師として冒険者ランクを上げている。王子だから剣術も体術も得意だぜ。クレハと出会い親父に有る宣言をしたら、バレても構わない。冒険者ランクS級と、魔術四天王の称号を得たらこの国を出る。クレハの国に入り、先ずはギルマスと懇意にならないとな。悪いがその前に、親父のルートを完全に消滅させる。

 親父よ。重大な選択肢はここだ。
 
〈父上。私が好きな人と添い遂げたいと言ったら反対しますか?〉

 俺のこの言葉の返事に紅葉の事を絡めてくれば、紅葉と隣国の王と紅葉のルートは継続する。俺の思い人が紅葉で有るとの可能性に微塵も気付かずに反対しなければルートは消滅だ。ここで気付いていてルート継続に成れば、紅葉からの過去のキスの話の件での対応が変化する。

【 今でもキス出来る?と冗談を言ってみたら、真っ赤な顔で頬になら出来ますよ。と答えてくれた】

 これが以下に変化する。
 
 【今でもキス出来る?と冗談を言ってみたら、真っ赤な顔でそっと唇にキスをしてくれた。つい愛しくて抱き締めてしまった】

 親父よ悪いな。俺は案内役になっても浮かれない。紅葉への好意は隠し通す!フラグはへし折る!隣国の王とのルートは、俺が国を出る前に完璧に消滅させて貰うぜ!許してくれとは言わない。しかしこれだけは譲れない。

 宣戦布告だ!紅葉が好きなら俺の真意に気付け!

 俺も死ぬ気で頑張るぜ!

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