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⑴隣国の勇者一行とのドラゴン退治。
しおりを挟むこれはクレハが公爵家を出奔してから約三年後、場末の酒場で殿下たちに出会う少し前のお話。
クレハは公爵家を出奔後城下のギルマスを頼り、漆黒の魔術師を指導者としてS級冒険者を目指します。先ずは帝国の試練のダンジョンへ潜り、帰国後漆黒とギルマスと共に、開拓地に居座るドラゴンを退治。これらの功績で、S級冒険者となります。以降自国と帝国にある名だたるダンジョンを漆黒とともに次々と制覇。(たまに紫紺も含)その後漆黒と紫紺とも別れ、漆黒の故郷である隣国へ単独で入国。もちろん隣国でも活躍し、S級冒険者としての地位を確立しました。
そして二年ほど立ち、自国のギルドに戻り、以前のように落ち着いた、まるで家族の団らんのような、まったりとしたクエスト生活に戻ったころ……
*****
ハムエッグにチーズトースト。野菜たくさんのコンソメスープにカットフルーツのヨーグルトあえ。野菜スティックにマヨみそディップつき。簡単な朝食を作り、テーブルに二人前セットする。いつもは三人前だけど、昨晩から一人仕事で抜けている。
「クレハ! おはよう。漆黒が一週間いないから、食事の用意はしなくてもよかったのに……」
「おはようございます。ダメです! ギルマスは忙しいと、一日水だけしか飲まない時がありますから! はい。それとこちらがお弁当です。忘れずにお持ち下さいな」
「……悪い……なにも言えんわ……」
料理ってかなり楽しいの。今世では離れで生活していたから、多少はお料理したの。本邸から運ばれてくる食事は、冷めてるしワンプレートみたいな簡単な物ばかり。だから温め直して味を整えたり、お菓子やパンなんかも焼いていたの。
野菜は研究所の薬草畑で育てていたし、玉子やミルクも実験用の飼育動物から貰えた。粉類や調味料は、すべて研究室にある。本来は実験用の材料なんだけどね。研究員の人たちと仲良くなってからは、お料理を教えて貰ったりもした。本だけは好きなだけ与えられていたから、図書室で料理本を借りたりもした。
私は前世でも病弱で、台所にさえ入ったことはなかった。だからかお料理するのが楽しくて、ついつい張り切ってしまう。本来なら貴族のお嬢様は、料理なんてしないのよ。公爵家のご令嬢ならば尚更よ。だから紅薔薇の紅葉姫を知る人なら驚くでしょうね。ギルマスと漆黒でさえ、私に本当に料理をするのかと、聞いて驚いていたもの。
ギルマスと向かいあって、お喋りしながらの朝食。今週のスケジュールについての調整をする。
「クレハは今日は一日オフだからな。明日のために鋭気を養っておいてくれ。しかし悪いな。本来なら漆黒に行かせるんだが、アイツは先約でいない。さらには敵が、私たちが以前倒したドラゴンの番だったらしい。竜は番を亡くすと狂暴になる。しかし前の討伐時、番の気配などまったくなかったよな?だがエンシェントドラゴンだそうだ。気をつけてくれよ」
そうよね……竜の番は面倒だから、必ず調査する。ドラゴンになんて討伐対象にでもならなければ、誰もわざわざ挑まない。番ならば通常は、尚更仲睦まじく静かに暮らしているはずよね?通常ならば討伐対象になんてなり得ない。
「了解です。準備は万端で済んでいるし、場所も前回の場所まで瞬間移動で飛べる。だから大丈夫。心配なのは隣国の勇者たちよ。腕は立つの? 」
今回の場所は私たちが番だったと思われる、ドラゴンを討伐した山奥の場所とほとんど変化無しらしい。ならばなぜ隣国の勇者が?となるわよね。実はこのエンシェントドラゴンは、山の反対側の隣国の山肌がすみかだった。しかも大きなお城を立てて、たくさんの配下も侍らしていた。それって……
「勇者は魔法剣士だ。腕は保証する。安心しろ。勇者一行は、魔王討伐の旅だと言っている。このエンシェントドラゴン。つまり古竜だが、なんと人型になれるそうだ。その人型状態で瘴気に飲み込まれた。そのまま人型で魔王として、隣国で残虐行為を繰り返していたんだ。放り置かれた我が国側にいた番は、もちろん人型になどなれない。だから私たちは番に気付けなかったのではないか? 」
魔王とは穢れた瘴気に身も心も汚染されてしまったものをいう。通常は元は人間だった場合がほとんど。時おり今回のように悠久の時を得たものが、長きに渡り身の内を瘴気に汚されてしまい……人型以外の魔王が存在してしまうことも……
魔王として君臨している間に、ドラゴンの番は討伐されてしまった。討伐された番のドラゴンは、番が側にいなくてさみしかっのだろう。きっとそのため番を探し、山で暴れたのち、村里におりてしまった。
数ヶ月が経ったころ魔王は、ようやく番の気配が無いことに気付き、慌てて探しまくり、人間に討伐されていたことを知る。たしかに可愛そうだけど!人型になって魔王として迷惑をかけていたのが悪いんじゃない!ハーレムなんて作ってたんだから!人型だと意識が無いわけでは無いのよね?
竜の番は愛情深いという。伴侶が死ねば、己も後を追うと伝わるくらいなのに……
「人型のときはかなりの美形らしい。魔王は山の下の村里から、美女ばかりを集めハーレムを築いているそうだ。ドラゴンの番のことは正直忘れていたのだろう。ないがしろにし……失ってから大切だと気付いても遅いんだよ! テメエで自害しやがれ! しかも暴れるなんて八つ当たりか! さっさと番の後を追わせてやれ! まったくふざけたドラゴンだ……」
本当にふざけてるわ!
「なにもできずに……どうしようもないことも……まはまならないこともあるんだ……己の不甲斐なさにただただ足掻くだけで……」
まるで絞り出すような……ギルマスは、大切な人を失ったことがあるみたいな……
しかし! ターゲットのボンクラドラゴンは、大切な番を我が国に放置し、隣国では魔王としてハーレムなの?男って……思わずギルマスをジト目で睨んでしまう。
「おいおい。男を皆一緒にするなよ。俺もだが男なんて単純なんだ。惚れた女性には、皆結構一途なんだぞ。瘴気にのまれた煩悩まみれと一緒にするな! さてクレハが誰を選ぶか楽しみだな……」
「あら? ならギルマスを選んでよい? こうやって朝食を食べていると、まるで夫婦みたいよね? さすがに父親はないわ。皆には父だと言っているそうね。私は足枷になりたくはない。こんな大きな娘がいたら、いつまでもギルマスに春が来ないわ! なら私が責任をとるべきよね? 俺も皆と一緒で一途なのよね? もしかしなくても、私ってば然り気無くプロポーズされちゃってる? やだぁ……どうしようかしら……」
ププッ。ワタワタしちゃって可愛いんだから!
「うるさい! じじいをからかうな!」
まったくもう! ギルマスだって、私とほとんど年なんて変わらないのに!落ちすぎ過ぎてるから老けて見えるの!実際かなりモテるんだから……少しは自分のことも……よし!少し色気を感じさせちゃえ!娘だけでなく、お嫁さんにも興味をもたせないとね。やはりこれは娘として頑張らねば!
「はいはーい。ギ・ル・マ・ス。そろそろ出ないと仕事に遅れますよ。はい。これが上着よ。ほらしっかりと羽織らなきゃ風邪をひいてしまうわ。お弁当も大丈夫。では気を付けてお仕事に行ってらっしゃい。あ! 待って! ご飯粒付いてるわよ」
ほっぺをペロリ。ついでにチュッ……
続けて唇にチュッ。
「うっ……うわぁー……」
ちょっと!大好きのキスくらいで仰け反って転げ回るって……
「パパってば純情なのね! 」
「……クッ……クレハ……お……お前ってヤツは……」
パパへの親愛のチューよ?行ってらっしゃい!
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この日一日……
ギルマスはポンコツだったとか……
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