【完】妹が君が良いと泣くんだ。だからね?君を妻に迎えてあげよう。

桜 鴬

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 ズカズカともと婚約者が近付いてくる。私は……

 「衛兵よでろ! この無礼な侵入者を捕縛せよ! 今までの話はすべて記録しているな? それらは貴重な証拠だ。キチンと整理して提出しろ! 」

 木々や草場の影から、たくさんの衛兵たちが突入してきた。こんなにたくさんどこに隠れていたの?それに貴重な証拠ってなに?

 「止めろ! 無礼だぞ! だがなぜ庶民の屋敷にこんな数の衛兵がいるんだ! そうか! 貴様は国に謀反を計ろうとしているのか? だがそれは無理だ。なぜなら私が阻止するからな! 」

 縄でぐるぐる巻きにされた姿で粋がっても、無様なだけだけど……

 「はあ。ようやく尻尾をだしおったな。だが侯爵が謀反など起こす訳がなかろう。我々は仲良しこよしだ。しかし大義であった。奥方にも迷惑をかけたな。古傷を抉るような真似をしてすまない。旦那を責めないで欲しい。まさかこの馬鹿が屋敷へ乱入するとは思わなかったのだ」

 突入してきた衛兵たちの後ろから、身なりの良い高貴そうな男性が現れた。え!この方は第二王子様!?なぜここに?それに今侯爵って?しかも仲良しこよし?

 「とにかくコヤツは我々で処分する。もと婚約者や妻たちから、嘆願書と被害届がでている。妹と心を通わせ、後継を得るためにだけ婚姻を結ぶ。まあ政略結婚であれば犯罪ではないのかもしれない」

 そうね。政略結婚ならままあること。婚姻前から身分の低い愛人を多数囲み、国に認められる後継を得るためにだけ政略結婚をする。たしかにこれを貴族としての義務だと割りきれても、女性にとって辛いことには変わりがない。なのにさらには蔑ろにされるなんて!どうして優しくできなかったの?精神を病むほどに扱うなんて!あまりにも残酷だ……

 「だが人としての尊厳を奪うのは駄目だ。彼女たちは精神を病み、体まで壊している。乱暴に扱われ、子を望めぬ体になった者さえいるんだ。家族の怒りも尋常ではない。すでに妹も捕縛されている。そんなに妹を愛しているのならば、監獄の中で愛し合うが良い! 」

 なぜ妹は兄の子を生んでくれる女性に、優しくできなかったのだろう。兄を恋愛的に愛しているのかもしれない。だから女性を憎んだの? それでも許されることではない。

 「誰だ貴様は! いきなり捕縛するなど無礼ではないか! 私は不貞を働き逃げ出した婚約者を迎えに来ただけだ! それに私は婚姻などしていない! 罪をでっち上げるな! 次期伯爵である私にたてつくとは! 不敬極まりないわ! 」

 ……まさか第二王子様の顔が解らないの? 王家主催の夜会では必ず最初にパートナーと、招待のお礼の挨拶をしに王族の前に伺うじゃない。

 あなたは婚約者であるわたしではなく、妹をエスコートしていたけど……

 「まあ良い。ますます罪の上乗せになるだけだ。不敬は貴様だ! まさか私の顔すら解らぬボンクラだとは……まあ後は牢獄の中で騒ぐが良い。被害者は死刑を望んでいるが、さすがにそれではな……」

 あ……もと婚約者の顔が青ざめてきた。

 「まさか……本当に高貴なお方で? 私を死刑に? さすがにそれは無いですよね? 私は死刑になるほどのことはしていない。ははは! やはり高貴な方はおわかりだ! 私を死刑にと訴えるなど、被害者ずらも甚だしい! 高貴な方もそれはないと仰っているではないか! 」

 ……解釈違いだと思うけど……第二王子様の顔を見てみなさい。ニヤリと腹黒そうな笑み満開だし。

 「たしかに第二王子の肩書きを持つ私は高貴な者だな。高貴な者には義務も伴う。政略結婚もその一つだ。だがそれは互いの尊厳を守りあうことにより成り立つ。貴様は高貴な者として相応しくはない」

 第二王子様……素敵です!彼の周囲にオーラが漂う様です。さすがは王族の威厳ですね! 

 ひゃっ、ひゃあぁん!旦那様!耳を食まないでください!くっ苦しい……私を抱きしめる腕が強く……よそ見は駄目? 他の男を見るな?私は旦那様しか見ません!王子様は尊敬しただけです!

 「死刑など生ぬるい! 楽に死なせるつもりはない。だが私はそこまで非情ではないつもりだ。愛し合う妹とともに同じ檻の中で過ごさせてやろう。だが孤島の牢獄でな! 妹は男を選り取り見取りだぞ。まあ好みとは言えぬ無法者ばかりだが、閉じ込められているため性欲だけは果てがない。新入りは可愛がられるだろうな。貴様は隣で悶える妹を死ぬまで眺めよ。貴様が妻たちに与えた苦しみを、妹とともに思い知るが良い! 」

 孤島の牢獄?旦那様が耳もとでそっと教えてくれる。世間的には秘匿されている、凶悪犯罪者などを収容する牢獄。周囲はすべて海に囲まれ断崖絶壁。一度収監されたら、二度と生きてはでられない。入る際に女性は出産を防ぐため、子を成せぬ体にされてしまう。さらにはやはり女性が少ないため、公然の様に女性は娼婦扱いされてしまうという。

 たしかに孤島で生まれる子は不幸だし、お医者様が居なければ、出産の際に命を落とす可能性もある。その処置は仕方ないと思うけど……娼婦扱いなんて……私が考えていることを察したのか、王子様が再度話し出す。

 「子が出来ぬなら、二人は存分に愛しあえるであろう。現に最後まではしていないが、寸前までの行為は確認されている。しかも妹は従者や執事とできていたぞ。コイツも承知済みだ。己とは最後までできぬからと、火遊びを黙認していたらしい。いったい何人咥えこんでいたんだ? 判明しただけでも、両手でも足りない数だぞ。これが愛だとは片腹痛いわ! 」

 もと婚約者はとうとう項垂れてしまった。なぜ第二王子が……とブツブツと呟いている。

 「もう良いだろう。連れて行け! 」

 もと婚約者がずるずると引き摺られて行く。

 「なぜ下民が言うことを聞かないんだ! 貴様が黙って戻ればこんなことには! 」

 引き摺られながらも、しぶとく私に向かい叫んでいる。

 「ああ。ちと待て。冥土の土産に教えてやろう。彼女は伯爵令嬢だ。家族は彼女を絶縁していない。ちなみに今回の件の最初の訴状は伯爵夫妻からだ」

  絶縁していない?私は貴族の柵から逃げ出した。呆れてとうに絶縁されているとばかり……

 「居場所も確認している。もちろん婚姻もな。我々は娘の気持ちに気づけなかった。娘が幸せになるなら影から祈るだけで良いと、彼女の前にでることを遠慮している。結婚式では侯爵の両親とともに、隣室で見守っていたそうだ」

 そんな……お父様……お母様……本当にごめんなさい。家族は悪くなんてない。気持ちに気づけなくて当然だ。だって私は貴族の義務どからと、一人で耐えて相談すらしなかったんだもの。

 「ふんっ! たとえ伯爵令嬢だとしても、伯爵家の次期当主である私よりは下民だ。逆に不敬罪で訴えてやる! 」

 まだ粋がるの?己が裁かれる立場なのに、被害者である私が不敬罪?そんなこと認められる訳がないじゃない。

 「我妻は侯爵婦人ですよ。あなた風に言えば、下民のあなたより高貴な身分なのです。その妻を妾扱いとは……不敬罪はあなたですよ」

 「なにを血迷っているんだ! 貴様が侯爵だと? 若すぎるではないか! 」

 そうよ!どうゆうこと?もしお義父様が侯爵だとしても、旦那様はまだ……

 「あーあ。本当に愚かだ。貴族は情報が命だ。最新の貴族新聞は読んでいないのかい? 彼の実家は公爵家だ。長男である彼は家督を次男に譲っている。だが私の幼馴染みで、幼い頃から側近として補佐してくれていた」

 知らなかった……

 「だが! 継承を放棄したなら爵位はないはず! 」

 まだがなるの?ぐるぐる巻きなのに元気すぎる。

 「まったく煩いね。彼は父上が手持ちだった、空位の子爵位を貰っている。その後近隣諸国との国交を結んだり、未然に戦争を回避したりと、数々の功績をあげている。そのため陞爵したんだ」

 凄い……子爵から侯爵へなんて、並大抵の努力と力ではないはず。私はなにも知らなかった。侯爵婦人としての役割も果たしていない。こんな私では……

 「あ! 彼は奥方のために努力したんだよ。だから私なんてとか言って、身を引いたりしないでよ。コイツが手に負えなくなると困るんだ。それでなくとも一年前から、君を苦しめた馬鹿を抹殺しようと、暗黒オーラを撒き散らしていたんだ。私はその力を、馬鹿の悪事を暴くために使えと、宥めるのに苦労したんだよ。まるで暴れ馬を調教する気分だった……」

 旦那様が私を抱きしめる腕の力が強くなる。耳もとに熱い息を感じて振り向くと、旦那様の唇が私の唇に重なった。すぐに離された温かい温もり。抱きしめられた体と優しさに包まれた心が、旦那様を求めてずくんと疼く。

 「さすがにもう観念するのだな。今度こそ連れてゆけ! 」

 その後もと婚約者は妹とともに伯爵家から絶縁され、孤島の牢獄へ投獄された。伯爵家は次男を後継としたが絶縁した者たちの責は知らぬと、次男は被害者たる女性たちへ慰謝料を支払うことを拒否。しかし国は加害者たちの態度を知りつつ、咎めなかった伯爵家の責は重いと判断。財産を差し押さえ被害者に分配した。王家の採決に異議を申し立てた上、支払いで財政難に陥った伯爵家は、やがて男爵家へと爵位を落としたという。

 「私の奥さん。とても綺麗です。愛していますよ」

 「ありがとう。あなたも素敵よ。私もあなたを愛しています」

 「パパー! ママー! 私も綺麗? 愛してる? 」

 「「もちろん!」」

 あれから五年後。私は再度白いドレスを纏っている。自殺しようと家を飛び出してから早六年。両親が誂えてくれたゆったりとしたドレスを纏い、改めて結婚式を挙げることとなった。

 両家の家族にたくさんの参列者。私たちの間には、可愛い娘が一緒に歩いている。私は少しずつでは有るけれど、侯爵婦人として歩き始めている。

 「大丈夫? 怖くない? 」

 旦那様が気遣ってくれる。

 「大丈夫。だってあなたがいるもの。それに愛しいこの子も、お腹の子も私に力をくれるの。対人恐怖症なんて言ってられないわ! 」

 たくさんの人たちに囲まれ祝われた結婚式。私は幸せになりました。これからも家族とともに、未来へ向かい歩いてゆきます。

 私も皆を幸せにしたい。

 支えてくれた皆さまに……

 たくさんのありがとうを贈ります。

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