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【さん・Ⅲ】
乙女ゲーム・ヒロインが!転生者編⑤
しおりを挟む第一王子様が私の目をしっかりと捉えて話し出す。
「フローラ。悪いがこんな時だけど仕事なんだ。レイズ男爵のインベントリを開いて欲しい。突然の事故死だったため、手つかずのままだ。どうやら新しい遺言書と、処刑されたキングス侯爵からもなにかを預かっていたらしいんだ。マスは五マスらしい。元キングス公爵家の執事が教えてくれた。ミラクルマスターとして頼む」
「……………………」
仕事だと言わなかったのに……
「すまない。まさか現レイズ男爵たる君の兄が、双子の君を知らないとは思わなかった。君が闇組織から救出された十歳の時に、家族で面会したからね。今回の話し合いが上手くいけば、私はインベントリを開く必要もないと思っていたんだ」
第一王子様…………
「でもそうはいかないみたいだよね。自称ヒロインは相変わらずだし、現男爵は自身の過去も知らずにのうのうと暮らしている。確かに未来を大切にするなら、過去を知る必要はないのかもしれない。しかし現男爵は既に未来を捨てているよね?男爵領はこのままでは破綻するよ。借金取りが手をこまねいている。しかもその関係からフローラにまで手が迫ってきているんだ。君の借金をフローラに被せるつもり?その気がなくても悪人は何処までも食い付くよ。悪いが君では役不足なんだよ。学園での成績は下から数えた方が早いよね?婚約者たる自称ヒロインもどっこいだ。しかし君はなんのために生きてるんだい?このままでは領民のためにもならない……」
私は兄さんが養子にいった後の生活を知らない。兄さんにも苦労があったのだろうか?でも……基本的な人権は守られていたのよね?なら堕落したのは己のせいよ!私にまで被害を広めないで!
「しかも双子の妹の存在を知らないとは……だから命を大切に出来なかったのかい?学園では高額な怪しげな薬まで使用していたそうだね。男爵の当主になり他の借金は返済できたが、薬の借金だけは残ってしまった。しかもその薬の出どころは、フローラを苦しめた闇組織だ。あのときの生き残りが、組織を再編成しようとしていたそうだよ。己と妹とのことを知っていたならば、そんな出所に借金なんて、到底出来ないことだよ。男爵家は組織再編成の資金源にされたんだ!領民の血税を無駄に使用するな!悪いが君は男爵には相応しくない。前男爵はそれに気づいていた。そのための新しい遺言書だよ」
第四王子様…………
*****
室内は静まり返っている。二人ともありがとう。未来は沢山あるけれど、真実は一つよね。私も覚悟を決めます!
『やるわよ! 』心で叫び席を立つ。
「ミラクルマスターとしての仕事。確かに承ります。見届け人として王子様二人。私に害が及ばぬように監視を願います。皆様壁際のイスに移動して下さい 」
壁際に数個並べられていた椅子を指差すと、王子様たちが兄さんの両脇を抱えてそちらへ向かう。私は三人掛けのソファーを後に押しつけ、机との隙間に入った。第四王子様が戻り、棺を開けるのを補助してくれる。
「では始めます。絶対に動かないで下さい。それでは……」
私は指輪にキスをし己を含め棺ごと、光のベールで丸く結界を張り巡らせた。死者の既に動かぬ心臓に己の手のひらをあて、心を静めながら、結界内に魔力を糸のように張り巡らせてゆく。残存する微妙な魔力を探し引き出し、私の魔力と寄り合わせてゆく。やがて私の体に死者の思念が集まった。私は己に念話をする形で、体の中の死者の意思を確認する。
『はじめまして。私はミラクルマスター。今は無きキングス公爵家の双子の妹のフローラです。兄なんて呼びたくは無いけれど……あなたの後継となった現レイズ男爵の妹です。今回は王家からの依頼です。あなたに無念はありますか?心残りはあるのでしょうか? 』
『…………君があの時の……従兄弟の娘のフローラかい……ミラクルマスターに……立派になったんだな。従兄弟も喜んでいるだろう 』
…………それは嬉しくもないわね
『すまんな。変な顔をしないでくれ。あいつは確かに罪深い人間だ。もちろん婦人もな。残念だが貴族の柵に負けたんだ。そして私も妻もだ。ただ後継が欲しかった。それだけなんだが……貴族の後継問題は深刻だ。周囲からあれこれと責め立てられ、公爵夫妻は心を病んでいた。正直私も妻も二の舞を踏んでいた。多分その一歩手前くらいだったのだろう。許してやって欲しいとは言わない……いや、言えない……だが私同様に後悔はしていたんだ。それだけは信じてやって欲しい……』
私の脳内に多種の影像が流れてゆく。父と母に子が恵まれず、周囲に色々と言われている。特に母には父方の親戚からのバッシングが凄かった。それを庇いきれない父親。母は段々と精神を病み、父もどんどん追い詰められて行く。そんな中授かった私たち。誕生をとても喜んでくれた。しかし……
『君が闇組織から解放されてから、家族と話し合いをしたよね?あのとき隣室に私もいたんだ。私たち夫婦にも子供が出来なかったから、君たちを引き取るつもりだったんだよ。しかし君は王家に引き取られた。その先はわかるよね?』
そう。私は成長が著しく遅れていたから王家に引き取られ、療養生活を送った。その検査中に、ミラクルマスターの素質を見いだされ磨きあげたの。
『ご両親は処刑までの半年を、懺悔しながら過ごしたよ。今さら遅いけどと嘆きながらも、君のためにはもうこれしか出来ないと……』
本当に今更よ。あの別れの時に一言でも話しかけてくれたなら……
『兄は私たちが引き取った。しかし私たちは育て方を間違えたのだろう。彼は妻に打ち解けず、妻はますます精神的に病んでしまった。これでは引き取った意味がない。だから私は彼の記憶を魔術師に依頼し操作した。君は赤子の頃に両親を亡くして我々に引き取られたと。その後は家族のように暮らしてきたとね。とたんに息子は大人しくなり妻も持ち直した。そのため嬉しくてついつい夫婦二人で、過保護に育ててしまった。だがまさか一番大切なことを忘れるとは……ご両親のことは覚えていたのに、本当に申し訳ない。まさか妹の存在を消去してしまうとは思わなかったんだ……』
魔法による記憶操作……暗示とも言うわね。確かに副作用として、大切なことを忘れてしまったりするとは言うけれど……
『最後に娘だ。あの娘は私の子ではない。妻の子供だ。妻は私の親戚から、子が孕めぬなら身を引けと言われていた。それでも別れないと、親戚の一人が妻を辱しめたんだ。私は仕事にかまけ留守がちで、そのことにまったく気付きもしなかった。そんな私に妻はなにも言えず、心労からだろうな……。私が気付いた時にはほぼ寝たきりとなり、ベッドから出ることも叶わなくなっていた。妻に無体を働いた親戚がそれに気付き、まさかと思い慌てて里帰りさせ出産させたそうだ。その後孤児院へ捨てた……。妻が死に際に泣きながら私に告白したんだ。全く気付けないなんて……夫失格だよ』
だから懸命にその子を探したという。子が出来ぬのは、己のせいだったのかもしれない。なのに妻に酷いことをしてしまった。そう後悔し、子供だけでも幸せにしてあげたかったと……
『なにか二人に伝えたいことはあるの? 』
『私からはなにも言わない。二人ともに立派に成人した大人だ。己の不始末は己で方をつけるべきだ。全てを記した手紙と新しい遺言書がある。遺品には全て受取人を記してある。君へのご両親からの包みもある。渡せなくて無念だったが、まさか本人に引き出して貰えるとは……君は綺麗になったね。確かに成長はまだ追い付かないかもしれない。でもあんなに小さかった君のその姿……叔父として嬉しいよ。きっと美人になり幸せになれる。あの世で従兄弟に自慢できるな。では頼む。それら全てを依頼主である王家と、ミラクルマスターであるフローラに委ねる 』
『了解しました。ではインベントリへの道を開きましょう』
私の掌に光が集う。彼の思念は完全に私との同調をといた。そして道を開いてくれる。
男爵は妻を守れなかったことを悔いていた。養子に迎えた息子を過保護に育ててしまったことを悔いていた。息子に記憶操作をし、私のことを忘れたのは副作用よ。男爵のせいではないわ。人間は記憶をなくす際に、一番辛いことを消去するという。それは己に都合のよいように記憶を操作するから。兄さんには私の存在が辛かった。それは男爵のせいではない。兄さんが私をどういう意味で辛いから消去したのかは……私にはわからないわ……
「ラストオープン。我はミラクルマスター。ロストマスターより最期の権限を譲渡された。インベントリよ。今ここに己のマスターとともにすべてを具現せよ!」
結界を突き抜け大きな魔方陣が上空に展開する。私の魔力がグングンと吸いとられて行く。グルグルと回転する魔方陣。その中心に影が徐々に現れる。私は立ちあがりもとの結界を外す。
「「レイズ男爵!!」」
「父さん……」
「お父様! 」
兄さんが立ち上りやってくる。しかし今の男爵は実体ではない。魔力で可視化したもの。触れることは出来ない。自称ヒロインは拘束されたまま、なにか己に都合のよいことばかりを怒鳴っている。
「故人である男爵の意思は既に私が引き継ぎました。インベントリの中身は、依頼主の王家とミラクルマスターである私に委ねるそうです。子供たちが真実を知りどうするかは、己たちで判断しなさい。二人とも立派な大人なのだからとのことです。どうでしょう? 宜しいでしょうか? 」
私が思念体であるレイズ男爵の姿を見ると、視線を返して頷いてくれた。
「では開封します」
私は魔方陣の真ん中めがけ、己の魔力を解き放つ。グングンと吸い込まれて行く魔力……
やがて空中の魔方陣から、大きな箱が数個落下してきた。王子様たちが転がる箱を並べた。それぞれに受取人が記載されていた。
息子へ。娘へ。そしてフローラ嬢へ。並ぶ三つの箱。最後に文箱が落ちてきた。蓋には王家への陳情と書かれている。男爵家とは、貴族の爵位としてはかなり低い。しかしレイズ男爵家は実直で真面目な領主であると、領民にも慕われ国王にもその名を知られていた。特に主食である小麦とイモ類の栽培が盛んで、国の穀物倉庫として一目おかれていた。しかし兄さんには統治の才能がない……
多分……爵位返上のことだろう。
第一王子様が文箱の中の手紙をざっと読み、第四王子様に手渡す。二人ともに読み終わると、思念体であるレイズ男爵に近寄り手を差し出す。もちろん握手は出来ないが、男爵は嬉しそうに頬笑み両手を重ねた。
「故人である男爵の魔力がもうそろそろ切れそうです。私の魔力だけでは、彼の姿を維持できません。最後のお別れをどうぞ 」
兄さんがボソリという。
「育ててくれてありがとう……」
自称ヒロインが喚く。
「お父様!私が唯一の血縁なの!私が婿を迎えて男爵家を継ぐわ!だから義兄との婚約を破棄して! 侍女だったお母様に散々苦労をさせて死なせなくせに!娘が可愛くないの!この拘束を外すように頼んでよ! 」
ダメね。やはりお花畑のままなのね。男爵が引き取ったころからこうだったという。何度も本当の母のことを伝えだが、嘘つき呼ばわりで聞く耳ももたなかったそう。
思念体である男爵は、最後まで悲しそうに娘を見ていた。
「フローラ。男爵が消える前に君にこれを。首にかけてこの真ん中の花を押してみなさい」
第一王子様から渡されたのは、カラフルな魔力石を、沢山の小花に見立てたネックレス。これは魔道具よね?なんの魔道具なのかしら?とりあえず首にかけ、言われた通りに花を押してみる。途端に体が熱くなってゆく。体の中でなにかが暴れている。特にネックレスを握る右手が熱い。体の節々が痛い……。あまりの激痛に踞り、震える体を己で抱きしめた。
「花と春と豊穣を司る女神の誕生だな」
「それにはまだ少し幼いよね? 」
「仕方あるまい。まだまだ不足なのだろう」
「これだけ追加しても不足なの?いったいどれだけ必要なの? 」
「母上!? 」
「あー!悪役令嬢ーー!!」
はて?なにがなんだかわかりません。が!思念体のレイズ男爵は、私を見つめニコニコしています。やがて光となり、遺体の中に還ってゆきました。
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