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【よん・Ⅳ】

乙女ゲーム・第二王子様が!転生者編⑥

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 長ーい退屈な時間も終わり、皆様は隣室のダンスフロアに移動です。クルーリくるくると、ただ今舞踏会の真っ最中です。ヒラヒラと華麗に広がる女性たちのドレスの裾が、まるで色とりどりの花が咲き誇るように広がり煌めきます。その周囲をたくさんの喋々たちが飛び回り、甘い蜜を求めまるでハンターのように……
 「ねえ……くっつきすぎよ。チークでは無いんだし、このダンスはそんなにピッタリとくっつく躍りではないわよね? 」
 「…………」
 「もう! なにムッツリしているの? あれ動きにくいの。これだって正装なんだから構わないじゃない……」
 「ドレス似合ってたのに……それにモフ白ともあわせたのに……」
 「……これは似合わないとでも言うの? クイーンの準正装よ。しかもキチンと婚約者様の瞳と色あわせもしたじゃない。間違いなくこれもモフ白ちゃんと三人でセットです。 本当なら宝冠乗せて錫杖持って、純白に銀糸の刺繍が正式。でもあれだとエースの色になってしまうし、さらにはもしキングが着てきたら、キングとクイーンで対の扱いにされてしまうからね。狙いそうで怖いわ……さっきはタキシードだったけど……」
 王子は赤い礼装で、私は式典では青いドレスを着たの。私はオッドアイだけど、一応互いの瞳の色ね。モフ白ちゃんには、赤いケープに青いリボンを。パートナーは互いの色を纏うのが今の流行らしいの。お互いの髪の色だったりもするわ。でも私はダンスフロアに移動する際に着替えたの。お色直しをしたりする方々もいるし、舞踏会には参加しない方々もいるし、食事もするから、とくに服装に規制はないわけ。もちろん場をわきまえることは必要ですけど。
 私が着替えた服は、ミラクルマスターとしての準正装よ。キチンと格式を考慮した礼服なの。ただ公式行事や他国への訪問の際に着用する正式な正装は、クイーンは純白の生地に銀糸の刺繍。キングは純白の生地に金糸の刺繍と決定している。互いの衣装の形は違うけれど、頭には宝冠を乗せ手には錫杖を持たされる。どちらも我が国の宗教的な儀式の衣装をアレンジしたもの。今回はこれは着ていません。
 実はお色は多種揃っていて、状況にあわせて着替えることができるのよ。まあ私は旅回りをしていたから、わざわざ着用しなかったけど……城詰めだとお貴族様がお相手だから、服装にも気を使わなくてはならないわけ。仕事中はこれが制服代わりになっている。
 男女でデザインが違い、さらには階級でもデザインと刺繍の色が違う。ダイヤ階級はエースまでで、つまり六人は同じもの。現在は女性は私だけだから、純白に銀糸の衣装は私だけ。純白に金糸の男性は五人ね。
 エースの下からがルビー階級になる。ルビー階級は騎士服っぽいデザインで、やはり白地がメインだけど、刺繍は赤と黒でされている。
 クリスタル階級になるとたくさんいるから、特に指定の服はありません。代わりに男性と女性に関係なく、ブローチをつけます。ブローチにはミラクルマスターの紋が刻まれた、クリスタルがはまっています。これが正式なミラクルマスターとしての証となりますが、階級なしのリングたちには、最初に与えられるリングそのものが証のようなものになります。
 別にこれらを着用したり身につけたからといって、ミラクルマスターとしての力がアップする訳ではないのよ。これらはミラクルマスターの存在を周知させるためのもの。本来なら最初のミラクルマスターの指輪さえあれば、仕事は滞りなくアシスタントして貰えます。ただし旅回りとかしていると、リングの価値に気付かない人たちもいるからね。出掛ける可能性のあるクリスタル以上には、わかりやすい目印が必要。それがブローチ。ルビー以上には、懐中時計が持たされている。印籠かわりよ。ちなみに私たちに害を与えたら…………ちょんと首が飛びますよ。
 正直錫杖なんて使わない。見た目と言うか、箔づけみたいな感じよ。まあ杖は魔道具だし、衣装に縫い込まれている水晶や魔石が魔力を通すから、多少は効果が上昇することもあるかもしれないけどね。
 てな感じなので、衣装部に頼めば、好きな色でなん着でも作ってくれるの。もちろん経費で落ちるから安心です。私の部屋のクローゼットにも、色とりどりの服がズラーリと並んでいました。毎日日替わりで着用できそうよ……

 「ほらってば! もうすぐ二曲目が終わるわよ。私は王子様たちと踊るのよね? 貴方はどうするの? 」
 「フローラから離れたくない……」
 「…………子供みたいなことを言わないの。嫌でも数曲は踊らなくちゃ、食事にいけないんだから……ほら、可愛いお嬢様方が、チラチラとこちらを伺っているわよ」
 二曲目が終了すると同時に、第二王子様と腕を組みながら王族席へと向かいます。すると可愛らしい姫様が、なんだかキャンキャンと騒いでいます。あれは……王子様方の従妹姫の……
 「あー! フローラなの? ずるーい! 自分ばっかり大きくなって! 私はどうせチビですから! どうしてフローラばかり! ずるーい! ひどーい! 」
 姫様……私と同じ年齢なのよね……今までは私が小さかったから、優越感を味わえるからとよく絡まれて……でもこればかりはズルいと言われても……
 「ははは。ほら見ろ! 僕は嘘なんて話してはいない。フローラは立派な淑女だ。場所も弁えずキンキンと喚き、我が儘ばかりいうお前とは違うんだ!  ダンスを誘うなら、足を踏まずに踊れるくらいになれ。何度も何度も! フローラとは調整のために踊ったが、まったく踏まれなかったわ! なのにお前は! 練習位しろ! しまいには蹴られるわ、爪を立てられるわで痛すぎるわ! 」
 第五王子様……確かに姫様のピンヒールで踏まれたら痛いですよね。でもこんな大勢の場所では駄目です。姫様に恥をかかせてしまいます。ほら……涙をこらえて……うつむいてしまいました。姫様は第五王子様が大好きすぎて、ついつい緊張してしまうんです。
 「姫様? ダンスはまだ苦手なのですか? 私も急に成長したため、バランス調整が大変だったのです。宜しければ男性パートを踊りますので、私と一曲いかかですか? 女性からならなにかアドバイス出来るかもしれません」
 私はすっと姫様に手を差し出し、膝をつき笑顔でダンスを乞います。私の顔をじっと見るお姫様。
 「ふん。仕方ないわね。踊ってあげるわ。フローラの足なら踏んでも大丈夫ね」
 ……いえ……私の足でも痛いので、なるべく踏まないように願います。踏ませませんけどね。姫様の手を取りダンスフロアに流れ込みます。
 「あっフローラ……なんで女同士で……僕の番が……」
 「お前は最後だな。まったくまだまだガキだな。ほらフローラさえできてるぞ。お前も少し筋肉をつけろ。下手で足を踏みまくる女性が小柄なら、ステップを踏ませなければ良いんだ。相手の体幹が崩れたら、さり気無く持ち上げてしまう。またはずらす。クルクルと回転させてしまえば、周囲は派手な回転サービスだと思うし、抱き込んでしまえば恥ずかしがり、相手にも気づかれない。もちろん最後は相手にもよるぞ。とにかくだ! 会場で痴話喧嘩はするな! 」
 「兄上……」
 「私とて踊りたくもない、周辺国の姫君の相手をしているのだ。先程の姫などは私より重いぞ。持ち上がらんし、抱き込みは逆効果だ。下手に誤解されても困る。私の相手たちと比べたら、ツンデレの従妹姫など可愛いものだ。お前が好きすぎて我が儘になっているんだ。可愛そうだが初恋は実らない。兄として長い目でみてやれ」
 「兄上……王太子とは大変なのですね……僕もさすがに兄上の婚約者候補の顔ぶれには……」
 「ふっ。お前に言われたくはないわ。大丈夫だ。我が国が富めば、バカな娘など王妃に薦めまい。今の奴らの親は、我が国を舐めとるな。あれでよく王族の、いや……この王太子たる私の婚約者候補を名乗れるものだ。 まあ見ておけ。泣きっ面に蜂だ。わはは……」
 「兄上は紳士面して……実は一番腹黒なのでは?」
 「そうでなければやっていけんのだ! だが第四には負けるぞ」
 
 …………王子様たちはキチンお話できたかしら。従妹姫ももう少し落ち着けば大丈夫。可愛らしいじゃないの。それに初恋だからね。多分従妹だから婚姻は難しいと思う。王族の近親婚はかなり問題視されているの。……これはきっと姫様も知っているはず。でも……だからこそ……素敵な初恋の思い出を大切にしてほしい……

 「フローラってダンスが上手よね。男性だったならフローラと結婚したいわ。だって私の婚約者候補って! 本当にバカばかりなんだもの! なんで妃修行とか! マナー講習とか! 私だけ努力するの? 相手は遊んでるのにーー!」 

 姫様も苦労しているんですね……

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