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しおりを挟むやっぱり……こうなるんじゃないかとは思ったのよ……転移して閉じていた目を開くと……
見渡す限りの焼け野原……
脳内に残る地図を頼りに、隣国に一番近い村を目指したのに!
人っ子一人いやしない。ここはどこなの? 国境に近いのは間違いはないと思うんだけど……なんとか場所を特定しようと、脳内から古い情報を引っ張りだす。
駄目だ……目印らしきものもない。まあ三百年も経てば村が無くなっても仕方がない。でもこの焼け野原は……
黒焦げの焼き崩れた建物の残骸からは、まだ煙が燻っている。まだ焼けてそんなに時間は経っていない。それにこの鼻につく嫌な臭いは……
人間の肉が焼ける臭い……やはりここは戦場あとなの? それとも盗賊や夜盗?私はなにか場所を特定できる情報がないかと、焼け落ちた木々を避けながら、建物らしき残骸のある場所に向かう。見る限りでは、道端に焼死体は転がっていない。
でもたしかに焼けた臭いが……
やっぱり! きっと逃げ遅れたのね……焼け野原に辛うじて残る、穴だらけのもと建物らしきもの。石づくりだから残ったのか、他の建物はすべてが焼け崩れている。その建物の影に隠れるようにして、残った壁に両手の指ほどの人たちが寄りかかっていた。誰もが酷い火傷を負っている。
「傷つき助けを求める人々に救いと癒しを与えたまえ。神よ。彼らに癒しの光を!」
私の体が発光し、辺り一帯を包み込む。あら?以前より光が眩しいけど……まあずっと祠の中にいたから、眩しく感じるのかもしれない。気付くと傷付いていた人々が驚きの声をあげている。驚異の回復力に驚愕しているみたい。
当たり前じゃない。私はもと聖女なのよ。さらに神に力を貰ったチートなんだから!なんてバレたら困るけど。さて皆さんにお話を聞きましょうか?
……それより先にどこか落ち着けるところはないの?さすがにこの焼け野原では……それに私は飲まず食わずでも死なないけど、この人たちは死ぬわよね?だってただの人間だもの。
「ねえ? 生き残りはあなたたちだけ? もしそうなら、助けてくれるあてはある? 」
一番年配の男性に声をかける。男性は私の顔をみて驚いている。いったいどうしたの?
「アマリリス王女様!?」
やだ! なぜ私の顔を知っているの?
「すっすみません。まさかそんな訳がありませんよね……あまりにも領主様のお屋敷に飾られている肖像画と似ていらしたもので……もしかしてあなたが治療してくださったのですか? 本当にありがとうございます」
「いえ。助け合いは当たり前です。それよりも……」
良かった。私の正体がバレた様ではない……そうよね。あれからたぶん三百年は経っているはず……
「実は盗賊団に火を放たれました。隣村が先に襲われたため、次はわが村に来るかもしれないと考え、私たちは村人たちを避難させたのです。ですが最終確認をしていた私たちは逃げ遅れてしまい……」
なるほど。この方が村長で、他は自警団の人たち。他の村人を避難させて逃げ遅れてしまった……
「村人たちはどこに避難したの? 」
「ブルックリン領主様のお屋敷です。離れを解放してくださり、同じく焼き出された隣村の人たちとともにいます」
そう。ブルックリン伯爵が領主なの。魔王討伐メンバーだった剣士の子孫にあたるわけね。たしか魔王封印の報奨で、貴族位と広大な領地を与えられ、貴族として独立したと聞いた。彼がこの地に根づき、領主となったのね。祠を暴こうとした冒険者が話していた。貧乏貴族の四男坊の立身出世話だとね! 私まで封印しておいて、ご自分は良いご身分ですこと!まあ当たり前だけど、もう私の知人は、誰も生きてはいないでしょうけど……
「ならその領主の屋敷まで送ります。ちなみに現ブルックリン領主は、お城勤めをしているの? 」
「ご長男は騎士団の副団長をつとめられていますが、領主様はすでに王宮勤めからは引退されております。現在は領地経営に尽力され、我々に良くしてくださっているのです」
領主は領民に慕われている。王宮からはすでに離れていて、領民を大切にする領主ならば、突然私が行っても大丈夫かな?下手にお城へ報告されても困る。目立ちたくはない。私は話ながらも村全体に癒しの光をそそいで行く。これで焼けて倒壊した家屋を撤去すれば、やがて土地は命を吹き返し元気になるでしょう。
残っていた人たちはすべてで八人。私は二回にわけて転移した。
「良し! 今回の座標はバッチリ」
やはりあの焼け野原は、私の思っていた村だったみたい。これで大体の位置は把握できたし、あとはスローライフよ! どこか良い場所はないかしら?でも定住は駄目よね。魔王が追って来たりしたら困るし、やはり転々とするしかないかなぁ……
あ!冒険者になろう!
「あのー? 」
そうよね。たぶん冒険者は今も昔も変わらないと思う。ギルドカードは身分証明書にもなるし、各国共通だから、仕事を受けながら旅するのも良いかもしれない。
「すみません……良ければお話を……」
それなら装備やなにやらを揃えないと……ストレージに色々入ったままだけど、まさか貨幣はそのままではないだろうし、さすがに聖女の装備で冒険者は悪目立ちするわ……
「もしもし? ブルックリン領主様が、よろしければあなた様にお礼が言いたいと……」
は!?
「あ! 話を聞いていなくてごめんなさい。お礼ですか? 領主様にして戴くほどのことはしていません。私には構わずに、村長は村人のもとへ行ってあげてください」
「……村人の所へはすでに行って参りました。私たちを捜索に出ていた領主隊が焼けた村で不思議な現象を目にし、領主様に報告したそうです。そこで戻った私たちが、領主様に話を聞かれまして……」
不思議な現象って?
「良かった。まだいらしたか! これはこれは可愛らしいお嬢様だ! 私はここの領主のブルックリン伯爵だ。良ければ少しお話を聞かせて貰えないだろうか? それに領民を助けてくれたお礼もしたい。駄目だろうか? 」
……この方が領主様? やだ!剣士にそっくりじゃない。まあ子孫なら似ていても不思議ではないけど……
「今回の盗賊の被害は、近隣の領地でも起こっている。王家が兵を派遣してくれることになっているので、さすがにあの不思議な現象は隠せない。被害の報告義務があるからね。でないと再建のための補助金もでない。あれもあなたがしたのか? 」
あれって?
「火を放たれたと聞いていたのに、村は一面の緑の野原だったそうだ。しかも焼失した家屋もすでに土に還っているらしい。おかげで倒壊した家屋の撤去の必要がない。整地し家屋を再建すれば、またすぐに住めそうだと聞いた。植物の成長も素晴らしく、焼けた田畑の場所には、野菜がたわわに実っていたそうだ。しかも焼けただれた隣村まで同じ状態とのことなんだ。村長たちを捜索に行った兵たちが驚き、慌てふためき報告にと戻ってきたよ」
隣村は昨日までは手も付けられないほどの焼け野原で、再建は無理かもしれないと危惧されていたという。
……うそ!もうそこまで土地が回復してしまったの?しかも隣村まで?あ……まさか力が強くなってる? 守護者として戦い続けていたから、レベルアップしたの?
癒しの光を放った際の、光が眩しく感じたのは、勘違いではなかった?
でも王家に報告されるのは困る。どうせ祠の封印が破られ魔王が復活したのは、王子が原因だからすぐに伝わるはずだけど……魔王が眠りを妨げれた恨みで、王子を殺していなければ……だけど。
「私はたしかに火傷を負った方たちの治療はしました。しかし土地にはなにもしていません。なので話せることはなにもありません」
「そうですか……しかしあなたなアマリリス王女に良く似ていらっしゃる。王女は類いまれなる才能をお持ちの聖女様でした。しかし魔王と相討ちになり、魔王を祠に封じたそうです。もしやあなた様は……」
魔王と相討ち? 瀕死になりながらも魔王を封じた私を、見捨てて祠に封じたくせに!まったく調子が良い王家よね!
あ!ちなみに私はこの国の王女ではありませんから!この国の学園に留学していた隣国の王女です!まあ和平を結ぶための人質みたいなものよ。だからこそ、私を祠に封じたなんて公表出来ないわよね?下手したら隣国と再度戦争になるもの。
「まさか私がその王女だと? さすがにそんなに長生きはできないでしょう? しかも相討ちならば、子孫だっていないはずですよね? 」
レイルにはいるみたいですけど!
「それはそうですよね……私は賢者様が哀れで……いや……すみません。ではもしかしたら生まれ変わりなのかもしれませんね。我国の姫様などとうてい及びません。素晴らしい回復魔法だと聞きました。お引き留めしてすみません。これはらはほんの気持ちばかりですが……」
ブルックリン伯爵は、私に一つのカバンを手渡してくる。中身は金貨とこっこれは……
「それは我が伯爵家に伝わる聖女様のネックレスです。先々代が剣士として魔王討伐に出征し、聖女様の遺品として王より渡された魔道具です。癒しの光を使えるあなたに使って欲しいのです」
たしかにこの魔道具は、癒しの光を使えなければ意味がない……そしてピアスとリングと共鳴する。
さらにはペアのリングと……
「ありがとうございます。たしかにこの魔道具は、普通の方には手にあまります。しかし本当によろしいのですか? 王家から戴いたものでは? 」
「構いません。間違いなく使用できる方が現れ嬉しい限りです。自称聖女には必要ないのです。金貨もぜひ貰ってください。旅をされているのでしたら、炉銀はいくらあっても良いでしょう」
私はありがたく戴き、伯爵と村の人たちと別れた。でも自称聖女って?
しかし深く聞かれなくて良かった……私はとりあえず、隣国を目指すことにした。まずは近くの街へ行き、ギルドに登録しましょう。しばし街に滞在し、ギルドカードのレベルを上げましょう。
きままな一人旅も楽しそうよね。
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