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しおりを挟むお客様はやはり魔王と聖剣士だった。ハアハア言いながら飛び込んで来たけど、妖精さんたちはいったいなにをしたのかしら?
「リリスそなたは……」
「アマリリス嬢……? 」
二人が私を見て絶句している。どうしたの?
「アクア? 私の顔になにか付いてる?それとも髪の毛に寝癖がついてるとか? 」
「お二人はリリーの美しさに見惚れているのでしょう。顔も髪の毛も大丈夫ですよ」
ならなんで? なんで凝視しているの?やだ!もしかしてキスマーク?アクアがたくさんつけるから!上着の首もとを引っ張り胸元を覗きこんで見る。大丈夫。ギリギリ見えない場所に……
「リリーが減ります! あまり見ないでください! その視線は不躾ではありませんか? 」
そうよ!見すぎよ!でも私は減らないわよ?
「契ったのだな……貴様は……まさか妖精王になったのか? 」
「妖精王ですか? しかしアマリリス嬢のその姿は……」
いったいなんなのよ!私の姿がどうかしたの?あれ?結んでいたから気づかなかったけど、もしかして髪が伸びた?それに色も……
「もしかしてアクアと同じ色? 」
伸びた髪の毛を手に絡ませ弄りながらアクアに問う。
「はい。今は私と同じ色になっています。瞳の色もです。今リリーはその体内に、私の精霊力をたくさん取り込んでいます。そのため水の属性が強くなり、その身を纏う色彩に変化が起きたのです」
アクアに手鏡を渡され覗きこむ。本当に変わってる……
「もちろん時間が経てばもとに戻ります。ですがすぐにまた、私色に染めてさしあげますよ」
それってやっぱりそう言うこと?つまり魔王はこの二週間のことに気付いているわけなのね……
「くっ……瞳まで変えるとは……二週間籠りっきりか! うらやま……いやけしからん! だが我は諦めん! 必ず我の色に染め直してやるわ! まさか妖精王になるとは! 欠員が出たなど聞いておらんぞ! 」
「負け犬は吠えないでください。欠員を周知するはずが無いでしょう。不在を理由に天界が、精霊界に干渉をして来たりしたら困ります。穴埋めは他の王たちが行っていました」
アクア?他の王たちに迷惑をかけたの?でも私のせいでもあるのよね?
「突如王になると出向いた私に驚いた三人の王は、断っていたのになぜ王になりたいのかと私に問いました。もちろん正直に伴侶を持ちたいと言うと、尻の青いガキが惚気るな! と散々おちょくられ……あの方々は悪ふざけがお好きで困りものです。お陰で修行が大変でしたよ……」
それはたしかに、己の我が儘で手のひら返した感じだもの。四人の王にはお詫びに行かないと駄目よね?
「アマリリス嬢は……彼を愛しているのですね? ならば私は祝福しましょう。あの変態で裏切り者の、賢者とよりを戻されるよりは数倍もましです。私はアマリリス嬢が幸せであるなら構いません」
ありがとう。凄く嬉しい。
「あぁ。もちろん嫌になられたら何時でもいらしてください。あのボンクラもと主君に邪魔をされてはいましたが、私はずっとあなたをお慕いしていたのです」
まったく気付かなくてごめんなさい。
「とにかくもと主君は狭量でしたからね。アマリリス嬢の周囲を牽制し、特に男性は近寄れもしませんでした。あなたがいじめにあっていたのも、もとを辿ればあの馬鹿のせいです。わざといじめを放置し、あなたの涙を見て喜ぶ変態ですから! 私はお二人が睦まじい間は邪魔はしません。ですので邪険にせず良き友人枠として、ぜひ懇意にして欲しいのです」
アクア! 睨み付けちゃ駄目! 邪魔はしないと言ってくれてるじゃない。それに人間界の話も聞きたい。三百年ものブランクがあるからね。でも賢者ってば本当に酷い言われようだし。私は本当になにも見えていなかったんだ……
「思ってくれていてありがとう。私はあなたの思いに気づけなかった。しかも答えられなくてごめんなさい。私は本当になにも解っていなかった。あのころは賢者の言葉を鵜呑みにして、私は恋に恋をしていたんだと思う。愛してはいなかった。きっとそう思い込んでいただけ……」
そう。祖国を離れ人質同然の隣国のお城で、頼れる人は誰もいなかった。周囲の人々と少し距離を縮めても、いつの間にか皆離れてゆく。それは私に協調性がないからだと己の殻に閉じ籠り、優しくしてくれた人に依存してしまった。
元凶は賢者だったみたいだけど!
「リリー? 誰もが強い心を持つわけではないのです。賢者はゲスだった。それで良いのです。封印はされましたが、マヌケと婚姻せずにすみました。私はリリーがあの変態となにも無くて本当に良かったです。まさかキスさえしていないとは! ヘタレ賢者にお礼を言いたいくらいですよ」
ちょっと!なに言っちゃってるの!
「貴様はリリスの初めてをすべて喰らったのか? いや、まだ初めてはあるではないか! まさか妖精王とて、そこまでテクニシャンではなかろう? リリスよ。我とともに、さらに深い快楽の海にハマろうぞ」
「嫌です! 私は下品な人は苦手です。下ネタは止めてください。でなければお帰りください」
「魔王様……アマリリス嬢はもとは人族です。人族は貞淑性を重んじ、姓に奔放ではないのです。魔族の常識で考えては駄目です。それでは嫌われるだけです。会ってもいただけなくなりますよ。それでも良いのですか? 」
「聖剣士は中々良いことを言いますね。あなたはこの結界をフリーで入れる様にしておきましょう」
アクアっ!ニヤついてるってば!聖剣士は腹黒なの!今ぜったいにラッキーとか思ってるから!
「ふん! こんな結界など、我の術式で通過できるわ! 現に入ってきただろう」
たしかにそうね。聖剣士も魔王に助けて貰ったと言っていたし。
「無理ですよ。媒体は? 管理者ロックのかかったこの結界は、許可なき者は入れません。先に使用した術式には媒体が必要です。用意できるのですか? リリーのすべては私のものです。髪の毛一本でさえ渡しませんよ 」
「まだ魔力は残っておる! いや……まさか使えんのか? むむぅ……そうか! 体自体を作り替えたのか! たしかに魔力の気配すら違う……ならばなぜ先ほどは、結界内に戻れたのだ! 」
それは妖精さんが居たからよね。とうぜんながら妖精さんたちは通り抜けできる。だから一緒なら大丈夫。
「入りたいなら妖精たちと仲良しになりなさい。一緒に遊び気に入れられたなら、道筋を教え、一緒に通過してくれますよ」
あ……魔王が青ざめてるし……傲慢で矜持だけは高いイメージが、これでは駄々崩れじゃない……
「勘弁してくれ。只人の状態での鬼ごっこは二度としたくはない。鬼が多勢では勝ち目がなかろうが! 」
鬼ごっこをしていたの?妖精さんたちが鬼なんて可愛らしいじゃない。
「そうですよ。しかも捕獲されたら全身に貼りつかれるのです。妖精が変態なのかと焦りましたよ。たんに魔力を吸い上げていた様ですが、服の中にまで潜り込んでくるのです。くすぐったくて、狂い死にそうになりましたよ……」
妖精さんたちは、魔力がご馳走だからね。でも変態はないんじゃない?
「捕まったのならご褒美に少しく、いあげても良いじゃない? 私もたまに聖魔力をあげているわよ。喜ぶしキラキラと可愛くなるし」
「可愛くなどないわ! ケラケラ笑いながら、体に隙間なく貼り付かれ舐められ、 容赦なくすべての魔力を吸い上げられる。すっからかんになり動けなくなり、少し回復するとまた追われ吸い付かれる。永遠にくすぐられているのと同じなのだ! 気持ちよいのも過ぎれば毒だわ! 」
「気持ちよいの? 」
「リリー。それは聞いては駄目です。男性なら仕方がありません。あらぬ所からが一番効率が良いですからね。魔力を譲渡するのに一番効率が良い方法は、私が教えて差し上げたはずです」
ひゃあんっ!耳を食まないで!わかります!わかりましたってば!いやんな所にも貼り付かれたわけだ。
「アマリリス嬢……それだけではないのです。私たちの魔力で常に満腹状態の妖精たちは、姿が似てしまうのです! 己たちに似た妖精たちに追われて貼りつかれるなんて! 恐怖以外のなにものでもありませんよ! 」
それはたしかに怖すぎる……
二人はげんなりした顔で項垂れてしまった。
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