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⑬雷雨をファサネイト。
しおりを挟む深い森の中。崖っぷちの周囲は、ロープの様な物で囲われている。ロープの周囲には、兵士らしき人達の姿がチラホラ見え隠れしている。上空からの眺めは中々シュールだ。高所恐怖症じゃなくて良かった。
「テリーちゃん。シャインちゃんに解りやすく、迂回して崖側から見せてあげて。急旋回はダメよ。」
飛竜がクルリと方向を変え、崖の下へと飛んで行く。やがて目的地が近付いたのか、徐々に高度が上がり始めた。
上空で飛竜がホバリングする。
「シャインちゃん。怖いかもしれないけど、斜め下の崖っぷちを見て欲しいの。白い塊が見えるかしら?」
恐々覗く。確かに岩と枯れ木の間に、白くて丸い物が見える。直径が私の背丈位は有るだろう、大きなタマゴだろうか?
「もしかして、何かのタマゴですか?」
「正解よ。母親はアクアバードなの。5つタマゴを生み、3つは既に巣だった。1つは孵らず崖下へ落とされた。最後の1つがあれ。ついに完全に育児放棄されたわ。」
「何故ですか?孵化するのが遅いからですか?」
「それも有るけど、タマゴが変なの。多分それで捨てられたのね。」
このタマゴは約1年前、魔の森での訓練中に兵士が見付けた。その時点ではタマゴは5つ有った。アクアバードの母親が通い、2ヶ月後に3匹が巣だった。更に2ヶ月後、1つのタマゴを崖下へ捨てた。捨てられたタマゴを調べた所、雛は既にタマゴの中で死んでいた。孵らぬタマゴだから捨てられたのだろう。
更に1ヶ月後母親は、最後の1つのタマゴを崖下へ捨てようとした。しかしタマゴはビリビリと稲妻を纏い、抵抗を始めた。水と雷は互いに相容れはしない。稲妻を使うタマゴを我が子とは認めない。親鳥は暫くは諦められずに通ったが、とうとう完全にタマゴを捨てた樣だ。姿を見せなくなり、それから更に半年が過ぎた。
「だけど今だに孵らないのよ。」
アクアバードは魔物では有るが知能が高い。悪魔や人間の使役となる場合が多い。
「お義母様は、あのアクアバードをテイムしたいのですか?」
「ううん。助けたいのが1番ね。死んだタマゴを調べたら、雛には雷属性と水属性の因子が有ったの。滅多に無い事なのだけど、多分タマゴの父親がライトニングバードなのよ。」
アクアバード。ファイアーバード。ウィングバード。そしてライトニングバード。この魔物には、属性違いの4種が存在する。この4種は通常なら完全に住み分けをしている為、同種だが交わる事は無い。ましてや違う属性同士で番うなど、かつて無い話だと言う。
「でもそれ以外に納得出来る説が無いでしょ?たまたま先の3匹は、父の属性因子を継がなかった。又は有っても発現しなかった。先は解らないけどね。」
先は解らない…。巣だった3匹も、後から父の属性因子が発現したら…。
「育児中のアクアバードは狂暴なの。だから領地に出ない様に見張りをしてた。タマゴも流石に1年。処分するつもりだったのよ。でもシャインちゃんの魔法の特訓で閃いたの!」
どうしたの?お義母様がいきなり大興奮してるんですけど!
「貴女の融合魔法よ!今こそあの魔法を使う場所なの!」
お義母様曰く、タマゴの中の雛はかなり衰弱している。早くタマゴから出さねば死んでしまうだろう。無理やりだが、タマゴをを割り孵化させる。
もし元気で抵抗する樣なら戦い弱らせる。弱って大人しければそのまま。
私が融合魔法を使い、雛の中の2つの因子を融合させる。それに耐えられれば、アクアバードは生き長らえる。
「融合が上手く行かなければ…。」
「それは運命ね。元々、反発する因子よ。融合自体が無理かもしれない。でもこのままなら討伐するか、死ぬのをまつばかりなの。だから無理を承知でお願いしてるの。」
このままなら死ぬ命。魔物だけど…。私も助けられた命だから…。
「やります!頑張ります!」
「じゃあ行くわよ!テリーお願い。」
飛竜は旋回しながら、グングンと下降する。崖上に着地し我々を下ろす。
お義母様が、警備をしている兵士に声をかける。危ないので兵士に森の中まで下がる様に見張りを伝えている。兵士は集り総員森へ待避した。
凄い…。皆はお義母様を信頼してるのね。女性に任せて下がれるなんて。
「本当は余り信頼されても困るの。私は悪魔だもの。興味が無くなればこの国から直ぐにでも出てく。でも興味が有る内は守るわよ。出て行かれたくなければ、私達の遊びの邪魔をしない。それがルール。悪魔は何も無理は言わない。普通の人間なら理解できる事だけ。なのに己らの未熟を我々のせいにする。それすら理解出来ないなら、相手にするだけ無駄なのよ。」
確かにそうね。私の周囲が恵まれてるのかもしれない。でも特にコクヨウパパを見てると良く解る。悪魔は興味が有る物を愛でる。要らぬ物には、冷徹すぎる位だ。私も怖かった。あの時はレイジュママも怖かった。あれが悪魔の本質。でもあの時は殺されても仕方無かった。私はそう思ったから、自分で死を選んだのだから。
アブソルートだって、私を愛してくれてるのは本当だろう。でも代償は必ず取る。それが悪魔だから。でも私はそれが心地よい。私には無償の愛は重い。そう言う愛を受けた事が無いから。だからこそ約束した。
あきたら殺して。こう言う私に、貴方はこう言った。それは無い。だからこそ、永き命の契約をしたのだと言う。
永き命の契約…。魂を半分ずつ分け合い魂を共有し、互いの寿命を等しくするもの。
「シャインちゃん?何か変な心配をさせてしまったのかしら?悪魔は確かに気紛れよ。でも約束は違えない。気紛れの中の真実を逃さない。」
お義母様…。
「すみません。考えたって無駄なんですよね。今を大切に生きなきゃ!さあ行きましょう!」
そう。永き命の契約が出来た貴女達なら大丈夫よ。先に伴侶を失う悲しみを味わう事が無いから…。
お義母様が何か呟いてる?その呟きは突如タマゴから発した雷撃の音にかき消され、私まで届く事は無かった。
*****
突如鳴り響く轟音。ガタガタと揺れるタマゴから、天へ向けて幾つもの稲妻の光が放たれる。その稲妻が螺旋状に絡まり合い、まるで天を突き刺す鎖鎌の樣だ。
「これはまたいきなりね。殻が割れるわよ。雷を放出してると言う事は、父親の資質が強いの?兎に角、出てこないとどうにもなら無い。」
お義母様がタマゴに向け、風の魔法の放つ。風の魔法は稲妻の鎖に弾かれ、此方へ返された。咄嗟に目前にバリアを張る。しかし飛び越えた魔法は、後方の森の木々を凪ぎ払ってしまう。
向こうには兵士達が居る筈。私は森に向けてもバリアを展開した。
「シャインちゃん有難う。私は3属性なのよ。火と水と風ね。殻が割れなくて足掻いてるみたいだけど、火では湯だるし水では相性がダメ。どうしたら…。待つしかないのかしら?」
雷属性は確か土属性に弱いのよね?
「お義母様!土壁でタマゴを囲い、圧力をかけたらどうですか?土は雷を通しません。自身の放つ雷は己に戻り、殻に当たれば割れるかも!」
・・・・・。
「土壁でタマゴが見えないのが心配だけど、他に方法は無いわね。土壁だけで良いわ。多分自身の稲妻で自爆するでしょう。」
良し行くよ!タマゴの周囲の土を徐々に隆起させる。殻と壁との間に余裕を持たせ蓋をする。
土壁の中で、物凄い爆音がする。大丈夫かしら?自分で囲って置きながら、この轟音では心配になるじゃない。
土壁の下が湿ってる?そう言えば爆音も収まった。もしかして割れたの?私は慌てて土壁を乾燥させて崩す。一面に砂埃が舞う。砂埃が収まるのを待つ。タマゴが見えた。割れてる!
殻の外に頭だけを出し、大量の水と共にグッタリと沈む雛鳥。どう見ても死んでるよね?
「死にたくなくて最後の力を振り絞った樣ね。魔力がスッカラカンよ。でも残り火位の命が残ってる。」
お義母様が風の魔法で雛鳥を乾かす。続けて洗浄魔法で綺麗にした。アクアマリンの様な透明なブルー色の羽毛。ピクリと頭を動かし目を開く。しかし直ぐに閉じられた瞳の色は…。
周囲が金色なのね。凄く綺麗。まるで金環食で出来る指輪の様。
「回復魔法では駄目ですか?」
「今の状態は、赤子の時のシャインちゃんと同じ。命の火が消える直前。回復魔法も無駄になるだけ。だからこそ、アブソルートは貴女を眷族にしたのだから。」
「なら私が!」
「意思疏通の出来ない魔物は、眷族には出来ない。従属が必要な眷属契約になる。テリーと同じテイム扱いなるの。長寿にはなるけど、我々と同等の時間は生きられない。それでも良いの?」
この子は生きたいのだろうか?ここで無理に生かすのは私のエゴなのかもしれない。かつての私を重ね見てるのかもしれない。
「キュー…。」
パリバリと弱い電気が走る。半分だけ開いた小さな目が、私の方を見ていた。
「お義母様!この子を眷属にします!だって生きたいに決まってます。生きたいから、1年も頑張ったんだよね?死にたかったなら、私が責任持って殺してあげわよ。」
「ならば先に融合の魔法を。次に名をあたえなさい。」
お義母様が私の手を引く。私は雛の心臓の下に手を当てる。この部分に魔石と言う核が有る。気配を辿ると確かに2つの塊が有る。これ等を融合させ、1つの核にする。
無事に終わった。
名前はどうしよう。雷と水だよね?うーん。そうだ!雷雨にしよう。片仮名で呼んでも変じゃ無さそう。
余り刺激を与えぬ様に頭を撫でながら…。
「今日から貴方の名前は雷雨よ。雷と水は確かに相性が悪い。でも雷雨の時は一緒になり嵐を起こすの。貴方の両親もきっとそう。運命の出会いで貴方が生まれた。貴方も私達と生きて欲しい。一緒に来てくれる?」
雛の体が淡い光で包まれた。
「主と認めたわね。眷属になる為の代償は従属。では最後に体液の交換よ。」
・・・・・。
「あ!変な心配は要らないわ。血を少し舐めさせてあげて。これが生命力の交換にあたるの。人型同士なら、キスとかその先も可能だけどね。因みにアブソルートは赤子の貴女にキスで譲渡したそうよ。それも濃い奴よ。」
アブソルート…。
赤子に何しちゃってるのよ!
私は指先を切り、雛の口元に差し出す。雛はその指をパクリと咥え、指先をペロペロと舐め出した。くすぐったい。舐め終わった所で、自身の指先に回復魔法をかける。続けて雷雨にもかける。かなり元気も回復した様だ。
私達の血のやり取りが終わるまで、何かをじっと考えていた様なお義母様。どうかしたのかしら?
「あのね?シャインちゃん。お願いが有るんだけど…。」
私達は何故か討伐には行かず、急遽とあるお屋敷へ行く事になりました。
テリーさん!お願いだから飛ばさないでー!雷雨も居るのよー!!
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