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しおりを挟むお義母様が話をしてる間に、何時の間にかレジェンドさんの姿が見えなくなっていた。キョロキョロする私に、お義母様からの待ったがかかった。
「奥様に生命力の補給に行ったわ。精神的な物はレジェンドの献身で、かなり良くなったの。でも肉体は忘れないのよ。ううん。忘れられないの。」
お互いに愛し合っているのに、身体が言う事を聞かない。つい逃げを打ち強張ってしまう。そんな奥様を気遣い、優しくゆっくりと愛し合う。不足分をキスで済ませる。1度血液を試してみたが、やはり身体が受け付け無かったそうだ。
2人は悪魔になる事を選んだ。相手を眷族にする方法は、完全な悪魔にしか行えない。レジェンドさんは、お義母様と眷族契約をした。レジェンドさんは悪魔と人間のハーフ。悪魔で有る実母の生命力で人間の部分を打ち消し、完全なる悪魔になった。完全なる悪魔になったレジェンドさんは、死の淵にいる姫君を眷族にした。
姫君は命を吹きかえした。しかし人間としての理は残る。眷族化により得たもの。それは人間より頑丈な肉体と長い寿命。その代償はレジェンドさんとの想い出。そしてレジェンドさんも、己の姫君との想い出を代償にしていた。
つまり眷族化した2人には、約10年互いの記憶が無かった。
お義母様は2人に人間に化ける魔法をかけた。お義母様が人間界で遊ぶ為に、1番最初にかけた魔法。そして下界の記憶操作をして、2人を人間界へ戻した。
人間としての寿命を全うし、悪魔として戻るのを待った。
*****
人間界の記憶の操作は簡単だった。息子が姫君を好きだったと兄王に告白した部分。そして姫君の周囲で事実を知ってる者の記憶。事実を知る者は、当時助けに入った兵士と兵士から報告を受けた国王夫妻のみ。離宮に居た息子の乳母と、姫君の侍女は既に亡くなっていた。
姫君との記憶を無くした息子は、王からの報告を聞き、隣国へ見舞いの品を届ける事にした。かつて我国が迷惑をかけてしまった国。姫君をぞんざいに扱い、離宮へと閉じ込めていた罪。謝罪と賠償は済んでいる。しかし危篤と聞き、見舞いにも行かぬとは礼にかける。宰相自らが?と引き留められはしたが、何故か己が行きたかった。
供も護衛も付けず、早馬で隣国へと向かった。
青白い顔をし、ベッドに横たわる姫君。息子の単騎での見舞いに驚く王も、来てくれたのだからと姫に目通しする。ここ数日は眠ったまま。多分もう目を覚まさないだろうと言われていた。
見舞いにと渡した花束を、侍女が花瓶にいけて持って来た。花はオトメユリ。別名ヒメユリと呼ばれる。
「見舞いに香りの有る花は良く無いとは思いましたが、姫は確かこの花をお好きだったと。私は姫の過ごされた離宮にて育ちました。姫の事は記憶にはございませんが、何故か聞いた覚えがあるのです。」
王はその言葉を聞き驚いていた。姫は確かにこのユリを好んでいた。派手なカサブランカよりも、このピンクの可愛らしいユリが大好きだと。
「オトメユリの花言葉は、飾らぬ美に純潔。そして私の心だ。私がそれを壊してしまったがな。」
寝たきりの姫の頬を撫でながら、王は悲しげに話を続ける。
「もしかしたら2人は離宮で出会って居たのかもしれんな。姫には思う人が居たらしい。もしかしたら貴君…。いや、年が合わんか。君は姫よりかなり年下だ。しかし有難う。この花は貴重だ。手に入れるのに苦労しただろう。」
「いえ。離宮に沢山植えられて居るのです。10才の私が植えてほしいとせがんだそうですが覚えが無くて。姫君がお好きと聞いて、頼んだのかもしれませんね。」
2人は笑い合い、姫君の顔を見る。退出しようとすると、小さな声が聞こえてきた。
「とても良いよ匂いね。これはもしかしたらヒメユリかしら?」
王が慌てて部屋に戻る。
「姫!目が覚めたのか?そうだ!オトメユリだ!彼が見舞いにと持って来てくれたのだ!」
息子と姫の瞳が絡む。
「有難うございます。オトメユリはもう私には似合わないと思っていたけど…。ヒメユリとしてなら大丈夫かしら?昔お会いした方が、何時かこの花でいっぱいのお庭を見せてくれると言ったの。私はその方を好きだった。なのにもう声も姿も思い出せない。でも最後にこの花を見れて嬉しい。」
姫…。
「宜しければ私が毎週この花を届けましょう。不思議ですね。私にも心に決めた方がいたんです。皆の前でそう話し、生涯妻を娶らぬと宣言したのです。なのにお顔もお声も思い出せない。名前すら…。しかしこのユリは覚えていたのです。喜んで戴けたなら嬉しい。何時か私が貴女に、沢山のこのユリを見せたい。」
その後約束通り、息子は毎週ユリを届けた。姫君は体調を持ち直し、かなり体力も付いた。やがて息子に伴われ、離宮の庭園へと訪れた。
息子との日々を忘れた姫君にとって、離宮は孤独で悲しい場所でしか無かった。しかもその後の重なる不幸。もう2度とこの花を見る事も無いと思っていた。オトメユリはそれだけ貴重なユリだった。
「凄い…。綺麗…。見事なヒメユリね。素敵だわ…。」
言葉にならぬ様な感動が溢れてくる。離宮の中庭は、東屋以外はオトメユリで覆われていた。
「離宮も全て改装しました。心に決めた人が居たと言いながら、顔すら思い出せぬ私が言えた事では無いかもしれない。しかし私は貴女を愛してしまいました。どうか私と結婚して下さい。この離宮には、私も寂しい思いしか有りません。しかし貴女となら暖かい日々を過ごせると思うのです。」
姫君は俯いていた。覚えて居ないのは私も同じ。プロポーズは本当に嬉しい。だけど私は…。
「私にはもうオトメユリは似合わないの。私は汚れてる。それに年もね。多分子も望めない。そんな私がつい夢を見てしまった。ヒメユリとしてもう1度咲きたいと!本当にご免なさい。ズルズルと貴方に会うのでは無かった。年上の私が戒めるべきだったのに!」
「全て承知の上です。貴女は汚れてません。心まで汚されては居ない。汚れなら私の方が酷い。貴女を苦しめた王は先日公開処刑になりましたよ。勿論死ぬ前に、自害したくなる程の拷問を与えてやりました。自白を引き出す建前でね。何度も自害しようとしたそうです。勿論死なせはしませんでしたが。死んで楽になどさせません。こんな私は怖いですか?私の手は沢山の血で汚れています。この国を立て直す為、沢山の人々を殺めましたから。」
・・・・・。
フワリと姫君を抱きしめる。
「それでも気になるなら、ヒメユリで良いんです。貴女が咲いてくれるなら、どちらでも構わない。子はいりません。何ならここで孤児院を開きましょう。まだ沢山の戦災孤児が居ます。その対策を現在しているのです。離宮には部屋が沢山有ります。賑やかで楽しいでしょうね。」
・・・・・。
「まだ心配事が有りますか?」
大人しく腕の中に収まる姫君が身じろぐ。やはりあちらの心配だろうか?少し屈み、額に軽くキスをする。驚き顔を上げる顔に微笑み、頬にそして軽く唇に触れた。
「今の…。キス?」
「お嫌でしたか?無理強いはしません。しかし私も貴女を愛する男です。少しづつで良いのです。私に愛を下さい。何時か貴女の全てが欲しい。」
「嫌じゃないの。温かくて気持ち良かったの。キスなんて初めてしたの。こんなにも温かい気持ちになるのね。」
キスが初めて?驚きに体が強張る。かの王は彼女を自害させぬ様に、食事以外は拘束していたと聞く。まさか口にまで拘束具を?
「ご免なさい。こんな事言ったら驚くわよね。私は拉致同然だった。せめてもの抗議のつもりで、婚姻の際の誓いの言葉を否定し、誓いのキスも許否したの。それが恥をかかせたと、王の逆鱗に触れたのね。以降右足には鎖。両手首には手錠。余計な事は喋るなと、口にも何かをはめられた。全部外されるのは、侍女の監視付きでの入浴の時だけ。王に入れられた時は足の鎖だけ。だからキスなんてし…「もういい!話すな!」無い…。」
抱きしめる腕についつい力が入ってしまう。あの野郎!公開処刑では生ぬるかったな!生きたまま魔物にでも喰わせれば良かったわ!
身じろぐ彼女の気配で、力を入れすぎた事に気付く。
「怒鳴ってごめん。なら2人共にファーストキスだね。ゆっくりと次のキスも教えてあげる。その先も、本物を教えてあげるよ。愛の有る行為は温かくて気持ち良い。その通りだよ。2人で気持ち良さを追及しよう。嫌な思いは気持ち良さで上書きしよう。ゆっくり頑張ろうね。チュッ。」
「本当に私で良いの?嬉しい。」
2人はこうして結ばれ、仲睦まじく暮らしました。やがて天寿を全うし、悪魔の国で2人は再会したのです。
ちゃんちゃん。
*****
「ちょっと!ちゃんちゃんじゃ無いよ!何故プロポーズまで暴露するの?そこまで詳細に話す必要有る訳?しかしどこまでってより、全てを覗き見してた訳?全くこの人は…。」
レジェンドさんが戻ってきた。
「それで何?私達の過去と妻の体調に、彼女が何か関係が有る訳?」
お母様が突如机を叩く。ドンと言う音に、ティーカップがガシャンとなる。
「そうよ!シャインちゃんの融合の魔法と、私の等分裂の魔法を合わせるの!2人は1度仮死状態になるけど、触媒にあれを使う!プリズムスライム亜種の体液よ!あれには、時を止める効果が有るの。滅多に無い国宝級のお宝だけど、何とドラゴンのお腹の中に居たのよ。珍しいから捕獲したの。増やしては見たんだけど、残念ながら子は亜種にならないのよ。」
またスライム?スライムって結構役に立つのかしら?雑魚とばかり…。
お義母様は大興奮している。レジェンドさんは少々引き気味だ。
「今から永き命を繋ぐ儀式をするわ!シャインちゃん宜しくね!」
慌てるレジェンドさん。お前は妻の隣で寝てろ!と、お義母様に蹴飛ばされた。いったいどうなるの?
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