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【本編】天使な姫君 side。
⑤
しおりを挟む哀れグランデ王子は、イスにぐるぐる巻きにされ、猿ぐつわをはめられてしまいました。それでもガタガタと抵抗するため、最後には足までイスにくくりつけられてしまったのです。まったく往生際が悪いですね。
王子が抵抗に疲れたのか諦めたのか、ピクリとも動かなくなったところで、再度会談が始まりました。悪魔国の王様が、ザイールを王とする根拠を説明してくれるそうです。
「まずは皆のものに確認したい。ザイールを悪魔国の王太子とすることに、異論のあるものはおるのか? 」
「「意義なし!」」
天使国と悪魔国の皆さんが、声を揃えたように答えます。
「これは王家の醜聞になるため、両国の限られた王族にのみ知らされている事実だ。実はザイールは私の息子だ。愚息の腹違いの兄にあたる。少し長くなるが、私の昔話を聞いて欲しい」
私は驚いて横に座るザイルを見上げた。ザイルはバツが悪そうに私を見つめた。でもならなぜキスをしても平気なの?
「フランシス姫。不思議だろうが事実なんだ。ザイールの母親は、君の父王の姉君にあたる。つまりザイールは悪魔族と天使族のハーフになるんだ」
それは……まったく考えもしなかったわ。王は淡々と事実を語り始めた。
先代の王は好戦的で残虐な王だったと伝わっている。たとえ息子だとしても、気に入らなければ容赦なく殺害した。そのため現王は出来るだけ戦地へ赴き、父王から離れて過ごしていたそうだ。
そしてその戦地で奴隷の様に扱われていた女性と出会い恋をした。それが天使国の姫君のエレノア姫だった。姫は強い癒しの魔法が使えたため、先王の指示により天使国から浚われていた。隷属の首輪をされ、日中は魔力が尽きるまで、悪魔国の兵士たちの治療をさせられていたという。そして天使国の兵士には一切、癒しを施すことを禁じられていた。
天使国の現王の姉君が、そんな悲惨な状態だったなんて知らなかったわ。
「男ばかりの戦場だ。通常ならば夜は兵士たちの慰みものになるところだ。だが隷属の首輪には貞操帯の機能もあった。私は安心した。父王はそこまで堕ちてはいなかったのだとね」
しかしそうではなかった。戦況が落ち着き城に帰還することとなると、エレノア姫は城には行きたくないと泣き出した。それでも連れて行くのなら、己を殺してくれとまで、現王に懇願したという。不思議に思い現王はエレノア姫に理由を問うた。
エレノア姫は浚われたのち、城で王に酷い辱しめを受けてしまう。さらには拷問紛いの扱いを受けていた。隷属の首輪に貞操帯の機能を付加したのは、兵士から姫を守るためではなかった。王は己の玩具を他者に使われたくはなかったのだ。現王はあまりの真実に驚愕した。現に姫の見える腕や足には、かなりの魔法でも癒せないほどの傷跡が残っていたのだ。
「私は己に流れる半分の血さえ許せなかったよ。姫は私に泣きながら、己を殺してくれと懇願したんだ。隷属の首輪があるから、己では自害が出来ないとね」
そんな姫を見た現王は決意した。姫を連れて逃げようと。幸い悪魔国と天使国の境目には、神が降臨するというお屋敷がある。その屋敷は両国の不可侵領域だ。そこに逃げ込み、神の慈悲にすがってみようと考えた。
「私は姫を連れて戦場から逃げ出した。隷属の首輪は父王が主だった。戦場での命令は、悪魔国の兵士に負傷者がいる限り癒し続けろだった。しかし負傷者はもういない。主である父王の次の命令がなければ逃亡は可能だと考えた。だから兵士たちが城に戻るまでに、なんとしてでも屋敷に到着したかったんだ」
そしてその願いは叶ったのね。二人は屋敷に逃げ込んだ。そこで毎日神へ祈りを捧げながら慎ましく暮らした。
「私は姫の幸せのためにも、彼女を天使国へ帰そうと思ったんだ。しかし彼女が拒否した。私は汚れてしまった。しかも敵国の味方をし自国の負傷者を見捨てた卑怯もの。さらには隷属の首輪がある。そんな私を天使国は受け入れてはくれないだろうとね」
そんな……だってそれは己の意思ではなかったのに……
「しかし私は内心嬉しかったんだよ。これで彼女と一緒にいられるとね。愛する人の涙を喜ぶとは、本当に己が情けなかった。しかし気持ちは押さえきれなかったんだよ。私は姫の心が穏やかになり、私が触れても怖がらなくなったとき、彼女に結婚してくださいと懇願した」
エレノア姫は残虐な王に拷問紛いの扱いを受け、極度の男性不振に陥っていたという。それは男性恐怖症といっても良いくらいだった。
「私たちは神に祈り夫婦になった。怖がり震える彼女を優しく抱き締め、私たちは初めて二人で同じベッドで眠った。その翌朝だよ! エレノアの隷属の首輪が外れていたんだ! エレノアと私は、涙を流して神に感謝したよ」
やがて二人にはザイールが産まれ、身を隠しながらも、仲睦まじく暮らしていたという。
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