【完】天使と悪魔の政略結婚。~真実の愛は誰のもの~

桜 鴬

文字の大きさ
5 / 21
【本編】天使な姫君 side。

しおりを挟む

 哀れグランデ王子は、イスにぐるぐる巻きにされ、猿ぐつわをはめられてしまいました。それでもガタガタと抵抗するため、最後には足までイスにくくりつけられてしまったのです。まったく往生際が悪いですね。

 王子が抵抗に疲れたのか諦めたのか、ピクリとも動かなくなったところで、再度会談が始まりました。悪魔国の王様が、ザイールを王とする根拠を説明してくれるそうです。

 「まずは皆のものに確認したい。ザイールを悪魔国の王太子とすることに、異論のあるものはおるのか? 」

 「「意義なし!」」

 天使国と悪魔国の皆さんが、声を揃えたように答えます。

 「これは王家の醜聞になるため、両国の限られた王族にのみ知らされている事実だ。実はザイールは私の息子だ。愚息の腹違いの兄にあたる。少し長くなるが、私の昔話を聞いて欲しい」

 私は驚いて横に座るザイルを見上げた。ザイルはバツが悪そうに私を見つめた。でもならなぜキスをしても平気なの?

 「フランシス姫。不思議だろうが事実なんだ。ザイールの母親は、君の父王の姉君にあたる。つまりザイールは悪魔族と天使族のハーフになるんだ」

 それは……まったく考えもしなかったわ。王は淡々と事実を語り始めた。

 先代の王は好戦的で残虐な王だったと伝わっている。たとえ息子だとしても、気に入らなければ容赦なく殺害した。そのため現王は出来るだけ戦地へ赴き、父王から離れて過ごしていたそうだ。

 そしてその戦地で奴隷の様に扱われていた女性と出会い恋をした。それが天使国の姫君のエレノア姫だった。姫は強い癒しの魔法が使えたため、先王の指示により天使国から浚われていた。隷属の首輪をされ、日中は魔力が尽きるまで、悪魔国の兵士たちの治療をさせられていたという。そして天使国の兵士には一切、癒しを施すことを禁じられていた。

 天使国の現王の姉君が、そんな悲惨な状態だったなんて知らなかったわ。

 「男ばかりの戦場だ。通常ならば夜は兵士たちの慰みものになるところだ。だが隷属の首輪には貞操帯の機能もあった。私は安心した。父王はそこまで堕ちてはいなかったのだとね」

 しかしそうではなかった。戦況が落ち着き城に帰還することとなると、エレノア姫は城には行きたくないと泣き出した。それでも連れて行くのなら、己を殺してくれとまで、現王に懇願したという。不思議に思い現王はエレノア姫に理由を問うた。

 エレノア姫は浚われたのち、城で王に酷い辱しめを受けてしまう。さらには拷問紛いの扱いを受けていた。隷属の首輪に貞操帯の機能を付加したのは、兵士から姫を守るためではなかった。王は己の玩具を他者に使われたくはなかったのだ。現王はあまりの真実に驚愕した。現に姫の見える腕や足には、かなりの魔法でも癒せないほどの傷跡が残っていたのだ。

 「私は己に流れる半分の血さえ許せなかったよ。姫は私に泣きながら、己を殺してくれと懇願したんだ。隷属の首輪があるから、己では自害が出来ないとね」

 そんな姫を見た現王は決意した。姫を連れて逃げようと。幸い悪魔国と天使国の境目には、神が降臨するというお屋敷がある。その屋敷は両国の不可侵領域だ。そこに逃げ込み、神の慈悲にすがってみようと考えた。

 「私は姫を連れて戦場から逃げ出した。隷属の首輪は父王が主だった。戦場での命令は、悪魔国の兵士に負傷者がいる限り癒し続けろだった。しかし負傷者はもういない。主である父王の次の命令がなければ逃亡は可能だと考えた。だから兵士たちが城に戻るまでに、なんとしてでも屋敷に到着したかったんだ」

 そしてその願いは叶ったのね。二人は屋敷に逃げ込んだ。そこで毎日神へ祈りを捧げながら慎ましく暮らした。

 「私は姫の幸せのためにも、彼女を天使国へ帰そうと思ったんだ。しかし彼女が拒否した。私は汚れてしまった。しかも敵国の味方をし自国の負傷者を見捨てた卑怯もの。さらには隷属の首輪がある。そんな私を天使国は受け入れてはくれないだろうとね」

 そんな……だってそれは己の意思ではなかったのに……

 「しかし私は内心嬉しかったんだよ。これで彼女と一緒にいられるとね。愛する人の涙を喜ぶとは、本当に己が情けなかった。しかし気持ちは押さえきれなかったんだよ。私は姫の心が穏やかになり、私が触れても怖がらなくなったとき、彼女に結婚してくださいと懇願した」

 エレノア姫は残虐な王に拷問紛いの扱いを受け、極度の男性不振に陥っていたという。それは男性恐怖症といっても良いくらいだった。

 「私たちは神に祈り夫婦になった。怖がり震える彼女を優しく抱き締め、私たちは初めて二人で同じベッドで眠った。その翌朝だよ! エレノアの隷属の首輪が外れていたんだ! エレノアと私は、涙を流して神に感謝したよ」

 やがて二人にはザイールが産まれ、身を隠しながらも、仲睦まじく暮らしていたという。

 ※※※※※※※
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...