婚約破棄にされた令嬢は自分の道を行く

明石 清志郎

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冒険者になりました

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 私はアンナ・ヴィルヘルム、子爵令嬢であり婚約するはずだった人に婚約を破棄されて新たな人生を歩んでいる。
 そんな私は前世の記憶を持つ魔法使いということもあり学校卒業後は冒険者になり毎日充実した日々を送っている。

 「フレア!」

 私の魔法でオーガが倒れる、オーガと言うのはデカい鬼のような魔物のことで駆け出し程度じゃ相手にならないぐらいには強い。

 「凄い……」
 「終わりですね、あとは素材回収して戻りますよ」
 「あ、はい」

 冒険者になり三か月が経ったが今のは昇級試験、これで私のランクはBランクへと上がった。
 ランクはEからスタートで一番上はS、三か月でここまで昇りつめたのは私の実力があれば当然のこと、昇級試験はそんなすぐに受けれるものではないが私の学校時代の実績と校長先生のツテで早いペースで試験を受けさせてもらっているのだ。

 「凄いですね~突如現れた彗星の魔女スターウィッチなんて言われることはあります」

 素材を回収しているギルド職員が話しかけてくる、Bランクのアニマだ。

 「フフッ、これぐらいは当然よ」

 正直Sランクレベルだと自分は自負しているがSになるには強さだけでは駄目なので色々と実績を作る必要がある。
 Sランクは数えるほどしかおらず貴族や王族ですら敬意を払うぐらいだ、というのもSランクになった時点でギルドの上の職につくし素行に問題のある者は基本的にはなれないからだ。

 「Aランクに昇格する為の試験の大まかな日程も組んでおきますね~」
 「お願いね~」

 私の身分や立場からして組むパーティは限定されてしまっておりこのアニマは私の良きパーティ仲間だ。

 「なんかずるいです~」

 アニマがジトっとこちらを見る。

 「何が?」
 「だってアンナさん綺麗で強くて優しい完璧超人なんだもん~嫉妬通り越して天上の存在だし」
 「フフッ、私はそんなんじゃないわ~私より強い人なんてたくさんいるだろうし」
 「何言ってるんですか~アンナさん私が知る中では一番ですよ~」

 前世の魔法学校には校長と主席の二人以外は星一つ簡単に滅ぼすようなのはいなかったけど三席だった男は人間として最強と呼べる奴だった、私がどんなに努力をしても追いつかない……人間として最強を名乗るならあの男ぐらいの力がないと駄目だ。

 「世界は広いわよ~」

 ギルドに帰ると酒場にいる男達がこちらに来る。

 「おおっアンナか~試験は合格したか?」

 声をかけてくるのはBランクのバルカス、奥さんには頭が上がらない凶漢な男だ。

 「ええ、これであなたに追いついたわ~」
 「ハハッ、早いな~まぁ当然だな」

 バルカスは私がギルドに来た一番最初に突っかかってきたが決闘であっさり倒すと私を認めてくれた、その後はまとめ役でもあった彼が私を変な目で見る奴らの取り締まってくれた、今では大きく信頼を寄せているうちの一人だ。

 「みんな、我らがアンナがBランクになったぞ!未来のSランクに乾杯だ!」

 バルカスの掛け声と共にみんなが声をあげ拍手が響き渡る。

 「フフッ、みんなありがとう~これからもよろしくお願いします」

 頭を軽く下げるとみんなから応援の声が聞こえる、最初は貴族というので尖った感じで接してくるのが多かったけど自ら酒の席に入り、話をして打ち解けたのだ。
 貴族と違って変なプライドがないから話しやすいしやはりこっちの道に進んでよかったとしみじみ思う。

 「アンナさん、ギルマスのとこに報告いこうか~」
 「ええ」

 ギルドマスターをしているAランク冒険者のヴィクターに報告をし正式にBランクとなった。

 「これからも頼むぞい」
 「ええ、任せてください」
 「それとこれから学校の方にいく予定はあるかい?」
 「はい、今日は講義があるので」
 「ならこれを校長の奴に頼む」
 「了解したわ」

 封書を渡されたので受け取る。
 確か二人は古き友だったわね、校長も若い頃はそこそこ強かったなんて聞いてるし。


 ◇


 「アンナさん~」
 「あらカリム」

 三つ下の後輩で男爵家のカリムだ、私が教えている生徒の一人で私のお気に入りだ。

 「ヘヘッ、今日もお出迎えです」
 「フフッ、いつもありがとう」

 カリムは私のことが好きで私も半ばその気持ちに応えているのでこういう関係だ、私とデートをするために日々鍛錬をしている。

 「今日こそアンナさんから一本とって念願のデートを……」
 「フフッ、どうかしらね~」

 まぁそろそろ加減をなんて思うのだが負けるのも癪だ、頑張りを見てデートでもしてあげようかなんて思っている。

 「先に校長室に用があるの、ちょっと寄って来るわね」
 「はい、では教室でお待ちしております」

 カリムと一時別れ校長室に向かい中に入るとかつての同級生で王国魔法師団主席入団したプリムがいた。

 「ア、アンナ……」
 「あらプリムじゃない、どうしたのかしら?」
 「わ、私は校長先生に卒業生であり現役魔法師団主席入団者として講演を頼まれここに来たのですわ」

 そういえば卒業式で必死に自分が主席入団だっての強調していたわね。

 「そうだったのね~」
 「ふん、いつかあなたをぎゃふんと言わせてあげますわ、なんなら今パワーアップした私の力を……」
 「フフン~私はいつでもオーケーよ~」

 シャドーボクシングをプリムに見せつける。

 「い、今はまだ辞めておきますわ~」
 「フフッ、まだあんたが偉そうな口叩くのが早いわね~」

 プリムは悔しそうな顔でこちらを見るがこれでも関係は随分マシになったものだ。
 というのも一月前魔法師団のメンバーが私に教えを請いたいというので同級生のプリムがその交渉役となったのだ、プリムは最初決闘をして負けたら奴隷のようにこき使うとかほざいたのでボコボコにすると事情を話した、最初断ったら泣きついてきたので仕方なく受けたのだ。
 出向いて教えている時は真剣に教えを乞いてきたので教えてあげるとあなたって実はいい人なんて言うものだからきつくシメた。

 「ムキッ、またあなたに教えてもらってリベンジしますから覚えてなさい!」

 いや、そこ私に教わらないでリベンジしなさいよ……
 プリムがそのまま校長室を出ると校長がそれを見て笑う。

 「仲良くなったのう~」
 「いやどこがですか?」
 「前に比べたら遥かにそう思うぞい、まぁ奴もやっと認めることができるようになったということじゃ、それで何か用かな?」
 「これをヴィクターさんから」

 手紙を渡すと校長はそれを黙読する、険しい顔を見せるあたりあまりいい話ではないのだろう。

 「ふむ、取り合えずありがとう、ヴィクターには連絡は早めにと伝えてくれないか?」
 「わかりました」

 校長室を出てそのままカリム達高等部一年生に講義をする、前より私に質問してくれる生徒が増えて凄く嬉しい。
 カリムだけは面白くなさそうな顔けどそんなカリムにはデートをちらつかせて頑張らせている。

 「アンナさんの実戦講義もできれば欲しいです」
 「そうね……校長から要望があったわ」

 ここでの講義も不定期になりがちだ、週一は確保して教えているがこれ以上コマを増やすとキツイのも事実、いつも自分の講義は午後の一番最後のコマにして講義後少し残って実技も教えているのだ。

 「是非お願いします!」

 みんなからそんな感じで嬉しいけど中々難しい、教員の為の教育や教え方なんかも私のを伝授しているが中々浸透しないのも現状だ、もう何年もそのやり方で教えていると新しい方法を覚えるのが難しいのだろう。

 「ごめんね、今教員に向けて私の指導法を伝授してそれを浸透させてる時期なの……だからそれは少し難しいわ」
 「そうですか……」
 「まぁ講義後の居残り実技訓練は今日もやるから参加する人はよろしくね!」


 ◇


 居残りの実技訓練まで終わるともう夕方前、そろそろ暗くなるかと言う時だ。

 「アンナさん!」
 「待ってたわカリム」
 「勝負しましょう!」
 「ええ」

 勝負を始める、カリムはメキメキと力をつけているし毎週の楽しみだ。

 「行きますよ!」

 呪文を唱え始めた。

 「アクアハリケーン!」

 いきなり第五位階魔法か、腕を上げたわね。

 「エアロバースト!」

 同じ第五位階だがこっちは無詠唱、この世界のこの時代の魔法レべルだが無詠唱に関しては壊滅的に酷い、特に第四からの無詠唱はほぼいないといっていい。

 「サンダーショック!」

 第三位階魔法だ、カリムもやっとこのレベルの無詠唱は習得してくれたのだ。

 「上達したじゃない~」
 「アンナさんのハートを射止めて結婚するためですからね!」

 全く真顔でそんなこと言われると恥ずかしいわね、でもそんなカリムの純粋な気持ちは凄く嬉しい。

 「フフン~そんなこと言って私を動揺させようたって無駄よ~」

 カリムの低位階の無詠唱魔法を避け間合いを詰める。

 「アイスショック!」
 「うっ……」

 倒れたカリムにそのまま乗っかると降参したのでそこで勝負はついた。

 「また駄目か……」
 「フフッ、でもいい線言ってたわ~」
 「それじゃまだまだです……」

 ムスッとするカリムの手を引っ張り上げる、少しご褒美をあげるとするか。

 「ねぇカリム、明日私オフだからデートしましょう」
 「えっ……」
 「待ち合わせは……」
 「ちょっ……ちょっと待ってください!」
 「何で?」
 「いいんですか?だってデートはアンナさんから一本取ったらって……」

 顔を真っ赤にしているカリムは相変わらず可愛いものだ。

 「ええ、それともデートしたくない?」
 「し、したいです!お願いします!」
 「よろしい、それじゃあ明日の朝にこの学校の門の前にしましょう」
 「は、はい!」


 ◇


 次の日の朝八時頃、学校の門へと向かう、カリムのことだからおそらくもう来ているだろう。
 私もなんだかんだで楽しみで眠れなかった、さて今日は何をしようかしら。

 「おはよう~」
 「おはようございます」

 予想通りいつもよりいい格好で来た、私は冒険者らしくラフな格好で来たがこれでかえってバランスが取れるだろう。

 「何時に来たの?」
 「一時間ぐらい前ですね、朝と言われたので」
 「フフッ、先に来て待っているのは偉いぞ~」

 頭を撫でると喜色の表情を見せる。

 「それでどこに行きますか?アンナさんから希望があればそちらを優先しようかと」
 「そうね、取り合えず街にでましょうか」

 街に見て回ることにした、将来的にはカリムも自分と同じ道を目指すと言っていたし自分が利用する店なんかも教えておきたかったからだ。

 「それじゃあ三か月でBランクになったんですか!」
 「ええ」
 「凄すぎる……王国騎士団や魔法師団入隊レベルが最低Cランクでその現役師団のメンバーを倒すレベルなんで当然と言えば当然ですけどそれでも凄い……」
 「もうAランクの試験も日程組むらしいからそのうちAになる予定よ」

 Aランクになれば国籍内全ての危険エリアへ自由に行くことができる、Sになるとギルド加入国全ての危険エリアへの立ち入りと国超えも自由、国によっては爵位を授与する国もあるぐらいだ。

 「僕も頑張らないとです、僕が今冒険者に入ったらどれぐらいですかね?」
 「そうね……もうDランクはいけるわ、このままいけば卒業の頃が楽しみね」

 Cランクは固いし頑張ればBランクもいけるかもしれない。

 「あと卒業まで二年半以上ありますしまだまだ伸びますね~」
 「でも親とか反対してないの?」

 貴族が冒険者なんて珍しい話だ、カリムみたいに将来有望なのは魔法師団なんかの入団をするのが普通だ。

 「うち弟いますから、それに魔法師団なんか入ったらアンナさんの隣に立てませんから」
 「フフッ、子爵令嬢である私となら周囲も納得してくれるわね」
 「はい、両親も頑張れと」

 今度挨拶しておこうかしら、まだあっちの家には一回も行ってなかったわね。

 「アンナ!」

 街で買い物をしていると聞いたことのある声が聞こえる。

 「ジムじゃない」

 元婚約者のジム・ヘイズだ、シャンデリラ伯爵家の令嬢であるメリダと子供をつくったということで私と婚約を破棄した、まぁ子供も想像妊娠だが……

 「偶然だね、買い物かい?」
 「ええ、このカリムとデートよ」

 思えばジムと婚約破棄されたことで今の私がある、もしあのまま婚約していたら今頃嫁入りしていたに違いない。
 果たしてどっちが幸せだったかそれはわからないがこっちの道で私は幸せになって証明するんだ。

 「そうか、確か学校の後輩だったね」
 「カリムです」
 「ジムだ、中等部で将来有望な生徒の一人だった子だよね?」
 「いえ、自分なんてまだまだですから」

 ジムとカリムが握手を交わす、そういえば今回が初対面だったわね。

 「アンナ!」

 馬車から声をかけてきたのはメリダだ。

 「あら、メリダ」

 メリダは馬車からゆっくりと降りてくると大きくなったお腹を見せる。
 想像でもここまで大きくなるものなのか……

 「こんにちは、最近はどう?」
 「ギルドでBランクになったわ、そっちはどうかしら?」

 確か卒業と同時にジムの家に嫁入りしたはずだ。

 「今はお腹も大きくなってあまり動いていないけどジムがお休みの時はこうして出かけているの」

 お腹を触り確認する、もしかしたらあの時私が見落とした可能性もある。
 魔力を腕に込め超音波を発動する。

 「見ないうちにまた大きくなって、そろそろかしらね」

 やはり子供はいない……

 「ええ、もう少しだし楽しみ、私とジムの宝」

 虚妄の宝……私はそれをあなたに教えない、教えても絶対にあなたは信じない。
 当然ジムにだってだ、それは私との婚約を破棄しメリダを選んだあなたの罪、例えそれを気にしてないとしてもその罪は受けてもらう必要がある。

 「安静にしていなさいな、体に響くわ」
 「う、うん、ジム行きましょう」
 「そうだね、それじゃあ二人とも楽しんで!」

 二人は馬車に乗り去っていった。

 「ねぇアンナさん」
 「なぁに?」
 「あの人なんかおかしい感じがしたんです」
 「メリダ?」
 「はい」
 「あんだけお腹が大きいし体調も優れないんじゃない?」
 「そうじゃないんです……それはそうなんですけど何かが違う気がして……」

 この子は前から変なとこに敏感だったわね……私は知っているからあれだけど知らなければあのお腹に違和感など絶対に感じないだろう。

 「フフッ、まぁいいわ、そろそろお昼にしましょうか」

 この子には関係ない話だ、後はあの二人の問題……私達が首を突っ込む話ではない。


 ◇


 普段利用しているお店での食事をしたが思いのほか美味しく食べていた、男爵家の事情を考えればそこまで裕福な暮らしは出来ないからだろう。
 私もよくジムの家に援助をしてもらったものだ。

 「冒険者になるとどれぐらい稼ぐことが出来ますか?」
 「そうね……Bランク以上の依頼なら一回あたりの報酬はかなりのもので数をこなせば小貴族以上の生活はできるわ、Aランク以上の依頼だと一回こなすだけでもそれぐらいの生活ができちゃうわ」

 実際高位ランクの者はそこら辺の貴族より裕福な生活をしている者もいる、ただ貴族は国から土地や住む家なんかも与えられ国からの保護も受けていて領民から税を徴収出来るので危険を冒さなくてもお金は入ってくる。

 「凄い……確かにBランクの実力があれば王国魔法師団や王国騎士団の中堅どころと同等なんて言われるから当然といえば当然か」
 「でも危険だからそこんとこはしっかり考えるのよ」
 「はい、僕の家は貴族と言ってもそこまで裕福じゃありません、僕より才能の乏しい弟に家督を譲って僕はこっちの道に進んで生活しようかなと、アンナさんもいるし僕的に症には合っているので」
 「あなたなりにしっかり考えているのね~」

 午後は武具屋や薬屋なんかも周り色々と教え込んだ、未来のパーティとなるのを考えれば今のうちに教えて損はない。


 ◇


 「今日はありがとうございました~」
 「こちらこそ、凄い楽しかったわ」
 「ま、またデートしたいです」
 「フフッ、それはあなた次第ね」
 「頑張ります!」

 可愛いしもう少しサービスをしてあげるか……

 「じゃあこれはサービスね」

 カリムの頬にキスをする。
 すると数秒固まった後顔を真っ赤にした。

 「それじゃまた今度ね」

 今はこれぐらいでいいだろう、まだ十五歳、ゆっくりと進めればいい。


 ◇


 「帰りました」
 「おおっ、お帰り」

 ジムとメリダの二人はジムの家であるヘイズ伯爵家に帰宅した。

 「楽しかったか?」

 ジムの父であるレイン・ヘイズ伯爵だ。

 「はい父さん、今日はメリダの体調も良かったので」
 「我が子を楽しみにしているぞ」
 「はい、ご期待に添えられるよう頑張りますわ」

 メリダは笑顔を見せる、だがその様子を見ていたジムの母親はそれに釘をさすように言う。

 「アンナを捨ててまで選ばれたのです、ぜひ男の子をご期待しますわ」

 母親のミラ・ヘイズ、元々アンナの母親であるメロームと親友でアンナとの婚約を押していた。
 婚約破棄の際も直接アンナの家に出向いて頭を下げたぐらいだ。

 「母さんあんまりメリダにプレッシャーを与えないでね」

 ジムとミラはあの一件以来少し溝が出来ていた、勿論これに関してはジムが悪いので何も反論する余地はなかったが一緒にいるメリダも責めるのでうんざりしていた。

 「私は大丈夫だから」
 「本当はアンナを……」
 「母さんその話はもう止めてくれ!」

 何か言いたげなミラを一喝し、メリダを連れて部屋に戻る。

 「ごめんなさいジム……」
 「いいんだ、元はと言えば僕が悪いんだ、君は何も悪くない」
 「ジム……」
 「それよりも今は生まれてくる子供だ、子供が生まれれば母さんも大人しくなるはずさ」
 「うん」

 だがジムもそんなメリダに疑問を抱いていた。
 お腹が大きくもうそろそろ生まれていてもおかしくないのが少し遅い気がしていた。

 「もうそろそろだよね?」
 「ええ、そのはずよ」

 何か嫌な予感がする、でもメリダの話では動いているらしいしそれらしき動きもあったし杞憂で終わるといいんだが。

 「メリダ……僕はアンナを捨てて君を選んだんだ、僕の罪を知る君だから……」
 「わかってる……私を信じて!」

 そんなメリダの真っすぐな瞳を見たジムは安心したようにそのまま寄り添いキスを交わす、ジムは嘘という言葉に敏感だ、特に信じる人が嘘をついたその時彼は気が気がでいられないだろう。


 ◇


 「この街のピンチですか?」
 「うむ、ドラゴンがここに向かっているとかで……」

 ギルドマスターのヴィクターはこの世の終わりのような顔を見せる。

 「ドラゴンぐらいAランクの冒険者がいれば何とかなるのでは?」
 「無理だ……ドラゴンといっても飛竜……報告によるとガンドラという個体なんだ……」
 「なるほど……それはヤバイかもですね」

 確か前にAランク冒険者十人を葬りSランク冒険者三人で討伐したという記録が残る上位ドラゴンだ。

 「そこでSランク冒険者に要請をしたんだが世界に六人しかいないSランク冒険者は都合がつかないんだ……」
 「それはそれは……」

 そんなのを倒せばSランクまったなし。

 「ソロでやりましょうか?」
 「な、なんだって!?」
 「それは流石に危ないですよ~」

 横で聞いていたアニマも止めに入る。

 「やらせてください、そして勝ったらSランクにしてくださいな~」
 「いやまぁそれはガンドラ倒せばSランクなんざ余裕だが……」
 「あなたは今やギルドの希望……王国や学校からもなるべく特別待遇をなんて要請がきてるのよ~」

 まぁ魔法教育や魔法師団養成の為に一役買っていたし当然か……

 「ならアニマ、私に同行して、もう一人私の連れと合わせて三人で殺るわ」
 「えっ……えぇぇぇぇ~」

 アニマが飛び上がる。

 「そ、そんな私じゃ……」
 「なら二人で行こうかしら」
 「わ、わかりました……いきますぅ~」
 「というわけでいいかしら?」
 「構わんが危険だと思ったら引き返してほしい、俺も行きたいがこのギルドがある……すまんが任せた!」


 ◇


 一週間後早速、ガンドラが羽休めをしている洞窟へ向かった、同行したのはアニマとカリムだ。

 「中々神秘的じゃない~」
 「何そんな喜んでるんですか!」

 久々に骨のあるのと戦えるしテンションがアゲアゲだ、前世の魔法学校で序列三位だった男からドラゴンについて聞いたことがあった。

 「ドラゴンは知能が高く人の言葉も理解するんだ、そして強き者に敬意を払う生き物でもあるんだ」
 「じゃああなたクラスだとドラゴンとも肩を組むわけ?」
 「そうだな、基本的に俺と対峙すると大半は向こうからは襲ってこないな、奴らは強い個体と知能が比例し相手の強さに敏感になる、ティアマトという神獣クラスの奴と対峙した時は流石に命を懸けて認めてもらったよ」

 ティアマトというのは竜の中では最上位種の一角で伝説とされる竜だ。
 人の身でそんなに認められたこの男に驚いてしまう。

 「確かあなたは竜王にも会っていたわね、それでティアマトとも?」
 「そうだな、あの方の計らいで戦うことを許してもらった、俺同様校長の教え子だったのもあって特別にな。でもその時教えてもらったが上位個体の定義は人の言葉を理解し竜人になれる竜のことを指すらしい」
 「つまりそうでない個体は上位ではないと?」
 「そう、今この学校で十席以内にはいるお前でも上位個体じゃなければ問題なく殺れるということだ」

 そんな話をされてドラゴンを討伐に参加した、もしガンドラが前の世界での上位ドラゴンでなければ……

 「ついたわ」

 洞窟の最奥部、上は空洞で空につながるその場所の真ん中でドラゴンが眠っていた、大きな翼と黒い肌……中々強そうだ。

 「本当だ……」
 「ヒッ……」

 今にも騒ぎそうな二人の口を塞ぐ。

 「駄目よ……声を出しては……」

 二人を大人しくさせると早速準備に取り掛かる。
バリアを二人に貼り危害が加わらないようにする。

 「二人はここに」

 自分に補助魔法をかける、このまま高位魔法で不意打ちをしてもいいがそれじゃあつまらない。

 「サンダーショック!」

 寝ているガンドラに不意打ちを当てるとそのまま目を覚ます。

 「いくよ!」

 浮遊魔法を発動し宙に浮かび上がる。

 「あれは浮遊魔法!」
 「凄い、私も見るのは初めてです」

 ガンドラが起き上がり対峙する。

 「すぐ終わらせる……」
 「ルナティックフレア!」

 第六位階魔法で対象の周りに不規則な爆発を起こす。

 「ワイルドボルト!」

 第五位階魔法だ、昔教えてもらったこの技を実践する。

 「エアロバースト!」

 そう、無詠唱のまま魔法を連続で放つ高等技能連続だ、今の世界で使っている者を見た事ないがそれだけ凄い技ではある。
 前世の学校ではこれを習得しなければ上位になどいけなかった。

 「何であんなに連続して魔法を……」
 「凄い……僕もいつかそこに……」

 ガンドラもやられっぱなしではない、ブレスを吐きこちらを爪で切り裂こうとする。

 「オーロラシールド!」

 全ての属性攻撃に強い耐性を持ちながら物理攻撃にも耐性を持つ第六位階魔法だ。
 ブレスと爪攻撃の両方を防ぐ。

 「なるほど……」

 これでわかった、この竜は上位種ではない。
 あっちだったらこれは中の下程度に過ぎない。

 「ならあれを使うまではないか……」

 勝てないようなら使う予定だったがあれは必要ない。

 「そろそろ終わりにしましょうかメガフレア!」

 第七位階の魔法の中ではポピュラーな広域殲滅魔法、それより上の超人達が使う八位階より上の魔法には劣るがこの相手にはこれで十分だ。

 「あれはメガフレア……」
 「伝説の大魔法を無詠唱……やはりあなたは凄すぎるわ……」

 メガフレアを直撃しよろけたところで空に一度上がる、これで止めだ。

 「魔法剣!」

 あの第三席に教えてもらった剣などの殺傷武器に魔力を纏わせその魔力から様々な力を付与する能力。
 剣に魔耐性がなかったり鈍らだとす持たないが少しなら持つはずだ。

 「これで終わりよ!」

 この鈍らに出来るだけ魔力を込め水の力を付与する、ガンドラは炎属性の竜……水の力は効果抜群のはずだ。

 「いけぇぇぇぇぇ!」

 剣はそのままガンドラの心臓部を切り裂きうめき声をあげ倒れた。

 「私の勝ちね……」

 すると持っていた剣が砕けた、やはり本物の魔剣でなければこれは使えないわね。

 「アンナさん!」

 カリムとアニマがこちらにやってくる。

 「凄いです!凄いですよ!」
 「フフッ、大したことはないわ、あんな中位種の竜相手じゃこれぐらい当然よ」
 「何を言ってるんですか!ガンドラ倒すとか英雄ですよ!Sランク確定ですって」

 これでSランクか、この程度の竜を狩るだけでSランクとは……この世界はどうなっていることやら。

 「素材を回収して戻りましょう」
 「はい、言われたあれ持ってきました~」

 素材なんかを回収するアイテム袋の特注品だ、ギルドマスターから借りてきたのだ。


 ◇


 その頃ドラゴンの噂が流れたこの街だが少年の姿をした男が立ち寄っていた。

 「竜か……もしここまできたらワシの出番か……」

 そんなことをぼやきながら馬車が道の脇に挟まっているのが目に入った。

 「あれは……」

 馬車を持ち上げようと奮闘している若い青年とお腹を膨らました女性がいた。

 「しょうがないか……」

 近づき魔法で馬車を持ち上げた。

 「君は……」
 「たまたま目にはいってのう、気にするな」

 そのまま行こうとした時妊婦が崩れかけた。

 「むっ……」

 倒れそうな妊婦を抑えお腹を守る。

 「メリダ!」

 そのままその地べたに座らせる。

 「お前、汗を拭け」
 「う、うん!」

 汗をふき治癒魔法を付与する、おそらく近いのだろう。
 念の為に確認するか……魔法で中の胎児の拍動を確認する。

 「むっ……」
 「ど、どうしたの?」

 おかしい、胎児の拍動がないいや今衝撃を与えたわけでもないしどういうことだ。

 詳しく調べるか。

 魔法を用いて中の気配を察知する。
 これだけ大きいし中で息をしていなかったら危ない。

 「おかしい……」

 やはりおかしい、中に子供の気配どころかその体すらもない、これはただ膨らんでるだけだ。

 「どうしたんだい?」
 「これは妊婦のフリか?この娘の中に子供などいないぞ!」
 「えっ……」
 「どういう魔法か知らんが思い込んでいるならそう伝えてやる事だな」
 「そんなバカな……」

 どうやらこの青年の目からして芝居ではなさそうじゃな、この娘も演技というわけではあるまい。
 本当に思い込んでいるのかもしれない。

 「とにかくワシは嘘はつかん……それじゃあな」


 ◇


 討伐から三日ほど経ったが報告を受けたギルドマスターはビックリ仰天だ、Sランクへの昇進も決まり王都にあるギルドにて正式に受理される、他のSランクの六人が集まるとのことで行くことになった。

 「というわけで二週間ほどあえなくなるけど精進を怠らないように!」
 「はい!帰り待ってます」

 帰ってきたらまたデートをする約束をしたしこの二週間待ち遠しいだろうな、私も楽しみだ。

 「アニマもAランク目指してちょうだい、私パーティ変える気はないから」
 「は、はいです~」

 アニマとカリムと一緒にパーティを組む日もそう遠くはなさそうだ。
 二人に別れを告げ王都へ向かおうと馬車に乗り込んだ。

 「とうとうSランクか~」

 思ったより早く到達できたがまだまだ、今度はこの世界のこともっと詳しく調べないと。
 馬車に乗り街を出ようとした時だった。

 「止めて」

 馬車を止め一旦出る、そこにはジムが立っていた。

 「ジム?……」
 「アンナ……」

 ジムはそのまま私に抱きついたのだった。
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