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第6話 - ④
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* * *
「──で、話って?」
昼時で客数がそれなりに多いファミリーレストランに入り、奥の席に座る。
適当に注文を済ませると健汰はすぐに優姫を問いただした。
焦ってはいけない。どうせあの化け物の正体はなんですか、とかそういったもののはずだ。それでも今の健汰には落ち着く余裕すらもない。
自分の話は憑者の存在を一般人にばらす可能性があるので、慎重に考えなければならない。そうなると先に話をしてもらった方がいいのだが、その話が何なのか見当もつかないことから緊張してしまう。
平日昼間ということで店内の客はどちらかといえば幼い子供を連れた客が多く、その中で二人の存在は目立っていた。男女二名という組み合わせからか、それともカップルというには外見があまりにもちぐはぐだからか。
優姫は白いふんわりとした上品なワンピース。顔立ちや雰囲気からも育ちの良い令嬢とわかる。
それに比べて、健汰の格好はそれこそチンピラのようなものだ。黒いタンクトップにカーキ色の上着、ダメージジーンズ、加えてビーチサンダルというラフ過ぎる格好。買ってきたのは棗だが、着る時に決めるのは健汰だ。それを優姫のような相手との話し合いの場で着てくるということの場違いさを、健汰は一般常識が抜け落ちている故に知らなかった。
この組み合わせが怪しいものに見えることなど、健汰は気付かない。それに、ある意味で一般とはかけ離れている優姫も。
「あの、先日助けていただいた時のことなんですが。私を襲っていたあれって、……鬼、ですよね」
「!!」
優姫の口からまさかその単語が出ると思っていなかった健汰は微かに目を見開いてしまった。だがすぐに平静を取り戻す。
感情を昂らせてはいけない。まだ相手がどこまで知っているのかわからない。それに気付かれてはいけない。
「何言ってるのかわかんないっすね。鬼? そんなん昔話の」
「昔、鬼が作られているところを見たことがあるんです」
健汰を遮ってまでも告げられたその言葉は、あまりにも衝撃的な発言だ。
何を作る? 鬼を? そんなことがあっていいはずがない。人の命を脅かすそれを人が生み出す、そんなことあっていいわけがない。
それに、この女は何かを知っている。憑者、または鬼憑きに関する何かを。
「……どういう、ことだ」
喉が渇き、呼吸音が鳴る。水を飲み渇きを潤す。
目の前の女が話すのをただ待つ。焦るのは禁物だ。この女が何も話さなくなったら、意味がなくなる。
健汰の瞳孔が開ききった目にも怯むことなく、優姫は聞かれるがままに答えた。
「うちの父に連れられて、一度ある場所へ行ったことがあるんです。そこで見ました。檻の中に人が幽閉されていて、その人はこの前、私を襲っていたような人の姿で。……その場所の奥の方で、実験のようなことが行われていました。鬼同士の、戦いでした」
鬼同士が戦うなんて聞いたことがない。また、そのような施設があることも。
上層部は何かを隠している? 自分のような末端に教えるようなことではない、何かを。
だが、他にも気になることはある。何故優姫はその場へと連れて行かれたのか。憑者や援護部隊、そしてそのサポートをするような科学班などであればまだわかる。だがこの女は資金援助をしている財界の大物の一人娘。ただそれだけだ。
その少女が、何故?
「なんであんたはそこに行った。父親はなんであんたをそんな場所に連れて行った?」
「わかりません。でも、その場所に連れて行かれたのは本当です。催眠をかけて消された記憶が、先日のあの鬼達を見て思い出しました。何か質問があるなら、できる限り答えます。私は、貴女に味方します。助けてくれたお礼に」
それまで真剣な表情で、周囲の誰にも聞かれることのないよう小声で話をしていた優姫は、そこで漸く緊張の糸を解き微笑んだ。
健汰は何も聞くことはないと首を振る。
「いいや、それ以上聞いても今は何も対応できないからいい。次は俺の番な」
鬼の存在も知っていて、それ以上に闇に触れたであろう彼女には、隠すことなど必要ないかもしれない。健汰は取り繕うことを一切合切諦めることにした。
「──で、話って?」
昼時で客数がそれなりに多いファミリーレストランに入り、奥の席に座る。
適当に注文を済ませると健汰はすぐに優姫を問いただした。
焦ってはいけない。どうせあの化け物の正体はなんですか、とかそういったもののはずだ。それでも今の健汰には落ち着く余裕すらもない。
自分の話は憑者の存在を一般人にばらす可能性があるので、慎重に考えなければならない。そうなると先に話をしてもらった方がいいのだが、その話が何なのか見当もつかないことから緊張してしまう。
平日昼間ということで店内の客はどちらかといえば幼い子供を連れた客が多く、その中で二人の存在は目立っていた。男女二名という組み合わせからか、それともカップルというには外見があまりにもちぐはぐだからか。
優姫は白いふんわりとした上品なワンピース。顔立ちや雰囲気からも育ちの良い令嬢とわかる。
それに比べて、健汰の格好はそれこそチンピラのようなものだ。黒いタンクトップにカーキ色の上着、ダメージジーンズ、加えてビーチサンダルというラフ過ぎる格好。買ってきたのは棗だが、着る時に決めるのは健汰だ。それを優姫のような相手との話し合いの場で着てくるということの場違いさを、健汰は一般常識が抜け落ちている故に知らなかった。
この組み合わせが怪しいものに見えることなど、健汰は気付かない。それに、ある意味で一般とはかけ離れている優姫も。
「あの、先日助けていただいた時のことなんですが。私を襲っていたあれって、……鬼、ですよね」
「!!」
優姫の口からまさかその単語が出ると思っていなかった健汰は微かに目を見開いてしまった。だがすぐに平静を取り戻す。
感情を昂らせてはいけない。まだ相手がどこまで知っているのかわからない。それに気付かれてはいけない。
「何言ってるのかわかんないっすね。鬼? そんなん昔話の」
「昔、鬼が作られているところを見たことがあるんです」
健汰を遮ってまでも告げられたその言葉は、あまりにも衝撃的な発言だ。
何を作る? 鬼を? そんなことがあっていいはずがない。人の命を脅かすそれを人が生み出す、そんなことあっていいわけがない。
それに、この女は何かを知っている。憑者、または鬼憑きに関する何かを。
「……どういう、ことだ」
喉が渇き、呼吸音が鳴る。水を飲み渇きを潤す。
目の前の女が話すのをただ待つ。焦るのは禁物だ。この女が何も話さなくなったら、意味がなくなる。
健汰の瞳孔が開ききった目にも怯むことなく、優姫は聞かれるがままに答えた。
「うちの父に連れられて、一度ある場所へ行ったことがあるんです。そこで見ました。檻の中に人が幽閉されていて、その人はこの前、私を襲っていたような人の姿で。……その場所の奥の方で、実験のようなことが行われていました。鬼同士の、戦いでした」
鬼同士が戦うなんて聞いたことがない。また、そのような施設があることも。
上層部は何かを隠している? 自分のような末端に教えるようなことではない、何かを。
だが、他にも気になることはある。何故優姫はその場へと連れて行かれたのか。憑者や援護部隊、そしてそのサポートをするような科学班などであればまだわかる。だがこの女は資金援助をしている財界の大物の一人娘。ただそれだけだ。
その少女が、何故?
「なんであんたはそこに行った。父親はなんであんたをそんな場所に連れて行った?」
「わかりません。でも、その場所に連れて行かれたのは本当です。催眠をかけて消された記憶が、先日のあの鬼達を見て思い出しました。何か質問があるなら、できる限り答えます。私は、貴女に味方します。助けてくれたお礼に」
それまで真剣な表情で、周囲の誰にも聞かれることのないよう小声で話をしていた優姫は、そこで漸く緊張の糸を解き微笑んだ。
健汰は何も聞くことはないと首を振る。
「いいや、それ以上聞いても今は何も対応できないからいい。次は俺の番な」
鬼の存在も知っていて、それ以上に闇に触れたであろう彼女には、隠すことなど必要ないかもしれない。健汰は取り繕うことを一切合切諦めることにした。
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