少年カイザー(挿絵複数有り)

めめくらげ

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ー「いや無理だよ!!来てみた僕もおかしいけど、やっぱり無理だよ!!」

朝9時に学校のグラウンドに呼び出されていた池田は、雨ガッパと長靴で豪雨の中すぐにウォームアップをさせられ、ハルヒコの200球トスバッティングに付き合わされていた。このあとに池田と交代してからは、すでに無謀だと分かりきっているが外野フライの捕球練習と走り込みとノック練習が残されている。打たれた球が、転がってはすぐに泥団子と化していく。

「ハルヒコくん、せめてカッパ着なって!半袖じゃ風邪ひくよ!」

口を開くたびに雨水が入り込む。

「いい。それよりお前、来週の試合までに少しは使いものになるよう鍛錬してやるからな」

「草野球なんかしに行ったら、本気で親に怒られるよ!再来週からテストなんだぞ、ハルヒコくんだって勉強しなきゃヤバいんでしょ?」

「本気を出すのは期末だけでいいだろ。昼までにさくっと終わる試合だ。親には友達と勉強しに行くと言えばいい。お前、そのあと寮に来いよ。サラに勉強教えてもらえ」

「サラって、ユーレイ……じゃない、香月先輩?」

「てゆーーかきょうも来いよ」

「え?」

「きょうの姫様は雨だがギリギリご機嫌を保ってる。フテ寝してなけりゃ勉強教えてもらえるぞ」

「いや、いいよ……寝てるならメイワクだろ」

「俺のトモダチなら平気だ。」

「そーなの?」

「ああ。だからあとで来い。雨の日にふたりきりは息が詰まるんだ」

いよいよバケツをひっくり返したようなどしゃ降りに見舞われ、大雨警報のサイレンが響き渡ったころに、ふたりはようやくすべてのメニューを終了した。ハルヒコは雨さえなければもう少しやるつもりであったが、池田は満身創痍であり、海で溺れた人のようにずぶ濡れでぐったりとグラウンドに横たわっていた。

ふたりで寮のシャワーに入り、池田はハルヒコの服を借りた。談話室に行くと、勉強もせずテレビを観ていた高鷹たちに歓迎され、珠希に紅茶を出してもらいついデレデレとなった。それにしても、まもなく夏になろうとしているのに、あたたかい飲み物がこれほどにありがたいものだとは、と池田が感動する。彼が今の今まで野球の練習をさせられていたことを知ると、高鷹が気の毒そうな顔をしながら「付き合うトモダチはもう少し選べよ」と言った。だが直後、珠希に「こーよー君もね」と笑顔で指摘されていた。

「でも何でこのまったく野球に無縁そうな池田くんを試合に連れてくんだ?実は天性の才能があるのか?」

「いや。笑った顔が少しだけオリックスの金子に似てるからだ」

「おおー、5億円プレーヤー」

「ええ~似てるかな?」

「そ、そんな理由だったの?!しかも言われたことないし!」

「初めは香月サラを誘ったんだが断られたのだ」

「そりゃそうだろ、てゆーかサラが野球とか想像つかん。たぶんあいつの人生に縁がないもの第1位だぞ」

「ったく、男のくせにだらしねえ。おい、それより星崎天音は?部屋にも自習室にもいなかったぞ」

「あいつは出かけた」

「出かけただと?外は嵐だぞ」

「お前らなんかやきゅーしてたじゃねえか」

「どこに行ったんだ」

「え~~カイザーくん気になるのお?」

高鷹がニヤニヤと笑う。

「はんっ、そーではない。せっかく池田が来たからあいつにホットケーーキを作らせようと思ってたんだ。調理場の材料に触ったら殺すと言われたから、俺では作ってやれん」

「殺すって……いや平気だよハルヒコくん。星崎先輩が作ったの美味しいって言ってたから、ちょっと残念だけど」

「え、ハルヒコくんそんなこと言ってるの?」と珠希もニヤリと笑い、「じゃーあとで天音に言っといてあげるね~」と高鷹が続けた。

「それよりあいつホントにどこへ消えた?こんな大荒れじゃ、たとえ親が突然死したって駆けつける気にはならんぞ」

「さあ。いちいちどこ行くのかなんて聞かないもん」

「まあ天音にだってプライベートな用事くらいあるだろ。でもあいつ前からちょくちょく土日は出かけてたぞ、最近はずっとここにいたけど。でも彼女じゃないから安心しろ。たぶん実家に帰ってんだ」

「実家?……ああ、下町とか言ってたな。だがこの雨の中わざわざ帰るか?なんか変だ」

「いやに気にするな」

「俺は粘着タイプだ」

「ストーカー気質だな。池田くんもロックオンされねーように気をつけろよ」

「こんなじゃがいも小僧を付け回したってなんにも面白くない」

「な、何だよじゃがいもって!」

「じゃがいもはハルヒコくんだろー。あ、ハルヒコくんの親か」

「なんだとぉタマキンのくせして、タマキンのタマキンさわさわの刑に処するぞ」

「はいはい、あー怖い」

「ぬうぅ……ったく、だんだん生意気になりやがる」

「てめー俺の珠希ちゃんに触るなあぁぁ!」

「ぐおっ!バカやめろ!」

ふざけた高鷹がソファーの背もたれを乗り越え、ハルヒコを羽交い締めにする。そのまま押し倒してキャメルクラッチをかまし、「池田くん電気あんま!」と嬉々とした顔で言われたので、池田は困惑しつつも言われたとおりに技をかけた。

「ぬうおぉぉぉーーー!!バカてめえら!池田お前そんな子じゃなかっただろォォ!!」

「わははーいいぞー池田くうん!もっと強く!」

「カイザーマスク、珠希にエロいことしたらこうだぞ!こう!」

「がはあっ!あっ……わかっ……わかっ……」

すると「おめーら静かにしろ」と勉強の合間にひと息つきにきた耀介が、ウンザリした顔で団子になる3人を見下ろした。

「お前ら副寮長のくせに、芳賀くんに怒られるぞ」

だが夢中になった高鷹はそのまま抑え込みに入り、「よーすけカウント!」と子供のように無垢な眼差しで言い放つと、耀介もすぐにレフェリーのごとく這いつくばり、床を3回叩いて「カンカンカンカーン!」と試合終了のゴングを口で模した。

「メキシコの風来坊、王者カイザーマスクを打ち破り、ベルトは挑戦者バン・コウヨウの手に渡りました!」

耀介が高鷹の右手をつかんで頭上に高らかと上げる。

「では伴選手、福建省にいるお母さんにひとこと」

「俺は中国人じゃありません!」

「おい、今のは反則ぞ!セコンドの池田が急に寝返ってバカコーヨーとタッグを組みやがった!」

「いや、僕は……」

「プロレスですからそういうこともあります」

「あるか!!」

すると談話室に「うるさーーーい!!!」と怒声が響き渡り、ハルヒコ以外の4人は肩をすくめた。騒ぎに気付いてやってきた芳賀が、入り口で腕を組み仁王立ちしていた。
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