38 / 129
2
しおりを挟む「ういーっす」
頭を洗っていたら、ハルヒコがガラリと戸を開けた。
「だから来んなってば……」と天音が忌々しそうにつぶやくが、よく見るとその背後にはサラも立っていた。
「ふん、お前、俺とサラちゃんのバスタイムを邪魔するなよ」
「……」
空いている時間を狙ったが、湯船にはまだ何人かの寮生たちが浸かっている。そして何とも運の悪いことに、大吾郎もその中に混じっていた。天音はそれもあって、このふたりの登場には心臓が痛くなる思いだった。
「サラ、頭洗ってくれ」
「はーい」
椅子に座るハルヒコと向かい合わせで膝立ちし、サラはシャンプーを手に取ると彼の頭をわしわしと洗い始めた。
「……なに気取りなの君?そーいうの見てるだけでムカつくんですけど」
「見なければいいだろう?」
「わざわざとなりでやられたら嫌でも目に入るわ」
「けっ、ギャースカうるさいイグアナくんだな。天ぷらにして食っちまうぞ」
「サラ」
天音が子供のようなふてくされた顔でサラをキッと見やる。
「何でこんな奴の言うこと聞いてんの?」
「何でって、こないだ言ったでしょ。僕たちは……」
「だからってこんな奴に従うことないよ」
「従ってるんじゃないよ。好きでやってるの」
「……」
面白くない、という心境をありありとその顔に浮かべ、天音はシャンプーを洗い流すと湯船には浸からず、道具一式を乱暴に引っつかんでさっさと浴場から出て行こうとした。大吾郎はその姿を心配そうな目で追うが、その手前の「ふたり」の光景にも胸を痛めている。
「待て」
ハルヒコが呼びかけると、天音がぴたりと立ち止まる。すると彼はシャンプーの途中だが天音の前にずいっと立ちはだかり、ふたりは面と向かい合った。浴場にいる生徒たちの視線が、にらみ合う裸の男ふたりに注がれる。不穏な空気をビリビリと感じ、不安を覚えた大吾郎が湯船からそっと出て、揉め事を起こさぬよう割って入ろうとした。しかし一歩遅かった。
「アマーネー、ホシザーキー。ゴカクゴ」
「は?」
その瞬間、ハルヒコが天音の左頬を平手打ちした。ベチン、とよく響く音だった。その場にいた全員の目が大きく見開かれ、サラと大吾郎は眉をひそめる。
「ユー、イツモヒトリデイライラネ。シューダンセイカツナノニ、ジブンノオモイドーリニナラナイコト、ゼンブユルセナイ。オレトサラチャンガナカヨシコヨシシテルノモ、キニクワナクテ、カッテニイライラ。ユー、ワガママデココロノセマーイチェリーボーイ」
「……」
「渦川くん何してんだ。天音……」
大吾郎が天音の肩に触れようとする。だが思わずその手を引っ込めるほど、彼はゾッとするような目つきでハルヒコを睨みつけていた。
「……オ、オオウ……ガラパゴスノメツキネ……ビッグウェーーブ、キソウナヨカン……」
平手打ちをした本人が圧倒され、狼狽して後ずさる。すると背後でサラが「ハルヒコ、謝ったほうがいいかも」と言った。だがその助言も目の前の鬼には意味をなさないと踏んだのか、ハルヒコはじりじりと後ずさったのち、頭が泡だらけのままサバンナのガゼルのごとく風呂場からダッシュした。
そして天音も裸のまま、餓えたチーターのごとく猛追する。
大吾郎も慌てて脱衣所に戻ると、身体もまともに拭かぬまま服を着てその後を追って行った。
「こらぁーーー渦川ァーーー!!!……と、……ほ、ほほほ星崎くん?!」
通りすがった芳賀が、全裸で疾走するふたりの男を見るや否や、その後ろにつくのが天音であることを知るとへなへなと脱力した。貧血を起こしたのだ。
「芳賀くん!ふたりどっち行った?!」
後からやってきた大吾郎が芳賀を助け起こすが、「わからない……もう僕には何にもわからない……」と繰り返すばかりであり、「俺だって分かんねえよ」と大吾郎はとりあえず芳賀を壁に立てかけ、追跡を再開した。
騒ぎに気づいた寮生たちがそこかしこから顔をのぞかせ、いつもなら静かな日曜の夜がざわめきに満ちた。大吾郎から事情を聞いた耀介も慌ててふたりを追い、騒々しさから廊下に出てきた珠希たちも、事情を聞いて部屋に引っ込もうとしたが、大吾郎たちに迫られて渋々ふたりを探すこととなった。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる