少年カイザー(挿絵複数有り)

めめくらげ

文字の大きさ
43 / 129

期末前

しおりを挟む

「ねー、君らって童貞?」

月曜日の昼休み、購買のサンドイッチを頬張る天音におもむろに問われ、山下は飲んでいたパックの茶でむせ、日吉は「急」と苦笑いした。

昼食をとる場所は様々だが、あたたかくなり出せばやはり中庭の木陰のベンチが最高だ。食べ終わればそのまますぐにグラウンドにも出ていける。この時間は、大吾郎は同じバスケ部の面々と、耀介も野球部員たちと固まっていることが多い。

天音はサッカー部の試合にたまに紛れ込むせいか、このサッカー少年たちとよくつるんでいる。

「ふたりとも彼女いるよね?」

「いるけど……」

「いつからだっけ」

「去年の夏」

「俺も」

「じゃーセックスしてないってことないよね」

セックスって……とふたりが照れたように笑う。

「まあしてないことはない」

「ない」

「最近は減ったけどな。何かヤりたがると機嫌悪くなるから」

「女って性欲ないよな」

「ふうん……」

「なに、天音彼女できた?」

「んーん。ただ何となく聞きたかっただけ」

「なんだあ?怪しいな、気になる子とかいるんじゃなくて?」

「違う」

「お前出会いとか探さないの?部活の打ち上げとか呼んでやってるのに、ぜんぜん来ないしさあ」

「高校生の打ち上げなんてねぇ。何が楽しいんだか」

鼻で笑う天音に、「お前も高校生だろ」と山下が返した。

「お前けっこーモテてるのにもったいないなあ。前に練習試合に顔出したときさ、相手チームの女子マネと応援の子たちが星崎くんかっこい~いとか言って、紹介しろって言われたんだぞ。それなのにお前、終わったらとっとと帰っちまってさあ」

すると天音はまた「高校生なんてねぇ」と嫌味っぽく笑い、日吉が「さっきから何コイツ」と顔をしかめた。

「じゃ年上がいいの?大学生とか?」

「別に出会いなんて求めてない。僕は童貞のままでいっこうに構わない」

「やけに童貞にこだわってるあたりが、そうとは思えない」

「強がってるよな」

「違うよ、ホントに違う。……それよりさあ、話変わるけど、僕ってイグアナに似てる?」

「い、イグアナ?」

「……ええ、どうだろ」

「ガラパゴスリクイグアナとか」

「ガラパゴス……?え、なに?わかんない」

「怪獣?」

「いや……ごめん。いい。似てなければいいんだ」

なぜか少し顔を赤くしてズルズルとパックの紅茶を吸い上げる天音に、山下と日吉は目配せをして首をかしげた。


午後の体育は長距離走だった。天音は運動部に所属していないが、毎日厳しい鍛錬をする運動部の生徒たちを大きく引き離し、半分の距離を過ぎたところで2位に食い込んでいた。1位は耀介だ。スポーツは観るのもやるのも全般好きなのだが、しかし自分でやる分には、ときどき助っ人で参加するサッカーやバスケの練習試合と、気楽な体育の授業だけでいいと思っている。

部活のように長く拘束される不自由な時間が嫌いだし、ビシバシしごかれて怒られるのだって絶対に嫌だ。だから放課後は静かな美術室にて、美術教師とたわいもない話をしながら、自由な心で絵を描いたり粘土をこねたりしている方がずっと気分がいい。

走っているとだんだん無心になるものだが、今日はずっとハルヒコとサラがチラチラと出現して邪魔をしてくる。こんな気持ちを抱くのは初めてだが、あの男の言うとおり、ふたりが仲良くしているのが気にくわない。
無いとは思うが、もしもハルヒコがトチ狂ってサラで童貞を捨てたらどうしよう、と考える。性欲しかない男子の巣窟だ。ふたりが珠希と高鷹のようなことになったっておかしくはない。

「あっ」

ズサっと砂埃をあげて転倒する。たぶん今ヒザをすりむいた。しかしすぐに起き上がるべきなのに、日に当たってあたたまった砂の上に腹ばいになるのは、なんと気持ちがいいのだろう。「よっしゃあー邪魔者が消えた!」と、後に続いていた生徒が速度を上げてどんどん追い抜いていく。

「星崎どうした?足痛めたか?」

2年の体育担当の片岡が心配して近づいてきたが、天音は顔も上げずに「あったかくて気持ちいいんです。」と返し、彼を呆れさせた。天音はこのとき、遠い南の島で日光浴をするイグアナの気分が、なんとなく分かったような気がした。

ー「あーあー、砂まみれ」

無事に1位で走り終えた耀介に笑われ、鼻についた砂を指先でぬぐわれた。天音は結局棄権となった。

「怪我してねえの?」

「ヒザすりむいただけ」

バシャバシャと顔を洗い、その場で汚れた体操服を脱ぎ、「ふー、明日も体育あるのに。これここで洗いたい」と言うと、「俺もユニフォーム洗うから、帰ったらまとめて洗濯しようぜ」と言われた。まるで家族のようだと今さらながらに感じた。

「せっかく2位だったのになあ。ラスト1周で耀介のこと抜かすつもりだったのに」

「ふ~ん、そのためにあんなチンタラ走ってたのか。体力温存してたんだな」

「あーそうだよ」

「美術部にしてはやるな」

「僕が野球部だったらすぐエースになって、地方大会も楽勝で突破できる」

「言ったな?今からブチ込んでもいいんだぞ。死ぬほどしごいてやる」

「1週間で下剋上を見せてあげるよ」

「ビッグマウスすぎるだろ」

「でも野球歴ゼロなのにほんとに今から入部して甲子園行けたらスターだよね」

「超スカウト来るな」

窓を全開にしても汗の匂いが立ち込める体育後の教室。異性の目がない空間はだらしなくたるんでいくばかりで、暑いからと半裸のまま次の授業を受ける者も多数ある。体操服が脱ぎ散らかされ、使用済みのタオルや汚れた片方だけの靴下が床に転がり、持ち込み禁止の成人誌は堂々と机上に置かれ、ゴミは分別もされずゴミ箱で山積みになり、誰のものかわからぬ飲みかけのレモンジュースのパックは、半月前からずっと同じ場所に置かれている。男だらけのむさ苦しい不潔な花園だ。

だが男子校の教室なんてものは、どんなに綺麗にしたってどうせすぐにこうなるのだ。綺麗好きを自称する者もこの環境にはすっかり慣れきっている。

しかし寮の共有スペースがこのような状態になっていたら、寮生はみんな必死で掃除をするだろう。なぜなら芳賀が口うるさいのもあるが、教室と違い、自分たちがそこに寝起きしなければならないからである。天音たちが入寮したてのころは当時の上級生たちが怠惰で、今のように整頓されておらず、まさしくこの教室のような野戦病院状態であった。こんな汚い場所で3年も暮らすのかと初日からウンザリしたものだ。

だから一晩かけて勝手に共有スペースの掃除をし、持ち主不明のものはたとえ教科書でも、遠慮なく捨ててもらうよう管理人のおばさんに頼んだおかげで、日ごとに少しずつ私物の放置も減り、半月後にはすっかり散らかされることはなくなっていた。その成果があったから、ひとりでは力不足で寮の惨状に頭を痛めていた当時の芳賀は、心強い補佐として天音を新たな副寮長に据えたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...