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ミレーナ視点
2050.05.01 知らない再会
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酒屋の引き戸を開けると、湿った木の匂いと、少し古い酒の甘さが混じった空気が流れ出た。
棚は低く、照明は暖色で、時間がここだけ遅れているような場所。
壁際に掛けられた丸い時計が、静かに秒を刻んでいる。
02時12分。
――2週間前に、敬司が亡くなった時刻。
敬司は週に2、3日ここに通ってくる。
時刻が、“彼を呼び寄せている”ことに気づいていない。
私はベージュのスーツの上着を軽く整え、
棚の前に立った。
仕事帰りを装うには、ちょうどいい色。
店の奥から、声が聞こえる。
「だからさ、桜樹。
その銘柄、また値上がりするって」
「まじか。
この前まとめ買いしとけばよかったな」
彼は生きている時のままの声で、瓶を手に取り、少し雑に棚に戻している。
隣には山崎隼。
二人とも、私に気づかない。
当然だ。
この世界では、私と彼らは、まだ出会っていない。
「つーかさ、最近妙じゃないか?」
敬司が、声を落とす。
「なにが?」
「いや……
なんか、見られてる感じ」
山崎が笑う。
「被害妄想だろ。
お前、ホラー動画見すぎなんだって」
(――違う)
私は、ミラーが敬司を監視していることを知っている。
レイヤー管理層の影。
人のふりをした観測者。
今もきっと、この店のどこかに“視線”を置いている。
敬司は、それを知らない。
「俺さ」
彼が瓶を一本持ち上げながら言う。
「最近、変な夢見るんだよ」
私の指が、わずかに止まる。
「夢?」
「うん。
白い場所で、誰かがすぐそばにいる感じ」
山崎が茶化す。
「なにそれ。
守護霊?」
「いや……
声は聞こえないんだけどさ」
敬司は少し考えてから、困ったように笑った。
「なんか、安心するんだよ」
その言葉が、私の中で反響する。
安心。
私は、彼の横顔を見る。
ほんの数メートル先。
生きて、笑って、何も知らない。
(私は彼を助けるためにここにいる。
でも、今は――)
ただ、見ているだけ。
時計の秒針が、
02時13分に進む。
この世界では、彼はもう死んでいる。
それでも、敬司は酒を選び、明日の話をしている。
私は棚から一本だけ酒を取り、レジへ向かう。
すれ違う瞬間、彼の肩と、私の袖が、触れそうで触れない。
(――まだ会うべき時じゃない)
ここでは、私は“関係者”ではない。
ミラーは監視を続ける。
私は、それを知っている。
そして、この何気ない会話が、いつか彼への選択へと繋がっていることも。
レジのベルが鳴る。
私は振り返らずに、酒屋を出た。
外の夜気は冷たく、時計の音は、もう聞こえなかった。
棚は低く、照明は暖色で、時間がここだけ遅れているような場所。
壁際に掛けられた丸い時計が、静かに秒を刻んでいる。
02時12分。
――2週間前に、敬司が亡くなった時刻。
敬司は週に2、3日ここに通ってくる。
時刻が、“彼を呼び寄せている”ことに気づいていない。
私はベージュのスーツの上着を軽く整え、
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店の奥から、声が聞こえる。
「だからさ、桜樹。
その銘柄、また値上がりするって」
「まじか。
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二人とも、私に気づかない。
当然だ。
この世界では、私と彼らは、まだ出会っていない。
「つーかさ、最近妙じゃないか?」
敬司が、声を落とす。
「なにが?」
「いや……
なんか、見られてる感じ」
山崎が笑う。
「被害妄想だろ。
お前、ホラー動画見すぎなんだって」
(――違う)
私は、ミラーが敬司を監視していることを知っている。
レイヤー管理層の影。
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今もきっと、この店のどこかに“視線”を置いている。
敬司は、それを知らない。
「俺さ」
彼が瓶を一本持ち上げながら言う。
「最近、変な夢見るんだよ」
私の指が、わずかに止まる。
「夢?」
「うん。
白い場所で、誰かがすぐそばにいる感じ」
山崎が茶化す。
「なにそれ。
守護霊?」
「いや……
声は聞こえないんだけどさ」
敬司は少し考えてから、困ったように笑った。
「なんか、安心するんだよ」
その言葉が、私の中で反響する。
安心。
私は、彼の横顔を見る。
ほんの数メートル先。
生きて、笑って、何も知らない。
(私は彼を助けるためにここにいる。
でも、今は――)
ただ、見ているだけ。
時計の秒針が、
02時13分に進む。
この世界では、彼はもう死んでいる。
それでも、敬司は酒を選び、明日の話をしている。
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すれ違う瞬間、彼の肩と、私の袖が、触れそうで触れない。
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私は、それを知っている。
そして、この何気ない会話が、いつか彼への選択へと繋がっていることも。
レジのベルが鳴る。
私は振り返らずに、酒屋を出た。
外の夜気は冷たく、時計の音は、もう聞こえなかった。
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