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第3章 真実
5、崩壊の前兆
サグラダ・ファミリア・ラウンジは、もはや“建物”という概念を保っていなかった。
壁の向こうで、低く、重たい音が周期的に鳴る。軋み。剥離。崩落の予兆。
臨海カウントダウン――世界そのものが、終端へ向かって数を刻んでいる。
周囲で人々が、世界の異変に混乱しながら、恐怖と不安でどこへ行くとも定まらずに逃げ惑っている。
桜樹敬司は、一人取り残された。
ほんの少し前まで、そこにミレーナがいた。
世界を救うために、現実世界へ移行していった。
ラウンジの天井から、細かな石片が落ちる。
桜樹はそれを見上げながら、静かに息を吐いた。
――結局、最後は一人か。
その時だった。
背後で、足音がした。
瓦礫を踏みしめる、はっきりとした“生身”の音。
「酷いことになったな」
桜樹は、反射的に振り返る。
「……山崎?」
埃にまみれた男が、苦笑いを浮かべて立っていた。
スーツは破れ、ネクタイもない。それでも、確かに生きている。
桜樹は思わず声を荒げた。
「無事だったのか!」
山崎は肩をすくめる。
「ギリギリな。
ロンドンの地下鉄に乗り込んで抜け出した。
あそこから脱出する羽目になるとは思わなかった」
「……生きてたか」
その一言に、感情が滲んだ。
二人は並んで、ラウンジの奥――崩れかけた大きな窓の向こうを見る。
空間が歪み、都市の輪郭が遠くで崩れていく。
光が反転し、時間が引き延ばされるような、不自然な世界の終わり。
山崎が低く言った。
「これが……前兆ってやつか」
「ああ」
桜樹は答えた。
「もう戻らない。
ミレーナが向こうに行った以上、この世界は“結果”を待つだけだ」
山崎は少し黙ってから、横目で桜樹を見る。
「一人で残る覚悟、できてた顔じゃないな」
桜樹は、小さく笑った。
「……誰かが来る気はしてた。
理由は分からないけど」
「それで十分だ」
山崎は軽く、だが深い思いを抱えて、崩れかかる空を見上げた。
「もし世界が救われたら、
ーーまた酒屋で呑み明かそう」
再び、轟音。
ラウンジの床に、細かな亀裂が走る。
二人は、言葉を失ったまま立ち尽くす。
世界が終わる、その直前を――見届けるために。
桜樹の視線は、もう崩れゆく景色ではなく、
ーミレーナが去っていった“現実への方向”ーに向いていた。
――頼むぞ。
声には出さず、そう呟く。
カウントは、確実に零へ近づいていた。
壁の向こうで、低く、重たい音が周期的に鳴る。軋み。剥離。崩落の予兆。
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桜樹敬司は、一人取り残された。
ほんの少し前まで、そこにミレーナがいた。
世界を救うために、現実世界へ移行していった。
ラウンジの天井から、細かな石片が落ちる。
桜樹はそれを見上げながら、静かに息を吐いた。
――結局、最後は一人か。
その時だった。
背後で、足音がした。
瓦礫を踏みしめる、はっきりとした“生身”の音。
「酷いことになったな」
桜樹は、反射的に振り返る。
「……山崎?」
埃にまみれた男が、苦笑いを浮かべて立っていた。
スーツは破れ、ネクタイもない。それでも、確かに生きている。
桜樹は思わず声を荒げた。
「無事だったのか!」
山崎は肩をすくめる。
「ギリギリな。
ロンドンの地下鉄に乗り込んで抜け出した。
あそこから脱出する羽目になるとは思わなかった」
「……生きてたか」
その一言に、感情が滲んだ。
二人は並んで、ラウンジの奥――崩れかけた大きな窓の向こうを見る。
空間が歪み、都市の輪郭が遠くで崩れていく。
光が反転し、時間が引き延ばされるような、不自然な世界の終わり。
山崎が低く言った。
「これが……前兆ってやつか」
「ああ」
桜樹は答えた。
「もう戻らない。
ミレーナが向こうに行った以上、この世界は“結果”を待つだけだ」
山崎は少し黙ってから、横目で桜樹を見る。
「一人で残る覚悟、できてた顔じゃないな」
桜樹は、小さく笑った。
「……誰かが来る気はしてた。
理由は分からないけど」
「それで十分だ」
山崎は軽く、だが深い思いを抱えて、崩れかかる空を見上げた。
「もし世界が救われたら、
ーーまた酒屋で呑み明かそう」
再び、轟音。
ラウンジの床に、細かな亀裂が走る。
二人は、言葉を失ったまま立ち尽くす。
世界が終わる、その直前を――見届けるために。
桜樹の視線は、もう崩れゆく景色ではなく、
ーミレーナが去っていった“現実への方向”ーに向いていた。
――頼むぞ。
声には出さず、そう呟く。
カウントは、確実に零へ近づいていた。
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