あるある

ちょこぼーらー

文字の大きさ
5 / 7

再現VTR

しおりを挟む
『良い子のみんなー!
 こーんにーちはー!
 ……あれー? 声がちいさいぞー? もういちどいくよー。
 こーんにーちはー!!』


 とある遊園地のステージ。
 ショッピングモールの特設ステージ。
 住宅展示場、イベント会場の特設ステージ。
 それぞれの場所で行われているのは戦隊ヒーローショーや人気アニメの着ぐるみショー。

『いろいろな場所で同時に着ぐるみショーは行われているんですが、開催されるのはほとんどがその時にOAされている旬のタイトルか、せいぜい前の年のタイトルです。じゃあ、それ以前に活躍したヒーロー達の着ぐるみはどうなっているのかというと、ひとつだけ残して残りはすべて潰して処分します。名目としては「同じヒーローが複数存在していてはいけない」ということだそうです。

 わたしは一度だけその作業に立ち合った事があるんですが、その作業をするに当たってはウソかホントか、以前からある噂が……。

 ーーーその、ヒーロー達の衣装を潰す作業に関わると、何かしらおかしな事に遭遇するらしいーーー

 大きなものだと交通事故、小さなものだと小物の紛失。偶然だと思う事もできますが、その日の内の出来事の話を集めると誰もが「そういえばこんなことが……」
 と言い出すらしいのです。

 わたしはその日は衣装を潰す作業の後、翌日のヒーローショーの練習の予定でした。翌日のヒーローショーのチームのサブリーダーだったので、チームリーダーのお供で潰し作業の立ち合いに参加した形です。

 ヒーローショーのチームは単発のアルバイトたちで構成されていて、役者とMCのみのチームでそれぞれの現場に向かいます。車輌の運転、PAやステージのセッティングや現場での挨拶折衝場合によっては録画なども全て自分達でします。なので現着後は一度リハーサル出来る時間があれば御の字で、じゃあいつ練習するのかというと、前日の夜。アクション事務所の近くの公園で2、3時間程で顔合わせから振り付け、バンに翌日の荷物を積み込むところまでやって、じゃあ明日朝何処其処に集合! って解散になります。はっきり言ってとても忙しいです。
 なのにその日、練習開始直後にシューズの紐が切れてしまって……。

 アスファルトやゴム舗装なら平気で靴を脱いで練習するのですが、その日はたまたま……そう、たまたま砂利のところしか練習場所が空いてなくて、時間も無いので仕方ないからと巾着の紐を代用してなんとか練習していました。

『どんな負荷をかけたら靴紐って切れるんだ!?』

 なんてメンバーからからかわれましたが、着ぐるみを潰す作業に立ち合った後なので、一緒に行ったリーダーとわたしは内心で「こういうことか……」なんて思っていました。組紐の靴紐なんてそうそう切れるものじゃあないですから。
 それでも交通事故がどうのと聞いていたので「靴紐が切れた程度でよかった」、大した事でなくて、なんて思っていたんです。

 フラグでした。

 クライマックスのアクションシーンが始まる時に、わたしはステージ袖からミニトラで飛び上がって登場する事になりました。紅一点のヒロイン役ではありましたが、わたしがミニトラアクション大好きなので。荷物にもなるので他のチームはあまり使わないのですが、その日はわたしが事務所に数台しかないミニトラを確保して持ち込んでいました。

 そのミニトラで高く飛んで、ついでにくるっと宙返りしながらステージを想定した枠内に着地して、ヒーロー達の乱戦場面に突入しようと駆け出した途端、小さくバチッと音がして、気が付くとわたしは砂利の仮想ステージで派手に転がっていました。それはもう、ジャージの何ヵ所かに穴が空いてしまうほどでしたから、当然中身の馬上さくらは傷だらけでしたね……。

 靴が片方脱げてしまっていたので見ると、靴紐が切れていました。最初に靴紐が切れた方の靴ではない方の靴紐が、最初に切れた物とまったく同じように切れていたんです。

 怪我は擦り傷と打ち身多数で、周囲で練習していたチームも含めいつもの練習風景が騒然となり、わたしはしばらくミニトラ使用禁止になり、砂利場での練習も禁止になりました。

 翌日のショーですか?
 出ましたよ。
 ヒロインらしく激しい殺陣はなしのステージになってしまいましたが……。

 でもその日はそれだけじゃありませんでした。

 わたしは見ているだけになってしまいましたが、なんとか通しで振り付けだけ終わらせて、後は翌日現場でリハーサルをしようということになりました。エンディングにダンスがありますが、幸い全員別のキャラクターショーの経験があったので、そのテーマ曲の振り付けを少しいじって流用です。

 その後翌日のチームの衣装や音響機器……もちろんミニトラはありません。荷物を全員でバンに積み込んで解散するのですが、その日使用する予定の車輌のタイヤがパンクしていたのです。昼間、着ぐるみの潰しの立ち合いに行くのに使用した車輌でした。
 流石に社長も「すごい偶然だな! ……あからさま過ぎるだろオイ」なんて言って呆れていました。変事ではありますが、今回もこれまでも人命に関わるような事は起こっていないそうです。

 翌日本番後、今回他のチームだった人達数人と社長とで帰社後に打ち上げをした際に聞いた話です。

 ヒーローショーはヒーローだけでは成り立ちません。雑魚兵士や、役もなく音響等の雑用での参加になるスタッフもいます。それにスタッフだけでなく、熱狂的なファンも少なからずいるのです。
 キャラクターの衣装を潰す時に何かしらの変事が起こるのは、そういう役の奪い合いや熱心なファンの思念のようなものの断末魔なのではないかと……』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...