城ヲタ彼氏と城攻めしてたら異世界に来ちゃった件

ちょこぼーらー

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プロローグ

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「山じゃん!!」

「ぶはっ」

「今日は城攻めだって言ってたよね!?」



 今日は3回目のデート。

 先週買ったかわいいネイビーのキャミワンピを着てはりきって来たのに、バスを降りて歩いているのは山道。

 ショートブーツで来てよかった。サンダルと迷ったんだよね。



 でなくて。



「山城なんて聞いてないよ!」

「一応、平山城っていわれているね。ほら、さっきバス停降りてこの道入った辺りが大手で、ここもほんとはもっとがっつりした切岸だったんだけど、戦時中は軍の施設が置かれていたらしくってさ。車が通れる道に整備されちゃったんだよ」



 だからほら、歩きやすいでしょ? なんて言ってる彼、桜井さんはにこにこしてすっごく嬉しそうに解説してくれるけど、あそこに竪堀が~とかいわれても落ち葉の積もった山の斜面にしか見えない……。城ヲタめ……。



 彼は城ヲタだけどわたしだって歴史好きだ。歴女を名乗るほどじゃないけど。

 最初のデートは歴史博物館の特別展示見に行ったし、2回目のデートだってお城だった。いや、皇居だけど……。でも、江戸城行こうよってここが本丸御殿で巽櫓でって天守台も登って。それで帰りに新橋のオシャレなイタリアンで3回目…今日のデートの約束……。またお城行こうって……。したけど……。



「山じゃん!!」



 しかもなんか道外れて竹ヤブの方入って行くんだけど!?

 こんなところ入っちゃっていいのかな……。



「ねえ! こんなところ入っちゃっていいの!?」

「大丈夫だよ。こっちから行くとすごい土塁が見れるんだよ!」

「…………」

「縄張り図でいうとね……」



 手に持っていたリーフレットを広げて見せてくれるけど縄張り図の見方なんかわかんないし。



「…………そっちの、香川さんのイラストの方見せてほしいかな」



 リーフレットの裏面、本来は表のイラストを見せてもらうけど、なんだか段段畑っぽい……。古い時代のお城なのかな。古代の大規模集落のようにもみえる。

 さっき大手って言ってたからこっからこうきて……。うん、わからん。



「天守とか石垣とか……」

「ないねえ」



 ”天守閣”っていうのは戦後からで本来は”天守”が正しいんだよって出逢った日に言ってたの、ちゃんと覚えてるんだ。

「お城好きなんだね」って言ったら「城ヲタですから」キラーンってどや顔で言うからおかしくって笑っちゃった。

 しょうがないなあ。



「関東は土の城っていわれてて、西日本の近世城郭みたいな石垣のお城は少ないみたいだね。関東ローム層はめっちゃ滑るってはなしだから石垣積めないんじゃないかな」

「関東ローム層って東京と同じってこと?」

「ここも都内だよ」

「うそっ! だって山じゃん!!」



「東京にだって山はあるでしょ」なんて言って楽しそうににこにこしてる。

 そういえばバスの中でかわいいオシャレなリュックをプレゼントしてくれて、今!?とか剥き身で!?とか思ったけど、中に虫除けとかプチ救急キットなんかが入ってて。もらった時は今度はキャンプにでも誘われるのかと思っていたけど、今になって納得したわ……。



「こっちから上がると展望広場に行けるんだ。はるかちゃん疲れちゃったでしょ。上にベンチとか売店とかあるから休憩しよう」

「え、売店があるの」

「あ、いや。自販機コーナーだけど……」



 気遣いができるいい人だと思う。ちょっと突っ走っちゃうけど。





 そして、戦国時代の足軽よろしく本丸があったという展望広場目指して道でない場所を登っている途中で足を滑らせたわたしは、ごろごろと落ち葉の積もった山の斜面を転がり落ちていった。

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