稲木 糸

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今回は、イルミネーションの中で撮影をすることになった。

私はイルミネーションの良さが分からない。

僻みだと思われるだろうが、悪い思い出ある訳でもない。

それより、その眩しく意味の無いような光の中で彼が光っているのだけは分かる。

よっぽど彼の方が綺麗だ。

それは一目瞭然。

カメラのシャッターが切られる。

その美しい一瞬をメモリの中に落とし込んでいく。

そのまま実物の方が美しいのは100も承知。

その美しさを保存し、共有するのが彼の仕事。

私にそこまでの美しさはないが彼と同じことをする。

私の番になり、私にカメラが向けられる。

この光景にも慣れてきた。

教わったポージングをカメラの前でする。

本当に綺麗に見えるだろうか、私は彼のようにはなれない。

「いいよ」という本当か嘘か分からない言葉をかけられる。

キラキラした目でイルミネーションを見れなくて申し訳なくなる。

ふと上を向く。

眩しいだけだ。

目線を落とせば、彼がイルミネーションをカメラを向けられた時よりも興味なさげに見上げていた。

「おっいい表情」

心の底からの声が聞こえた。

それはそうだ。

私はこの世でいちばん綺麗なものを瞳に撮したのだから。

最後にツーショットになった。

彼は小声で言った。

「イルミネーション興味無いんだね」

「きみもでしょ」

「うん。やっぱり面白いね」

彼は私の頬に手を添えそういい微笑んだ。

私も彼と同じように彼の頬に手を添える。

私も彼の顔を見て顔が綻んだ。

「珍しい」

誰かがそう言った。

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