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17. 襲撃 2
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あ、また説明文だらけ?に(/ _ ; )
よろしくお願いします。
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出発当初は黒塗りの馬車の小さな窓から顔を覗かせ、凛々しいルビアの姿に黄色い声をあげていた侍女たちであったが、幾度目かの休憩後には様相が変わってしまっていた。
軽快に進む先頭の馬車とは対照的に護衛対象者と4人の侍女が乗っている、まるで囚人を護送するような厳めしい黒馬車はスプリングも碌に効かないようで絶えずガタガタと揺れ続けている。
馬車内で揺られ続けている侍女たちはといえば、皆ふらふらと足元がおぼつかない状態で、降りてきて少しでも平らな大地を求め休憩をとろうとしていた。
中には茂みで苦しんでいる者もいる。
更に黒馬車はその揺れのせいか、元々の性能が悪いのかどうしても遅れてしまう。
ついには殿の荷台馬車に追い抜かれる始末である。
一団の最後尾である黒馬車がようやく休憩地に辿り着いた時には先に到着している使節団と護衛兵たちは十分な休憩を取り終わっており、遅れて入る令嬢たちには十分な時間も与えられぬまま出立を促されるのだ。
遅れが即ち、休憩時間の短縮となり、しっかりと休めないことが更なる遅れと疲れを招いていた。
前の馬車を見失うまいと御者は走らせようとするが、並走しているジャックたちは黒塗馬車の揺れが大きくなるたび、横転してしまうのではないかと本気で心配していた。
もう一つ気懸りなことがあった。それは警護対象の令嬢が休憩時に馬車から出てくる気配がないことだった。
ジャックたちは本当に令嬢は存在しているのかと疑いだしていた。
「おい、マジでいないんじゃねーの?」
「それもそーだよなぁ、1回も休憩で出てこないってないよな?」
「いっちょ賭けるか?」
「いいぜ、俺はいないに金貨1枚賭ける!」
「なら、俺っちはいる!にしとくか」
「赤い大地」のブルとピットは賭けまでする始末だ。
その懸案が晴れたのは、その夜、泊まる宿に着いた時である。
大きなボンネット帽を深く被り、そこから茶色の髪が見える小柄な人物が馬車から出てきたのだ。
「ちぇ、マジか」
「お、悪いなぁ金1もらいっ!」
ブルとピットがコショコショ話している。どうやらブルが賭けに勝ったらしい。
小柄な令嬢は俯いたまま、貴族の令嬢が持つのに相応しくない藤籠を大事そうに抱え一人で馬車を降りよろけるように宿に入る。
何しろあの馬車に乗っていたのだ。
先に降車した侍女たちも口にハンカチを当てている者、真っ青な顔をして助け合って歩いている者と、一人として令嬢の世話ができる状態の者がいるようには見えない。
がしかし、それは仕方がないという言葉で終わって良いのだろうか、と別の疑問も生んでいた。
そしてその夜、もう一つ、ルビアたちはこの一行がガルドゥーン帝国へのティルドルフ王国使節団であり、率いているのは家督を継いだばかりの若きハマス伯爵と長年王家に支えているラウレア子爵であることを宿の主人から聞いたのだった。
翌朝、早々と宿を出発しようとした使節団一行であったが、令嬢と侍女たちの支度に時間がかかっていた。
それは侍女の中で一番年若の侍女が酷い目眩とそれからくる吐き気にベッドから出ることができなかったからであった。
使節団の責任者であるハマス伯爵は仕方なくその侍女を宿に残すことにした。
侍女たちは仲間の一人がこの苦しみから解放されたことを知り、張り詰めていた責務という鎖が切れたのか、2日目の夜、侍女の一人がハマス伯爵に直接、体調の悪さとその過酷な待遇を訴え、宿に残ると主張したのだ。
その侍女はハマス伯爵所縁の者だったらしくその主張は簡単に通ってしまい、3日目にして侍女は二人となってしまった。
侍女が二人欠けようがそれでも5台の馬車と護衛騎馬兵たちは速度を緩めない。
大きめの町に派兵されている騎士たちの軍馬を国務という免罪符をもって徴収し、替え馬をしては進み続ける。
そうしてこの3日間で王都からかなり距離を稼いでいた一団は、その日の宿を小さな村でとることになった。
宿屋は1件しかなく全員がもちろん宿泊できるわけもなく、護衛兵やルビアたちは宿の周りに荷台馬車を停車させ、その周りで野営することになった。
この後に続くであろうモアリナ魔森林は広く越えるためには野営は必須であり、それも考慮されているのであろう。
『その予行演習といったところか』とルビアは思った。
突然の野営指示に戸惑いを隠せない「赤い大地」の面々であったが、ルビアが明るく言い放った「まぁ、こんなこともあるさ」との一言で気をとり直し準備したのだった。
しかしそこで異変が起きた。
宿で口にした物がいけなかったのか、野営での食べ物か飲み物なのか、一団の半数近くが食中りを起こしてしまったのだ。
症状が軽い者から、何度も戻し更に用を足しに頻繁に走る者までいた。
これには使節団長たるハマス伯爵ももう1泊すべきではないかと考えたようだったが、経験豊富なラウレア子爵に和かに「国務ですからなぁ」と一蹴され、早朝ではなくせめてもの対応として午前中の出発となったのだったが、もちろんルビアたちに詳細など知らされることはなかった。
そして翌日、ルビアの予想通りに残りの令嬢付きの侍女二人は食中りの症状が酷いとされ、二人とも翌日の馬車には乗らなかった。
ルビアは気付いていた。
食べ物からの異臭と、そしてそれは侍女の一人によって混入されたことも。
「赤い大地」は護衛任務中の定石として全員が同じものを同時に食することはしなかった。
更にルビアの合図にすぐ気付いたため、誰一人食中りにはならなかった。
意図されたのか、食べられないほどに体調が優れないせいなのか、そこは不明だが令嬢も食中りにはならなかったようだ。
ただ、初日から食事も休憩もまともに取れていない令嬢は日を追う毎にその顔色は青く、白く、紫色に震える小さな唇も見るものがいたならば、痛々しいほどにささくれていることに気付いただろう。
このほんの4日ほどでコルセット不要の体つきになっていた。
それでも一人でしっかりとドレスを着込み、ボンネット帽を深く被りリボンでしっかり固定し、藤籠を大事そうに抱え宿屋の階段を降りてくる。
そしてあの黒馬車に乗り込もうとする姿にルビアだけでなく「赤い大地」の面々もさすがは高位貴族の令嬢だと感心していた。
ルビアは幾度となくもう少しゆっくり走らせるように進言しているが状況は変わらない。
特に侍女がいなくなってからは令嬢の世話をする者がいないため、「赤い大地」で唯一の女性であり、回復魔術が使えるケリーが黒塗馬車に同乗し手当てを施しなんとか乗り切ろうと試みるのだった。
よろしくお願いします。
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出発当初は黒塗りの馬車の小さな窓から顔を覗かせ、凛々しいルビアの姿に黄色い声をあげていた侍女たちであったが、幾度目かの休憩後には様相が変わってしまっていた。
軽快に進む先頭の馬車とは対照的に護衛対象者と4人の侍女が乗っている、まるで囚人を護送するような厳めしい黒馬車はスプリングも碌に効かないようで絶えずガタガタと揺れ続けている。
馬車内で揺られ続けている侍女たちはといえば、皆ふらふらと足元がおぼつかない状態で、降りてきて少しでも平らな大地を求め休憩をとろうとしていた。
中には茂みで苦しんでいる者もいる。
更に黒馬車はその揺れのせいか、元々の性能が悪いのかどうしても遅れてしまう。
ついには殿の荷台馬車に追い抜かれる始末である。
一団の最後尾である黒馬車がようやく休憩地に辿り着いた時には先に到着している使節団と護衛兵たちは十分な休憩を取り終わっており、遅れて入る令嬢たちには十分な時間も与えられぬまま出立を促されるのだ。
遅れが即ち、休憩時間の短縮となり、しっかりと休めないことが更なる遅れと疲れを招いていた。
前の馬車を見失うまいと御者は走らせようとするが、並走しているジャックたちは黒塗馬車の揺れが大きくなるたび、横転してしまうのではないかと本気で心配していた。
もう一つ気懸りなことがあった。それは警護対象の令嬢が休憩時に馬車から出てくる気配がないことだった。
ジャックたちは本当に令嬢は存在しているのかと疑いだしていた。
「おい、マジでいないんじゃねーの?」
「それもそーだよなぁ、1回も休憩で出てこないってないよな?」
「いっちょ賭けるか?」
「いいぜ、俺はいないに金貨1枚賭ける!」
「なら、俺っちはいる!にしとくか」
「赤い大地」のブルとピットは賭けまでする始末だ。
その懸案が晴れたのは、その夜、泊まる宿に着いた時である。
大きなボンネット帽を深く被り、そこから茶色の髪が見える小柄な人物が馬車から出てきたのだ。
「ちぇ、マジか」
「お、悪いなぁ金1もらいっ!」
ブルとピットがコショコショ話している。どうやらブルが賭けに勝ったらしい。
小柄な令嬢は俯いたまま、貴族の令嬢が持つのに相応しくない藤籠を大事そうに抱え一人で馬車を降りよろけるように宿に入る。
何しろあの馬車に乗っていたのだ。
先に降車した侍女たちも口にハンカチを当てている者、真っ青な顔をして助け合って歩いている者と、一人として令嬢の世話ができる状態の者がいるようには見えない。
がしかし、それは仕方がないという言葉で終わって良いのだろうか、と別の疑問も生んでいた。
そしてその夜、もう一つ、ルビアたちはこの一行がガルドゥーン帝国へのティルドルフ王国使節団であり、率いているのは家督を継いだばかりの若きハマス伯爵と長年王家に支えているラウレア子爵であることを宿の主人から聞いたのだった。
翌朝、早々と宿を出発しようとした使節団一行であったが、令嬢と侍女たちの支度に時間がかかっていた。
それは侍女の中で一番年若の侍女が酷い目眩とそれからくる吐き気にベッドから出ることができなかったからであった。
使節団の責任者であるハマス伯爵は仕方なくその侍女を宿に残すことにした。
侍女たちは仲間の一人がこの苦しみから解放されたことを知り、張り詰めていた責務という鎖が切れたのか、2日目の夜、侍女の一人がハマス伯爵に直接、体調の悪さとその過酷な待遇を訴え、宿に残ると主張したのだ。
その侍女はハマス伯爵所縁の者だったらしくその主張は簡単に通ってしまい、3日目にして侍女は二人となってしまった。
侍女が二人欠けようがそれでも5台の馬車と護衛騎馬兵たちは速度を緩めない。
大きめの町に派兵されている騎士たちの軍馬を国務という免罪符をもって徴収し、替え馬をしては進み続ける。
そうしてこの3日間で王都からかなり距離を稼いでいた一団は、その日の宿を小さな村でとることになった。
宿屋は1件しかなく全員がもちろん宿泊できるわけもなく、護衛兵やルビアたちは宿の周りに荷台馬車を停車させ、その周りで野営することになった。
この後に続くであろうモアリナ魔森林は広く越えるためには野営は必須であり、それも考慮されているのであろう。
『その予行演習といったところか』とルビアは思った。
突然の野営指示に戸惑いを隠せない「赤い大地」の面々であったが、ルビアが明るく言い放った「まぁ、こんなこともあるさ」との一言で気をとり直し準備したのだった。
しかしそこで異変が起きた。
宿で口にした物がいけなかったのか、野営での食べ物か飲み物なのか、一団の半数近くが食中りを起こしてしまったのだ。
症状が軽い者から、何度も戻し更に用を足しに頻繁に走る者までいた。
これには使節団長たるハマス伯爵ももう1泊すべきではないかと考えたようだったが、経験豊富なラウレア子爵に和かに「国務ですからなぁ」と一蹴され、早朝ではなくせめてもの対応として午前中の出発となったのだったが、もちろんルビアたちに詳細など知らされることはなかった。
そして翌日、ルビアの予想通りに残りの令嬢付きの侍女二人は食中りの症状が酷いとされ、二人とも翌日の馬車には乗らなかった。
ルビアは気付いていた。
食べ物からの異臭と、そしてそれは侍女の一人によって混入されたことも。
「赤い大地」は護衛任務中の定石として全員が同じものを同時に食することはしなかった。
更にルビアの合図にすぐ気付いたため、誰一人食中りにはならなかった。
意図されたのか、食べられないほどに体調が優れないせいなのか、そこは不明だが令嬢も食中りにはならなかったようだ。
ただ、初日から食事も休憩もまともに取れていない令嬢は日を追う毎にその顔色は青く、白く、紫色に震える小さな唇も見るものがいたならば、痛々しいほどにささくれていることに気付いただろう。
このほんの4日ほどでコルセット不要の体つきになっていた。
それでも一人でしっかりとドレスを着込み、ボンネット帽を深く被りリボンでしっかり固定し、藤籠を大事そうに抱え宿屋の階段を降りてくる。
そしてあの黒馬車に乗り込もうとする姿にルビアだけでなく「赤い大地」の面々もさすがは高位貴族の令嬢だと感心していた。
ルビアは幾度となくもう少しゆっくり走らせるように進言しているが状況は変わらない。
特に侍女がいなくなってからは令嬢の世話をする者がいないため、「赤い大地」で唯一の女性であり、回復魔術が使えるケリーが黒塗馬車に同乗し手当てを施しなんとか乗り切ろうと試みるのだった。
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