3 / 3
エメラルドフラワー
しおりを挟む
──この世界には、魔法少女が存在する。
怪人や怪獣が現れるたび、彼女たちは光の力を振るって街を守る。
けれど、その輝きにも終わりはある。
放課後の陽が傾く頃、九条家の応接間。
重厚な調度に囲まれて、希咲良は姿勢よく椅子に腰掛けていた。長いブロンドの髪、モデルの様に整った容姿。学業優秀、スポーツ万能。高校三年生にしてはあまりにも大人びた雰囲気で、どこに出しても恥ずかしくない、名家・九条家の令嬢だ。向かいには、彼女の母。
「希咲良。卒業後のことだけれど──」
「ご心配には及びません、お母様。既に受験する大学も決まっております。学業も滞りなく進めておりますので、何の問題もありません」
「それは何よりね」母は微笑みながらも声を落とす。「……けれど、貴女には縁談の話も来ているのよ。昨今は怪人の出現も増えているでしょう。何があるか分からない時代だから、九条家の跡取りとして、早めに身を固めるのも大切な選択肢。心に留めておいてちょうだい」
「……承知しております」
感情を揺らすことなく、希咲良は頷いた。
自室に戻ると、ベッドの上で小さな妖精が待っていた。透き通るような緑の羽を持つ存在──魔法妖精、メローヌだ。
そう、何を隠そう、九条希咲良は魔法少女だ。
エメラルドフラワー──鮮やかな緑の髪とロングドレスの様な衣装を翻し、風を流麗に操って怪人を圧倒する。『史上最も美しい魔法少女』と呼ばれる存在だ。その実力も折り紙つきで、その場から一歩も動かずどんな怪人も怪獣も退治してみせ、付近の民衆に被害をただの一度も出したことがない。街への被害も最小限に抑え、その名に恥じぬ、歴代最強との呼び声も高い魔法少女だ。
しかし──
「希咲良、街に怪人が現れているようだ。……今回も、変身する気は無いのかい?」
「言ったはずです。私はもう引退したも同然だと」
「しかし、君の力ならまだまだ戦える。君の力は、誰よりも美しく、強いのに……」
「お気持ちは察しますが、私には私の人生があります。将来の夫に、もし魔法少女だと知られたら?人妻の魔法少女、だなんて……。ふふ、私にはそんな恥ずかしさ、とても耐えられません」
「だ、だが……!」
「それに──」
希咲良はリモコンを手に取り、テレビをつける。
そこでは別の魔法少女たちが懸命に戦っていた。火花が散り、風が唸る。
彼女は小さく微笑んで言う。
「もう、私の出る幕は無いでしょう」
─────
翌日もまた、怪人のニュースが流れていた。だが希咲良は意にも介さない。
学校へ行き、授業を受け、友人たちと談笑する。
昼休みには購買でパンを買い、放課後はカフェに立ち寄る。
「ねえ希咲良、また魔法少女が戦ってたみたいよ!」
「まぁ……そうでしたの」
友人たちが口々に話題にするのを、希咲良は涼しい顔で聞き流す。
またある日には、縁談の相手とのディナー。
「九条さん、ここの料理はどうだい?僕は気に入っているが、君の口にも合うと良いな」
「味も口触りも、非常に私好みですね。ふふ、よく下調べをされているようで」
「いやいや、そういうわけでは……」
「冗談ですよ。……お酒のお相手は、ごめんなさい」
「勿論だとも。未成年に飲ませるような事は断じてしない。……だが、いずれは二人で楽しみたいと思っているよ」
自身より一回り以上年上の男。はっきり言って下心は有るだろうが、気を引こうと努力する姿勢はある。
「……」
希咲良は食事の手を止め、窓の外の夜景を静かに見やる。
日常は静かに、しかし確かに続いていく。
─────
そして、街を揺るがすほどの巨大怪獣が出現したのは、そんなある日の放課後だった。
希咲良は友人たちと、巨大怪獣が現れたのとは別の街を歩いていた。ビルの壁面にある街頭ビジョンが緊急中継を流す。
画面には、魔法少女たちが束になって挑む姿。しかし、その力は怪獣に届かず、押し返されるばかり。
「やばくない……?負けちゃいそうだよ……」
「どうなっちゃうんだろう……この街にも来るのかな」
友人たちの顔に不安が広がる。
希咲良はじっと画面を見上げる。その脳内に、テレパシーによるメローヌの声が響いた。
『希咲良……本当に、良いのか?君ならきっと、あの怪獣を倒せる!まだ終わってなどいないはずだ!』
希咲良は答えない。ただ瞳を細め、思考に沈む。
その時。
白銀の輝きが空を裂いた。
ホワイトスノー──“現役最強”と謳われる魔法少女の登場だ。
彼女のたった一撃で、巨大怪獣はあっさりと塵と化した。
歓声が街に響き渡る。
無表情のまま、風に翻る白い衣を纏い、ホワイトスノーは去っていった。
その横顔が街頭ビジョンに映し出された瞬間、希咲良はふっと失笑する。
「……ほらね。もう私は必要ないんですよ。残念でしたね、メローヌ」
そう告げると、彼女は友人たちに微笑みかける。
「さぁ、行きましょう。折角の放課後なのですから」
その背に、メローヌのかすかな声が追う。
『希咲良……』
けれど彼女は気にも留めない。
「JKブランドと学友は、今この時にしか輝かないのです。魔法少女の肩書きなど、その足元にも及ばないと、そうは思いませんか?」
そう言って笑った希咲良の横顔は、どこまでも凛として美しかった。
怪人や怪獣が現れるたび、彼女たちは光の力を振るって街を守る。
けれど、その輝きにも終わりはある。
放課後の陽が傾く頃、九条家の応接間。
重厚な調度に囲まれて、希咲良は姿勢よく椅子に腰掛けていた。長いブロンドの髪、モデルの様に整った容姿。学業優秀、スポーツ万能。高校三年生にしてはあまりにも大人びた雰囲気で、どこに出しても恥ずかしくない、名家・九条家の令嬢だ。向かいには、彼女の母。
「希咲良。卒業後のことだけれど──」
「ご心配には及びません、お母様。既に受験する大学も決まっております。学業も滞りなく進めておりますので、何の問題もありません」
「それは何よりね」母は微笑みながらも声を落とす。「……けれど、貴女には縁談の話も来ているのよ。昨今は怪人の出現も増えているでしょう。何があるか分からない時代だから、九条家の跡取りとして、早めに身を固めるのも大切な選択肢。心に留めておいてちょうだい」
「……承知しております」
感情を揺らすことなく、希咲良は頷いた。
自室に戻ると、ベッドの上で小さな妖精が待っていた。透き通るような緑の羽を持つ存在──魔法妖精、メローヌだ。
そう、何を隠そう、九条希咲良は魔法少女だ。
エメラルドフラワー──鮮やかな緑の髪とロングドレスの様な衣装を翻し、風を流麗に操って怪人を圧倒する。『史上最も美しい魔法少女』と呼ばれる存在だ。その実力も折り紙つきで、その場から一歩も動かずどんな怪人も怪獣も退治してみせ、付近の民衆に被害をただの一度も出したことがない。街への被害も最小限に抑え、その名に恥じぬ、歴代最強との呼び声も高い魔法少女だ。
しかし──
「希咲良、街に怪人が現れているようだ。……今回も、変身する気は無いのかい?」
「言ったはずです。私はもう引退したも同然だと」
「しかし、君の力ならまだまだ戦える。君の力は、誰よりも美しく、強いのに……」
「お気持ちは察しますが、私には私の人生があります。将来の夫に、もし魔法少女だと知られたら?人妻の魔法少女、だなんて……。ふふ、私にはそんな恥ずかしさ、とても耐えられません」
「だ、だが……!」
「それに──」
希咲良はリモコンを手に取り、テレビをつける。
そこでは別の魔法少女たちが懸命に戦っていた。火花が散り、風が唸る。
彼女は小さく微笑んで言う。
「もう、私の出る幕は無いでしょう」
─────
翌日もまた、怪人のニュースが流れていた。だが希咲良は意にも介さない。
学校へ行き、授業を受け、友人たちと談笑する。
昼休みには購買でパンを買い、放課後はカフェに立ち寄る。
「ねえ希咲良、また魔法少女が戦ってたみたいよ!」
「まぁ……そうでしたの」
友人たちが口々に話題にするのを、希咲良は涼しい顔で聞き流す。
またある日には、縁談の相手とのディナー。
「九条さん、ここの料理はどうだい?僕は気に入っているが、君の口にも合うと良いな」
「味も口触りも、非常に私好みですね。ふふ、よく下調べをされているようで」
「いやいや、そういうわけでは……」
「冗談ですよ。……お酒のお相手は、ごめんなさい」
「勿論だとも。未成年に飲ませるような事は断じてしない。……だが、いずれは二人で楽しみたいと思っているよ」
自身より一回り以上年上の男。はっきり言って下心は有るだろうが、気を引こうと努力する姿勢はある。
「……」
希咲良は食事の手を止め、窓の外の夜景を静かに見やる。
日常は静かに、しかし確かに続いていく。
─────
そして、街を揺るがすほどの巨大怪獣が出現したのは、そんなある日の放課後だった。
希咲良は友人たちと、巨大怪獣が現れたのとは別の街を歩いていた。ビルの壁面にある街頭ビジョンが緊急中継を流す。
画面には、魔法少女たちが束になって挑む姿。しかし、その力は怪獣に届かず、押し返されるばかり。
「やばくない……?負けちゃいそうだよ……」
「どうなっちゃうんだろう……この街にも来るのかな」
友人たちの顔に不安が広がる。
希咲良はじっと画面を見上げる。その脳内に、テレパシーによるメローヌの声が響いた。
『希咲良……本当に、良いのか?君ならきっと、あの怪獣を倒せる!まだ終わってなどいないはずだ!』
希咲良は答えない。ただ瞳を細め、思考に沈む。
その時。
白銀の輝きが空を裂いた。
ホワイトスノー──“現役最強”と謳われる魔法少女の登場だ。
彼女のたった一撃で、巨大怪獣はあっさりと塵と化した。
歓声が街に響き渡る。
無表情のまま、風に翻る白い衣を纏い、ホワイトスノーは去っていった。
その横顔が街頭ビジョンに映し出された瞬間、希咲良はふっと失笑する。
「……ほらね。もう私は必要ないんですよ。残念でしたね、メローヌ」
そう告げると、彼女は友人たちに微笑みかける。
「さぁ、行きましょう。折角の放課後なのですから」
その背に、メローヌのかすかな声が追う。
『希咲良……』
けれど彼女は気にも留めない。
「JKブランドと学友は、今この時にしか輝かないのです。魔法少女の肩書きなど、その足元にも及ばないと、そうは思いませんか?」
そう言って笑った希咲良の横顔は、どこまでも凛として美しかった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる