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calamity
#7 式神
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「式神?」
薺が尋ねる。それに対する少年の返答はこうだ。
「陰陽師の命によって使役される、端的に言えば、使い魔、従者、といったところか」
怪訝な顔をして何かを言いかける薺を制し、少年は続ける。
「本来は、幽魔の力と精神を掌握し、普段は霊力を封じ、戦闘時にそれを解放して使役する。それを式神と呼称する。お前の場合精神掌握はしないようにするから、お前の意思で霊力を開放できてしまうが……」
「そ、そんな意思、私には有りませんよ! ……それで、あなたの式神というのになれば、元の生活に戻れるんですか?」
薺の問いに、少年は一呼吸おいて、
「……『元の生活』というと、それは定義によって変わってくるな」
彼が言うには、こうだ。
薺は既に、霊力という、現状ではどうにもならない力に目覚めている。その力が有る限り、彼女にその意思が無くとも、幽魔が視え、霊力を感知でき、幽魔や退魔師に干渉出来てしまう。『禊』という浄化の儀式を行えば半幽としての霊力は完全に取り除けるが、その準備が整うまでは、『元の生活』とは言い切れない状態で過ごさなければならないという。『禊』には、儀式場から、供物、日時や天候、果ては術師や対象者の服装や装飾品、体調に至るまで、様々な難題な条件をクリアしなければならず、容易に出来る事ではないそうだ。
薺は逡巡する。
実質、迷う必要は無い。最終的に『禊』をしてもらう事は絶対条件として、それまでの間“普通に近い”生活をする為には、彼の式神になる他無い。そうしなければ、この狐耳と尻尾を周囲に晒し続ける事になるからだ。
それでも、これ以上未知と関わる事に、単純に抵抗が有った。もう既に後戻り出来ないところまで来てしまっているが、更に介入する事で、それこそ深みにはまってしまいそうな、そんな恐怖を感じていた。
だが、しかし。彼女の前には選択肢は一つしかない。彼女がどうにかすることによって、少年が何か言うことによって、選択肢が増える様子も、何より可能性も無い。
故に、彼女は選択する。たった一つの、進むべき道を。
「分かりました…、今は式神の契約というのをしておきます。でも、なるべく早く元に戻して下さいね!絶対ですよ!!」
少年は頷く。
「ああ、約束する。……そういえば、まだ名前を聞いてなかったな」
「あ、そうでしたね。あの、私、花嶋薺といいます」
「神峰剱だ」
少年、神峰剱は一言で自己紹介を終えると、右腕を振るい、その手の指先を薺に突き付ける様に、真っ直ぐに腕を伸ばす。
金と銀のブレスレットがぶつかり合い、金属音が部屋に鳴り響いた。
「退魔師、神峰剱の名に於いて命ずる。花嶋薺を我が式神とし、力の一端を此処に封じる。その力を我が為に振るうとし、己が望むがまま、我と共に在れ」
剱がそう唱えると、彼の手の周囲に鮮やかな光が瞬き、軈てその光が薺の全身を包む。
次に彼が右手を軽く横に振るうと、それをなぞる様に、薺の額に複雑な文字の様な黒い紋様が現れた。
そして剱が腕を下すと、光が消え、同時に紋様も消えた。
どうやらこれで契約は完了らしい。確かに自分から霊力といわれる不思議な力がすっと消えていくのを感じた。
彼女は部屋の洗面台の鏡に駆け寄り、
「これで、一先ずは大丈夫ですか?」
「ああ、とはいえ、霊力を開放したらさっきのような耳や尻尾が顕現する。最低限の霊力の扱いは、まぁおいおい教えよう」
「サラッと言わないで下さいよ!!これはどうしたらいいんですか!?」
「は、はい、分かりました」
兎に角、と、剱は続ける。
「今日はもう帰れ。家族が心配してるだろう。他に何か聞きたい事が有れば可能な限りは後日答えてやる」
そう言って彼はスマホを取り出した。それにならって薺もベッドの脇に置かれていた自分の鞄からスマホを取り出し、二人は互いの連絡先を交換した。
(……お父さん以外で、男の人と連絡先交換したの、初めてだ……。あ! 鈴夏と愛子からメッセージ入ってる! 二人にも心配させちゃったな。返信しとかないと)
慌てて友人にメッセージを送る薺を尻目に、剱はスマホをベストのポケットにしまい、扉の方へ歩いて行った。この部屋には扉が一つ。つまりは、そこが出口という訳だ。
彼はドアノブに手を掛け、一度動きを止め、薺を一瞥した。
「分かっていると思うが、お前が体験した事、ここでオレと話した事は他言無用だ。退魔師に狙われたいなら別だけどな」
ここで一度言葉を区切り、
「ここは退魔機関の建物だ。お前は下校中に“偶然結界内に迷い込み”、霊力にあてられて気を失い、休憩させる為にここに連れてきた事になってる」
半幽となっている事は伏せている。この部屋を出れば、建物を出るまで退魔師と出会わない可能性は無い。もし勘ぐられても知らぬ存ぜぬで通せ、と彼は付け足し、扉を開けた。
薺が尋ねる。それに対する少年の返答はこうだ。
「陰陽師の命によって使役される、端的に言えば、使い魔、従者、といったところか」
怪訝な顔をして何かを言いかける薺を制し、少年は続ける。
「本来は、幽魔の力と精神を掌握し、普段は霊力を封じ、戦闘時にそれを解放して使役する。それを式神と呼称する。お前の場合精神掌握はしないようにするから、お前の意思で霊力を開放できてしまうが……」
「そ、そんな意思、私には有りませんよ! ……それで、あなたの式神というのになれば、元の生活に戻れるんですか?」
薺の問いに、少年は一呼吸おいて、
「……『元の生活』というと、それは定義によって変わってくるな」
彼が言うには、こうだ。
薺は既に、霊力という、現状ではどうにもならない力に目覚めている。その力が有る限り、彼女にその意思が無くとも、幽魔が視え、霊力を感知でき、幽魔や退魔師に干渉出来てしまう。『禊』という浄化の儀式を行えば半幽としての霊力は完全に取り除けるが、その準備が整うまでは、『元の生活』とは言い切れない状態で過ごさなければならないという。『禊』には、儀式場から、供物、日時や天候、果ては術師や対象者の服装や装飾品、体調に至るまで、様々な難題な条件をクリアしなければならず、容易に出来る事ではないそうだ。
薺は逡巡する。
実質、迷う必要は無い。最終的に『禊』をしてもらう事は絶対条件として、それまでの間“普通に近い”生活をする為には、彼の式神になる他無い。そうしなければ、この狐耳と尻尾を周囲に晒し続ける事になるからだ。
それでも、これ以上未知と関わる事に、単純に抵抗が有った。もう既に後戻り出来ないところまで来てしまっているが、更に介入する事で、それこそ深みにはまってしまいそうな、そんな恐怖を感じていた。
だが、しかし。彼女の前には選択肢は一つしかない。彼女がどうにかすることによって、少年が何か言うことによって、選択肢が増える様子も、何より可能性も無い。
故に、彼女は選択する。たった一つの、進むべき道を。
「分かりました…、今は式神の契約というのをしておきます。でも、なるべく早く元に戻して下さいね!絶対ですよ!!」
少年は頷く。
「ああ、約束する。……そういえば、まだ名前を聞いてなかったな」
「あ、そうでしたね。あの、私、花嶋薺といいます」
「神峰剱だ」
少年、神峰剱は一言で自己紹介を終えると、右腕を振るい、その手の指先を薺に突き付ける様に、真っ直ぐに腕を伸ばす。
金と銀のブレスレットがぶつかり合い、金属音が部屋に鳴り響いた。
「退魔師、神峰剱の名に於いて命ずる。花嶋薺を我が式神とし、力の一端を此処に封じる。その力を我が為に振るうとし、己が望むがまま、我と共に在れ」
剱がそう唱えると、彼の手の周囲に鮮やかな光が瞬き、軈てその光が薺の全身を包む。
次に彼が右手を軽く横に振るうと、それをなぞる様に、薺の額に複雑な文字の様な黒い紋様が現れた。
そして剱が腕を下すと、光が消え、同時に紋様も消えた。
どうやらこれで契約は完了らしい。確かに自分から霊力といわれる不思議な力がすっと消えていくのを感じた。
彼女は部屋の洗面台の鏡に駆け寄り、
「これで、一先ずは大丈夫ですか?」
「ああ、とはいえ、霊力を開放したらさっきのような耳や尻尾が顕現する。最低限の霊力の扱いは、まぁおいおい教えよう」
「サラッと言わないで下さいよ!!これはどうしたらいいんですか!?」
「は、はい、分かりました」
兎に角、と、剱は続ける。
「今日はもう帰れ。家族が心配してるだろう。他に何か聞きたい事が有れば可能な限りは後日答えてやる」
そう言って彼はスマホを取り出した。それにならって薺もベッドの脇に置かれていた自分の鞄からスマホを取り出し、二人は互いの連絡先を交換した。
(……お父さん以外で、男の人と連絡先交換したの、初めてだ……。あ! 鈴夏と愛子からメッセージ入ってる! 二人にも心配させちゃったな。返信しとかないと)
慌てて友人にメッセージを送る薺を尻目に、剱はスマホをベストのポケットにしまい、扉の方へ歩いて行った。この部屋には扉が一つ。つまりは、そこが出口という訳だ。
彼はドアノブに手を掛け、一度動きを止め、薺を一瞥した。
「分かっていると思うが、お前が体験した事、ここでオレと話した事は他言無用だ。退魔師に狙われたいなら別だけどな」
ここで一度言葉を区切り、
「ここは退魔機関の建物だ。お前は下校中に“偶然結界内に迷い込み”、霊力にあてられて気を失い、休憩させる為にここに連れてきた事になってる」
半幽となっている事は伏せている。この部屋を出れば、建物を出るまで退魔師と出会わない可能性は無い。もし勘ぐられても知らぬ存ぜぬで通せ、と彼は付け足し、扉を開けた。
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