夕霊パラドックス

詩央

文字の大きさ
5 / 8
encounter

#4 走馬灯

しおりを挟む
 少年がジロジロと薺を見る。薺は呆然としたまま少年を見つめ返していたが、尻もちをついた体勢のままで、スカートが大きく乱れている事に気付き、慌ててスカートを直して立ち上がった。

 しかし少年は彼女の様子には興味が無さそうで、暫く沈黙した後、眉をひそめる。
「……オマエ、まさか」
 少年はベストのポケットからスマホを取り出し、画面を操作すると、どこかへ電話を掛けた。

 訳も分からず少年を見ていた薺だが、そこで少年の後ろから影が迫っている事に気付いた。

「あっ、危ない!」

 そう言い終わるとほぼ同時に、バチン!    という音と共に再び激しい閃光。少年を襲おうとしていた狐がまた一匹、力尽きた。
 少年はため息を一つつき、繋がった通話相手と話し始めた。
「オレだ。結界内に一般人が入り込んでるぞ、支援部の連中は何をしてる」
 静かで落ち着いた声色には、しかし明らかに怒気が含まれており、薺はビクビクしながらゴクリと息を飲む。
 彼は構わずに続ける。
「しかもこの女、。結界か、或いはオレか幽魔の霊力に当てられた可能性が高い。それか、元から素養が有ったか」
(ゆうま?UMA?)

 聞き慣れない単語に、薺は首を傾げる。未だ状況は一つも理解出来ていないが、どうやら自分の立場はよろしくはないようだ。
 少年が冷たい横目で薺を睨む。

「一先ず、討伐を終えたら連れ帰る。垣根を呼んでおけ」

 そこで少年は通話を切り、薺に背を向けた。
「あの…...?」
「そこから動くな」

 問い掛けに冷たく一言で返され、既に完全に萎縮してしまっている薺は「ひゃい...…」と、弱々しく返事をする事しか出来なかった。

 少年は薺の返事が聞こえていたのかいないのか、それ以上何も言葉を発する事無く、残った狐に向かって跳んだ。まさしく閃光の如き速さで狐の間を駆け抜け、残り三匹となった狐に同時に激しい光と音が降り注ぐ。それによって全ての狐は力無く倒れた。
 狐が完全に動かない事を確認し、少年は気だるそうに両手をベストのポケットへ。ゆっくりと薺に向かって歩き始める。
 しかし、数歩進んだ所でピクリと目を見開き、慌てた様に両手をポケットから引き抜いた。
 その様子を不思議そうに見ていた薺は、いつの間にか自身の背後にズシリと重苦しい気配が存在している事に、少し遅れて気が付いた。 

 先程と同じ狐が、もう一匹。 
「ちっ、まだいたのか......!」
 少年は舌打ちしながら小さく叫び、超速で駆ける。
 しかし、少年が薺に辿り着くより僅かに早く、狐は薺の肩口に噛み付いた。
「うっ!!    あぁっ!!」

 勢いよく血が噴き出し、バキバキと嫌な音が鳴り響く。経験したことの無い激しい痛みと共に、マグマの中に放り込まれたかの様に、体が一瞬で熱くなるのを感じた。
 あっという間に視界が揺らぐ。今度は一気に体の熱さが引いていき、極寒の中に居るように感じる。

 狐を一瞬で処理して、自身を抱きかかえ、顔を覗き込んでくる少年の表情はもはや視認出来ない。
 少年は何か言葉を発している。自身に向けた言葉か、それてもまた誰かと通話しているのか?それすらも認識出来ず、薺の意識は暗く、黒く沈んでいく。

(──私、死ぬのかな)

 鈴夏、愛子。学校の友人達や家族の顔が次々と走馬灯の様に頭に浮かぶ。
 熱さも、寒さも、痛みも感じられなくなり、そこで薺の意識は完全に途絶えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

使い捨て聖女の反乱

あんど もあ
ファンタジー
聖女のアネットは、王子の婚約者となり、瘴気の浄化に忙しい日々だ。 やっと浄化を終えると、案の定アネットは聖女の地位をはく奪されて王都から出ていくよう命じられるが…。 ※タイトルが大げさですがコメディです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...