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リッツ王国物語編

Episode.7

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渡した上着をぎゅっと握っていた。

何をまだ怯えているのか私のαの匂いに怯えているのかそれとも……。
追っては確実か。


「ねぇルカここを一緒に離れよう」
「ですが教会でお仕事をされていたのではないのですか?」


「まぁでももう仕事は終わったからここよりももっと安全なところに行こう」
「はい」

とその手をとった。


この子はどこか他のΩと違う気がした。


普通のΩはαを怖がりこのように手をとることはまずない。
ザリガスに帰りたくない理由のほうが大きいようだ。


馬に乗り、ルカを後ろに乗せ、顔を隠しておくように伝えた。



1時間ほどで私の屋敷についた。
「どうにか無事ここについたね」
「はい」
ぎゅっとお腹あたりを握っていた。

「お腹空いた?」
馬からおろしながら聞くと

「あ、あの僕Ωなんですけどどうしてそんな優しい扱いをしてくれるんですか?」
と聞いてきた。


Ωだということは本当は隠しておきたいはずなのにもしかして私のことを信用しているのかそう聞いてきた。


「私はねこの広い世界にどうしてαやβやΩの区別があるのかって不思議に思うんだよ」
遠くにある森を見ながらそう言った。


「僕がΩでもここにいてもいいということですか?」
「そうだよ、元気になるまでだけどね」

ポンと頭に手を置きそう告げる。
この子がどういう目的であそこにいたのかはザリガス領の主に聞かないと分からない。
でもきっとザリガス領主はこの子をΩとして扱っているのだろう。


泣き叫ぶ中でも無理に犯しては暴力を振るいこの子の意見など無視して奴隷のように扱う。
きっとそうなんだろう。
ぎゅっと彼の体を包み込んだ。

「ルカは1人じゃないよ、私が味方だ」
こくりと小さく頷いた。


「ルカはなにが食べたい?」


「僕は……」


屋敷の中に入り厨房で食べたいものを聞いた。

小さな少年を連れ帰ってきた領主に屋敷のみなは驚いていた。
それはそうだ、シルビアの墓を作りに教会に行ったと思ったらまさかの少年を連れ帰ってきちゃうなんて領主としてどうなんだって話だ。

「えっと僕……」
もじもじと答えられないのか黙ってしまった。

「クレア様、なにか温かい物をお持ちします」
「うん、食べやすいもので頼む」と伝えまずはこのボロボロの服を脱がしてお風呂に……。

とお風呂場で服を脱がすとまさかそんなそこまで……。

「クレア様私共がやります」とメイドが来たが私は扉を閉めてしまった。

「これ……ルカは痛くないの?」
「……僕は……」
ゴクリと唾を飲み込んだ。

こんな体……酷すぎる。

口に手を当て嗚咽がこみ上げるが我慢をしているとまたボロボロの服を着て
「ごめんなさい」と言葉を漏らした。

立ち上がり私はどうしたらよいのか、この体の傷、いやこの体の凹みをどうやったら治せばいいのか頭を回転させたが……。

ふいっとルカは後ろを向いてしまった。

しまった……。私はルカを言葉ではなく行動で傷つけた。

「ル……ルカ」
化け物を見たような冷たい言葉でルカと名前を呼ぶと
彼は寂しそうな顔をしていた。


「ルカ、ごめん、大丈夫だよ、温かいお風呂に浸かろう」
と手を伸ばすがルカにとっては一瞬で全てを分かってしまったのだろう。

ふいっと交わされてしまった。



ルカがザリガス領で受けていたことを目の前に私はどうしたらよいのか。
とまた考えてしまう。


ルカの体には無数の鎖の痕があった。
大きいものから小さなものまでお腹あたりは臓器とかどうなっているのだろうか。
きっと食べ物も与えられずにここまで成長してしまったのだろう。


むごい……むごすぎる。

こんなことを人間はしていいのか

「領主様……僕は僕はここにいてはいけませんか?」
小さな声でそう聞いてきた。


「……っつ」すぐに言葉が出てこなかった。
こんな姿をここの人達には見せられない。


扉がノックされ救いだった。
この子をここに置いておくのは難しいかもしれない。

『ダメよそんなこと言ってはあなたは私との子供がΩだったらあなたはどうするの?』
ふとシルビアの声が聞こえて気がした。


シルビアはきっとΩの子供でも大事に育てたであろう。

ルカは怖いながらも私についてきた。
そんな彼の勇気を私は壊してしまっていいのか。


ダメだ。

「ルカ、ここにいてくれると私は嬉しいよ」
「本当ですか?」

「うん」
頭を撫でようとするも一度裏切ってしまった信頼をえるのは難しい。
ビクっと震えていた。


私はルカを引き寄せ
「私は君の親だ」と伝えた。

にこっと微笑みかけるとルカは怯えていた表情から少し落ち着いた表情に変わった。
この子を守らないと。

それからお風呂にも入れたし温かいご飯を胃に流し込んだ。
そして医者にどうにかできないかと聞くが今の技術じゃ彼の骨を治すのは難しいと言われた。

そう、鎖の痕によって骨が歪んでしまっていたのだ。
歩けるし動作に異常は見られないが服を脱がしたときの見た目が……。
メイドとも話したが
「お辛そう」や「可哀想」とコメントを頂いた。

それは私も思う。


少しずつ元気を取り戻し庭のガーデニングが好きなようでよくいることが多くなった。
そんな様子を私も見るのが好きだ。



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