文学フリマ京都10に向けた作品

枝浬菰文庫

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第3作品「誰にも覚えてもらえない」

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 ❁あらすじ
 親の転勤で小学生は三回、中学生は六回転校した夢叶は少しずつおかしくなってしまう。心の扉は固く閉め話しかけられても無視をするように……。
 しかしそれには訳があって小学生の頃の親友に再会した時に言われた言葉「誰? お前」との言葉が胸に刺さり、もう誰にも覚えてもらえないのではないかと思ってしまうように。そんな彼を見た二つ上の先輩は彼を救おうと手を伸ばす……。


 ❁登場人物
 ・春夏冬 夢叶あきなしゆめと
 ・佐久間 宙夢さくまひろむ

 上級高等学校
 ・新山
 ・吉田先生(担任)
 ・米田先生(英語)

 綾瀬大学
 ・駒田
 ・大上


 ❁試し読み 10ページ
【誰にも覚えられていないなら人と関わるのはやめよう】

 そう決めたのは中学生の時だった。
 僕の名前は春夏冬夢叶あきなしゆめと、もう誰も僕のことを覚えてくれる人はいないだろう。
「夢叶、早く準備して出発するわよ」
「はい」……。
 感情はもうなにも生まれない。

 ただただ親の後についていく。
 母親にそう言われスーツケースにノートと本と服を入れて玄関をくぐった。

 さようなら日本……。
 僕はカナダに向かった。
 それが小学六年生の時。
 それから中学一年の秋までカナダで過ごし、また日本に戻ってきた。
 親の仕事関係で何度も転勤を繰り返す。

 前にいた小学校が近くで知り合いもいた。
 しかし「俺たち親友だな」と言っていた男の子に「誰 お前?」そう言われた。

 


 それから僕の心には大きな扉が存在し固く閉じてしまった。
 小学生は三回、中学生は六回、転校を繰り返し僕は孤独を味わう。

 新しい高校に来てもきっと誰の記憶にも残らない。
 それなら僕と話をしたところで意味なんてないのではないか。
 教室にいても口を閉じ、耳を閉じ、目を閉じた。
 誰かが話しかけてきても基本は無視。
 そうすれば誰も話しかけてこないし、一人でも大丈夫だからと自分に言い聞かせた。

「うっ……」吐き気と共に頭痛がした。
 教室でお昼を食べるのは難しい。
 だから誰もいない校舎裏へと逃げる。
 ここは涼しく気持ちがいい。

 目を開けるとのどかな風景が広がっていて、耳を開けると声が聞こえた。

「はぁ……はぁ……大丈夫、大丈夫」と何度も自分を落ち着かせる言葉をはく。

 本当は誰かに覚えていてほしい。

 そう願ってもきっと誰の記憶にも残っていないと考えると怖くなった。
 あの時言われた「誰?」が頭に木霊して離れない。

 胸が締めつけられて酷い頭痛に襲われた。
「大丈夫か?」
 顔を伏せていたら頭上から声がした。

 !? 覗き込むように話をしていたから僕は驚いた。

「顔色悪いじゃん、お昼食べ過ぎたか? そんな感じでもないか、辛いなら保健室一緒に行こうか?」

 そう一方的に聞いてきたこの人は誰だろうか。

 本当はすがりたい。
 でも僕はぷいっと横を向き、ふらふらになりながらもどうにか立ち上がった。

「え!? 無視……てか本当に具合悪そうじゃん、壁伝いって……」

 腕を持たれたが会釈してどうにか逃げるように進むが
「俺が気になるの!! 俺保健委員長だから!!」と言ってきたのだ。

 駄々をこねている自分よりも年上の人を見たことがなかったので思わず見入ってしまった。
「あっこっち向いた、保健室行こう」
 それでも僕は走り出した。

「あっ!? ちょい待ってて……」
 校舎に逃げ込み追ってきてはいないようだ。

 安堵し教室に行く前にトイレに寄る。

 教室には相変わらず人が多かった。

 次の授業まで予習をする。
 家で何度も教科書を開いてはいるが日本の勉強は外国に比べて少し簡単。

 だがこの学校は違うようだ。

 名門国立上級高等学校。父が勧めてくれた。
 お前にあっていると言っていたが父さんは僕のことをどこまで思ってくれているのだろうか。
 それを考えるだけでも胸が締めつけられた。

 やめよう。
 分からないが親の愛情はもらっているのかもしれない。
 不自由のない生活。ただ転勤が多いのが人生の中で嫌な点ではあるが。
 もう少し落ち着いた生活をしてみたいものだ。


「授業始めるぞ」
 全員が喋らず真剣に先生の授業を受けていた。
 これには関心を覚えた。
 そしてまた、昼休みが来て一人のんびりとしていたが不意に声をかけられる。
「よ! お前相変わらずここにいるんだな、俺もここでご飯食べようかな~」
「え?」

「うわぁー嫌そうな顔してる……傷つくなぁ~」
 そう言われるも先輩を見ないようにした。
 とそこに
「あれ~ 佐久間さくま先輩どうしてここにいるんですか? ってうわぁ!?」
「ん? なんだ?」

「さ……佐久間先輩って春夏冬のこと知ってるんですか?」
「え? いや、昨日知り合っただけ……ておい、どこ行くんだよ」
 僕は角を曲がる。そして話し声を聞いてしまう。

 自分が教室でどう思われているのかなんて分かりきっている。
 それでも聞き耳を立ててしまった。

「先輩、あいつまじ性格悪いのでやめたほうがいいですよ?」
「え、なんで? てか君たち話したことあるの?」
「いえ、ないですけど、教室では基本無視されるし……めちゃくちゃ頭いいんで、教えてほしいところあるんですけど……」

「無視か、俺もされた。でも性格悪いのと関係ないんじゃないか?」
「……って言われても無視されれば俺たちも傷つきますよ」

 そうなんだ。

 でも今さら人と関わることなんて僕にはできない。

「まぁでも佐久間先輩が話しかけてるなんてあいつもラッキーですね」
「は? それはどういうことだよ」
「それは秘密です」といい去って行ったみたいだ。
 ふぅー。
 一人残った男は伸びをしていた。
 早く帰らないかと見ていると目があってしまった。

「あ!! お前いたのか……」

 驚いてしまいアルミホイルを巻いたおにぎりを落としてしまった。

「ひひひっ、ここに人質をとった返してほしければ言うことを聞くんだなっあ!!」
 俺は大事なおにぎりを見捨ててその場を去った。

 少し変わった先輩に心がくすぐられたのは秘密にしておきたい。また会えるかな…の思いともうあそこには来てほしくない思いとぶつかっていた。

「おい、春夏冬」先生に呼び止められ次に使う教材を持たされた。
「それにしても春夏冬、お前どこの高校だったんだ?」

「……」さすがに先生は無視できないので口を開こうとしたら
「あっ!! 先生俺も持ちますよ」と誰かが来たので口を閉じた。

「ああ、ありがとう、で春夏冬どこの高校だったんだ?」
 先生は僕の高校が気になるようだ。

「えっと新千歳近くの高校です」
「こりゃまた寒い地域から来たんだな」
「……はい」
 ここは神奈川県だ。

 北海道もそこまでは寒くなかったがきっと思い込みだろう。
 そんな思い込みでも少し羨ましくなる。
 まるで自分の存在がどこにあるのかも分からなくなる。
 目を覚ますと異国の地にいたり、それこそつい最近までは北海道にいたのに今は神奈川にいる。
 こういう経験はきっと誰にも分かってもらえないだろう。

 少しずつ僕の存在が消えていくそんなことを思ううちに足下にある薄いガラスの板が割れて暗い世界へと飲み込まれていくような気がした。

「春夏冬大丈夫か?」
「え? あ、はい大丈夫です」
「うわぁー春夏冬が喋ってるの貴重……」
 そう物珍しいように見てくるのももう慣れた。

 そしてまた、昼休みがやってきた。
 先輩はまだ来ていないようだ。
 って僕は期待なんて一ミリもしてないからな!! 

 でも何度も声をかけてきてくれるのは嬉しかった。
 予鈴チャイムがなっても来なかった。もう飽きてしまったのだろう。
 無視され続ければ誰でも嫌だろう。

 急いで教室に戻った。
 英語のリスニングの練習を多くの生徒がしていた。

 今日はたしか発表だったけ。
 春休みなにがあったか、それはつまり中学生最後の春休みはどのように過ごしていたかという発表だ。

 僕の春休みはカナダから帰国して北海道に行ったこと、でも入学手続きをしてその半月後に神奈川にやってきた。僕の転校とはそのような短いものだ。
 それを英語で喋ったところで誰が聴く耳を持つのか。
 そして書いた紙をなくしてしまった。
 昨日考えて机の上にあるのだろうな。

 それでも英語圏で過ごした日々は長くカンニングなんて必要なくスラスラと発表を終えた。
「お前、北海道から来たんだよな? その前はカナダだったのか?」
「はい」とそう答え席につく。
「ん? 待てお前この短期間の間に二回転校しているのか?」
「はい」

 それ以上なにも話さない僕に先生は諦めたのか次の生徒を呼んだ。
 今は五月。
 僕には不思議なことではない。
 一年間の間に何回学校が変わろうともうどうでもいいのだから。
 他の生徒の話しは聞かない。

 授業が終わり移動教室で席を立とうとしたが呼び止められた。

 しかも逃げられないように二人で前に立ちはだかる。



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