【完結】きみが揺らす恋凪

藤吉とわ

文字の大きさ
50 / 50
番外編

番外編ー3

しおりを挟む


 焼きそばと肉串、お茶のペットボトル、それにりんご飴まで買って何とか人混みから抜け出た。祭りと名の付くものの集客効果の凄まじさを味わって、瀬凪も大翔もぐったりとして土手に腰を下ろす。
「行列……やばいわ」
「バイトの時は平気なのに自分が並ぶとなると疲れるよな」
「大翔、人混み苦手なのによく祭り行こうとか言い出したな」
「別に祭りじゃなくても良かったんだけど」
 大翔が焼きそばを手渡してくれながら言う。
「え、祭り行きたかったわけじゃねぇの?」
「……瀬凪と出掛ける口実が欲しかっただけ」
 薄暗いながらも屋台の灯りが届いて、近くにいれば表情くらいは窺える。大翔は明らかに照れている。
 途端に先程約束した正月の予定のことが思い出されて、さっきはスルーしたのに泊まりという思春期真っ只中には少々刺激的なワードが瀬凪の頭の中を占め始める。
 泊まり……泊まりか……。
 まだ付き合い出したばかりだ。恋人らしい触れ合いなんて手を繋ぐとかそんな小学生レベルものしかしたことがない。だから気にすることはないよなと結論付けて瀬凪は思考を切り替えた。
「言ってくれればどこでも付き合うよ?」
 瀬凪としては口実などなくても何処でも一緒に行くよというつもりで言ったのだが、大翔には違うように聞こえたようで、照れた表情は消えて真顔で見つめてくる。
「……確認だけどさ、瀬凪って俺のこと友達だと思ってないよな?」
「え……思ってないよ」
「じゃあ、なに?」
「なにって……」
 今日会った時「いつか親に彼氏だと紹介されたい」とか何とか話をしたじゃないか。だったら二人の仲が友人関係でないのは確かで、それなのに大翔は瀬凪の口からとある言葉を引き出したいようで瀬凪が手に持った焼きそばを奪い取ってまで迫ってくる。
「ちゃんと瀬凪の口から聞きたい」
「ええ……前に言ったじゃん」
「今聞きたい」
 焼きそばを持っていた手は大翔に握られて眼前に迫る強過ぎる顔面に目を背けることも出来ない。
 逃亡先は何処にもない。でも瀬凪はもう逃げることをやめたから、そんなに聞きたいならいくらでも聞かせてやると腹を決めて大翔の手を握り返した。
「好き、だよ」
 いっそ怯ませてやろうと強く見つめ返してそう告げた。
「大翔のこと、好き」
「……」
「……いや、なんか言って?」
「うん……好きな人の好きって言葉、やばいな」
「なんだそれ」
 時々こうやって様子がおかしくなる大翔に瀬凪は笑う。そのまま握っていた手を解放してやろうと瀬凪が力を抜くも大翔の方は離してはくれずに、クッと引かれて彼との距離が更に近付く。
「瀬凪」
 名を呼ぶ大翔の声は優しくも余裕がなく上擦っていた。名前なら何度も呼ばれたが、こんな声色は聞いたことがなかった。
 屋台の灯りが届いて大翔の頬がほんのり色付いて見える。彼の目に映る自分の顔も同じくらいピンクになっているに違いない。
 もしかして、これは。
 未経験ながらも勘というものが働く。
 胸が騒いで、こんな状況が数分でも続くものなら息が上がって酸欠になりそうだ。
 瀬凪は黒目をキョロキョロと動かし、周囲に人が居ないことを確かめるとキュッと両目を閉じた。そうしたらほんの数秒で唇に柔らかなものが触れてすぐに離れた。
 恐る恐る目を開く。間近に大翔の顔が見えて瞼が震える。
「……もう一回してい?」
 大翔のその言葉でやはり今のはキスだったのだと分かった。さっきまではそうでもなかったのに、繋がった手の平は汗で濡れて大翔に申し訳なくなる。
「瀬凪、なんか言って。俺、緊張でどうにかなりそう」
 初めては無断だったのに二回目は許可を取るのかと可笑しくなるが、どうしてか笑えなくてほんのちょっと泣きそうになった。
 
 大翔のことが好きだ。その気持ちで胸が一杯になる。
 それなのに次から次へと想いが溢れて止まらない。
 零れてしまった恋心が涙に変わる前に瀬凪の方から大翔にキスをした。



 終

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。 一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。 もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。 ルガルは生まれながらに選ばれし存在。 国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。 最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。 一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。 遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、 最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。 ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。 ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。 ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。 そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、 巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。 その頂点に立つ社長、一条レイ。 冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

なぜかピアス男子に溺愛される話

光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった! 「夏希、俺のこと好きになってよ――」 突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。 ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

真面目学級委員がファッティ男子を徹底管理した結果⁉

小池 月
BL
☆ファッティ高校生男子<酒井俊>×几帳面しっかり者高校男子<風見凛太朗>のダイエットBL☆  晴青高校二年五組の風見凛太朗は、初めて任された学級委員の仕事を責任を持ってこなすために日々頑張っている。  そんなある日、ホームルームで「若者のメタボ」を注意喚起するプリントが配られた。するとクラス内に「これって酒井の事じゃん」と嘲笑が起きる。  クラスで一番のメタボ男子(ファッティ男子)である酒井俊は気にした風でもないが、これがイジメに発展するのではないかと心配する凛太朗は、彼のダイエットを手伝う決意をする。だが、どうやら酒井が太っているのには事情がありーー。 高校生活の貴重なひと時の中に、自分を変える出会いがある。輝く高校青春BL☆ 青春BLカップ参加作品です!ぜひお読みくださいませ(^^♪ お気に入り登録・感想・イイネ・投票(BETボタンをポチ)などの応援をいただけると大変嬉しいです。 9/7番外編完結しました☆  

今日も、俺の彼氏がかっこいい。

春音優月
BL
中野良典《なかのよしのり》は、可もなく不可もない、どこにでもいる普通の男子高校生。特技もないし、部活もやってないし、夢中になれるものも特にない。 そんな自分と退屈な日常を変えたくて、良典はカースト上位で学年で一番の美人に告白することを決意する。 しかし、良典は告白する相手を間違えてしまい、これまたカースト上位でクラスの人気者のさわやかイケメンに告白してしまう。 あっさりフラれるかと思いきや、告白をOKされてしまって……。良典も今さら間違えて告白したとは言い出しづらくなり、そのまま付き合うことに。 どうやって別れようか悩んでいた良典だけど、彼氏(?)の圧倒的顔の良さとさわやかさと性格の良さにきゅんとする毎日。男同士だけど、楽しいし幸せだしあいつのこと大好きだし、まあいっか……なちょろくてゆるい感じで付き合っているうちに、どんどん相手のことが大好きになっていく。 間違いから始まった二人のほのぼの平和な胸キュンお付き合いライフ。 2021.07.15〜2021.07.16

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

処理中です...