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番外編
番外編ー3
しおりを挟む焼きそばと肉串、お茶のペットボトル、それにりんご飴まで買って何とか人混みから抜け出た。祭りと名の付くものの集客効果の凄まじさを味わって、瀬凪も大翔もぐったりとして土手に腰を下ろす。
「行列……やばいわ」
「バイトの時は平気なのに自分が並ぶとなると疲れるよな」
「大翔、人混み苦手なのによく祭り行こうとか言い出したな」
「別に祭りじゃなくても良かったんだけど」
大翔が焼きそばを手渡してくれながら言う。
「え、祭り行きたかったわけじゃねぇの?」
「……瀬凪と出掛ける口実が欲しかっただけ」
薄暗いながらも屋台の灯りが届いて、近くにいれば表情くらいは窺える。大翔は明らかに照れている。
途端に先程約束した正月の予定のことが思い出されて、さっきはスルーしたのに泊まりという思春期真っ只中には少々刺激的なワードが瀬凪の頭の中を占め始める。
泊まり……泊まりか……。
まだ付き合い出したばかりだ。恋人らしい触れ合いなんて手を繋ぐとかそんな小学生レベルものしかしたことがない。だから気にすることはないよなと結論付けて瀬凪は思考を切り替えた。
「言ってくれればどこでも付き合うよ?」
瀬凪としては口実などなくても何処でも一緒に行くよというつもりで言ったのだが、大翔には違うように聞こえたようで、照れた表情は消えて真顔で見つめてくる。
「……確認だけどさ、瀬凪って俺のこと友達だと思ってないよな?」
「え……思ってないよ」
「じゃあ、なに?」
「なにって……」
今日会った時「いつか親に彼氏だと紹介されたい」とか何とか話をしたじゃないか。だったら二人の仲が友人関係でないのは確かで、それなのに大翔は瀬凪の口からとある言葉を引き出したいようで瀬凪が手に持った焼きそばを奪い取ってまで迫ってくる。
「ちゃんと瀬凪の口から聞きたい」
「ええ……前に言ったじゃん」
「今聞きたい」
焼きそばを持っていた手は大翔に握られて眼前に迫る強過ぎる顔面に目を背けることも出来ない。
逃亡先は何処にもない。でも瀬凪はもう逃げることをやめたから、そんなに聞きたいならいくらでも聞かせてやると腹を決めて大翔の手を握り返した。
「好き、だよ」
いっそ怯ませてやろうと強く見つめ返してそう告げた。
「大翔のこと、好き」
「……」
「……いや、なんか言って?」
「うん……好きな人の好きって言葉、やばいな」
「なんだそれ」
時々こうやって様子がおかしくなる大翔に瀬凪は笑う。そのまま握っていた手を解放してやろうと瀬凪が力を抜くも大翔の方は離してはくれずに、クッと引かれて彼との距離が更に近付く。
「瀬凪」
名を呼ぶ大翔の声は優しくも余裕がなく上擦っていた。名前なら何度も呼ばれたが、こんな声色は聞いたことがなかった。
屋台の灯りが届いて大翔の頬がほんのり色付いて見える。彼の目に映る自分の顔も同じくらいピンクになっているに違いない。
もしかして、これは。
未経験ながらも勘というものが働く。
胸が騒いで、こんな状況が数分でも続くものなら息が上がって酸欠になりそうだ。
瀬凪は黒目をキョロキョロと動かし、周囲に人が居ないことを確かめるとキュッと両目を閉じた。そうしたらほんの数秒で唇に柔らかなものが触れてすぐに離れた。
恐る恐る目を開く。間近に大翔の顔が見えて瞼が震える。
「……もう一回してい?」
大翔のその言葉でやはり今のはキスだったのだと分かった。さっきまではそうでもなかったのに、繋がった手の平は汗で濡れて大翔に申し訳なくなる。
「瀬凪、なんか言って。俺、緊張でどうにかなりそう」
初めては無断だったのに二回目は許可を取るのかと可笑しくなるが、どうしてか笑えなくてほんのちょっと泣きそうになった。
大翔のことが好きだ。その気持ちで胸が一杯になる。
それなのに次から次へと想いが溢れて止まらない。
零れてしまった恋心が涙に変わる前に瀬凪の方から大翔にキスをした。
終
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