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第一章
第9話 ドラゴンはどこへ消えた?!
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三年前のあの日、ドラゴンの王であるインフェルノクロウの行方についての会話で出た「転生」の話に、エルフが飛びついた。
エルには何か思うことがあるらしく、詳細は知らされぬまま彼女の村へと誘われたのだ。いわく、村の長老であれば何かを知っているはずだと。
長老は、名を「ミリル」といい、その村で一番長命の人物であるが、その美しさはどこかエルによく似ていて、美貌に加えさらに威厳も感じさせた。聞くと、エルの曽祖母にあたる人物らしい。つまりエルの親戚なのだ。
「しまった。そうだと知っていれば菓子折りの一つも用意しておくのだった。」
ここは気にいられなければと太郎は思った。
そんな太郎の気遣いや、やる気などに一瞥もくれず、というか俺の存在に気づいてます?という感じで、二人の会話の蚊帳の外に置かれている状態の太郎だった。
後から知ったのだが、この世界ではエルフと人間はそれほど友好的な関係ではないらしい。太郎なりに分かりやすく解釈すると、エルフが一流大学出身のエリートとすると、人間は三流大学出身の中小企業の平社員みたいな感じになのだろうか。
長命で身体能力にも秀で美貌も兼ね備えているエルフという種族に人は嫉妬し、能力や潜在能力に劣る人間をエルフは下げずんでいるのだろう。
また親戚の可愛い娘が、どこの馬の骨とも知らない人間の男をいきなり連れてきたのだ、そうでなくても友好的である必要はないのだが…
「インフェルノクロウが転生した可能性…は確かにあるやもしれぬ。」
長老は、真っすぐにエルを見つめ呟いた。
ドラゴンに限らず、この世界に生きる全ての生命にとって、身体は器にしか過ぎない。身体は、ただの器。魂をいれる入れ物。
魂こそが生命そのもの。肉体は物理的には滅ぶ。だが魂のように見えない存在は滅びない。
「転生」とは、器が壊れその機能を停止し、解放された魂がまた新しい器へと移ることなのだ。
器はただ、魂を守るだけでなく魂を「縛る」存在ともなる。肉体が滅びて初めて「魂」は解放される。
「つまり、インフェルノクロウが死んで、その魂は私たちが遭遇したあのドラゴンに転生したと?」
「うむ。」
二人の会話を聞いていて、「違います!」とは言い出せない太郎。
その器に入ってるのは僕です~!とは言えない。
言えばどうなるか?まず信じてもらえないだろうし、嘘つきとして村からも追い出されるかも知れない。そうなるとエルとの関係も(まだ何もないが)消滅してしまう。それはまずい!絶対にまずい!
それに、なぜドラゴンの身体(器)に異世界出身の太郎の魂が宿ったのかも分らない。あの小さなドラゴンの体がインフェルノクロウの生まれ変わりだとしたら、そのインフェルノクロウの魂はどこにいったのか?
「転生じゃない可能性だってあるんじゃないですか?もしかするとあのドラゴンはインフェルノクロウの子どもなのかもしれないし。」それとなく別の可能性を提示してみた。というか、こういう場合にはまず子どもの可能性が高いのではないだろうか。生まれたばかりの子どもに太郎の魂が宿ったのではないか?そちらの方がしっくりくる。つまり太郎は何らかの理由でドラゴンの子供としてこの世に生まれたのだ。なぜ前世の意識があるのかは分らないが。
「インフェルノクロウに至ってはその可能性は低いと思う。」
エルは続けた。ドラゴンは、それぞれ独自の領域を持ち、世界のバランスを保つために重要な役割を果たしている。彼らの長命さは世界の歴史と密接に結びついており、その存在はこの世界、自然そのもの。その存在の強大さゆえ、つがいとなる存在も確認できない。雌雄同体である可能性もあるのだろうが、仮に子どもを成したとして、その存在が忽然と消えたことも奇妙である。
「何らかの術で生まれ変わったと考える方がしっくりくる。」
それがエルの返答であった。
太郎にとっては全然しっくりとは来ない。仮にインフェルノクロウが生まれ変わったとして、そこに太郎の人格が転移したと仮定すれば、それは失敗なのではないのだろうか?すんごい存在であるはずの、この世界の王が転生に失敗したって…ますます言い出しにくい話である。
まして、折角この世界の最強種であるドラゴンに転生しながら、勝手に人間になっちゃったのですし…
それも、目の前の女性に心を奪われて…
改めて「なんかスイマセン…」
とんでもない事態を引き起こしてしまったようで、心の中で謝罪を念じてみせた太郎であった。
しかし、事態は太郎の予想を超える広がりを見せることになる。
この世界の龍の王たちが全て姿を消したとの報が知らされるのは、この会話より三年後のことであった。
エルには何か思うことがあるらしく、詳細は知らされぬまま彼女の村へと誘われたのだ。いわく、村の長老であれば何かを知っているはずだと。
長老は、名を「ミリル」といい、その村で一番長命の人物であるが、その美しさはどこかエルによく似ていて、美貌に加えさらに威厳も感じさせた。聞くと、エルの曽祖母にあたる人物らしい。つまりエルの親戚なのだ。
「しまった。そうだと知っていれば菓子折りの一つも用意しておくのだった。」
ここは気にいられなければと太郎は思った。
そんな太郎の気遣いや、やる気などに一瞥もくれず、というか俺の存在に気づいてます?という感じで、二人の会話の蚊帳の外に置かれている状態の太郎だった。
後から知ったのだが、この世界ではエルフと人間はそれほど友好的な関係ではないらしい。太郎なりに分かりやすく解釈すると、エルフが一流大学出身のエリートとすると、人間は三流大学出身の中小企業の平社員みたいな感じになのだろうか。
長命で身体能力にも秀で美貌も兼ね備えているエルフという種族に人は嫉妬し、能力や潜在能力に劣る人間をエルフは下げずんでいるのだろう。
また親戚の可愛い娘が、どこの馬の骨とも知らない人間の男をいきなり連れてきたのだ、そうでなくても友好的である必要はないのだが…
「インフェルノクロウが転生した可能性…は確かにあるやもしれぬ。」
長老は、真っすぐにエルを見つめ呟いた。
ドラゴンに限らず、この世界に生きる全ての生命にとって、身体は器にしか過ぎない。身体は、ただの器。魂をいれる入れ物。
魂こそが生命そのもの。肉体は物理的には滅ぶ。だが魂のように見えない存在は滅びない。
「転生」とは、器が壊れその機能を停止し、解放された魂がまた新しい器へと移ることなのだ。
器はただ、魂を守るだけでなく魂を「縛る」存在ともなる。肉体が滅びて初めて「魂」は解放される。
「つまり、インフェルノクロウが死んで、その魂は私たちが遭遇したあのドラゴンに転生したと?」
「うむ。」
二人の会話を聞いていて、「違います!」とは言い出せない太郎。
その器に入ってるのは僕です~!とは言えない。
言えばどうなるか?まず信じてもらえないだろうし、嘘つきとして村からも追い出されるかも知れない。そうなるとエルとの関係も(まだ何もないが)消滅してしまう。それはまずい!絶対にまずい!
それに、なぜドラゴンの身体(器)に異世界出身の太郎の魂が宿ったのかも分らない。あの小さなドラゴンの体がインフェルノクロウの生まれ変わりだとしたら、そのインフェルノクロウの魂はどこにいったのか?
「転生じゃない可能性だってあるんじゃないですか?もしかするとあのドラゴンはインフェルノクロウの子どもなのかもしれないし。」それとなく別の可能性を提示してみた。というか、こういう場合にはまず子どもの可能性が高いのではないだろうか。生まれたばかりの子どもに太郎の魂が宿ったのではないか?そちらの方がしっくりくる。つまり太郎は何らかの理由でドラゴンの子供としてこの世に生まれたのだ。なぜ前世の意識があるのかは分らないが。
「インフェルノクロウに至ってはその可能性は低いと思う。」
エルは続けた。ドラゴンは、それぞれ独自の領域を持ち、世界のバランスを保つために重要な役割を果たしている。彼らの長命さは世界の歴史と密接に結びついており、その存在はこの世界、自然そのもの。その存在の強大さゆえ、つがいとなる存在も確認できない。雌雄同体である可能性もあるのだろうが、仮に子どもを成したとして、その存在が忽然と消えたことも奇妙である。
「何らかの術で生まれ変わったと考える方がしっくりくる。」
それがエルの返答であった。
太郎にとっては全然しっくりとは来ない。仮にインフェルノクロウが生まれ変わったとして、そこに太郎の人格が転移したと仮定すれば、それは失敗なのではないのだろうか?すんごい存在であるはずの、この世界の王が転生に失敗したって…ますます言い出しにくい話である。
まして、折角この世界の最強種であるドラゴンに転生しながら、勝手に人間になっちゃったのですし…
それも、目の前の女性に心を奪われて…
改めて「なんかスイマセン…」
とんでもない事態を引き起こしてしまったようで、心の中で謝罪を念じてみせた太郎であった。
しかし、事態は太郎の予想を超える広がりを見せることになる。
この世界の龍の王たちが全て姿を消したとの報が知らされるのは、この会話より三年後のことであった。
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