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第二巻
第20話 竜騎士
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大陸を支配するドラゴンたちが姿を消した後、世界は混乱と混沌に襲われた。絶対的な支配者を失った結果、数万年に及ぶ均衡は崩れ、各地で争いが起こり、騒乱が繰り返され、戦乱へと発展した。
この世は乱れた。
だが、また希望が生まれつつあった……その者が持つ巨大な大剣は炎を纏い、その一振りで全ての敵を焼き尽くす。
龍の如き力を振るうその男を、敵味方を問わず恐れ畏怖を込め呼称した「竜騎士」と。後に吟遊詩人達に好んで語られる竜騎士伝説の一説である。
タルオは、前線の先頭にいた。彼の後ろには戦士たちが付き従っている。エルフやドワーフをはじめ様々な種族による混生部隊、その数一千人。全てが重武装の漆黒の甲冑を身に纏う屈強な戦士たちだった。
タルオも同様に漆黒の鎧を纏っているが、羽織っている赤いマントが彼の存在のみを際立たせていた。正直、目立つのは彼の本意ではないのだが……何でこんな事になってしまったのだろう、どこでボタンを掛け違えたのだろうと思う。喧嘩なんてしたことも無かった平凡な男が、転生先では屈強な英雄になるなんて……まさに異世界転生そのもののストーリーになってないか??
エルとの出会い、古代図書館での出来事、そしてエルフの王都への旅…
そう全ては、あの王都に君臨するエルフの女王のせいだ!あの女狐め……
彼らは今、クランツークス平原と言われる広大な平野にある、小高い丘の上に陣を組んでいた。その下の野には彼らの三倍はあろうかと思われ数の敵軍が占めている。
その敵の姿は異様であり、赤い目、爛れた肌、苦痛に溢れた呻き声のように息をし、死者の群れのような不気味さであった。
「全軍突撃!」
タルオの号令下、彼の配下は一糸乱れぬ行軍を開始した。彼が命令と同時に振り下ろした強大な剣が向けられた方向へ突進を開始する。
各々剣を抜き放つ。一千を超える体躯の優れた戦士たちはの行軍は凄まじい圧力を生み出し、力の激流が敵に襲いかかる。
その力の一端に触れた敵の軍勢は砂糖菓子の如く、脆く崩れ去って行った。
まるで研ぎ澄まされた鋏が布を裁断するように、敵軍を容易に切り裂いて行った。
後に竜騎士団と呼ばれる一団は、敵軍を突破すると即座に反転し左右に広がった。両翼を広げ背後から半包囲する格好になる。
相手は竜騎士団の圧倒的な速度に付いて来られない。そのまま押し込まれるようにただ崩れて行く。
その様子を独り見ていたタルオは、ゆっくりと大剣を頭上へと掲げる。
それを合図として、敵軍を押し包んでいた兵は左右へ引き始めた。一糸乱れる動き。良く訓練されている。
敵は一箇所に固められていた。当初の予定通りに。
タルオは、剣を持つ手に力を込める。そして願う。「全てを打ち倒す力を我が手に。」
鞘のように剣を覆っていた冷えた溶岩の如き黒い塊に蜘蛛の巣のような幾かの光の筋が広がり割れ目が姿を表す。その割れ目からは炎が吹き出した。塊が炎に焼かれるように剥がれ落ちると、美しい刀身がその身をさらす。
そのまま上段に剣を構え、渾身の力を込め振り下ろす。
瞬間、時が止まったかのような静寂、そして、その剣先から生まれた凄まじい衝撃派は敵を一掃する破滅の咆哮。大地ごと生命を削り取り、残酷なまでに無慈悲な殺戮が繰り広げられた。
「終わったな。」ポツリと呟く、目の間の敵の軍勢は消え去った。いや消し去った。
突如、地から湧いたように闇の軍勢が現れ、ここ数ヶ月は様々な種族との争いに発展していた。
闇の軍勢は、ドラゴンの存在により大地から闇へと追いやられていた存在。それが再び大地へと這い上がり、その数は日に日に増している。
当初は、敵も連携が取れておらず、小競り合いの類で処理できていたが、徐々に集団として機能し、ついには軍として纏まりだし、その脅威度は飛躍的に高まっていったのだ。
だが、皮肉な事に「闇の軍勢」の登場によって、互いに争い敵対していた種族たちは、次第に連携し協力しするようになっていった。
敵の敵は味方ということなのだろう。
複数の種族の戦士たちからなる混生部隊の、あろうことかリーダーになると言う今のタルオのポジションはその辺りの事情の結果ではある。
しかし、その地位は彼が望んだものではなく、様々な思惑と混乱の結果であった。
この世は乱れた。
だが、また希望が生まれつつあった……その者が持つ巨大な大剣は炎を纏い、その一振りで全ての敵を焼き尽くす。
龍の如き力を振るうその男を、敵味方を問わず恐れ畏怖を込め呼称した「竜騎士」と。後に吟遊詩人達に好んで語られる竜騎士伝説の一説である。
タルオは、前線の先頭にいた。彼の後ろには戦士たちが付き従っている。エルフやドワーフをはじめ様々な種族による混生部隊、その数一千人。全てが重武装の漆黒の甲冑を身に纏う屈強な戦士たちだった。
タルオも同様に漆黒の鎧を纏っているが、羽織っている赤いマントが彼の存在のみを際立たせていた。正直、目立つのは彼の本意ではないのだが……何でこんな事になってしまったのだろう、どこでボタンを掛け違えたのだろうと思う。喧嘩なんてしたことも無かった平凡な男が、転生先では屈強な英雄になるなんて……まさに異世界転生そのもののストーリーになってないか??
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その敵の姿は異様であり、赤い目、爛れた肌、苦痛に溢れた呻き声のように息をし、死者の群れのような不気味さであった。
「全軍突撃!」
タルオの号令下、彼の配下は一糸乱れぬ行軍を開始した。彼が命令と同時に振り下ろした強大な剣が向けられた方向へ突進を開始する。
各々剣を抜き放つ。一千を超える体躯の優れた戦士たちはの行軍は凄まじい圧力を生み出し、力の激流が敵に襲いかかる。
その力の一端に触れた敵の軍勢は砂糖菓子の如く、脆く崩れ去って行った。
まるで研ぎ澄まされた鋏が布を裁断するように、敵軍を容易に切り裂いて行った。
後に竜騎士団と呼ばれる一団は、敵軍を突破すると即座に反転し左右に広がった。両翼を広げ背後から半包囲する格好になる。
相手は竜騎士団の圧倒的な速度に付いて来られない。そのまま押し込まれるようにただ崩れて行く。
その様子を独り見ていたタルオは、ゆっくりと大剣を頭上へと掲げる。
それを合図として、敵軍を押し包んでいた兵は左右へ引き始めた。一糸乱れる動き。良く訓練されている。
敵は一箇所に固められていた。当初の予定通りに。
タルオは、剣を持つ手に力を込める。そして願う。「全てを打ち倒す力を我が手に。」
鞘のように剣を覆っていた冷えた溶岩の如き黒い塊に蜘蛛の巣のような幾かの光の筋が広がり割れ目が姿を表す。その割れ目からは炎が吹き出した。塊が炎に焼かれるように剥がれ落ちると、美しい刀身がその身をさらす。
そのまま上段に剣を構え、渾身の力を込め振り下ろす。
瞬間、時が止まったかのような静寂、そして、その剣先から生まれた凄まじい衝撃派は敵を一掃する破滅の咆哮。大地ごと生命を削り取り、残酷なまでに無慈悲な殺戮が繰り広げられた。
「終わったな。」ポツリと呟く、目の間の敵の軍勢は消え去った。いや消し去った。
突如、地から湧いたように闇の軍勢が現れ、ここ数ヶ月は様々な種族との争いに発展していた。
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当初は、敵も連携が取れておらず、小競り合いの類で処理できていたが、徐々に集団として機能し、ついには軍として纏まりだし、その脅威度は飛躍的に高まっていったのだ。
だが、皮肉な事に「闇の軍勢」の登場によって、互いに争い敵対していた種族たちは、次第に連携し協力しするようになっていった。
敵の敵は味方ということなのだろう。
複数の種族の戦士たちからなる混生部隊の、あろうことかリーダーになると言う今のタルオのポジションはその辺りの事情の結果ではある。
しかし、その地位は彼が望んだものではなく、様々な思惑と混乱の結果であった。
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