銀河皇帝のいない八月

沙月Q

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第一章

2. 人猫との遭遇

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 長々とした生活指導と学習指導が終わり、さて部室へ行って出すものを出してこようかと思ったその時、空里のスマートフォンがブーと鳴った。

「アサト、アサト、今送った写真見てみ?!」
 前列の席から飛んできたミマにうながされるままメッセージアプリを開くと、ミマとのトーク画面にニュースのスクショが表示された。
「何これ?」
「ヒトネコだってさ!」
 記事のキャプションには「謎の人猫ヒトネコ、撮影される」とある。
 それはたしかに「人猫」としか言いようのないものだった。
 大きな茶色い猫が二本足で立っている……しかも、ベストのような服を身につけ、手にはライフル銃のような武器? まで持っているのだ。

 身体のプロポーションや毛並みは猫そのものだが、今にもそのまま二本足で画面の外へ走り出しそうな緊迫感のあるポーズは人間臭さにあふれている。何より、カメラのレンズを睨みつけたその大きな猫目の奥に、飼い猫とも、したたかな野良猫とも違う知性の光が感じられる……ような気がした。

「CGじゃないの?」
「わかんないけどさ、これ、この辺なんだよね」
 よく見ると、確かに背景には見覚えのあるビルや商店が建ち並んでいる。
「ね! こいつ探しに行こう!」
「はあ?」
 まったく、物好きなやつ……空里もこの奇妙な生き物に興味がないではないが、炎天下でいるかいないかもわからないお化けを探してウロウロ歩くのはごめんこうむりたかった。
 その時……

 教室全体をズズンと鈍い振動が揺らした。

「な……に……? 今の?」
 生徒たちが浮き足立つ。気がつくと消防車かパトカーか、遠くでサイレンが鳴り響いているのが聞こえる。それも、一つや二つではない。
「地震……じゃないよね……?」
 誰にともなく向けられたミマの問いに答えるように、教室のドアがガラッと開いて担任の先生が入ってきた。心なしか、顔が青ざめている。
「皆さん、すぐに下校してください。今日はすべての部活やサークル活動は中止です。寄り道もしないでまっすぐ家に帰ること。なるべく早く帰って、おうちの人たちと一緒にいてください」
 生徒の一人がたずねた。
「何か、あったんですか?」
「私にも詳しいことはわかりません。政府から何か発表があると思いますから、帰ったらテレビをつけて……」

 政府?
普段、まったく気にしたことのない存在だが、それが自分たちに直接何かを知らせる時は、とんでもない災害かそれに近いことが起きた時に決まっている。いま、自分たちのいる場所は何事かが起きたように見えない……だとしたら、何か起こっているとしたら、それは自分たちの家の近くかも……

 生徒の一人がガタンと席を立った途端、それを合図にして教室中が動き出した。
「あわてないで! あわてることはありません。静かにね。気をつけて帰ってください」
 そう言いながら先生は出口に向かう生徒たちの間を縫って、教室の窓に近づいてサッシを開け、空を見上げるとそのまま動かなくなった。
 何見てるんだろう? 

「アサト、行こ」
 ミマに手を引かれるまま出口に向かった空里は、忘れ物を思い出した。
「ちょっと待って」
 ロッカーに立てかけてあった弓と矢筒を取り、ミマとともに生徒たちでいっぱいの廊下に出る。さっきより大きくなったサイレンの音に不安をかき立てられ、誰もが足早に昇降口へ向かっていた。

 外に出て校門へ向かいながら、空里は手にした弓と矢筒をそのまま持って帰ろうとしていることに気づいた。
「ミマ、ちょっと待って。これだけ部室に置いてくるから」
「えー? 何言ってんの。部室なんか開いてないかもしんないじゃん」
 さっきまで人猫探しの寄り道を誘っていたミマが、今はまわりの雰囲気に呑まれて家路を急ぎたがっている。
「そしたら、廊下に置いて来る。また持って来るのめんどいもん」
「もーしょうがないなあ……じゃ、校門とこで待ってるから」
「すまん!」

 ミマと別れて走り出し、校庭の端に建つ部室棟にたどり着く寸前、空里のまわりに濃い影が落ちてきた。
 雲? にしては暗すぎ……
 上空を見上げて息を呑む。
「何あれ……」
 日光をさえぎり影を作っていたのは、巨大な翼だった。
 いや、翼のような形をした飛行機……いやいや飛行機というものはあんな風に空に静止したりしない。それにとにかく大きすぎる。
 目を凝らすと、その表面に浮かんだ機械的なディテールが視認できた。何であるにせよ巨大な機械が学校の真上に浮かんでいるのだ。もしそれが乗り物の一種だとしたら……
「宇宙……船?」
 空里の呟きに誰かが応えた。
 言葉ではなく、うめき声で。
 空里はその主をもとめて部室棟に近づくと、非常階段の陰に潜んでいる何者かに気づいた。
「!」
 それはあの「人猫」だった。
 写真で見たのと同じ、茶色い毛並みの奇妙な生き物。だが今はその足で立つことなく、隠れるようにうずくまっている。よく見ると、あたりの地面には乾きかけた何かのシミが点々と落ちている。手傷を負って出血しているようだ。
「ケガ……してるの?」
 人猫は、今度は応えるかわりにパッと身を起こすと空里に黒光りする円筒形の道具を向けた。
 銃! 
 光がほとばしり、空里のすぐ脇をかすめ、背後で鈍い衝撃音が響いた。
 振り返ると、何か機械のようなものが溶けながら地面に落ちたところだった。
 金属製の球体に、触手のような細長い部品が何本もつながっている。球体の中央部にはレンズ状の透明なパネルがはめ込まれていて、さながら目玉しかないクラゲのお化けだ。

「ミューバ、ドロメック……」
 人猫が言葉を発した。
 意味不明なその声を言葉と言うならば……だが、少なくとも空里には言葉に聞こえた。
「なんて言ったの?」
 人猫は難儀そうに立ち上がると、銃を構えたまま空里の脇をすり抜けて校庭に出て行こうとした。
 背丈は空里の半分ほど。人間なら三歳児くらいの大きさだが、その態度に子供っぽいところは微塵もない。
「どこに行くの?」
 聞いてどうすると自分でも思いながらたずねたが、返事はない。
 空里は捨て置けない気がして、そのまま人猫について行き……気がつくと、学校のまわりに信じられない光景が広がっているのを見た。

「!」

 空は得体の知れない機械でいっぱいだった。
 人猫が撃ち落としたのと同じメダマクラゲの群れや、トラックくらいの大きさの流線形をした物体……よく見るとそれは細長い脚で支えられ、地面に立っていた。
 そして、ビルの影から金属製の蛾にも似た飛行物体が現れた。
 ちょうど、真上に静止した巨大な宇宙船をそのまま小さくしたような形である。

「リャーック! リャーック!」
 人猫が何か叫んだ。見ると、校門の方から何匹かの人猫がこちらに向かって走ってくるところだった。そこには何人かの生徒もいて、ある者は人猫の出現に、ある者は自分たちを取り囲む謎の機械の姿に、事態を飲み込めないまま右往左往している。そこにはミマの姿もあった。
 手負いの人猫は、やって来る仲間たち……なのだろう……に向かって彼らを制止するように手を振った。
 すると、飛行物体が眼下の者たちを威圧するように、ぐっと高度を下げて来た。
 次の瞬間、翼の下部に突き出たアンテナのような針から光が一閃し、校門の周辺をなぎ払うように走った。

「!」

 爆発音がとどろき、人猫の一群も生徒たちも校門とともに消え去った。
「ミマ!」
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