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第三章
6. 宇宙海賊ハル・レガ
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重い沈黙が仕切り壁の中を包む。
ややあって、シェンガがようやく口を開いた。
「なあアサト……気持ちはわかるが、無駄だと思うぜ。俺は見たんだ。俺たちがデッキごと墜落する寸前、あいつは……背後から迫って来た機動衛兵に撃たれてたよ……」
「それは私も見た。でも、死んだと決まったわけじゃないでしょ?」
そう言いながら、空里は撃たれたネープの姿を思い出して、喉の奥がヒリヒリと痛むような気がした。
「ネープは生きてると思うの。なぜかはわからないけど……そう思うの。無駄かもしれないけど、生きてるかどうかを確かめずにこの星を出るのは、どうしてもいや」
「あなたが言ってるのは、あなたたちと一緒にいた完全人間の男の子のことですね?」
サーレオがたずねた。
「そう! 知ってるの?」
「ドロメックが見ていましたからね。銀河中の人間が見たことでしょう。彼が撃たれるところは……」
「その後、どうなったかは見えたの?」
答えたのはハル・レガだった。
「多分……生きてると思うよ。撃ったのは麻痺ビームのようだったからな」
「本当!」
空里は思わず大声を出していた。
「その後、医務衛兵が連れて行ったようだが、死体を運ぶ様子ではなかったな。明らかに、死んで欲しくない態度が見て取れたよ」
ほら! と言うように空里はシェンガとティプトリーの顔を見た。
二人とも、空里のこんなにもうれしそうな顔を見るのははじめてだった。
「つまり……帝国軍の医療区にいるってことか。上層の軍管轄エリアにまた戻らなきゃならんな」
シェンガが腕組みをしながら言った。
「あるいは、さらに上のサロウ城にいるかもしれません。あの子に用があるのは軍というより、ラ家でしょうからね」
サーレオの言葉に空里は身を乗り出した。
「そこへは、どう行ったらいいんですか? どうしても彼を助け出さなきゃならないんです。お願い! 教えてください!」
サーレオはちょっと悪戯っぽい微笑を見せた。
「ネープは銀河皇帝やその候補者に欠かせぬ者……であるとはいえ、貴女《あなた》にとってはさらに重要な存在になってしまっているようですね」
そこまで悟られているなら、なおさら引き下がれない。
空里は眉間にぐっと力をこめて、美少女の視線を受け止めた。
「どう行ったらと言うより、どう気づかれぬようサロウ城に忍び込んで、彼を奪い返すか……それはハル、あなたの領分のようですね」
サーレオに振られて、ハル・レガは頭をかいた。
「そうなるかな……」
「ハル……レガさん、お願い。手伝ってください」
「簡単な仕事ではないよ。可能性がなくはないが……本当にやり抜く覚悟が要る。そこは、だいじょうぶかい?」
空里は力強くうなずいて見せた。
「ハルはもう、手口をいくつか思いついているでしょう。そうしたことの専門家ですからね。宇宙海賊として……」
ティプトリーが目を向いた。
「ワオ。なんてアメイジングなお仕事なの。いよいよ映画みたい」
「昔の話さ。本当に大昔の……ね」
遠い目をするハル・レガにシェンガが聞いた。
「上層区へは、建物の中を通って行くのかい? 見つからないような高速リフトでもありゃ話は早そうだが……」
「いや、外を行く。幸い、そのために都合のいいことがあるんだ。そう、上層区へ辿り着くチャンスは十分ある。問題はその先だけどな……」
「百合紀元節を利用するのね。いいタイミングだこと」
サーレオの言葉の意味はわからなかったが、いい方向へ流れているらしい話に空里の気は明るくなってきた。
「アサト、どうやら貴女は星百合に近く感じられているようですね。それがどういうことかはまだわからないでしょうけど、わかった時またお会いしましょう。とにかく無事にこの星を出て、銀河皇帝になるのです。すべてはそこから始まるのです」
空里たちがサーレオの前を辞し、ネープ救出のために動き始めた頃……
彼らの目標であるサロウ城の内部では、鳴り響く警報音と機動衛兵たちが交錯し、そのうねりの中を、エンザ=コウ・ラが足早に歩を進めていた。
中央保安室に入ると、城内の全域をカバーするセキュリティ・ドロメックの送ってくる映像が、壁や中空を埋め尽くしている。特別あつらえのドロメックを、このような用途で自由に使えるのは、帝国でも軍か限られた高位の公家くらいだった。
そして、ラ家はその両方なのだ。
しかし、それでも脱走したネープを視界に収めることは出来ていなかった。
当然だ……完全人間が簡単に保安システムの網にとらえられることなどあり得ない。奴はきっと、我々の想像もしないようなところに隠れて、確実に脱出出来るチャンスをうかがっているのだ。
「完全人間は発見出来ていませんが、城外へ出ていないことも確実であります。ドロメックを城の壁体内部ならびに配管シャフトへ送り込んではいかがでしょうか?」
城内保安責任者の司令官が進言した。
離着床でネープたちを取り逃した間抜けに比べれば、遥かに使える男である。
「すぐにやれ」
司令官はパッと踵を返して指示を放ち出した。
城内にいるならば、これで見つからぬわけはないが……奴もそうなることは見抜いてるはずだ。なんとか向こうの裏をかいて、絡め取ってやらねば。
エンザは無駄と知りつつ、ドロメックの送ってくる映像をひとつひとつあらため出した。
自分の想像もつかないところ……
ネープの居場所は、まさに彼がそう思った通りのところだった。
すなわち、エンザの足元の床板一枚を隔てた、その真下だったのだ。
脱走直後からネープは、保安ステーションを目指し、そこに潜んでいた。ステーションにはあらゆる情報が集まって来るからだ。
医務室で掠め取った携帯端末を流体脳に接続し、表示される情報を全て記憶、分析し、空里の置かれている現状を正確につかんだ。
あとは、この星を出るための手段……船の問題だが、乗って来たスター・コルベットがまだ同じ離着床にあるようだった。しかも、航法流体脳の交換は完了しており、いつでも使える状態に復旧していることが報告されていた。
これで十分だ。行動に移る時だった。
城内武器庫の位置を確認したネープは、狭い空間を這いずって動き出した。
ややあって、シェンガがようやく口を開いた。
「なあアサト……気持ちはわかるが、無駄だと思うぜ。俺は見たんだ。俺たちがデッキごと墜落する寸前、あいつは……背後から迫って来た機動衛兵に撃たれてたよ……」
「それは私も見た。でも、死んだと決まったわけじゃないでしょ?」
そう言いながら、空里は撃たれたネープの姿を思い出して、喉の奥がヒリヒリと痛むような気がした。
「ネープは生きてると思うの。なぜかはわからないけど……そう思うの。無駄かもしれないけど、生きてるかどうかを確かめずにこの星を出るのは、どうしてもいや」
「あなたが言ってるのは、あなたたちと一緒にいた完全人間の男の子のことですね?」
サーレオがたずねた。
「そう! 知ってるの?」
「ドロメックが見ていましたからね。銀河中の人間が見たことでしょう。彼が撃たれるところは……」
「その後、どうなったかは見えたの?」
答えたのはハル・レガだった。
「多分……生きてると思うよ。撃ったのは麻痺ビームのようだったからな」
「本当!」
空里は思わず大声を出していた。
「その後、医務衛兵が連れて行ったようだが、死体を運ぶ様子ではなかったな。明らかに、死んで欲しくない態度が見て取れたよ」
ほら! と言うように空里はシェンガとティプトリーの顔を見た。
二人とも、空里のこんなにもうれしそうな顔を見るのははじめてだった。
「つまり……帝国軍の医療区にいるってことか。上層の軍管轄エリアにまた戻らなきゃならんな」
シェンガが腕組みをしながら言った。
「あるいは、さらに上のサロウ城にいるかもしれません。あの子に用があるのは軍というより、ラ家でしょうからね」
サーレオの言葉に空里は身を乗り出した。
「そこへは、どう行ったらいいんですか? どうしても彼を助け出さなきゃならないんです。お願い! 教えてください!」
サーレオはちょっと悪戯っぽい微笑を見せた。
「ネープは銀河皇帝やその候補者に欠かせぬ者……であるとはいえ、貴女《あなた》にとってはさらに重要な存在になってしまっているようですね」
そこまで悟られているなら、なおさら引き下がれない。
空里は眉間にぐっと力をこめて、美少女の視線を受け止めた。
「どう行ったらと言うより、どう気づかれぬようサロウ城に忍び込んで、彼を奪い返すか……それはハル、あなたの領分のようですね」
サーレオに振られて、ハル・レガは頭をかいた。
「そうなるかな……」
「ハル……レガさん、お願い。手伝ってください」
「簡単な仕事ではないよ。可能性がなくはないが……本当にやり抜く覚悟が要る。そこは、だいじょうぶかい?」
空里は力強くうなずいて見せた。
「ハルはもう、手口をいくつか思いついているでしょう。そうしたことの専門家ですからね。宇宙海賊として……」
ティプトリーが目を向いた。
「ワオ。なんてアメイジングなお仕事なの。いよいよ映画みたい」
「昔の話さ。本当に大昔の……ね」
遠い目をするハル・レガにシェンガが聞いた。
「上層区へは、建物の中を通って行くのかい? 見つからないような高速リフトでもありゃ話は早そうだが……」
「いや、外を行く。幸い、そのために都合のいいことがあるんだ。そう、上層区へ辿り着くチャンスは十分ある。問題はその先だけどな……」
「百合紀元節を利用するのね。いいタイミングだこと」
サーレオの言葉の意味はわからなかったが、いい方向へ流れているらしい話に空里の気は明るくなってきた。
「アサト、どうやら貴女は星百合に近く感じられているようですね。それがどういうことかはまだわからないでしょうけど、わかった時またお会いしましょう。とにかく無事にこの星を出て、銀河皇帝になるのです。すべてはそこから始まるのです」
空里たちがサーレオの前を辞し、ネープ救出のために動き始めた頃……
彼らの目標であるサロウ城の内部では、鳴り響く警報音と機動衛兵たちが交錯し、そのうねりの中を、エンザ=コウ・ラが足早に歩を進めていた。
中央保安室に入ると、城内の全域をカバーするセキュリティ・ドロメックの送ってくる映像が、壁や中空を埋め尽くしている。特別あつらえのドロメックを、このような用途で自由に使えるのは、帝国でも軍か限られた高位の公家くらいだった。
そして、ラ家はその両方なのだ。
しかし、それでも脱走したネープを視界に収めることは出来ていなかった。
当然だ……完全人間が簡単に保安システムの網にとらえられることなどあり得ない。奴はきっと、我々の想像もしないようなところに隠れて、確実に脱出出来るチャンスをうかがっているのだ。
「完全人間は発見出来ていませんが、城外へ出ていないことも確実であります。ドロメックを城の壁体内部ならびに配管シャフトへ送り込んではいかがでしょうか?」
城内保安責任者の司令官が進言した。
離着床でネープたちを取り逃した間抜けに比べれば、遥かに使える男である。
「すぐにやれ」
司令官はパッと踵を返して指示を放ち出した。
城内にいるならば、これで見つからぬわけはないが……奴もそうなることは見抜いてるはずだ。なんとか向こうの裏をかいて、絡め取ってやらねば。
エンザは無駄と知りつつ、ドロメックの送ってくる映像をひとつひとつあらため出した。
自分の想像もつかないところ……
ネープの居場所は、まさに彼がそう思った通りのところだった。
すなわち、エンザの足元の床板一枚を隔てた、その真下だったのだ。
脱走直後からネープは、保安ステーションを目指し、そこに潜んでいた。ステーションにはあらゆる情報が集まって来るからだ。
医務室で掠め取った携帯端末を流体脳に接続し、表示される情報を全て記憶、分析し、空里の置かれている現状を正確につかんだ。
あとは、この星を出るための手段……船の問題だが、乗って来たスター・コルベットがまだ同じ離着床にあるようだった。しかも、航法流体脳の交換は完了しており、いつでも使える状態に復旧していることが報告されていた。
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毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
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