幼馴染の王子が某令嬢に婚約を破棄されて自害しかけたので、

シュンコウ

文字の大きさ
7 / 44

婚約破棄という前提 七

しおりを挟む


 アルシュはキリエの突然の逃走にざわめく貴賓達を次々と押しのけた。小さな迂回すらまどろっこしくて、真っ白なテーブルクロスがかかった丸いテーブルも踏み越える。二方しかない出入口の扉に詰まり、もたもたと順番を待つ兵の背中を容赦なく蹴飛ばした。


「邪魔だ! どけ!」


 悲鳴が響くホールを出たあとは、ひたすら全力で回廊を駆け抜ける。
 この日のために用意した深い青紫のマーメイドドレスの裾は、足に絡みついて走りにくいという理由だけで破り裂き、後ろで一つに結んだ。足元を不安定にさせるヒールはとっくに脱ぎ捨てている。
 はしたない格好だが、大事な幼馴染みの命には変えられない。急げ。焦燥感が足を急かす。心臓が冷えるような嫌な予感がひしひしと迫っていた。
 アルシュが目指すのはキリエの自室だ。彼は昔からひどく気落ちすると、すぐに自室にこもって静かに泣き、感情をやり過ごそうとする癖がある。
 いや、今回に限っては泣いているだけならいい方だ。最悪、絶望に駆られるがままに己の命を捨ててしまう可能性が高い。何せ彼をこの世に引き止める者は、もうなくなってしまったのだから。

 見えた扉を勢いのままに蹴り開けると、案の定だった。
 執務机のすぐ隣にキリエの姿がある。アルシュから見て机の背後に窓があるため、差しこむ明かりが逆光となっていた。目を細めてしまうほどには眩しい。
 後光によって、キリエの姿は影になりがちだった。だが何をしようとしているのかは、シルエットでも丸わかりだ。
 喉を仰け反らせ、両手には柄を逆さに握ったナイフ。きらりと照り返す鋭い切っ先が狙いを定めるのは、無防備にさらけ出された首だ。
 まさに、今にも自害しようとする体勢。目に入れた瞬間、アルシュの血の気が未だかつてないほどに引いた。


「やめろ!!!」


 一足で飛びかかる。力がこめられようとした手を捻り、刃物をはたき落とした。


「痛……っ」


 すぐさま肩を強く押し、床に倒す。キリエから痛がる声が上がったが、後頭部を打ちつける音は鳴っていない。キリエの部屋の床には、毛足が長くふわふわふかふかな絨毯が敷きつめられている。多少手荒に扱っても怪我をさせることはほとんどない。
 一拍遅れてサク、とナイフが刺さる音がした。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家から出ない女優の幼馴染を連れ出したら、いつの間にか伝説になっていた件。

Memu(メム)
恋愛
学校に行かない引きこもりの国民的女優――水宮小鞠。 女の子に間違われる地味男子――白雲凪。 俺に与えられた役目はひとつ。 彼女を、学校へ連れて行くこと。 騒動になれば退学。 体育祭までに通わせられなくても退学。 成功率ほぼゼロの無理ゲーだ。 距離は近い。 でも、心は遠い。 甘えてくるくせに、本音は隠す幼馴染。 それでも―― 俺は彼女の手を引く。 退学リミット付き登校ミッションから始まる、 国民的スター幼馴染とのドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕。

感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました

九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」 悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。 公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。 「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」 ――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから

キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。 「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。 何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。 一話完結の読み切りです。 ご都合主義というか中身はありません。 軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。 誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?

狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」 「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」 「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」 「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」 「だから、お前の夫が俺だって──」 少しずつ日差しが強くなっている頃。 昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。 ……誰コイツ。

処理中です...