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水の日、洗礼 六
しおりを挟む閉じこめてじっとさせておくより、少しでも気がまぎれる事をやらせた方が精神衛生的にはずっといい。アルシュが不得手とする執務を手伝わせる、という手もなくはないが、体調が万全ではない内から仕事続きで疲れきっていた彼にさせるのも気が引ける。いずれ軽いものなら任せるつもりではあるが、今はその時期ではない。
緩慢な動作でスプーンを動かし、ちまちまとスープを口に運んでいたキリエの目がアルシュを映した。
間を置いた言いかけの言葉に、よろしくない感情が現れたのか。視線に混ざった不安を払拭するために、アルシュは微笑を浮かべる。
「街に降りようと思っているのだが、どうだ?」
「街?」
予想していなかった言葉だったのだろう。表情がきょとんとした。
「そろそろ城内の散策も飽きてきただろう? ちょうど視察の時間も取れたことだし、キリエさえよければ一緒にどうかと思ってな」
体調的な問題と警備を兼ねて、キリエの行動範囲は現在城内に限られている。その範囲ですら遠くて中庭付近、王族と、同じ顔触れの侍女や兵士達が行き来するだけの奥まった回廊のみだ。
これがキリエをサプフィールに連れて来てからの、実質初めての外出提案である。
「アルシュが思うほどあまり歩き回れてはいないよ。そもそも、この素敵な城に飽きるだなんて絶対にないと思うけれど」
顎に指を当てて、小首を傾げるキリエ。ちら、と伺うようにアルシュを見て。
「……仕事なのに、僕もついていっていいのかい?」
「構わない。むしろ、同伴してもらった方が私としては退屈しなくて助かる」
視察、は方便である。確かに時間を見繕っては定期的に周回し、街だけでなく辺境のすみずみまで生活状況を確認してはいる。が、そこまでお堅い仕事でもない。
アルシュにとって視察とは、城に缶詰めされないための息抜きである。そもそも本格的な業務であれば、毎回アルシュが出向かずとも信頼できるしかるべき者を出向かせる。それに、心身ともに万全ではないキリエを誘ったりはしない。
「嬉しいな。僕も久しぶりに、街へ足を運びたいと思っていたんだ」
頷いて断言すると、キリエの顔がぱあっと明るくなった。
そうと決まれば、と先程よりも速度を上げて食事を再開している。それでもスープにしか手をつけないが、少しでも食欲が出たなら良い傾向だろう。
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退会済ユーザのコメントです
コメントならびにお読みくださり、ありがとうございます。
彼女が侍女の枠を超えた態度で接するのは、とある理由をこじらせたがゆえなのですが、詳細につきましてはネタバレとなるため、申し訳ございませんが差し控えさせていただきます。
もう少し先になりますが、彼女の態度の理由を本編にからめて掲載する予定ですので、まったりお待ちいただけたらと思います。
コメントならびにお読みくださり、ありがとうございます。
周囲が婚約者の発言を信じていったのはとある理由があるのですが、ネタバレとなるため、申し訳ございませんが差し控えさせていただきます。
彼女や国のことを含めたざまあ展開は後に掲載予定ですので、まったりお待ちいただけたらと思います。