いろいろ集め

ジョー

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あんまんとおしるこ

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土曜の午後。
宿題をするのが嫌でソファーでだらだらしていると、無性にあんまんが食べたいと母さんに言われ、家でも役立たずな俺はコンビニまで自転車を飛ばして3個のあんまんを手に帰ってくると、廊下で兄貴が父さんから平手打ちを受け倒れ込んだ。
「お前はいつになったら、普通になれるんだ!」
兄貴は俯いて黙っていた。
「お父さん、恭男の話を聞きましょう」
母さんが助け船的な泥舟を出した事は得策ではないことは頭の悪い俺にも分かる。
父さんは案の定、書斎と言う名の趣味部屋へ籠もった。こうなると3日は機嫌は直らない。
兄貴は立ち上がると、廊下の隅に飛んでいた人気洋菓子店の袋を拾い、リビングのソファーへ置くと俺が誕生日に送ったサコッシュをかけ出て行った。
「ちょっと」
母さんは兄貴と父さんの両方を気にかけ、どちらへも動けなかった。
俺は兄貴の後を追いかけた。

「待ってよ」
「俺と一緒にいると父さんに叱られる。帰りな」
「あんだけ怒ってたら、今更だよ」
兄貴は立ち止まり、俺を抱きしめた。
俺は震えている兄貴の背中を擦りながら、公園を指差した。
「あっちで、あんまん食べない?」
兄貴は頷いて、俺についてきた。

少し寒いからか、公園には誰も居なかった。
丁度良かったなと俺は丸太風のベンチに腰掛けた。
兄貴は1人分開けて座るので、俺は構わず兄貴にくっつくように座った。
「ちょっと冷めたけど」
ビニール袋からあんまんの包みを兄貴に持たせ、俺も1つ取り袋を置いた。
「いただきます」
大きく口を開けてかぶりつく俺の隣の項垂れている兄貴は、握りつぶさんばかりの力であんまんを持っている。
「美味しいけど、カレーピザまんのが好きだな。あれって、駅の反対側のコンビニにしか置いてないんだよな。何でだろう」
2口で食べ終わった俺は、最後の1個を半分に割り、1口で食べた。
「兄貴、あんまん嫌いだった?和菓子屋さんやってるからあんこにあいたかな」
「あくことなんてないよ」
ほんの少し笑った兄貴は、立ち上がった。
「飲み物、買ってくるね。何がいい?」
「コーンスープ」
「ここの自販機にあったかな」
兄貴は小走りで自販機に向かった。
俺はベンチに置かれたあんまんを眺めた。
「やっぱりなかったから……」
渡された熱々のココアをカイロ代わりにして暖をとった。
兄貴はおしるこを1口飲み、あんまんにかぶりついた。
俺もココアを火傷しそうになりながらも、ゆっくり飲んだ。
午後3時を過ぎた。
俺達だけが取り残されたかのように周りは静かだった。
「彼氏とね、一緒になることにしたんだ。今日はその報告をしに来たんだ。一応伝えるだけ伝えておこうと思って」
兄貴に彼氏がいると言われたのは、5年振りに家帰ってきた時だった。
相手は、製菓専門学校で知り合ったと兄貴はとても緊張した面持ちで話していたのを忘れない。
聞かされる側も緊張が最高潮になった時、父さんが爆発した。
父さんは兄貴に掴みかかり責め立てた。兄貴の選んだ道がまるで禁忌を犯したかのように責め続けた。
面倒な所がある父さんだったけど、こんなに怒りを見せる事がなかったので、兄貴に彼氏がいることよりも、豹変した父さんの姿に驚いて俺と母さんは黙っていることしかできなかった。
兄貴は、普通でなければと騒いでいる父さんを押しやり、清々しい顔をして出て行った。
「勘当されているようなものだったけど、黙っているのは良く無いって彼氏にも言われてね」
「これから兄貴はどうなるの?」
「彼氏の養子に入って書類上でも家族になったら、洋菓子と和菓子の店を始める。まだまだ先になるかもしれないけど、2人の夢なんだ。大変だけど、何とかなる。今までも2人で生きてこられたから」
空き缶をいじりながら話す兄貴は良い顔をしていた。
「毅にも迷惑かけてごめん」
「別に」
「もう、家に戻る事はないから、あんなに父さんが怒る事もないよ」
「俺は兄貴に会いたいよ」
「会わない方がいいと思うけど」
「寂しいよ。家族なのに会えないなんて」
「俺も寂しいけど、欲しいものを全ては手に入れられない」
「兄貴は俺達よりも彼氏の方が大切なんだね」
意地の悪い事を言っても兄貴は嫌な顔はしなかった。
「どちらが大切かじゃなくて、どちらが生きやすいか選んだんだ。あの家にいたら、俺は生きていられないから」
俺は怖くなって、兄貴の袖を掴んだ。
「毅も無理だと思ったら逃げなよ」
「俺、逃げる場所がない。ばあちゃんの家に逃げても連れ戻されるよ」
兄貴はサコッシュからペンとメモを取り出し、何か書き始め、1枚破いて俺に渡す。
「いざというときの場所」
「これは……」
「俺の住んでる所。あと数年はその場所に住んでるから、困ったら逃げてきていいよ」
兄貴は優しく笑ってくれた。
「メモ、父さんに見つからないようにね」
俺は住所を覚え、メモを返した。
「覚えたから大丈夫」
「本当に?」
俺が笑うと兄貴も笑った。
兄貴と心から信頼しあえたのは、今日が初めてだった。
兄貴とは仲が悪いわけではなかったけど、兄貴が高校生になってから家族と距離を置き始めて、近寄りづらくなった。その頃から兄貴は同性が好きだったのかもしれない。
俺には人を好きになることが分からないけど、今の兄貴は家に居たときよりも比べられないほど楽しそうで幸せそうだった。
父さんには見えなかったのかもしれない。見ようともしなかった方が正しいかもしれない。
同性を好きになる人の事を受け入れられない人は多いと思う。俺も正直、驚いた。だから父さんの考えも間違ってはいないのかもしれないけど、俺達家族には良くない方へ進んでしまった。
「あんまんよりも顔、冷やさないといけなかったね。彼氏さんが心配するよ」
「そうかも」
兄貴は立ち上がった。
「そろそろ帰ろう」
「そうだね」
公園の入り口まで俺の最近の出来事を話しながら、歩いた。
あと数メートルで兄貴と別れなければならないと思うと足が止まった。
「どうした?」
「何でもない」
俺達は公園を出るとしばらく互いを見つめた。
「元気でね。何かあれば……」
「覚えてるよ」
「じゃあね」
「うん」
兄貴は手を振って、駅へ向かって歩き出した。
俺は姿が見えなくなるまで道の先を見続けた。
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