赫銀伝記-炎氷の天狐-

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魔女の目覚め

1 銀陽の仕事

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「ジル様~~~!」
「ジルさまー。」
「ジル!」

漆黒の玉座の間。

銀の煌めきとともに魔女は100年ぶりにその姿を見せた。
そこには既に三公達が集まっていた。

赤い髪をなびかせて我先にと駆け寄ってくるダークエルフは魅惑的なお姉さま。
ぎゅむーとジルに抱き着く。

「皆久しいな。元気か?すまない、随分と寝すぎてしまって……レピダ、苦しい。」
「ジル様が!ジル様がお目覚めになられて!本当に嬉しいんです!」
「レピダやめなよー。ジルさまが苦しいってー。」

そう言ってレピダを引き離したのはうさぎちゃんの主。
すらりとした体に中性的な顔立ち、真っ白な巻き毛に白い肌に白い瞳そして極めつけの白い翼。
天使な彼、ドルキスはとにかく可愛いものに目がない。

「助かったよドルキス。さっきもの一報も。」

ドルキスの髪をわしゃわしゃと撫でる。
彼の羽がぱたぱた動く。
嬉しいのかしら。

「いいえー。」
「あ、ドルキスずるい!!私も!!」

すかさずレピダが割り込んでくる。

「おーい、やめてくれよべたべたと。それよりなんだ!ついにお前が起きてきたってことは今度こそ戦争か?!生ぬるい討伐はもう終わりでいいんだな!!なら俺様を指揮官においてくれよ!な!」

青い目をらんらんと輝かせながら訴える彼は龍人のベラトーラさん。
筋肉質な巨体を黒々とした鱗が覆っている。
魔女に仕えるようになってからも時々ふと居なくなり、日々刹那を生きているようだった。

「違うよベラトーラ、ジルさまは星の調節をするだけー。」

半ば呆れ顔で言うドルキスにベラトーラは不満そうだ。

「へえ、そーかい、なーんだ、期待して損したや。」

そっぽを向くベラトーラ。
友は昔とちっとも変ってなくて、ジルは嬉しくなった。















ジルは片手を振り星の花の文様を宙に描いた。
銀色の花が咲き、広間に花びらが舞う。
三人はその場に跪き同じ文様を宙に描く。
赤、白、青の色が散った。

玉座に腰掛け、三公を見つめる。

「城の結界の補修や薬の製造はこれから時間をかけて行う。問題は下界の者どもだが、神殿に祈るもの以外は放っておいても良いと思うのだ。」

頷く三人。

「だからな、故にな、私は、平穏が欲しい。」
「「「…へえ?」」」
「調節をするだけなのだろう?それならもう少しだらだらしていたいのだ。」

にこにこ顔で三公にその旨を伝える。

「…お言葉ですがジルさまー。ジルさまにはアルカナを治める者として最低限のことはやらねばならぬのですよー。精霊の木から実が落ちたばかりなのですー。それに」
「…は?」

ジルは驚いて声を出した。
精霊の木から?実が?落ちた?
それって新しい神獣が生まれる前兆じゃあないの。
そいつ見つけるのわたしの仕事じゃあないの。

「…うん。100年分、やる事はたくさんありそうだな。」

ジルは玉座の間の壁を見つめてそう呟いた。

「それにですよ!」

レピダが口を開く。

「人間の国で何やら闇術を扱う者がいるようで!」

「その影響か何だか知らねえんだが森で変に興奮した魔獣を見かけるんだわ。
俺らみたいなのに問題はないが、下界はちとまずいんじゃあねえか?」
「ベラトーラまでまともなことを言っている気がするのだが、、、」
「おい、ジルそれはどういう意味だよ」

迫力満点の瞳がこちらを睨む。
首をぶんぶんと振った。

「いやいや、思った以上にやる事があるのだなと。」
「それからジルさまー。」

まだ何かあったかとジルは焦り始めた。
ドルキスは主に、にこっと笑った。

「城の者が皆、ジルさまに会いたがっておりますのでね、晩餐会でもと思いまして。」















塔に戻ったジルは考えていた。

面倒なことは避けたい、だけれどもこの美しいアルカナを保てるのは自分だけだ。
動乱は過ぎ去り、銀陽と呼ばれるようになってから随分時が過ぎた。
あの人の歳にはまだまだ届かないけれど、きっといつかは超えるのだろう。

嗚呼、今日は晴れているから夜空も最高だ。

窓枠を超え、魔力を使って飛行する。
無数の星が輝く闇夜に向かって想うジルは銀色の光を纏って、高く高く上昇していく。

この星にたどり着いたのが昨日のことのように思えて、それでも記憶の中のあの人は遠い過去にいるようだった。



星が遠い‐







突然、森が白く発光した。







「んー、私の庭に、お客さんかな。」

ジルは遠い星を見つめ、そして光った方を見た。
願わくば平穏を…!と思いながら、急ぎ森の方へ向かった。
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