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2 魔力飽和は辛いけどただの俺得だから良い
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「シロノア様!クロノル様!お二人ともどちらに行かれていたのですか!!」
城門には仁王立ちになった先生が立っていて、ぼくらを出迎えてくれた。
嬉しくないね。
その声を聞いたノルは飛び上がって逃げようとしたけれど、ぼくが浮かない。
『ぼくはもう飛べないから先に行って。』
と、思念術で伝えるとノルは頷いてぼくを抱いて飛び上がろうとした。
途端にノルと僕の足場をがっちり固める赤い影。
ああ、ごめんねノル。
「げっ…、」
「あ、あのう…。」
ぼくとノルは、父様が遠方視察で城を開けるのを知り、教育係のコミツ先生から逃げて遊んでいたのだった。
「全く、呆れたものですね。どこで遊んでいたのですか?あなた方の上のお兄様方は、あなた方の年頃にはきちんと術の練習をなされていたのに。少しは自覚なされて下さい。やはり二人だと厄介ですね。あれだけ言ったのに…」
「でも、あの、コミツ先生?…これノルが見つけてきたんです。」
「お、おい、ちょっと待てノア!」
ぼくはノルに“だいじょうぶだから”と笑った。
「…シロノア様、見せて下さい。」
ノルの声にびっくとしたぼくはおずおずと花を差し出した。
派手な赤い髪に、女の人のように綺麗な顔がこういう時余計に先生を悪く見せた。
コミツ先生の笑顔が怖い…!
花を受け取ったコミツ先生が、メガネの奥でぎらりと光る赤眼を細めた。
「…クロノル様、これをどこで?」
「あー、ほら、アズ兄さまに聞いたんだ。魂が入るサイズの窓なら川の近くの方がよーく生えてるってー…。」
「はあ、クロノル様にはお話が足りないようですね…。」
「ごめんなさいコミツ先生、ぼくが見たいって言ったからノルが取って来てくれたんです…!何かあってもぼくなら術で守れるし、ノルなら逃げられると思って…。」
コミツ先生が僕をぎろりと睨んだ。
「…シロノル様、貴方までもがこのような危険なことを…どうして。」
「…僕が取ってきたんだ!ノアは関係ない。」
コミツ先生が拘束の影を解き、ぼくたちの目線に合うようにしゃがんでため息をついた。
「はあ、何事もなかったから良いものを。お二人に何かあってからでは遅いのです。魔王様に殺されます。私が。…せめて、せめてですよ?外に遊びに行くのならば、誰か就かせます。なので、必ず言って下さいね?」
「…はい。ごめんなさい、コミツ先生。」
「…ごめんなさい。」
「ではお休みになられて下さい。外に出ていたのならなおさらお疲れでしょうからね。お食事はお部屋にお持ちしますから。」
「…ありがとうございます。」
ノルは、頭を下げるぼくを引っ張りながら城に入った。
ぼくらが入ると城の門が固く閉ざされて、コミツ先生が先生の使い魔と一緒に城の周りに結界を張っていた。
コミツ先生の魔術は、赤だったり黒だったりが文字や陣を形成して宙に溶けだす。
本で読んで解ったのだが、とても難しい魔術だ。
見ていてとてもカッコイイ。
魔術発動の光が黄昏時の城を照らす。
ぼくの先を歩くノルを見ると、黒い天使は俯きながら言った。
「ノア…ごめんね。また僕のせいで怒られて。」
「違うよノル…!今日も楽しかったよ!でね、ぼくもう」
ぼくはへなへなと座り込んでしまう。
足に力が入らない。
疲れるの、早くなったなあ。
「えっ!ノア?ノア!大丈夫?」
ノルはすぐにぼくを抱きあげた。
その華奢な腕からは想像もできないような力だ。
黒い瞳が心配そうにぼくを見つめている。
ぼくは頷きながらノルの首に手をまわした。
ノルのふんわりとした優しい香りがぼくを落ち着かせる。
「…ノル、このまま転移をかけるね。」
「ああ…。」
ぼくは白い翼を広げてノルを覆い、体内の溢れだしそうになった魔力を転移に変えた。
それから部屋に入ってからは意識が朧気だった。
ノルが僕をベッドに運んで、寝かせてくれたのは覚えている。
「ノア、気付くの遅くてごめん。すぐ楽にするから。」
ノアは、ぼくの両手をベッドに押さえつけると馬乗りになった。
そうしてゆっくりと体を落とし、深く口付ける。
瞬間、ぼくの体に溜まっていた魔力が激痛を伴って抜け出ていった。
痛みの反動でぼくはめいっぱい体をばたつかせる…が、ノルによって抑えられてるせいかびくともしない。
朦朧とする意識の中で、ぼくの体は確実に楽になっていた。
少しして、ぼくの体が自由になり、ノルの林檎のように色付いた唇がぼくから離れていった。
ノルは服の袖でぐしぐしと黒く濡れた口を拭っている。
「…ありがとう、ノル。」
ぼくはふっと力を抜いて瞼を閉じた。
暖かい。
ふふっ、父様や兄さま達には悪いけど、ああ、コレが続くならこんな体質でも幸せだ。
なんて。
先ほどよりも立派になった彼女の黒い翼に包まれながら、ぼくは眠りについた。
✱
「ノア…、僕が絶対守るから。」
黒い天使の少女は、ベッドで眠る白い天使を見て長い睫毛を伏せ、そっと唇に手を当てた。
さらりと黒髪が流れる。
そうしていつものように、この感情は義兄に対する庇護欲なのだと自分に言い聞かせた。
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