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序章
前世の最後
しおりを挟むもう、殆ど見えなくなった目。
きっと、清潔ではない髪。
食べ物を受け入れる事が出来なくなった、軽い身体。
―もうすぐ自分はこの世界から消える。
痛みも殆ど感じない。
少しずつ、力が抜けてゆく。
その身体を優しく抱き締め、泣いている人がいる。
ぼんやりと見える視界の向こう、彼女は泣きながら笑っていた。
嗚咽を堪えながら、笑っていた。
「だいすきよ。」
そう何度も繰り返しながら。
きっと、自分の目に映る彼女の最後の姿が笑顔であるように。
繰り返し「だいすき」と伝えながら、大粒の涙を流し彼女は笑う。
神様、願うならば、これからの彼女が幸せであるように。
自分が天国にいけるだなんて烏滸がましい希望は持っていないから、ただ、彼女を幸せにして下さい。
彼女がひとりで泣かないように。
自分だけにぽつりと漏らしていた悲しさや寂しさをもう二度と味あわないように。
彼女を愛してくれる誰かに、出会えるように。
―でも、願うならば、もう少しだけ彼女のそばにいたかった。
泣き声が、嗚咽が、遠くなっていく。
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