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シーン2 ~温厚な神父~
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「ああ、ミスリードさんね! あの人なら今晩、お屋敷のパーティに出席されるはずですよ。」
村の女性が、気軽に教えてくれた。
今回、メイタンテーヌの探偵事務所に舞い込んだ調査依頼は、ある美男のエリート弁護士が不倫をしているかどうか調べてほしい、というものだ。
ーー名前を、ミスリード・ヨウインと言う。なんでもこの弁護士、このところ、頻繁に島を訪れているという。
彼がこの島で、誰と、どのように会っているのか。はたしてミスリードの妻が不安に思った通り、本当に不倫をしているのか。まずは、それとなく彼の評判を聞いてみようというのが、メイタンテーヌ達の当面の方針だった。
「そうなんですね。我々は現在、とある事件に絡んで優秀な弁護士を探しておりまして、、、。ミスリードさんに一度お会いして、相談してみたいと思っていたところなんです。」
「そうなの! ミスリードさんはねえ、見た目がとってもイケメンでね。村の女性も、あの人に憧れている子は多いのよ。でも、いつも左手の薬指に結婚指輪をしてるからねえ。。。」
村人の女性は、井戸端会議モードに入ってペチャクチャとしゃべり続ける。いつの世も、女性はイケメンと恋バナに興味があるものと、相場が決まっている。
「でもここだけの話、ミスリードさんには、ちょっとした噂もあるのよ~? 今日のパーティの主催者はね、お屋敷の主人である、スグシヌンジャナイ・コヤーツ氏。この島一番の金持ちなんだけど、その奥さんの、イロケスゴイ・コヤーツさんがとっても美人なの! この美人の奥さんと、ミスリードさんがあまりに仲が良さそうだから、もしかしたら二人はデキてるんじゃないかって話があるのよ。」
ここまで言うと、村の女性は二カッと笑って付け加えた。
「まあ、本当のところはどうだか、私にゃわかりゃしないんだけどね!」
いきなり、今回の調査依頼の核心に迫るような話だが、あえて興味がないかのように、メイタンテーヌは話題をそらした。
「『お屋敷』っていうのは、この島の中央にある、あの白い豪邸のことですよね? スグシヌンジャナイさんは、その豪邸に居を構える、ゼッカイ島の名士って感じですか」
「いやー、別にお屋敷自体は、昔からあったけどね、随分さびれた建物だったのよ。それを一年半ぐらい前かな、スグシヌンジャナイ氏が移住してきて、大改築して豪邸にしたってわけ。だからつまり、あの方は昔からこの島に住んでる人じゃあないのよ。それで今回は、その大改築が終わったってんで、パーティをやることになったのよ」
「なるほど。それで、スグシヌンジャナイ氏と仕事上のつながりがあるミスリードさんも、パーティに招待されているわけですな」
横で聞いていたボンクラー警部補が、納得したようにコメントした。このバカンスを楽しむ中年男性も、いまのところ、メイタンテーヌ達と行動を共にしているようだ。
「そうそう! でも、仕事のつながりなんか無くったって、大丈夫よ。スグシヌンジャナイ氏は、見栄っ張りなタイプだから、、、行けば、誰でも会場に入れてくれるわよ。あんたたちもラッキーだったね、たぶん今夜、行ったらごちそうを食べられるわよ」
「えー! 行きたい行きたい! 行きましょうメイタンテーヌさん!」
メイタンテーヌの隣にいたフラグミールが、とたんにはしゃぎだした。この若い女性は、まだまだ「色気より食い気」という感じらしい。
「おや、向こうから神父さんがくるね。おーい! いつもご苦労様ですー!」
村の女性が手を振った先に、黒い衣装を着た神父がゆっくり歩いてくるのが見えた。髪の色は鮮やかな金髪で、整った顔立ちをしている。首には十字架のネックレスをしている。
近づいてくると、いかにも温厚な人柄が伝わる笑顔が印象的だった。
「おや、旅の方ですか。どうもはじめまして」
「はじめまして。私は名探偵の、メイタンテーヌです」
前髪を人差し指でかきあげながら、メイタンテーヌが「名探偵」のところを強調して言う。
「私は助手の、ジョシュヤ・フラグミールといいます」
「私はボンクラーと言います。今日はバカンスで、この島に来ましてな」
三人が次々と自己紹介をすると、神父もニコニコしながら名前を名乗った。
「ーー私の名前は、シン・ハンニンです。」
「ははあ。。。。。結構な、お名前ですなあ。」
ボンクラー警部補が、いかにも心のこもっていないお世辞をいった。中年特有の、脊髄反射で会話している感がある。ただし、まるまると太った憎めない体形をしているから、適当なセリフもさして、気にならないところがあった。
「神父さんは、とてもいい人でね。この通りいつも穏やかでいらっしゃるし、殺生を好まないのよ。村の祭事なんかでお世話になるけど、本当にみんなから評判がよくて、素晴らしい方です」
村の女性が、大げさにほめたてた。シン・ハンニン神父はそれを、相変わらずニコニコしながら聞いている。あまりに表情が笑顔のまま変わらないので、この人は、こういうお面をかぶっているのか、、、とさえ思われた。
「神父さんも、今晩のパーティにはいらっしゃるの?」
「そうですね、お呼ばれしたものですから、大変恐縮ながら伺おうかと。私はお酒は飲めませんが、共に幸せを祝わせて頂こうと思っております。」
「そうよね、行ったほうがいいわよ、スグシヌンジャナイさん、喜ぶわ」
「私たちもパーティに伺う予定なので、そこでまたお会いするかもですね!」
フラグミールが愛想よく言った。
「そうですね、、、皆様ぜひ、この島でゆっくりと、おくつろぎください。それでは、私は少し用事がありますので、これで失礼します、、、」
笑顔を絶やさずに、シン・ハンニン神父は言うと、ゆっくりした足取りで立ち去って行った。その影を見送りながら、メイタンテーヌ達は口々に感想を述べ合った。
「いやはや、非常に温厚な、感じのいい方でしたね。さすがは、神に仕える身というか」
「もしもこの後、島で何らかの事件がおこったとしても、ああいう人間は、何も悪いことに関与していないでしょうな」
「まったくだ。何も、あやしくなかった。怪しむ要素が一つもない。こんなにあやしくない人間がいるのか、というぐらいの登場人物だ」
「メイタンテーヌさん、やけに説明的なセリフですね。一体、誰に説明してるんですか?」
フラグミールが、不思議そうに言った。
「いや、なんとなく、思ったことを口に出しただけなんだが、ちょっと不自然に聞こえたのかな」
メイタンテーヌは、特に深く考えていない様子で前髪をかきあげながら言った。
「おお、なんかちょっと雲行きがあやしくないかね」
ボンクラー警部補が言うと、確かに向こうの空を、黒い雲が空を少しずつ覆い始めていた。まるで人間の内に秘めた、どす黒い感情が渦巻くかのような、不吉な感じのする雲だった。
「これから、ミスリード・ヨウインさんに会いに行くわけだが、、、そこに、シン・ハンニンさんもいるかもしれないな」
メイタンテーヌは、誰に言うともなく、ポツリと呟いた。
村の女性が、気軽に教えてくれた。
今回、メイタンテーヌの探偵事務所に舞い込んだ調査依頼は、ある美男のエリート弁護士が不倫をしているかどうか調べてほしい、というものだ。
ーー名前を、ミスリード・ヨウインと言う。なんでもこの弁護士、このところ、頻繁に島を訪れているという。
彼がこの島で、誰と、どのように会っているのか。はたしてミスリードの妻が不安に思った通り、本当に不倫をしているのか。まずは、それとなく彼の評判を聞いてみようというのが、メイタンテーヌ達の当面の方針だった。
「そうなんですね。我々は現在、とある事件に絡んで優秀な弁護士を探しておりまして、、、。ミスリードさんに一度お会いして、相談してみたいと思っていたところなんです。」
「そうなの! ミスリードさんはねえ、見た目がとってもイケメンでね。村の女性も、あの人に憧れている子は多いのよ。でも、いつも左手の薬指に結婚指輪をしてるからねえ。。。」
村人の女性は、井戸端会議モードに入ってペチャクチャとしゃべり続ける。いつの世も、女性はイケメンと恋バナに興味があるものと、相場が決まっている。
「でもここだけの話、ミスリードさんには、ちょっとした噂もあるのよ~? 今日のパーティの主催者はね、お屋敷の主人である、スグシヌンジャナイ・コヤーツ氏。この島一番の金持ちなんだけど、その奥さんの、イロケスゴイ・コヤーツさんがとっても美人なの! この美人の奥さんと、ミスリードさんがあまりに仲が良さそうだから、もしかしたら二人はデキてるんじゃないかって話があるのよ。」
ここまで言うと、村の女性は二カッと笑って付け加えた。
「まあ、本当のところはどうだか、私にゃわかりゃしないんだけどね!」
いきなり、今回の調査依頼の核心に迫るような話だが、あえて興味がないかのように、メイタンテーヌは話題をそらした。
「『お屋敷』っていうのは、この島の中央にある、あの白い豪邸のことですよね? スグシヌンジャナイさんは、その豪邸に居を構える、ゼッカイ島の名士って感じですか」
「いやー、別にお屋敷自体は、昔からあったけどね、随分さびれた建物だったのよ。それを一年半ぐらい前かな、スグシヌンジャナイ氏が移住してきて、大改築して豪邸にしたってわけ。だからつまり、あの方は昔からこの島に住んでる人じゃあないのよ。それで今回は、その大改築が終わったってんで、パーティをやることになったのよ」
「なるほど。それで、スグシヌンジャナイ氏と仕事上のつながりがあるミスリードさんも、パーティに招待されているわけですな」
横で聞いていたボンクラー警部補が、納得したようにコメントした。このバカンスを楽しむ中年男性も、いまのところ、メイタンテーヌ達と行動を共にしているようだ。
「そうそう! でも、仕事のつながりなんか無くったって、大丈夫よ。スグシヌンジャナイ氏は、見栄っ張りなタイプだから、、、行けば、誰でも会場に入れてくれるわよ。あんたたちもラッキーだったね、たぶん今夜、行ったらごちそうを食べられるわよ」
「えー! 行きたい行きたい! 行きましょうメイタンテーヌさん!」
メイタンテーヌの隣にいたフラグミールが、とたんにはしゃぎだした。この若い女性は、まだまだ「色気より食い気」という感じらしい。
「おや、向こうから神父さんがくるね。おーい! いつもご苦労様ですー!」
村の女性が手を振った先に、黒い衣装を着た神父がゆっくり歩いてくるのが見えた。髪の色は鮮やかな金髪で、整った顔立ちをしている。首には十字架のネックレスをしている。
近づいてくると、いかにも温厚な人柄が伝わる笑顔が印象的だった。
「おや、旅の方ですか。どうもはじめまして」
「はじめまして。私は名探偵の、メイタンテーヌです」
前髪を人差し指でかきあげながら、メイタンテーヌが「名探偵」のところを強調して言う。
「私は助手の、ジョシュヤ・フラグミールといいます」
「私はボンクラーと言います。今日はバカンスで、この島に来ましてな」
三人が次々と自己紹介をすると、神父もニコニコしながら名前を名乗った。
「ーー私の名前は、シン・ハンニンです。」
「ははあ。。。。。結構な、お名前ですなあ。」
ボンクラー警部補が、いかにも心のこもっていないお世辞をいった。中年特有の、脊髄反射で会話している感がある。ただし、まるまると太った憎めない体形をしているから、適当なセリフもさして、気にならないところがあった。
「神父さんは、とてもいい人でね。この通りいつも穏やかでいらっしゃるし、殺生を好まないのよ。村の祭事なんかでお世話になるけど、本当にみんなから評判がよくて、素晴らしい方です」
村の女性が、大げさにほめたてた。シン・ハンニン神父はそれを、相変わらずニコニコしながら聞いている。あまりに表情が笑顔のまま変わらないので、この人は、こういうお面をかぶっているのか、、、とさえ思われた。
「神父さんも、今晩のパーティにはいらっしゃるの?」
「そうですね、お呼ばれしたものですから、大変恐縮ながら伺おうかと。私はお酒は飲めませんが、共に幸せを祝わせて頂こうと思っております。」
「そうよね、行ったほうがいいわよ、スグシヌンジャナイさん、喜ぶわ」
「私たちもパーティに伺う予定なので、そこでまたお会いするかもですね!」
フラグミールが愛想よく言った。
「そうですね、、、皆様ぜひ、この島でゆっくりと、おくつろぎください。それでは、私は少し用事がありますので、これで失礼します、、、」
笑顔を絶やさずに、シン・ハンニン神父は言うと、ゆっくりした足取りで立ち去って行った。その影を見送りながら、メイタンテーヌ達は口々に感想を述べ合った。
「いやはや、非常に温厚な、感じのいい方でしたね。さすがは、神に仕える身というか」
「もしもこの後、島で何らかの事件がおこったとしても、ああいう人間は、何も悪いことに関与していないでしょうな」
「まったくだ。何も、あやしくなかった。怪しむ要素が一つもない。こんなにあやしくない人間がいるのか、というぐらいの登場人物だ」
「メイタンテーヌさん、やけに説明的なセリフですね。一体、誰に説明してるんですか?」
フラグミールが、不思議そうに言った。
「いや、なんとなく、思ったことを口に出しただけなんだが、ちょっと不自然に聞こえたのかな」
メイタンテーヌは、特に深く考えていない様子で前髪をかきあげながら言った。
「おお、なんかちょっと雲行きがあやしくないかね」
ボンクラー警部補が言うと、確かに向こうの空を、黒い雲が空を少しずつ覆い始めていた。まるで人間の内に秘めた、どす黒い感情が渦巻くかのような、不吉な感じのする雲だった。
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