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第二章
訓練所と、ミスリルロッド
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「はいっ そこで踏み込んで攻撃!」
「セイヤー!」
「腰が入ってない! もう一度!」
訓練所内に、オルブライト小隊長の声が響く。
「よーし、いったん休憩! じゃあこれから、魔道士チームの魔法訓練に入る!」
僕は首をすくめた。訓練の順番が回ってきたみたいだ。
オルブライトさんは、さっぱりとした短髪の、30歳ぐらいの剣士だ。青と白の制服からは、たくましい二の腕がのぞく。普段は優しいのに、訓練になると別人のように厳しくなる。
「じゃあ、新入りのソウスケくん! 得意な魔法は補助魔法だっけ?」
「あ、はい、、、行動遅化ぐらいしかとなえられませんが、、、」
「じゃあ、杖を持って、実戦訓練! 敵役が動き回るから、よく狙って、ちゃんと当てて!」
ええ、味方に魔法をあてちゃうの? 僕はおどおどしながら、支給された攻撃用の杖をもった。
休憩中のメンバーが、必然的に見物人に変わる。僕はいきなり、実力がバレることになってしまった。
ここにいるみんなは、全員レベルが二桁はあるかな……。僕が魔法レベル4だと知ったら、どんな顔をするのだろう。僕はイヤな汗が、背中を伝うのを感じた。
◇◇◇
僕の職業は「見習い魔道士」から、「王宮警護兵」になった。もっとも、レイノルズ王国の正規兵の中では、いわゆる一般兵の身分だ。ポジションが、まだ、それほど高くないものたちで構成された部隊といえる。
兵士にとって、一番の栄誉とされるのは、なんといっても「王国騎士団」に選抜されること。この部隊は戦闘の際に、圧倒的な火力で、敵を蹴散らすと言われる。また、王家を守る直属の軍隊である「近衛兵」も、エリートとされている。
警護兵ぐらいになると、主な任務は、見回りをして治安を維持することだ。とはいえ今は、魔物もおとなしいから、そんなに危険に巻き込まれることもない。僕はオルブライトさんという、小隊長がいる隊に配属されることになった。
オルブライト隊は、剣士、魔道士、弓兵などの10人が一組になった、混成軍となっている。もしもの時には、剣士が前衛、魔道士が後衛というように、役割分担する決まりだ。
誰だって、自分のサポート役は実力者がいいに決まっている。僕のレベルが低いことがばれたら、部隊のお荷物扱いされてしまうだろうか。なんとか、訓練だけは、大きなミスなくやり過ごせたらいいんだけど。。。
「はい、準備はいいね! ソウスケくん、実戦形式にしたいから、彼にも棍棒を持ってもらおう。なに、そんなに痛くないから」
ちょちょ、ちょっと待って! 目の前には、身長185センチ、体重100キロはありそうな巨漢が、太い棍棒を持って薄ら笑いを浮かべている。見るからに 戦士タイプだ。ついでに言うと、なんだかいじめっ子の気配が漂う。いじめられ属性のある僕は、そのあたりの雰囲気を、かぎ分けるのが得意だ。
「ガイウス、隙を見つけたら、ソウスケ君に打ち込んでくれる」
「分かりました。」
いや、分かりました、じゃないよ!
「じゃあ、はじめ!」
パッと、とっさに僕は飛びのいた。魔道士は、戦士系のキャラに接近戦を仕掛けられたら、終わりだ。そもそもHP(ヒットポイント)の少ない魔道士は、打撃戦による体力の削り合いに向いていない。適度に距離をとって、スロウをあてにいくしかない。
王国から支給された杖は「ミスリルロッド」と言って、魔力がそれなりに上がる、優れモノだ。僕は右手の指輪をちらと眺めた。この杖と、指輪があれば、僕の魔力も多少、格好がつくレベルに増幅されるかもしれない。
ガイウス、と呼ばれた戦士が、棍棒を片手にこちらに向かってきた。まずは牽制の意味で、慣れないモーションで杖を振る。
「スロウ!」
とっさに、ガイウスは走る軌道を変えて、僕の右方向に大きくジャンプした。目標物を見失ったスロウの光弾は、へなへなと地面に不時着する。
「遅っ……」
見物人の誰かが、ポツリとつぶやいた。ガイウスも、僕の魔法速度が遅いことは感じたようだ。「これなら避けられる」、と顔に書いてある。ガイウスはにやりと笑うと、一気に間合いを詰めてきた。僕は慌てて逃げようとしたが、ふりかぶった棍棒がいち早く届いてしまった。
カアン。
防御のために、とっさに差し出したミスリルロッドが、棍棒にはじかれて宙に舞う。しまった、僕は倒れこむと、地面を転げまわって、必死にガイウスから距離をとる。ガイウスの嗜虐(しぎゃく)心に満ちた顔が、こちらを向くのが見えた。
いやだ、いやだ。あんなのに、ぶん殴られるのは嫌だ。僕は無我夢中で、杖のない手を無意識にガイウスに向けた。
その時、人差し指の指輪がかすかに光った気がした。――スロウ。
バシュン。
先ほどのスロウの2倍ほどの大きさの光弾が、猛烈なスピードでガイウスを直撃した。
「うぐあっ…!」
たちまちガイウスのスピードが遅くなる。おおー、と見物人から感嘆の声が上がった。
「それまで! ソウスケくん、見事だった!」
オルブライトさんが間に割って入った。
「最初の一撃で、遅い魔法を放ち油断させる。次の攻撃で、本気の魔法を放ったソウスケくんの、頭脳プレーだ。みんな、参考にするように!」
ぱらぱらと、拍手が起きた。ガイウスは、バツの悪そうな顔をしている。やれやれ、助かった、と僕は思った。
「まあ、でも、ロッドを奪われたのは失態だったな。ソウスケ君。戦場では、戦力ダウンになるから、ロッドを失っちゃいけないぞ。では次の魔道士、前へ!」
オルブライトさんの言葉をぼんやり聞きながら、僕は先ほどの出来事を考えていた。
ミスリルロッドを装備して、放った魔法が、僕の実力だった。ところが二撃目は、指輪の力で、魔力が圧倒的に引き上げられた。おかげで、オルブライトさんの言うように、相手が油断した状態で魔法がヒットしたことになる。
僕はまじまじと、右手の指輪を眺めた。――この指輪は、本当に、なんだかよく分からないな。
「セイヤー!」
「腰が入ってない! もう一度!」
訓練所内に、オルブライト小隊長の声が響く。
「よーし、いったん休憩! じゃあこれから、魔道士チームの魔法訓練に入る!」
僕は首をすくめた。訓練の順番が回ってきたみたいだ。
オルブライトさんは、さっぱりとした短髪の、30歳ぐらいの剣士だ。青と白の制服からは、たくましい二の腕がのぞく。普段は優しいのに、訓練になると別人のように厳しくなる。
「じゃあ、新入りのソウスケくん! 得意な魔法は補助魔法だっけ?」
「あ、はい、、、行動遅化ぐらいしかとなえられませんが、、、」
「じゃあ、杖を持って、実戦訓練! 敵役が動き回るから、よく狙って、ちゃんと当てて!」
ええ、味方に魔法をあてちゃうの? 僕はおどおどしながら、支給された攻撃用の杖をもった。
休憩中のメンバーが、必然的に見物人に変わる。僕はいきなり、実力がバレることになってしまった。
ここにいるみんなは、全員レベルが二桁はあるかな……。僕が魔法レベル4だと知ったら、どんな顔をするのだろう。僕はイヤな汗が、背中を伝うのを感じた。
◇◇◇
僕の職業は「見習い魔道士」から、「王宮警護兵」になった。もっとも、レイノルズ王国の正規兵の中では、いわゆる一般兵の身分だ。ポジションが、まだ、それほど高くないものたちで構成された部隊といえる。
兵士にとって、一番の栄誉とされるのは、なんといっても「王国騎士団」に選抜されること。この部隊は戦闘の際に、圧倒的な火力で、敵を蹴散らすと言われる。また、王家を守る直属の軍隊である「近衛兵」も、エリートとされている。
警護兵ぐらいになると、主な任務は、見回りをして治安を維持することだ。とはいえ今は、魔物もおとなしいから、そんなに危険に巻き込まれることもない。僕はオルブライトさんという、小隊長がいる隊に配属されることになった。
オルブライト隊は、剣士、魔道士、弓兵などの10人が一組になった、混成軍となっている。もしもの時には、剣士が前衛、魔道士が後衛というように、役割分担する決まりだ。
誰だって、自分のサポート役は実力者がいいに決まっている。僕のレベルが低いことがばれたら、部隊のお荷物扱いされてしまうだろうか。なんとか、訓練だけは、大きなミスなくやり過ごせたらいいんだけど。。。
「はい、準備はいいね! ソウスケくん、実戦形式にしたいから、彼にも棍棒を持ってもらおう。なに、そんなに痛くないから」
ちょちょ、ちょっと待って! 目の前には、身長185センチ、体重100キロはありそうな巨漢が、太い棍棒を持って薄ら笑いを浮かべている。見るからに 戦士タイプだ。ついでに言うと、なんだかいじめっ子の気配が漂う。いじめられ属性のある僕は、そのあたりの雰囲気を、かぎ分けるのが得意だ。
「ガイウス、隙を見つけたら、ソウスケ君に打ち込んでくれる」
「分かりました。」
いや、分かりました、じゃないよ!
「じゃあ、はじめ!」
パッと、とっさに僕は飛びのいた。魔道士は、戦士系のキャラに接近戦を仕掛けられたら、終わりだ。そもそもHP(ヒットポイント)の少ない魔道士は、打撃戦による体力の削り合いに向いていない。適度に距離をとって、スロウをあてにいくしかない。
王国から支給された杖は「ミスリルロッド」と言って、魔力がそれなりに上がる、優れモノだ。僕は右手の指輪をちらと眺めた。この杖と、指輪があれば、僕の魔力も多少、格好がつくレベルに増幅されるかもしれない。
ガイウス、と呼ばれた戦士が、棍棒を片手にこちらに向かってきた。まずは牽制の意味で、慣れないモーションで杖を振る。
「スロウ!」
とっさに、ガイウスは走る軌道を変えて、僕の右方向に大きくジャンプした。目標物を見失ったスロウの光弾は、へなへなと地面に不時着する。
「遅っ……」
見物人の誰かが、ポツリとつぶやいた。ガイウスも、僕の魔法速度が遅いことは感じたようだ。「これなら避けられる」、と顔に書いてある。ガイウスはにやりと笑うと、一気に間合いを詰めてきた。僕は慌てて逃げようとしたが、ふりかぶった棍棒がいち早く届いてしまった。
カアン。
防御のために、とっさに差し出したミスリルロッドが、棍棒にはじかれて宙に舞う。しまった、僕は倒れこむと、地面を転げまわって、必死にガイウスから距離をとる。ガイウスの嗜虐(しぎゃく)心に満ちた顔が、こちらを向くのが見えた。
いやだ、いやだ。あんなのに、ぶん殴られるのは嫌だ。僕は無我夢中で、杖のない手を無意識にガイウスに向けた。
その時、人差し指の指輪がかすかに光った気がした。――スロウ。
バシュン。
先ほどのスロウの2倍ほどの大きさの光弾が、猛烈なスピードでガイウスを直撃した。
「うぐあっ…!」
たちまちガイウスのスピードが遅くなる。おおー、と見物人から感嘆の声が上がった。
「それまで! ソウスケくん、見事だった!」
オルブライトさんが間に割って入った。
「最初の一撃で、遅い魔法を放ち油断させる。次の攻撃で、本気の魔法を放ったソウスケくんの、頭脳プレーだ。みんな、参考にするように!」
ぱらぱらと、拍手が起きた。ガイウスは、バツの悪そうな顔をしている。やれやれ、助かった、と僕は思った。
「まあ、でも、ロッドを奪われたのは失態だったな。ソウスケ君。戦場では、戦力ダウンになるから、ロッドを失っちゃいけないぞ。では次の魔道士、前へ!」
オルブライトさんの言葉をぼんやり聞きながら、僕は先ほどの出来事を考えていた。
ミスリルロッドを装備して、放った魔法が、僕の実力だった。ところが二撃目は、指輪の力で、魔力が圧倒的に引き上げられた。おかげで、オルブライトさんの言うように、相手が油断した状態で魔法がヒットしたことになる。
僕はまじまじと、右手の指輪を眺めた。――この指輪は、本当に、なんだかよく分からないな。
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