10 / 25
第二章
未来は、指輪が決めるんじゃない
しおりを挟む
僕の視界の中で、オルブライトさんの動きが完全に停止した。向こうの空には、たけり狂ったキラー・レイブンたちが、こちらを狙って飛行している。こちらも白黒の世界で、動きを止めた。
キラー・レイブンの鋭いくちばしは、牛や馬を食い殺すほどの殺傷能力を持つ。しかも、群れで行動するのがやっかいだ。
どうしたらいい? 混乱する僕の周りを、無情な透明のガラスが囲んだ。目の前には、先日と同じ、2つの大きな立体パネルが浮かんでいた――。
「このまま たたかう」
「たすけを よびにいく」
僕は、どう行動したらいい? 選択パネルのどちらかを選べば、僕の未来を知ることができる。
正確に言えば、選んだ方の未来が、少しだけ分かる。選ばなかった未来は、分からない。僕は、指輪をはめた指を、前方にさしだした。「このまま たたかう」にカーソルがあたる。
見たところ、「たすけを よびにいく」のほうが、安全面でよさそうだ。でも、本当に助けを呼びにいけるのか? この間のケルベロスの時のように、逃げても、逃げ切れずに魔物に殺される可能性もある。
それなら、戦ったほうがいいんじゃないか? こちらには、オルブライトさんがいる。鳥系の魔物には、相性がいい剣技をもっている。ただ、あれだけの数を相手にした時、どうか?
僕は迷った末、「このまま たたかう」を押し込んだ。もし、不幸な結果になるのなら――そのときは、行動を変えればいい。
たちまち、僕は幽体離脱をしたようになって、上空から俯瞰で状況を眺めた。見下ろす中で、意識のない僕の身体と、オルブライトさんが戦闘を始める。
小隊長が、真空斬撃を連続で放つ。2羽が墜落した。さらに僕が、スロウの魔法を唱える。1羽にあたって、キラー・レイブンが墜落した。
いいぞ、鳥系モンスターは、スロウで羽の動きが鈍っただけでも、羽ばたき続けられない。また、固まって群れで飛んでいる分、技や魔法を放つとどれかにあたるという側面がある。
それに気づいたのだろうか。突如、キラー・レイブンがパッと、散開した。前後左右から突進してくる。意識の無い僕と、オルブライトさんは苦戦しているようだ。何しろ、前の敵に意識を集中していると、背後から攻撃がやってくる。
そうしているうち、オルブライトさんがふと、急に移動した。なぜだ? 上空の僕には、あずまやの屋根がじゃまになって、状況がよくつかめない。次の瞬間――。
キラー・レイブンの1羽が、オルブライトさんの背中に猛烈に一撃を加えた。
背中に、鋭いくちばしが突き刺さる。僕が、慌てて悲鳴をあげているのが見える。
そこまでだった。
僕の意識は、ブゥンと落下して、元の肉体に収まった。時間は、巻き戻った。オルブライトさんは飛んでくる敵を見据えて、剣を構えている。
今から、戦闘が始まるところだ。そして、僕は不幸な予言を受け取ってしまった。今見たことを、オルブライトさんに伝えなくてはならない。
周囲の青みがかったガラスが、こなごなに割れた。
「……君! 油断するな! 魔法詠唱の準備を!」
オルブライト小隊長が、鋭く叫ぶ。僕はそれにかぶせるように、小隊長に進言した。
「ここは助けを呼びに、逃げたほうがいいです! このまま戦い続けると……あなたが、やられます!」
普段おとなしい僕の、決然としたものいいに、小隊長が少し驚く。
「僕が、やられる?」
「そうです! 僕の指輪の能力で。未来が予知できる! 小隊長が、背中を貫かれる未来が見えました!」
オルブライト小隊長は、一瞬、真剣な表情をした。キラー・レイブンがすぐそこに迫っている。
だが、オルブライトさんは、口をきりっと結ぶと、静かに僕に言った。
「逃げることは、できない。あそこにいる女性を、守り続けることができない。それなら、あずまやの屋根があって、少しでも地形が有利なこの場所で、戦ったほうがいい。」
「でも、指輪が……!」
オルブライト小隊長は、勇敢な視線をキラー・レイブンに投げかけると、言った。
「――未来は、指輪が決めるんじゃない。」
小隊長の言葉が、僕の胸に突き刺さる。
「戦って、未来をつかみとる。行くぞ!」
小隊長が、敵に向けて真空斬撃を放った。
キラー・レイブンの鋭いくちばしは、牛や馬を食い殺すほどの殺傷能力を持つ。しかも、群れで行動するのがやっかいだ。
どうしたらいい? 混乱する僕の周りを、無情な透明のガラスが囲んだ。目の前には、先日と同じ、2つの大きな立体パネルが浮かんでいた――。
「このまま たたかう」
「たすけを よびにいく」
僕は、どう行動したらいい? 選択パネルのどちらかを選べば、僕の未来を知ることができる。
正確に言えば、選んだ方の未来が、少しだけ分かる。選ばなかった未来は、分からない。僕は、指輪をはめた指を、前方にさしだした。「このまま たたかう」にカーソルがあたる。
見たところ、「たすけを よびにいく」のほうが、安全面でよさそうだ。でも、本当に助けを呼びにいけるのか? この間のケルベロスの時のように、逃げても、逃げ切れずに魔物に殺される可能性もある。
それなら、戦ったほうがいいんじゃないか? こちらには、オルブライトさんがいる。鳥系の魔物には、相性がいい剣技をもっている。ただ、あれだけの数を相手にした時、どうか?
僕は迷った末、「このまま たたかう」を押し込んだ。もし、不幸な結果になるのなら――そのときは、行動を変えればいい。
たちまち、僕は幽体離脱をしたようになって、上空から俯瞰で状況を眺めた。見下ろす中で、意識のない僕の身体と、オルブライトさんが戦闘を始める。
小隊長が、真空斬撃を連続で放つ。2羽が墜落した。さらに僕が、スロウの魔法を唱える。1羽にあたって、キラー・レイブンが墜落した。
いいぞ、鳥系モンスターは、スロウで羽の動きが鈍っただけでも、羽ばたき続けられない。また、固まって群れで飛んでいる分、技や魔法を放つとどれかにあたるという側面がある。
それに気づいたのだろうか。突如、キラー・レイブンがパッと、散開した。前後左右から突進してくる。意識の無い僕と、オルブライトさんは苦戦しているようだ。何しろ、前の敵に意識を集中していると、背後から攻撃がやってくる。
そうしているうち、オルブライトさんがふと、急に移動した。なぜだ? 上空の僕には、あずまやの屋根がじゃまになって、状況がよくつかめない。次の瞬間――。
キラー・レイブンの1羽が、オルブライトさんの背中に猛烈に一撃を加えた。
背中に、鋭いくちばしが突き刺さる。僕が、慌てて悲鳴をあげているのが見える。
そこまでだった。
僕の意識は、ブゥンと落下して、元の肉体に収まった。時間は、巻き戻った。オルブライトさんは飛んでくる敵を見据えて、剣を構えている。
今から、戦闘が始まるところだ。そして、僕は不幸な予言を受け取ってしまった。今見たことを、オルブライトさんに伝えなくてはならない。
周囲の青みがかったガラスが、こなごなに割れた。
「……君! 油断するな! 魔法詠唱の準備を!」
オルブライト小隊長が、鋭く叫ぶ。僕はそれにかぶせるように、小隊長に進言した。
「ここは助けを呼びに、逃げたほうがいいです! このまま戦い続けると……あなたが、やられます!」
普段おとなしい僕の、決然としたものいいに、小隊長が少し驚く。
「僕が、やられる?」
「そうです! 僕の指輪の能力で。未来が予知できる! 小隊長が、背中を貫かれる未来が見えました!」
オルブライト小隊長は、一瞬、真剣な表情をした。キラー・レイブンがすぐそこに迫っている。
だが、オルブライトさんは、口をきりっと結ぶと、静かに僕に言った。
「逃げることは、できない。あそこにいる女性を、守り続けることができない。それなら、あずまやの屋根があって、少しでも地形が有利なこの場所で、戦ったほうがいい。」
「でも、指輪が……!」
オルブライト小隊長は、勇敢な視線をキラー・レイブンに投げかけると、言った。
「――未来は、指輪が決めるんじゃない。」
小隊長の言葉が、僕の胸に突き刺さる。
「戦って、未来をつかみとる。行くぞ!」
小隊長が、敵に向けて真空斬撃を放った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
20
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる