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第二章

未来は、指輪が決めるんじゃない

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 僕の視界の中で、オルブライトさんの動きが完全に停止した。向こうの空には、たけり狂ったキラー・レイブンたちが、こちらを狙って飛行している。こちらも白黒の世界で、動きを止めた。

 キラー・レイブンの鋭いくちばしは、牛や馬を食い殺すほどの殺傷能力を持つ。しかも、群れで行動するのがやっかいだ。

 どうしたらいい? 混乱する僕の周りを、無情な透明のガラスが囲んだ。目の前には、先日と同じ、2つの大きな立体パネルが浮かんでいた――。


 「このまま たたかう」

 「たすけを よびにいく」



 僕は、どう行動したらいい? 選択パネルのどちらかを選べば、僕の未来を知ることができる。

 正確に言えば、選んだ方の未来が、少しだけ分かる。選ばなかった未来は、分からない。僕は、指輪をはめた指を、前方にさしだした。「このまま たたかう」にカーソルがあたる。

 見たところ、「たすけを よびにいく」のほうが、安全面でよさそうだ。でも、本当に助けを呼びにいけるのか? この間のケルベロスの時のように、逃げても、逃げ切れずに魔物に殺される可能性もある。

 それなら、戦ったほうがいいんじゃないか? こちらには、オルブライトさんがいる。鳥系の魔物モンスターには、相性がいい剣技をもっている。ただ、あれだけの数を相手にした時、どうか?

 僕は迷った末、「このまま たたかう」を押し込んだ。もし、不幸な結果になるのなら――そのときは、行動を変えればいい。

 たちまち、僕は幽体離脱をしたようになって、上空から俯瞰で状況を眺めた。見下ろす中で、意識のない僕の身体と、オルブライトさんが戦闘を始める。

 小隊長が、真空斬撃エアースラッシュを連続で放つ。2羽が墜落した。さらに僕が、スロウの魔法を唱える。1羽にあたって、キラー・レイブンが墜落した。

 いいぞ、鳥系モンスターは、スロウで羽の動きが鈍っただけでも、羽ばたき続けられない。また、固まって群れで飛んでいる分、技や魔法を放つとどれかにあたるという側面がある。

 それに気づいたのだろうか。突如、キラー・レイブンがパッと、散開した。前後左右から突進してくる。意識の無い僕と、オルブライトさんは苦戦しているようだ。何しろ、前の敵に意識を集中していると、背後から攻撃がやってくる。

 そうしているうち、オルブライトさんがふと、急に移動した。なぜだ? 上空の僕には、あずまやの屋根がじゃまになって、状況がよくつかめない。次の瞬間――。

 キラー・レイブンの1羽が、オルブライトさんの背中に猛烈に一撃を加えた。

 背中に、鋭いくちばしが突き刺さる。僕が、慌てて悲鳴をあげているのが見える。

 そこまでだった。

 僕の意識は、ブゥンと落下して、元の肉体に収まった。時間は、巻き戻った。オルブライトさんは飛んでくる敵を見据えて、剣を構えている。

 今から、戦闘が始まるところだ。そして、僕は不幸な予言を受け取ってしまった。今見たことを、オルブライトさんに伝えなくてはならない。

 周囲の青みがかったガラスが、こなごなに割れた。

 「……君! 油断するな! 魔法詠唱の準備を!」

 オルブライト小隊長が、鋭く叫ぶ。僕はそれにかぶせるように、小隊長に進言した。

 「ここは助けを呼びに、逃げたほうがいいです! このまま戦い続けると……あなたが、やられます!」

 普段おとなしい僕の、決然としたものいいに、小隊長が少し驚く。

 「僕が、やられる?」

 「そうです! 僕の指輪の能力で。未来が予知できる! 小隊長が、背中を貫かれる未来が見えました!」

 オルブライト小隊長は、一瞬、真剣な表情をした。キラー・レイブンがすぐそこに迫っている。

 だが、オルブライトさんは、口をきりっと結ぶと、静かに僕に言った。

 「逃げることは、できない。あそこにいる女性を、守り続けることができない。それなら、あずまやの屋根があって、少しでも地形が有利なこの場所で、戦ったほうがいい。」

 「でも、指輪が……!」

 オルブライト小隊長は、勇敢な視線をキラー・レイブンに投げかけると、言った。

 「――未来は、指輪が決めるんじゃない。」

 小隊長の言葉が、僕の胸に突き刺さる。

 「戦って、未来をつかみとる。行くぞ!」

 小隊長が、敵に向けて真空斬撃エアースラッシュを放った。

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