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第三章
恋の花火
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覇王はいつも、その子と一緒にいた。
キャラクターの消しゴムは、二人の友情の証だった。それはある日突然、暴力によって踏みにじられた。その時覇王は、いじめられている親友を少し離れたところで、見ていることしかできなかった。――そう、彼は黙って、ただ見ていることしかできなかったのだ。
親友は、そんな覇王をけして責めなかった。だが覇王は、後悔の気持ちでいっぱいだった。彼は言葉に出さないだけで、きっと自分を恨んでいるに違いなかった。
「――そのとき、俺は、力があったらいいな、と思ったんだ。何か、世の中で間違っていることがあったとき、それを正せるような――とにかく、強い力を。」
ふう、と小さく息を吐くと、覇王はしずくの方を振り返った。
「つまらない話だろう?」
「……覇王さんは……。」
しずくは、黒目がちな瞳をじっと見開いて、覇王を見つめた。
「……覇王さんは、優しい人ですね。強いけど、同時にとても優しい人。私みたいに、自分のことばかり考えているんじゃなくて、他人のことを思いやっている。」
「そんなに、大した話じゃない。」
覇王は慌てて、早口で言った。
「俺は昔、弱かった。だから強くなりたかった。それだけかもしれない。」
「覇王さんは、このゲーム世界で、弱いものいじめをする人や、むやみに暴力をふるう人が嫌いでしょう?」
ああ、と覇王はうなずいた。
「そういうことだったんですね。覇王さんの場合は、他の高レベルプレイヤーみたいに、ただ自分の力を見せつけたいわけじゃない。強さを手にした上で、周りの誰かを守ったり、困っている人を助けたりしたいんです。」
「……そうかもしれないな。」
覇王は、自分の頬が上気するのを感じた。しかし、それはひどく心地よかった。
「覇王さん、強いだけじゃなくて、人柄も尊敬できるんですね……!」
そのとき、周囲がざわめき出した。ドーン、という音が聞こえた。
「花火だ!」
「夏祭りの花火があがったぞ!」
「あっちのほうが、よく見えるんじゃないか?」
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親友は、そんな覇王をけして責めなかった。だが覇王は、後悔の気持ちでいっぱいだった。彼は言葉に出さないだけで、きっと自分を恨んでいるに違いなかった。
「――そのとき、俺は、力があったらいいな、と思ったんだ。何か、世の中で間違っていることがあったとき、それを正せるような――とにかく、強い力を。」
ふう、と小さく息を吐くと、覇王はしずくの方を振り返った。
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「……覇王さんは……。」
しずくは、黒目がちな瞳をじっと見開いて、覇王を見つめた。
「……覇王さんは、優しい人ですね。強いけど、同時にとても優しい人。私みたいに、自分のことばかり考えているんじゃなくて、他人のことを思いやっている。」
「そんなに、大した話じゃない。」
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「そういうことだったんですね。覇王さんの場合は、他の高レベルプレイヤーみたいに、ただ自分の力を見せつけたいわけじゃない。強さを手にした上で、周りの誰かを守ったり、困っている人を助けたりしたいんです。」
「……そうかもしれないな。」
覇王は、自分の頬が上気するのを感じた。しかし、それはひどく心地よかった。
「覇王さん、強いだけじゃなくて、人柄も尊敬できるんですね……!」
そのとき、周囲がざわめき出した。ドーン、という音が聞こえた。
「花火だ!」
「夏祭りの花火があがったぞ!」
「あっちのほうが、よく見えるんじゃないか?」
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