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エピローグ
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青海ひかるは、ネットキューピッドのオフィスでカタカタとノートパソコンを叩いていた。先ほどから、報告書を作成しているのだ。ふと顔を上げて、南里に尋ねる。
「それで南里さん、結局雁野さんのケースは、ホームページにのっている結婚相談所の成果件数には、カウントされないんですか?」
椅子に座った南里が、ああ、という表情を作った後、気楽に答える。
「まあ……桐谷静久さんが正式に会員になってないわけですから……厳密にいえば、そうなりますね。」
青海ひかるは頬を膨らませると、納得がいかない、という顔をした。南里はそれを見て、少し笑いながら語りかけた。
「でも、それはいいじゃないですか。私は今回、本当に青海さんに勉強させてもらったと思っているんです。相談所の成果にならなくても、世の中の人間を本当に幸せにできた……そんな仕事があっても、いいんじゃないかと。」
青海ひかるは、思いがけないセリフに、きょとんとした。私が何を教えたっていうんだろう。南里は、そんな青海ひかるにはおかまいなしに、言葉を続けた。
「少なくとも、恋愛に困っていた雁野さんのことは、間違いなく手助けできたわけですし、入会金の十万円を返金する必要もなくなりました。あの二人が今後どうなるか、こればっかりは、さすがに分からないですが……。」
南里は、ふと窓の外を見た。秋風が吹き始めている。世間はこれから実りの秋、収穫の季節を迎えるのだろう。
「……きっと、上手くいくんじゃないですかね。」
◇◇◇
トーギャンの世界でも、秋のイベントが開始されようとしていた。モヒカン頭のカノッサ機関のメンバーが今日も、イベント目当てで集まったプレイヤーからもろもろ略奪しようと、獲物を物色している。
こちらに背中を向けた、少し小柄の男性プレイヤーが目に付いた。
「オラオラー! 貴様、こっちを向けえい! 今日ここにいたのが運の尽きだあ。有り金を置いて、出て行けー!」
男は――黒いマントを羽織っていた。ゆっくりと、振り返る。その顔をみて、たちまちモヒカン頭たちは凍りついた。
「うるさい奴らだ……。教えてやろう……お前はひとつ、間違いを犯した。」
黒マントの男は、うっすらと目を細めて相手を眺めると、ふうと息を吐きながら右手を目線の高さに持ち上げた。
「……俺は今、街を眺めながら、ある女性の退院祝いに、どんなプレゼントを買ったらいいか考えていたのだ……。なんでも、手術が成功に終わった、と聞いたものでな……。」
モヒカン達が、わなわなと震え始める。
「お前は……たった一人で、ギロッポンサーバの拠点を壊滅させたという、あの伝説の男……」
「そうだ、間違いない……! その名は……!」
黒マントの男が、眼光鋭く決め台詞を放った。
「――貴様らは、俺の『婚活』のジャマをした。」
モヒカンたちが、声をそろえて一斉に叫んだ。
「お前は、『厨二秒の覇王』!」
(おわり)
「それで南里さん、結局雁野さんのケースは、ホームページにのっている結婚相談所の成果件数には、カウントされないんですか?」
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青海ひかるは頬を膨らませると、納得がいかない、という顔をした。南里はそれを見て、少し笑いながら語りかけた。
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「少なくとも、恋愛に困っていた雁野さんのことは、間違いなく手助けできたわけですし、入会金の十万円を返金する必要もなくなりました。あの二人が今後どうなるか、こればっかりは、さすがに分からないですが……。」
南里は、ふと窓の外を見た。秋風が吹き始めている。世間はこれから実りの秋、収穫の季節を迎えるのだろう。
「……きっと、上手くいくんじゃないですかね。」
◇◇◇
トーギャンの世界でも、秋のイベントが開始されようとしていた。モヒカン頭のカノッサ機関のメンバーが今日も、イベント目当てで集まったプレイヤーからもろもろ略奪しようと、獲物を物色している。
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「オラオラー! 貴様、こっちを向けえい! 今日ここにいたのが運の尽きだあ。有り金を置いて、出て行けー!」
男は――黒いマントを羽織っていた。ゆっくりと、振り返る。その顔をみて、たちまちモヒカン頭たちは凍りついた。
「うるさい奴らだ……。教えてやろう……お前はひとつ、間違いを犯した。」
黒マントの男は、うっすらと目を細めて相手を眺めると、ふうと息を吐きながら右手を目線の高さに持ち上げた。
「……俺は今、街を眺めながら、ある女性の退院祝いに、どんなプレゼントを買ったらいいか考えていたのだ……。なんでも、手術が成功に終わった、と聞いたものでな……。」
モヒカン達が、わなわなと震え始める。
「お前は……たった一人で、ギロッポンサーバの拠点を壊滅させたという、あの伝説の男……」
「そうだ、間違いない……! その名は……!」
黒マントの男が、眼光鋭く決め台詞を放った。
「――貴様らは、俺の『婚活』のジャマをした。」
モヒカンたちが、声をそろえて一斉に叫んだ。
「お前は、『厨二秒の覇王』!」
(おわり)
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